■ 第61号 2007年3月号 ■
〈未訳原書レビュー〉
  "FOOL'S PUZZLE"
〈注目の邦訳新刊レビュー〉
  『ゴッホは欺く』
  『眼を閉じて』
  『殺人作家同盟』

〈速報〉
   アガサ賞ノミネート作品発表
 
 ■未訳原書レビュー

"FOOL'S PUZZLE" by Earlene Fowler
 Berkley Prime Crime/1995.01/ISBN: 9780425145456

《ちょっと無鉄砲だけれど、だれからも愛されるニュー・ヒロイン》

 ベニ・ハーパーは9か月前に交通事故で夫を亡くした若き未亡人。幸せに暮らして
いた家族経営の牧場を出て町で独り暮らしを始めた彼女は、豊富な知識を生かし、民
芸美術館の学芸員兼館長の職についた。そこでは近々、キルトの展示会が催される予
定で、彼女はその準備に追われていた。そんなとき、夜間に館内で作品作りをしてい
た陶芸家が何者かに刺し殺された。死体の第一発見者となったベニは警察の事情聴取
を受けるが、現場を走り去って行くはとこの姿を目撃していたことは話さなかった。
すると、当然のごとく(?)嫌疑をかけられてしまう。はとこと自分の容疑を晴らす
ため、あちこち突っつきまわしたベニは、思いもかけず、亡き夫の事故の影にぶち当
たってしまい……。
 愛する夫を失った悲しみに加え、「あのとき迎えにいってあげていたら夫は死なず
にすんだかもしれない」と自責の念に駆られてしまうベニ。コージー作品ながらも、
そんなベニの心情描写が作品に深みを加えている。最愛の人の死を乗り越えようと頑
張るベニの姿が切なくも頼もしくもあり、感傷をそそられる。その一方で、友人との
会話やひとりごとに顕れるヒロインのウィットには、思わず顔がほころぶ。ジョーク
や軽口がかわされていてもちっともおもしろくないという作品が少なからずある中で、
著者ファウラーのユーモアは、ずばりわたしのツボにはまってしまった!
 さらに、コージー作品には欠かせない脇役のキャラクターもいい味を出している。
子供のころに母を亡くしたベニにとっては母親代わりであり、毎日のように電話をし
てくる祖母のダヴや、なんでも打ち明けられる、幼なじみで親友のエルヴィア。メキ
シコ系の彼女には兄弟がたくさんいて、あちこちに登場する点もおもしろい。それに、
顔を見るとつい反発したくなる、都会からやってきた署長代理のオーティスなどなど。
 本書はベニ・ハーパー・シリーズの第1作で、第6作の "MARINER'S COMPASS" は
1999年のアガサ賞を受賞している。他にもノミネートされた作品は多く、今年の5月
にはシリーズ13作目が出るという、本国では人気のシリーズ。ぜひ日本語でも出版し
てほしいものだ。タイトルには毎回、キルトのパターン名がつけられており、次はど
んな図柄なのかというのも楽しみのひとつである。また、先日発表された2007年度の
アガサ賞にも、こちらはベニの物語ではないが "THE SADDLEMAKER'S WIFE" が候補に
挙がっている。
                                (矢野真弓)
◇著者のサイトはこちら
http://www.earlenefowler.com/index.html
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 ■注目の邦訳新刊レビュー

『ゴッホは欺く(上)(下)』 "FALSE IMPRESSION"
 ジェフリー・アーチャー/永井淳訳
 新潮文庫/2007.02.01発行 各629円(税別)
 ISBN:9784102161258(上)9784102161265(下)

《世界を舞台に、ゴッホの自画像を追う》

 9・11テロの前夜、イギリス貴族の女当主ヴィクトリアが首を切られて殺される。
彼女は、アメリカのフェンストン・ファイナンスと不当な契約を結ばされていた。美
術品コレクターであるファイナンスの会長ブライズ・フェンストンが、彼女の資産の
ひとつであるゴッホの『耳を切った自画像』を手に入れることをもくろんでいたのだ。
 その翌日、ファイナンスで美術部門のコンサルタントをしているアンナ・ぺトレス
クは、上司フェンストンのあくどい仕事の進め方に対して意見し、解雇される。その
直後にオフィスのあるツイン・タワーに飛行機が激突するが、なんとか一命を取りと
め、友人の協力を得て自分は行方不明ということにする。ヴィクトリアが殺されたと
知らないアンナは、フェンストンに邪魔されることなくイギリスへ行き、取引が不当
なものだと伝えたかったのだ。
 イギリスに渡ったアンナは、ヴィクトリアの死を聞かされる。さらに、自画像がフ
ェンストンの元へ運ばれるため、すでに空港に保管されていると知るや一計を講じ、
彼の弁護士の手に渡る直前に奪い返す。そして、アンナは自画像をヴィクトリアの妹
に返すため、アンナの生存を知ったフェンストンに雇われた殺し屋は絵を取り返して
彼女を殺すため、さらにはフェンストンの不正取引をかぎつけたFBI捜査官も現れ、
それぞれがイギリス、日本、ルーマニア、ニューヨークへと、世界中を飛び回ること
になる。
 場面転換が多く、話もテンポよく進むので、先を知りたくてどんどん読んでしまう。
登場人物それぞれの視点で自画像の行方を追うので、うっかりすると絵がいまどこに
あるのかが分からなくなる。あとになって「あの時に」と納得がいくのだが、読者を
煙にまくストーリー展開に乗って読んでいるあいだは、なかなか気づけない。
『耳を切った自画像』は表紙で見ることができるので、それを眼に焼き付けて読んで
みると、著者の仕組んだトリックがよりいっそう楽しめるだろう。美術品コレクター
のフェンストンでさえこの絵のカラクリに気づかなかったのだが、著者との知恵比べ
に勝てる読者は、いるかもしれない。
                               (吉野山早苗)
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◇bk1へ (上)(下)
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『眼を閉じて』 "AD OCCHI CHIUSI"
 ジャンリーコ・カロフィーリオ/石橋典子訳
 文春文庫/2007.02.10 590円(税別)
 ISBN: 9784167705442

