2006年12月、恒例の〈フーダニット翻訳倶楽部年間ベスト・ミステリ〉の投票が行
われた。今年は本命となる作品がなく、票がわれる結果となってしまった。
※投票規定
2005年11月1日〜2006年10月31日に刊行された新刊ミステリ作品が対象(文庫化や
再販、新訳などは除く)。会員は3作品まで投票可能。1位=10点、2位=9点、
3位=8点として集計。
※投票期間=2006年12月1日〜12月15日
※投票者数=10人
1.『死ぬまでお買い物』 26点
エレイン・ヴィエッツ著/中村有希訳/創元推理文庫
◆フロリダを舞台にしたワケありヒロイン、ヘレン・ホーソーン・シリーズの1
作目。崖っぷち人生を踏ん張って生きるヘレンに思わず声援を送りたくなる!
◇bk1へ
2.『クリスマス・プレゼント』 19点
ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子他訳/文春文庫
◆ジェフリー・ディーヴァーの短編集。帯に「どんでがえし16連発」とあるとお
り、どの作品にもサプライズが用意されている。
◇bk1へ
3.『あなたに不利な証拠として』 18点
ローリー・リン・ドラモンド/駒月雅子訳/ハヤカワ・ミステリ
◆警察機構の中で生きる5人の女たちをときには血の匂い、死肉の匂いをも漂わ
せながら描いた短篇集。書評や『このミス』などで高い評価を得た。
◇bk1へ
3.『サム・ホーソーンの事件簿IV』 18点
エドワード・D・ホック/木村二郎訳/創元推理文庫
◆老医師サム・ホーソーンが数々の不可能犯罪を解決した日々を回想するシリー
ズ短篇集。第二次大戦中のアメリカ国内の描写が興味深い。
◇bk1へ
5.『さよならを告げた夜』 10点
マイクル・コリータ/越前敏弥訳/早川書房
◆探偵の死と妻子の失踪の裏にうごめくものは? 期待の新鋭が放つ清冽な私立
探偵ものハードボイルド。MWA最優秀処女長篇賞ノミネート。
5.『天使の鬱屈』 10点
アンドリュー・テイラー/越前敏弥訳/講談社文庫
◆教会の図書館で働き始めたウェンディのまわりで奇妙な事件が続く。『天使の
遊戯』『天使の背徳』に次ぐ3部作の最終巻。CWA最優秀歴史ミステリ賞受賞。
5.『風の影』 10点
カルロス・ルイス・サフォン/木村裕美訳/集英社文庫
◆『風の影』という本に魅せられた少年ダニエルが、作者の過去を探りはじめる。
少年の成長物語であり、恋愛小説でもある、世界的大ベストセラー。
5.『12番目のカード』 10点
ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子訳/文藝春秋
◆リンカーン・ライム・シリーズの第6作。140年前の陰謀と現在の事件を、ライ
ムが時空を超えて解決する。今回もどんでがえし有り!
次点(各9点)
『手紙と秘密』
キャロリン・G・ハート著/長野きよみ訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
『赤髯王の呪い』
ポール・アルテ/平岡敦訳/ハヤカワ・ミステリ
『毒杯の囀り』
ポール・ドハティー/古賀弥生訳/創元推理文庫
『ファンダンゴは踊れない』
クリス・ハスラム/栗原百代訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
『ひよこはなぜ道を渡る』
エリザベス・フェラーズ/中村有希訳/創元推理文庫
『屍衣の流行』
マージェリー・アリンガム/小林晋訳/国書刊行会
『天使と罪の街』
マイクル・コナリー/古沢嘉通訳/講談社文庫
※ 投票結果および選評はこちらで公開しています。↓
http://www.litrans.net/whodunit/best/best06/index.htm
| ■座談会 ―― フーダニット・ベスト5で2006年のミステリを振り返る |
今年は人気が集中する作品がなく、投票者の好みが色濃く反映された結果となった。
そのために票が分かれ、3位までしか集計できなかった。座談会では上位3位(同数
3位が2作品)と、次点となった4作品をとりあげた。その座談会の様子を、今年も
できるだけライブなかたちでお届けする。
[蜜柑] それでは、下位から順番にはじめていいでしょうか? まずはマイクル・コ
リータ『さよならを告げた夜』です。私立探偵が死体で見つかり、探偵の家族
も行方不明。警察の捜査に業を煮やした被害者の父親が別の探偵に捜査を依頼
する。作者のコリータが21歳のときに上梓したデビュー作だそうです。
[檸檬] 清冽なハードボイルドという感じです。だけど、設定がややありきたりかな?
