"AUNT DIMITY AND THE DUKE" by Nancy Atherton
Penguin Books/1994/ISBN: 0140178414
《公爵の住む古城、そこには伝説の女性の幻影が見え隠れする》
エマはマサチューセッツ州でプログラマーをしている40歳の独身女性。15年間つき
あった恋人と別れたばかりだった。園芸好きの彼女はイギリスのコーンウォールにド
ライブ旅行に出かけ、その地方の美しい庭を見てまわることにした。だが、ある庭園
で双子の老婦人に出会ったのをきっかけに、見えない運命の糸に手繰り寄せられるよ
うにペンフォード・ホールという大きな古い屋敷にたどりつく。
敷地内の断崖にたつ小さな礼拝堂は、船乗りの恋人のため、嵐の夜にランタンを持
ってその断崖に立ったという伝説の女性を称えて建てられたものだった。エマは礼拝
堂の庭を復活させてほしいと公爵に頼み込まれ、予定を変更して屋敷にとどまること
にした。ところが、ある朝、礼拝堂の庭に向かったエマは、滞在中の公爵のいとこス
ザンナが倒れているのを発見する。滑って倒れたときに頭を打ったようにも見えたが、
だれかがそう見せかけたという可能性もあった。とくに、彼女が公爵の亡き家族に対
する恨みから、数年前にこの屋敷で起こった有名なロックスターの事故死について調
べていたことを考えれば、疑いはますます大きくなるのだった。
幽霊となったディミティおばさまが謎解きをするという、Aunt Dimity シリーズの
第2作。だが本書にはシリーズの主人公は登場せず、脇役にスポットを当てたサイド
ストーリーとなっている。「おばさま」自体も登場人物の話の中で何度か出てくるだ
けだが、なんとも存在感がある。しかし、本書でもっとも活躍するのは、謎解きのヒ
ントをエマに与えることになる、公爵の友人の2人の子供たちだ。5年前に妻を亡く
して以来、深い悲しみを抱き続ける父親を気遣う、生真面目で子供らしくない兄とお
しゃまな妹。だが、彼らをそうさせた背景を思うと、いじらしさに胸を打たれる。
さて、ミステリの部分はというと、この屋敷には3つの謎があった。ロックスター
の死、スザンナの事故、そして礼拝堂建立の由来になったランタンの紛失。なかでも
ロックスターの死の謎にはなかなか意表を突くからくりがあった。とはいえ、あまり
にも平和的なものなので、好みは分かれるかもしれない。
ゴシック的な要素、ミステリアスな伝説、ひとしきり人生を歩んできた大人のロマ
ンス、いろいろな魅力が盛り込まれているが、お互いに主張しすぎず、ほのぼのとし
たコージー・ミステリに仕上がっている。ホッとできる1冊だ。
(矢野真弓)
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『ひよこはなぜ道を渡る』 "YOUR NECK IN A NOOSE"
エリザベス・フェラーズ/中村有希訳
創元推理文庫/2006.02.24発行 760円(税別)
ISBN: 4488159214
犯罪ジャーナリストのトビーが旧友ジョンの邸宅で目にしたものは、弾痕や血痕が
残りひどく荒らされた形跡のある書斎と、その中で命を失っていたジョンの姿だった。
書斎の様子はあからさまに犯罪の臭いを撒き散らしていたが、ジョンの死因は自然死
と判明する。この不思議な状況は一体なぜ作り上げられたのか。
すべての容疑者にはアリバイがある。トビーは相棒のジョージをロンドンの下宿か
ら呼び出し、共に調査を始める。車に細工され、危うく殺されそうになりつつも、彼
らは容疑者のアリバイを少しずつ崩していく。
読者を楽しませてくれた個性的なキャラクターと入り組んだプロットは、いつも通
り楽しい。シリーズの第5作にして最後の事件で、トビーとジョージの名コンビもこ
れで見納めかと思うと淋しいものである。
(柳田有里)
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『天使の鬱屈』 "THE OFFICE OF THE DEAD"
アンドリュー・テイラー/越前敏弥訳
講談社文庫/2006.02.15発行 1048円(税別)
ISBN: 406275326X
夫と別居したウェンディ・アップルヤードは、寄宿学校時代の親友ジャネット・バ
イフィールドの元に身を寄せる。ジャネットの夫デイヴィッドはイングランド東部の
大聖堂のある町ロシントンで神学校副校長の職にあり、2人の間には4歳の娘ロージ
ーがいた。大聖堂図書館の蔵書目録作成を引き受けたウェンディは、半世紀前の図書
館館長であり、詩人でもあったフランシス・ユールグリーヴ参事司祭に関心を抱く。
調査を進めるウェンディの周囲で奇妙な事件が続き、ウェンディは自分の他にもユー
ルグリーヴのことを調べている者がいることに気づく。一方、ジャネットの父の同居
を機に、幸せそのものに見えたバイフィールド家に不協和音が響き始めていた。
老いたウェンディの回想という形で過ぎし日の出来事が語られる。その語り口は懐
