■ 第65号 2007年11月号 ■
〈未訳原書レビュー〉
  "MURDER ON THE ROCKS"
  "SHOOT FROM THE LIP"

〈注目の邦訳新刊レビュー〉
  『悪魔はすぐそこに』
  『私が終わる場所』

〈黒猫フーダの映画館〉
  『そして、デブノーの森へ』

〈速報〉
  CWAエリス・ピーターズ・ヒストリカル・ミステリ受賞作発表


 
 ■未訳原書レビュー

"MURDER ON THE ROCKS" by Karen MacInerney
 Midnight Ink/2006.05/ISBN:9780738709086

《経営難のB&Bに殺人容疑、ナタリーは降りかかる困難を乗りこえられるか?》

 友人とともにメイン州を訪れたナタリー・バーンズは、大西洋沖に浮かぶクランベ
リー島をとても気に入ったので、たまたま安く売りに出されていた元船長の住まいを
買取り、改装して、B&B〈グレイ・ホエール・イン〉を始めた。とはいえ経営状態
は決して順調とはいえず、予約もなかなか入らない。
 かねてから島には、ゴルフ場建設の話が持ち上がっていた。計画を進めているのは
リゾート開発会社社長のバーナード・カッツで、島としては彼に用地を売却するかど
うか意見が分かれていた。かつてテキサス州の公園野生生物事務局で仕事をしていた
ナタリーをはじめ、島の美しさや野鳥の巣を守りたい人々は反対している。そこで行
政委員会を開き、島民の意見を聞いたうえで、委員が最終決定をすることになった。
カッツも委員会の様子を見守るため、秘書とともに島を訪れ、なぜだか〈グレイ・ホ
エール・イン〉に泊まっている。カッツの息子も島に来て、すぐ隣の自分のコテージ
に滞在しているにもかかわらず、である。委員会当日、最後まで意見を決めかねてい
た委員が賛成したため、計画は進められることになる。しかし翌日、ナタリーは崖か
ら転落して死んでいるカッツを発見する。ゴルフ場ができた際には〈グレイ・ホエー
ル・イン〉の敷地が駐車場になる計画だったことが分かると、本土からやって来た刑
事はナタリーに疑いの目を向ける。
 島の自然の美しさと厳しさが生き生きと描かれ、また主人公のナタリーが素人探偵
として、隣人のハンサムなシェリフのジョンと協力して事件を解決していくというス
トーリー展開は、コージー・ミステリ好きにはたまらないだろう。ナタリーが〈グレ
イ・ホエール・イン〉で出しているケーキやスコーンのレシピが載っているのも、最
近のコージー・ミステリの王道を行っている。
 本作は2007年度のアガサ賞最優秀処女長篇賞にノミネートされた。惜しくも受賞は
逃したが、今回の事件がきかっけで〈グレイ・ホエール・イン〉にも予約が舞いこみ
、
経営も波に乗りはじめたからだろう、続編の "DEAD AND BERRIED" もすでに出されて
いる。2作目でナタリーはまたもや殺人事件に巻き込まれ、〈グレイ・ホエール・イ
ン〉では幽霊騒ぎも起きる。ジョンとの恋の行方も気になるところであり、ナタリー
のさらなる活躍が期待できそうだ。  
                               (吉野山早苗)
◇著者のサイトアマゾン・ジャパンへ
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"SHOOT FROM THE LIP" by Leann Sweeney
 A Signet Book/2007.01/ISBN: 9780451220172

《依頼人と誠実に向き合う女性探偵アビー、依頼人を救えるか!?》

 テキサス州ヒューストンで、実の親探し専門の探偵業を営むアビー・ローズのとこ
ろに、テレビ局から仕事の依頼がきた。視聴者の夢をかなえる番組と出演契約をした
エマ・ロペスが、契約解除を言いだしたのだという。そもそも、エマと弟妹たちが番
組に出ることになったきっかけは、局に届いた一通の手紙だった。そこには、父亡き
後に生まれたエマが、幼いころにいなくなった母親に代わって、父親の違う弟妹の面
倒をみてきたが、家が老朽化して市に取り壊されることになったので助けてやってほ
しい、と書かれていた。だが、それだけではなく、エマたちには生まれてすぐ行方の
知れなくなってしまった弟か妹がいることも書かれていたのだ。そのことを契約後に
知ったエマが、家庭の秘密を公表されることに耐えきれず、契約を解消したいと言い
出したのだった。エマからも話を聞いたアビーは、テレビ局ではなく、エマに力を貸
すことにした。一方、取り壊された家の下から赤ん坊の骨が出てくる。エマは衝撃を
受けるものの、これで契約解消かと期待するが、敵はしたたかで、取り扱う番組を変
更すると言ってきた……。
 アビーは、恋人で巡査部長のジェフや警官たちと連絡をとりながら、テレビ局より
先にエマの母とその赤ん坊についての真相をつかもうとするが、多くの妨害を受ける。
 本作はアビー・ローズを主人公とする〈イエロー・ローズ・ミステリ・シリーズ〉
の4作目で、アビーは、1作目で起きた事件をきっかけに探偵になった。その事件を
通して知り合い、後に恋人となったジェフは、今回、何も言わずにどこかに出かけて
しまっていて、連絡もままならない状態にある。そして、アビーと双子のケイトは同
棲相手とのあいだに別れ話が出て、アビーの家に転がりこんできたが、精神科医とい
う職業を生かしてアビーに協力はするものの、新しくできた恋人に夢中のようすだ。
また、アビーたちの伯母のキャロラインは口やかましく、できれば避けたい相手だが、
今回は物語後半で大きな役割を果たす。アビーは依頼人の気持ちを尊重して誠実に調
査をするので、物語全体に優しい空気が流れていて、読み終えた後、暖かい気持ちに
なれる。次作は来年1月刊行とのこと。どんな依頼がアビーを待っているのだろう。
                                 (石田浩子)
◇著者のサイトアマゾン・ジャパンへ
 ■注目の邦訳新刊レビュー

