『悪魔はすぐそこに』 "DEVIL AT YOUR ELBOW"
D・M・ディヴァイン/山田蘭訳
創元推理文庫/2007.09.28初版 940円(税別)
ISBN:9784488240035
《新名誉学長就任式が近づく大学内で次々と起こる事件。その真相は?》
イギリスのハードゲート大学経済学科に籍を置くハクストン講師は、数年前に行っ
た夏期講座で不正に報酬を受け取っていたことが発覚して、大学を追われそうになっ
ていた。それに対してハクストンは、自分を大学から追い出したらどうなるかを警告
する手紙を学長に送ったという。そういう状況のなかで、ハクストンは自宅で一酸化
炭素中毒を起こして死んでしまう。そして、その死は事故死としてかたづけられた。
一方、大学では近々、新名誉学長就任式が行われることになっていたが、仕事をし
ない事務局長に代わって準備を一手に引き受けていた副事務局長が病気で倒れたため、
その仕事が平職員のカレンひとりの手にゆだねられることになってしまった。そして、
ある夜、遅くまで仕事をして帰宅したカレンが、家に潜んでいた何者かに頭を殴り倒
された。
そのうえ、真夜中に学内の図書館にいたずらで忍び込んだ学生が殺害されるという
事件まで起きた。
これらの事件に関連はあるのか? なぜ今頃になって、ハクストンの不正報酬の件
が明るみに出てきたのか? あまりにもタイミングの良すぎるハクストンの死。それ
は本当に事故死なのか? 彼は生前、「長いこと口をつぐみすぎていた」と言ったと
いうが、それは何人かの人間が考えるように、かつて学内で起きた悲惨な事件につい
て言っていたのだろうか? だとしたら、ハクストンはなにを黙っていたのだろう?
無能で怠け者の事務局長、口八丁手八丁の財務局長、ハクストンの死が事故死とし
て片づけられたというのに探りを入れまわっている教授、警察に細かな情報を知らせ
たがらない教授、個人的なことはほとんど話さない講師など、登場人物が多彩で、だ
れもが怪しげに思えてしまうほどだ。
新名誉学長就任式の日が近づいてくるなかで事件の捜査が行われる一方、事件との
関連から過去に学内で起きたある事件に人々の関心が集まってきて、さまざまなこと
が絡まりあい複雑な様相を帯びてくる。けれども、最後に犯人がわかったとき、すべ
てがぴたりと定位置におさまったという印象を受けた。
(石田浩子)
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『私が終わる場所』 "THE LAST REFUGE"
クリス・クノップ/熊谷千寿訳
ハヤカワ・ミステリ文庫/2007.09.15 1000円(税別)
ISBN: 9784151771514
《なにもかも失った「おれ」に、再起の道はあるのか?》
仕事もやめ、離婚もし、娘からもすっかり見限られた「おれ」、サム・アキーロは
父親が残してくれたロングアイランド島のサウサンプトンの家に戻っている。いまで
こそ「ウォーターフロント」としてもてはやされているが、父親が家を建てた当時は、
そのリトル・ピーコニック湾のオーク岬の先端部に家を建てようという者は、ほかに
だれもいなかった。その後、地価は高騰する。
しがらみもなく、酒を飲んで気ままに暮らしているサムだが、父親の代から付き合
いのある隣人のレジーナのことは気にかけていた。彼女は80歳という高齢のため、な
にか壊れたりすると修理を頼んでくる。サムはそれを当然のこととして、応じていた。
そのレジーナの遺体を、サムが発見する。しかし、バスタブで死んでいた状況に不審
さを感じてしまったため、遺産管理人を引き受け、レジーナの身辺調査を始める。か
つては価値のなかった土地が、いまや莫大な富を生み出すようになっている。そのこ
ととレジーナの死は、関係あるのだろうか?