この若さでこれだけの作品を書けたという点で、これから期待できると思いま
す。
[蜜柑] いろんな書評でも将来性に期待とありますね。雰囲気的にはどんな作風なん
ですか?
[檸檬] 典型的な私立探偵もののハードボイルドです。謎めいた人妻が出てきたりし
ます。久々の直球ものと評価している人もいます。そのとおりだとわたしも思
います。
[蜜柑] 確かに設定は普通っぽいなあ。そっか〜、直球がいいんですね。
[柚子] 最近ハードボイルドに傾いているから、これ、読書リストに直行です!
[蜜柑] では次にいきますね。アンドリュー・テイラー『天使の鬱屈』です。
Requiem for an Angel シリーズの3作目。夫と別居し、教会付属の図書館で
働き始めたウェンディ。半世紀前の聖職者にして詩人フランシスのことを調べ
ている彼女の身辺で、死の悲劇が相次ぐ。これって、シリーズ1作目から読ん
だほうがいいのかしら?
[檸檬] どこから読んでもOKですよ〜。でも、せっかく完結しているのだから、で
きれば1作目から読んだ方が楽しめると思います。時代の流れをさかのぼる形
になっています。ロス・トリロジーとも呼ぶそうです。メルマガ2006年3月号
にレビューが載っています。
[蜜柑] 歴史ミステリといっていいのかな? それともサスペンスでしょうか?
[檸檬] サスペンス風の味付けも少し入っていますけど、やはりこれは歴史ミステリ
でいいのではないかと思います。レビューにもありましたが、「ミステリと大
河小説の愉悦を同時に楽しめる物語」、これに尽きますね〜。
[柚子] 主人公は同じですか?
[檸檬] 何人か主要な人物がいて、その時々に応じて、スポットが当たったり、脇に
回ったりします。
[蜜柑] うわあ、おもしろそう。よし、じゃあ、これをわたしの年末年始本にしよう
っと。
[檸檬] どうぞ、お楽しみくださいませ 。
[蜜柑] では、次はカルロス・ルイス・サフォン『風の影』です。『このミステリー
がすごい!』(以下『このミス』)4位、『週刊文春』2位。古本屋の息子ダ
ニエル少年が偶然『風の影』という本と出会います。その小説に夢中になった
ダニエルが、小説の作者カラックスについて調べるんです。ところが『風の影』
は本を保管してあった倉庫が放火で全焼して、出版社にも在庫がない。本を探
しては燃やしてしまう謎の男も登場し、少年も狙われます。『風の影』の謎を
追う物語と並行して、少年の初恋、恋愛が描かれます。一言でいうと、スペイ
ン版『冬のソナタ』という印象でした。
[柚子] ミステリーっぽくないって聞いたんですが、どうですか?
[蜜柑] 謎の男や作者の過去は話を読み進めていくうちに自然とわかるので、謎解き
というほどのものではないと思います。
[檸檬] 『冬のソナタ』ですか……、うーん。ロマンス色が濃い?
[蜜柑] 恋愛大河小説として読むとすごく楽しめます。
[蜜柑] 次はジェフリー・ディーヴァーの『12番目のカード』です。ハーレムの高校
に通う少女ジェニーヴァが襲われる。単純な強姦未遂事件だと思い捜査をはじ
めたライムとサックスだったが、犯人に何か別の動機があることに気づく。リ
ンカーン・ライムシリーズ第6作。『このミス』6位、『週刊文春』4位です。
[蜜柑] これは読みたいです。わくわくするなあ。
[甘夏] 読みました……! 前作『魔術師(イリュージョニスト)』(文藝春秋)に
比べて地味だったけど、よかった。
[柚子] あらすじを読んだら140年前の陰謀とありますが、歴史ミステリ風なんです
か?