『悪魔はすぐそこに』 "DEVIL AT YOUR ELBOW"
 D・M・ディヴァイン/山田蘭訳
 創元推理文庫/2007.09.28初版 940円(税別)
 ISBN:9784488240035

《新名誉学長就任式が近づく大学内で次々と起こる事件。その真相は?》

 イギリスのハードゲート大学経済学科に籍を置くハクストン講師は、数年前に行っ
た夏期講座で不正に報酬を受け取っていたことが発覚して、大学を追われそうになっ
ていた。それに対してハクストンは、自分を大学から追い出したらどうなるかを警告
する手紙を学長に送ったという。そういう状況のなかで、ハクストンは自宅で一酸化
炭素中毒を起こして死んでしまう。そして、その死は事故死としてかたづけられた。
 一方、大学では近々、新名誉学長就任式が行われることになっていたが、仕事をし
ない事務局長に代わって準備を一手に引き受けていた副事務局長が病気で倒れたため、
その仕事が平職員のカレンひとりの手にゆだねられることになってしまった。そして、
ある夜、遅くまで仕事をして帰宅したカレンが、家に潜んでいた何者かに頭を殴り倒
された。
 そのうえ、真夜中に学内の図書館にいたずらで忍び込んだ学生が殺害されるという
事件まで起きた。
 これらの事件に関連はあるのか? なぜ今頃になって、ハクストンの不正報酬の件
が明るみに出てきたのか? あまりにもタイミングの良すぎるハクストンの死。それ
は本当に事故死なのか? 彼は生前、「長いこと口をつぐみすぎていた」と言ったと
いうが、それは何人かの人間が考えるように、かつて学内で起きた悲惨な事件につい
て言っていたのだろうか? だとしたら、ハクストンはなにを黙っていたのだろう?
 無能で怠け者の事務局長、口八丁手八丁の財務局長、ハクストンの死が事故死とし
て片づけられたというのに探りを入れまわっている教授、警察に細かな情報を知らせ
たがらない教授、個人的なことはほとんど話さない講師など、登場人物が多彩で、だ
れもが怪しげに思えてしまうほどだ。
 新名誉学長就任式の日が近づいてくるなかで事件の捜査が行われる一方、事件との
関連から過去に学内で起きたある事件に人々の関心が集まってきて、さまざまなこと
が絡まりあい複雑な様相を帯びてくる。けれども、最後に犯人がわかったとき、すべ
てがぴたりと定位置におさまったという印象を受けた。
                                (石田浩子)
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『私が終わる場所』 "THE LAST REFUGE"
 クリス・クノップ/熊谷千寿訳
 ハヤカワ・ミステリ文庫/2007.09.15 1000円(税別)
 ISBN: 9784151771514