かしさにあふれ、ときに切なく、ときに苦い。ウェンディの語りに導かれ、読者は湿
原地方の大聖堂囲い地という閉ざされた土地に生きる人々の絆と葛藤をわがことのよ
うに感じ、真実が明らかにされたときの戦慄をウェンディとともに体験する。
『天使の遊戯』『天使の背徳』に次ぐ〈The Roth Trilogy〉最終巻で、CWA賞最優
秀歴史ミステリ賞を受賞した。この3巻はそれぞれが完成された物語として、異なっ
た趣をたたえつつ、互いに響きあってひとつの交響詩を奏でている。巻が進むごとに
時代をさかのぼるが、「どういう順序で読んでもかまわない」と著者自身が語るとお
り、どこから読んでも引き込まれる。そしてすべての謎が解き明かされたとき、読み
返さずにいられなくなるに違いない。3巻そろった今こそ、ミステリと大河小説の愉
悦を同時に味わえるこの物語をお楽しみいただきたい。
(中島由美)
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▽本メルマガ2004年3月号で『天使の遊戯』のレビューがお読みいただける。
今月はまったくジャンルの違う2つのミステリを紹介する。ジョン・クリードの冒
険小説『シャドウ・ゲーム』と、コージー・ミステリの大御所、キャロリン・G・ハ
ートのシリーズ外のミステリ『手紙と秘密』だ。
『シャドウ・ゲーム』は、ジャック・ヴァレンタイン・シリーズの2作目。1作目の
『シリウス・ファイル』では英国の秘密情報部員だったジャックだが、引退した本作
品では美術品のディーラーとして生計を立てている。
美術商で旧友のパオロ・カサグランデが、かつての仕事でならした腕を貸してほし
いと、ジャックの元を訪れた。ニューヨークで暮らす娘のアルバを、なんとしてでも
連れ戻してほしいということだった。アルバが一緒に暮らしているのはリチャード・
ザバッラという名前の、無限の富と権力を持つ血も涙もない冷酷な男で、パオロはザ
バッラをひどく怖れていた。それを裏付けるかように自動車が爆破され、乗っていた
パオロは瀕死の重傷を負う。かくしてニューヨークへとんだジャックだったが、アル
バを連れ帰るという作戦は序章にすぎなかった。
次々と降りかかってくるアクシデントをクリアして、主人公たちがいかに目的を達
成させるかという冒険小説は、好みのジャンルの一つだ。この作品でも物語の中盤か
ら繰りひろげられる活劇に、胸を躍らせ手に汗を握った。そんな動の部分が激しいほ
ど静の場面もきわだつ。自分も好きな画家だからということもあるが、アメリカを代
表する画家エドワード・ホッパーの展覧会を、ジャックが訪れるシーンは印象に残る。
ホッパーが描く人々のように、ジャックや登場人物たちは胸の中に何かを秘めて、ど
こか孤独で寂しげだ。著者のクリードはその象徴としてホッパーの展覧会を選んだの
ではないか、と考えてしまうのは穿ちすぎだろうか。
シリーズ1作目の『シリウス・ファイル』を読んでいないと、登場人物や人間関係
について分かりにくい点もあるのだが、内容が理解できないというわけではない。本
作品から読んでも十分に楽しめる。
『手紙と秘密』は、第2次世界大戦中のオクラホマの小さな町が舞台。主人公のグレ
ッチェンは、その町で祖母と2人で暮らしている13歳の少女だ。
夏休み、グレッチェンは戦争で人手不足になっている地元新聞の記者として働きは
じめる。そんなある夜、友人のバーブが血相を変えて駆け込んできた。バーブの母親
フェイが首を絞められて殺されたのだ。夫のクライドが従軍している間に、フェイは
いかがわしいダンスホールへ足繁く通い、複数の男性と踊っていた。休暇で帰ってき
たクライドがそれを知って殺したのだろう、というのが大方の見方だった。だがフェ
イはクライドを心の底から愛していたし、身持ちの悪い女ではないというバーブの言
葉に、グレッチェンはフェイの本当の姿を記事にしようと取材をはじめる。
本作品は1つの章が3つのパートに別れている。最初が現在のグレッチェンにあて
られた手紙。次に現在のグレッチェンがふたたび故郷に戻ってきて、その手紙の差出
人に指定された場所へ向かうシーン。そして3つ目は事件が起きた夏の話である。こ
の3つが絶妙に組み合わされて、事件の真相はどうなのかという期待が徐々にふくら
んでいく。ただいつものハートお得意の謎解きミステリを期待していると、あてがは
ずれる。もちろん殺人事件がおきて真相も解明されるが、ミステリ色はかなり薄い。
グレッチェンがこの事件を含めたひと夏の経験をとおして、ジャーナリストへの道を
確実に歩みはじめる過程を描いた作品、と言ったほうがいいかもしれない。
そして読みどころの1つとなるのが、第2次世界大戦末期のアメリカで暮らす人々
の姿をリアルに描写しているところだ。戦争中でもアメリカ人は暮らしをほとんど変
えることはなかったようだが、それでも肉や靴やガソリンなどが配給制になっていて、