[甘夏] そうですね。過去の事件と現在の事件が平行して語られます。それで、2つ
の事件のかぎを握るのがジェニーヴァです。
[檸檬] ドンデン返しの冴えはいかがでした?
[甘夏] シリーズのファンは、ディーヴァーがあちこちに仕掛けを施しているのを知
っているので、用心しながら読んでるはずなのですが、今回は思わぬところに
仕掛けてあったので「やられた」って感じですね。「やられた」は、いつもの
ことか……。
[蜜柑] ディーヴァーはいつも「やられた」って感じますよね。
[檸檬] 「やられた!」は、クセになりますね。
[甘夏] 最近の作品は、とくに冴えてるんじゃないでしょうか。
[蜜柑] ここからベスト3です。エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件
簿IV』。ニュー・イングランドの田舎町ノースモントの老医師サム・ホーソー
ンが、数々の不可能犯罪を解決した若かりし日々を回想する短篇集です。
[甘夏] オーソドックスな不可能犯罪の短篇集です。ベスト3に入れなかったけれど、
大好きです。ひとりの人間がこんなにいろいろと不可能犯罪に出くわすかって
思うけど(それがベスト3に入れなかった理由)、短い話の中にその時代時代
の風俗なんかを織り込んでいるところがいいですね。
[蜜柑] 安心して読めますよね。短篇だと少しずつ読めるのもいいし。
[檸檬] これだけ続くとどうしても、設定がちょっと苦しいかなってとこ、出てきま
すよね。でも懐かしい感じがして、ほんとに安心して読めます。
[柚子] サム・ホーソーン・シリーズ以外にもシリーズがありますが、どうですか?
[檸檬] 他のもおもしろいですよ。オカルト探偵なんてのもいるし。
[柚子] オカルト探偵、気になります。
[檸檬] 『ホックと13人の仲間たち』(ハヤカワ・ミステリ)をぜひお読みください。
オカルト探偵も入っています。
[柚子] 怪盗ニックは?
[甘夏] 怪盗ニックもおもしろいですよ。わたしは暗号解読のジェフリー・ランドも
いいのではないかと思ってます。
[檸檬] ノンシリーズですが『夜はわが友』(創元推理文庫)も好きです。
[甘夏] 『夜はわが友』もよかったですね。お勧めです。
[蜜柑] ホックは短篇うまいですよね。作家さんて、短篇を得意とする人と長篇を得
意とする人がいるのかしら?
[甘夏] たぶん両方ちゃんと書ける人って、ディーヴァーを含めて少ないですよね。
[蜜柑] 次は、同点3位のローリー・リン・ドラモンド『あなたに不利な証拠として』
男性社会である警察で働く、女性警官たちを描いた短篇集です。『このミス』
1位、『週刊文春』でも1位で、2006年のミステリ界ナンバーワンの作品です。
[檸檬] 読みましたけど、ベスト3には入れませんでした。これ、ミステリなんです
か? 「傷痕」はミステリとして評価しています。だけど、あとのはどうでし
ょう?
[柚子] 観察眼と感受性は鋭い気はしますけど……ミステリじゃないですよね。
[檸檬] ミステリは謎解きであって欲しいというのは少数派なのでしょうか?
[蜜柑] 少数派じゃないと思いますよ。この作品は女性警官の心情が吐露されていて、
そこは胸にしみいりました。
[檸檬] 女性警官の姿をリアルに描いた点は評価できると思います。
[柚子] 独特の雰囲気はありましたね。
[蜜柑] では次は2位です。ジェフリー・ディヴァー『クリスマス・プレゼント』。
短篇集です。本の帯には「どんでん返し16連発」とありますね。『このミス』
2位、『週刊文春』8位です。
[甘夏] 実は『海外ミステリ通信』の2005年5月号で特集した時に、原書および雑
誌に掲載された翻訳を読みました。
[檸檬] そうそう、特集組まれたときに原書で読みました。
[甘夏] さっきも言いましたが、ディーヴァーは短篇もうまいです。
[蜜柑] うまいですよねえ。収録作品のなかでは、どの作品が好きですか?