《なにもかも失った「おれ」に、再起の道はあるのか?》

 仕事もやめ、離婚もし、娘からもすっかり見限られた「おれ」、サム・アキーロは
父親が残してくれたロングアイランド島のサウサンプトンの家に戻っている。いまで
こそ「ウォーターフロント」としてもてはやされているが、父親が家を建てた当時は、
そのリトル・ピーコニック湾のオーク岬の先端部に家を建てようという者は、ほかに
だれもいなかった。その後、地価は高騰する。
 しがらみもなく、酒を飲んで気ままに暮らしているサムだが、父親の代から付き合
いのある隣人のレジーナのことは気にかけていた。彼女は80歳という高齢のため、な
にか壊れたりすると修理を頼んでくる。サムはそれを当然のこととして、応じていた。
そのレジーナの遺体を、サムが発見する。しかし、バスタブで死んでいた状況に不審
さを感じてしまったため、遺産管理人を引き受け、レジーナの身辺調査を始める。か
つては価値のなかった土地が、いまや莫大な富を生み出すようになっている。そのこ
ととレジーナの死は、関係あるのだろうか?
 邦題は『私の終わる場所』だが、この土地でサムが終わることはなく、むしろ今回
の事件をきっかけに、ここで新しい人生が開けるようだ。なにもかも失ってこの土地
に戻ってきたとはいえ親友はいるし、新しい友人もできた。また最後のシーンでは、
再生へ向けてのとてつもない希望も感じられる。
 著者のクリス・クノップはとある広告会社の会長で、仕事の合間を縫っての執筆活
動だったため、本作を書き終えるのに数十年かかった。書き始めのころからは時代や
世間の状況も変わってしまったので、執筆を始めた当初とは違うプロットで書き直し
たという。しかし作品が発表されると、「変わり者のキャラクターたち」の「おもし
ろい会話の応酬」を楽しみたくなる、と絶賛された。
 著者はあいかわらず広告会社の仕事を続けながら、サム・アキーロ・シリーズの2
作目 "TWO TIMES" も発表している。本作でもサムとコンビを組んだ弁護士のジャッ
キー・スワイトコウスキや、親友でこちらも弁護士のバートン・ルイス、今回サムが
すこしだけ恋におちたアマンダ・バティストンも登場するという。舞台もおなじサウ
サンプトンなので、サムが終わるのはまだまだ先のようだ。
                               (吉野山早苗)
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 ■黒猫フーダの映画館

『そして、デブノーの森へ』"LE PRIX DU DESIR"
 2004年/フランス・イタリア・スイス/カラー

《ファム・ファタールに出会ってしまった男》

 世界的なベストセラー作家セルジュ・ノヴァック。だが彼の個人的な情報は世間に
一切公表されず、正体を知るのは家族と彼の代理人だけだった。セルジュ・ノヴァッ
クであることを隠し、ジュネーブでひっそりと暮らすダニエルはある日、妻の連れ子
フォブリツィオの結婚式に出席するために南イタリアへと向かう。その途中で若く美
しい女性と出会い、一夜を共にする。しかしその女性こそ、フォブリツィオの婚約者
ミラだった。結婚後もミラはダニエルを誘惑しつづけ、2人は情事を重ねる。しかし
2人が愛をかわす写真が送られてきたことで、そんな生活もダニエルの平穏な日常も
終わりをつげる。
 ファム・ファタールとはフランス語で男を破滅に導く運命の女のことをいい、これ
まで文学や映画などで数多く描かれてきた。『そして、デブノーの森へ』も、ファム
・ファタールと彼女に運命を翻弄される男が描かれている。
 いくつもの謎と秘密が、緻密なストーリーの中にちりばめられている。前半の2人
の出会いから深い仲になっていく過程は、やや冗長な感じもするが不自然さがなく、
映画の中にすっと引き込まれる。見どころは写真が送られてきてからの後半で、ダニ
エルの穏やかな世界があっという間に崩壊していくところは、テンポがよくて退屈す
ることがない。
 サスペンスの面白さもさることながら、ミラ役のアナ・ムグラリスの妖しい美しさ
が、作品にいっそうの彩りを添える。シャネルの広告モデルに抜擢され、女優業のか
たわら「シャネルのミューズ」として活躍しているアナの、面目躍如といったところ
か。まっすぐと射抜くように相手を見つめる眼、しなやかな体。女性のわたしが見て
もため息が出るほど美しい彼女の誘惑を、男ならふりきれるはずがない。理性でだめ
だとわかっていても、どんどんとミラにのめりこむダニエルの気持ちは、男性ならき
っと分かるはずだ。
 邦題にあるデブノーの森は、ダニエルやミラの出身地でもあるポーランドにあり、
この物語の始まりの場所であり、終わりの場所でもある。
                              (かげやまみほ)
 ■速報 ―― CWAエリス・ピーターズ・ヒストリカル・ミステリ受賞作発表

 受賞作
 "MISTRESS OF THE ART OF DEATH"        Ariana Franklin

 ノミネート作品
 "THE SNAKE STONE"               Jason Goodwin
 "THE ONE FROM THE OTHER"           フィップ・カー
 "MURDER AT DEVIATION JUNCTION"         アンドリュー・マーティン
 "THE SAVAGE GARDEN"              マーク・ミルズ
 "THE TENDERNESS OF WOLVES"          Stef Penney

 詳しくは、英国推理作家協会の公式サイトをごらんいただきたい。
 http://www.thecwa.co.uk/
                              (かげやまみほ)
=- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
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■編集後記■
 先日グループ る・ばる『片づけたい女たち』というお芝居を観てきました。舞台
はマンションの一室、山のような衣類、本、段ボール箱、ごみ袋、汚れた食器が散乱
していて……一瞬、わが家かと思いました。               (清)
            


********************************************************************  海外ミステリ通信 第65号 2007年11月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、佐藤枝美子、中島由美、森まり      柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子、吉野山早苗  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail: mwmag@litrans.net   掲示板: http://www.litrans21.net/bbs/75/wforum.cgi  配信申し込み・解除/バックナンバー:  http://www.litrans.net/whodunit/mag/index.htm  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2007 Whodunit Honyaku Club ********************************************************************
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