邦題は『私の終わる場所』だが、この土地でサムが終わることはなく、むしろ今回
の事件をきっかけに、ここで新しい人生が開けるようだ。なにもかも失ってこの土地
に戻ってきたとはいえ親友はいるし、新しい友人もできた。また最後のシーンでは、
再生へ向けてのとてつもない希望も感じられる。
著者のクリス・クノップはとある広告会社の会長で、仕事の合間を縫っての執筆活
動だったため、本作を書き終えるのに数十年かかった。書き始めのころからは時代や
世間の状況も変わってしまったので、執筆を始めた当初とは違うプロットで書き直し
たという。しかし作品が発表されると、「変わり者のキャラクターたち」の「おもし
ろい会話の応酬」を楽しみたくなる、と絶賛された。
著者はあいかわらず広告会社の仕事を続けながら、サム・アキーロ・シリーズの2
作目 "TWO TIMES" も発表している。本作でもサムとコンビを組んだ弁護士のジャッ
キー・スワイトコウスキや、親友でこちらも弁護士のバートン・ルイス、今回サムが
すこしだけ恋におちたアマンダ・バティストンも登場するという。舞台もおなじサウ
サンプトンなので、サムが終わるのはまだまだ先のようだ。
(吉野山早苗)
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『そして、デブノーの森へ』"LE PRIX DU DESIR"
2004年/フランス・イタリア・スイス/カラー
《ファム・ファタールに出会ってしまった男》
世界的なベストセラー作家セルジュ・ノヴァック。だが彼の個人的な情報は世間に
一切公表されず、正体を知るのは家族と彼の代理人だけだった。セルジュ・ノヴァッ
クであることを隠し、ジュネーブでひっそりと暮らすダニエルはある日、妻の連れ子
フォブリツィオの結婚式に出席するために南イタリアへと向かう。その途中で若く美
しい女性と出会い、一夜を共にする。しかしその女性こそ、フォブリツィオの婚約者
ミラだった。結婚後もミラはダニエルを誘惑しつづけ、2人は情事を重ねる。しかし
2人が愛をかわす写真が送られてきたことで、そんな生活もダニエルの平穏な日常も
終わりをつげる。
ファム・ファタールとはフランス語で男を破滅に導く運命の女のことをいい、これ
まで文学や映画などで数多く描かれてきた。『そして、デブノーの森へ』も、ファム
・ファタールと彼女に運命を翻弄される男が描かれている。
いくつもの謎と秘密が、緻密なストーリーの中にちりばめられている。前半の2人
の出会いから深い仲になっていく過程は、やや冗長な感じもするが不自然さがなく、
映画の中にすっと引き込まれる。見どころは写真が送られてきてからの後半で、ダニ
エルの穏やかな世界があっという間に崩壊していくところは、テンポがよくて退屈す
ることがない。
サスペンスの面白さもさることながら、ミラ役のアナ・ムグラリスの妖しい美しさ
が、作品にいっそうの彩りを添える。シャネルの広告モデルに抜擢され、女優業のか
たわら「シャネルのミューズ」として活躍しているアナの、面目躍如といったところ
か。まっすぐと射抜くように相手を見つめる眼、しなやかな体。女性のわたしが見て
もため息が出るほど美しい彼女の誘惑を、男ならふりきれるはずがない。理性でだめ
だとわかっていても、どんどんとミラにのめりこむダニエルの気持ちは、男性ならき
っと分かるはずだ。
邦題にあるデブノーの森は、ダニエルやミラの出身地でもあるポーランドにあり、
この物語の始まりの場所であり、終わりの場所でもある。
(かげやまみほ)
| ■速報 ―― CWAエリス・ピーターズ・ヒストリカル・ミステリ受賞作発表 |
受賞作
"MISTRESS OF THE ART OF DEATH" Ariana Franklin
ノミネート作品
"THE SNAKE STONE" Jason Goodwin
"THE ONE FROM THE OTHER" フィップ・カー
"MURDER AT DEVIATION JUNCTION" アンドリュー・マーティン
"THE SAVAGE GARDEN" マーク・ミルズ
"THE TENDERNESS OF WOLVES" Stef Penney
詳しくは、英国推理作家協会の公式サイトをごらんいただきたい。
http://www.thecwa.co.uk/
(かげやまみほ)
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■編集後記■
先日グループ る・ばる『片づけたい女たち』というお芝居を観てきました。舞台
はマンションの一室、山のような衣類、本、段ボール箱、ごみ袋、汚れた食器が散乱
していて……一瞬、わが家かと思いました。 (清)