《残虐なストーカー事件に対する依頼人の恐怖心が、グイードに与えた影響とは?》

 南イタリア、バーリ市の弁護士グイードのところに、ある日、マルティーナという
女性のストーカー被害に関する損害賠償請求依頼が持ちこまれた。加害者は、マルテ
ィーナのかつての同棲相手であるシャナティコ。彼は医師でありながらも、人に乱暴
を働いたり、コカイン常習者という噂まであるような男だが、父親が法曹界の有力者
であることを恐れてか、既に2人の弁護士がマルティーナの依頼を断ったという。そ
れでも、人のいいグイードは、断りきれずに依頼を引き受けてしまった。そして、そ
の直後、シャナティコの弁護士が、マルティーナはある問題を抱えていて裁判に勝ち
目はないから身を引くようにと言ってきた……。
 グイードは、バーリで生まれ育った40代の男性。依頼人には裁判中に相手側弁護士
の顔を絶対に見ないようにとアドバイスしておきながら自分はうっかり見てしまうと
いうような、なんともいえず親近感を覚えてしまうタイプの人間だが、その心の奥深
くには、子ども時代に端を発する、あることに対する恐怖心が巣くっている。
 そんなグイードが今回引き受けた事件は、ストーカーに対する概念を覆すほど残虐
なものだった。シャナティコは同棲を始めて数か月後に暴力をふるうようになり、マ
ルティーナが家を飛び出して母親のところに戻った後は、昼夜を問わず執拗に尾行し
つづけ、ときには殴り、ときには車に傷をつけたりした。その結果、マルティーナは
始終、シャナティコが現れるのではないかという恐怖なしにはいられないほどになっ
てしまったのだ。ストーカーに対する考えを変えたグイードは、裁判では、優秀で危
険な相手側弁護士と、明らかにシャナティコの父親を恐れている裁判官を相手に、マ
ルティーナの話をじっくりと聞いて得た有益な事実をもとに、相手側の作戦を逆手に
とった策に打って出た。
 物語のなかには、本筋と並行して、もう1人の人物の恐怖心についても書かれてい
る。マルティーナの事件を通じ、そして、もう1人の人物の恐怖心について知ること
で、グイードが自分の恐怖心とどう対峙していくのかというのも読みどころといえる。
 本書は、イタリアのマフィア担当検事によるグイード弁護士シリーズの2作目。 
                                (石田浩子)
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『殺人作家同盟』"THE CIRCLE"
 ピーター・ラヴゼイ/山本やよい訳
 早川書房/2007.02.15発行 2240円(税別)
 ISBN: 9784152087928

 妻を失い、娘スーザンの成長と心の中で詩を作ることを慰めとしている運転手ボブ
は、娘の奨めにより地元の作家志望者のサークルへと足を踏み入れた。会合に出席し
た初めての日、ボブは傲慢な編集者エドガーが焼殺されたことを知る。その会合の最
中に、会長モーリスがエドガー殺しの容疑者として逮捕された。サークルのメンバー
に頼まれ、ボブは殺人事件を調査することとなる。
 ピーター・ラヴゼイの老練さが光る作品。どぎついばかりの個性を持つ作家志望者
達の人物像が楽しい。『漂う殺人鬼』で脇役だったヘン・マリン主任警部が再び登場
する。彼女は殺人事件ばかりでなく、容疑者達に捜査の情報を流した警官は誰かとい
う問題にも頭を悩まさなければならないが、どちらも見事に解決する。ヘン・マリン
主任警部の颯爽とした活躍も好ましく、彼女を主役としてシリーズが書き継がれるこ
とを望むほどである。
                                (柳田有里)
◇bk1へ
 ■速報 ―― アガサ賞ノミネート作品発表

 マリス・ドメスティック主催によるアガサ賞のノミネート作品が発表になった。全
5部門のうち主要3部門のノミネートは以下のとおり。受賞作は、5月4日〜6日
(現地時間)に開催される、ヴァージニア州アーリントンにおける第19回マリス・ド
メスティック・コンベンションの席上にて発表される。

▼最優秀長篇賞
"THE SADDLEMAKER'S WIFE"       Earlene Fowler
"WHY CASEY HAD TO DIE"        L.C. Hayden
"THE VIRGIN OF SMALL PLAINS"     ナンシー・ピカード
"ALL MORTAL FLESH"          Julia Spencer-Fleming
"MESSENGER OF TRUTH"         ジャクリーン・ウィンスピア

▼最優秀処女長篇賞
"CONSIGNED TO DEATH"         Jane Cleland
"THE CHEF WHO DIED SAUTEING"     Honora Finkelstein & Susan Smily
"FEINT OF ART"            Hailey Lind
"MURDER ON THE ROCKS"         Karen MacInerney
"THE HEAT OF THE MOON"        Sandra Parshall

▼最優秀短篇賞
"Provenance"             ロバート・バーナード
"The Old Coup"            ロバート・バーナード
"Yankee Swap"            Maurissa Guibord
"Disturbance in the Field"      Roberta Isleib
"Sleeping with the Plush"      Toni L.P. Kelner

 詳細については以下のサイトを参照してほしい。
 http://www.malicedomestic.org/index.htm
                              (かげやまみほ)
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■編集後記■
 ここ2、3年花粉症の症状がでているのですが、今年が1番辛いです。マスクが手
放せません。
                                   (清)


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