[甘夏] 「ノクターン」です。ニューヨークが舞台で、O・ヘンリーっぽくて、好き
です。
[檸檬] 「三角関係」でしたっけ? あれはびっくりしました。歴史物好きとしては
シェイクスピアが出てくる「この世はすべてひとつの舞台」もおもしろかった!
[蜜柑] わたしも「三角関係」だなあ。「三角関係」はまさに「やられた」って感じ
でしたね。
[檸檬] 「パインクリークの未亡人」もおもしろかった。南部もの、好きなんです。
それにライムのもありましたよね。本のタイトルになってる「クリスマス・プ
レゼント」。
[蜜柑] 作品それぞれの完成度も高くて、さすがディーヴァーと思える短篇集ですね。
[檸檬] ちっちゃくておいしいチョコが詰まってるって感じでした。ただ、一度に食
べると胸焼けするかも?
[蜜柑] なるほど、ひとつひとつを味わう時間が必要ということですね。
[蜜柑] では1位です。エレイン・ヴィエッツ『死ぬまでお買い物』。ろくでなしの
夫と離婚してフロリダへやってきたヘレン。ようやく手に入れた仕事は、高級
ブティック〈ジュリアナズ〉の店員だった。店長もお得意様も周囲は皆整形美
女だらけ。そして店には秘密があって。
いやあ、こんな話だとは思いませんでした。買い物依存症の話だと思ってた。
主人公は夫の浮気が原因で離婚裁判を起こすのですが、夫に有利な判決がでて
しまい、慰謝料の支払いから逃れるため、フロリダに逃げてきたんです。
[柚子] コージーなのに、想像を絶する世界ですよね。カードが使えないし、銀行口
座も作れないし、日本で言えば住民票も移せない状況って、キツイですよね。
[檸檬] 整形美女もだけど、今、流行のワーキング・プアかななんて気がしています。
ワーキングプアよりきついかな。コージーにしてはシビア?
[柚子] フロリダって行ったことがないけど、かなり浮世離れしてるのかしら。
[蜜柑] 犯罪者だらけって感じですよねえ。
[甘夏] 犯罪者が最後に行き着くところとか?
[柚子] 犯罪者と逃亡者?
[蜜柑] フロリダ観光協会とかから苦情がきそうだ。
[柚子] この作品、シリーズが続くみたいですね。
[蜜柑] 中村有希さんの訳が、テンポが良くてよかったです。
[甘夏] 今年はコージーをいろいろ読みましたが、その中では1番だったと思います。
わたしは結構好きでした。
[蜜柑] その他にも、触れておきたい作品があれば紹介してください。
[檸檬] 今さらですが『ひよこはなぜ道を渡る』(創元推理文庫)に、もっとがんば
って欲しかった。トビー・ジョージ・シリーズの最終作でしたしね。ベスト10
の締切が終わってから読んだのが悔やまれます。もっと早く読めばよかった。
[甘夏] 『ひよこはなぜ道を渡る』もよかったですね。でもコージーを3位に入れた
かったので……。
[檸檬] 『屍衣の流行』(国書刊行会)、『ハマースミスのうじ虫』(創元推理文庫)
が気になってます。
[蜜柑] 『ハマースミス』は万人におすすめです。『屍衣』は好みが分かれるかもし
れませんが、わたしは傑作だと思います。
[蜜柑] ではみなさんの来年の抱負など、どうぞ。
[甘夏] 今年はコージーばかり読んでてちょっと疲れたので、来年はハードボイルド
な年にします。ハードボイルドを読む!
[柚子] わたしも、今年コージーに飽きたので、来年はPIものを読みたいです。
[檸檬] 埋もれた名作を読んでみたい。
[蜜柑] では今日はこれでお開きにしましょうか。みなさん、長時間ありがとうござ
いました。
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■編集後記■
2007年のわたしの目標は「映画を100本観る(DVDを含む)」です。3日1本観
ればいいわけですが、1月9日現在まだ1本も観ていません……。 (清)