それなりに苦労している話は、意外に感じられた。
(かげやまみほ)
『シャドウ・ゲーム』 "THE DAY OF THE DEAD"
ジョン・クリード/鎌田三平訳
新潮文庫/2006.02.01発行 667円(税別)
ISBN: 4102147128
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『手紙と秘密』 "LETTER FROM HOME"
キャロリン・G・ハート著/長野きよみ訳
ハヤカワ・ミステリ文庫/2006.02.28発行 800円(税別)
ISBN: 4151736522
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| ■速報 ―― ハメット賞、アガサ賞ノミネート作品発表 |
●ハメット賞ノミネート作品
国際推理作家協会北アメリカ支部主催のハメット賞ノミネート作が発表された。同
賞の対象となるのは、カナダとアメリカで出版された英語で書かれた作品。受賞作は
カナダのトロントで開催される、ブラッディ・ワーズ・ミステリ・カンファレンス
(カナダのミステリ作家や読者が一堂に会するイベント)中の6月10日に発表される。
"ISLANDBRIDGE" John Brady
"ALIBI" ジョゼフ・キャノン
"THE DOOR TO BITTERNESS" マーティン・リモン
"NO COUNTRY FOR OLD MEN" コーマック・マッカーシー
"THE POWER OF THE DOG" ドン・ウィンズロウ
詳しくは、国際推理作家協会北アメリカ支部の公式サイトをごらんいただきたい。
http://www.crimewritersna.org/news/index.htm
(かげやまみほ)
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●アガサ賞ノミネート作品
マリス・ドメスティック主催によるアガサ賞のノミネート作品が発表になった。全
5部門のうち主要3部門のノミネートは以下のとおり。受賞作は、4月21日〜23日
(現地時間)に開催される、ヴァージニア州アーリントンにおける第18回マリス・ド
メスティック・コンベンションの席上にて発表される。
▼最優秀長篇賞
"OWLS WELL THAT ENDS WELL" ドナ・アンドリューズ
"PARDONABLE LIES" ジャクリーン・ウィンスピア
"RITUALS OF THE SEASON" マーガレット・マロン
"THE BELEN HITCH" Pari Noskin Taichert
"THE BODY IN THE SNOWDRIFT" キャサリン・ホール・ペイジ
"TROUBLE IN SPADES" Heather Webber
今回、最優秀長篇賞にノミネートされた6作品はすべてシリーズもの。シリーズ名
は上から順に、鍛冶職人メグ・ラングスローのシリーズ6作目、メイドから私立探偵
へと変身を遂げたメイジー・ダブズのシリーズ3作目、アメリカ南部が舞台の弁護士
デボラ・ノットのシリーズ11作目、PRウーマンSasha Solomonのシリーズ2作目、
料理上手の素人探偵フェイス・フェアチャイルドのシリーズ15作目、庭師Nina Quinn
のシリーズ2作目。
▼最優秀処女長篇賞
『ウエディング・プランナーは眠れない』 ローラ・ダラム
"BLOOD RELATIONS" Lisa Tillman
"JURY OF ONE" Laura Bradford
"KNIT ONE, KILL TWO" Maggie Sefton
"WITCH WAY TO MURDER" Shirley Damsgaard
早々に邦訳されたローラ・ダラムの『ウエディング・プランナーは眠れない』は、
本メルマガの2005年12月号でも紹介している。
http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0512.htm#OKINI
▼最優秀短篇賞
"DRIVEN TO DISTRACTION" マーシャ・タリー(CHESAPEAKE CRIMES II)
"HOUSE RULES" Libby Fischer Hellmann(MURDER IN LAS VEGAS)
"MOTHER LOVE" Harriet Sackler(CHESAPEAKE CRIME II)
"MURDER AT SLEUTHFEST" Barb Goffman(CHESAPEAKE CRIMES II)
"REAR VIEW MURDER" Carla Coupe(CHESAPEAKE CRIMES II)
5作品中の4つを占める "CHESAPEAKE CRIMES II" の編者は、ドナ・アンドリュ
ーズと Maria Y. Lima。"MURDER IN LAS VEGAS" はマイクル・コナリー。
詳細については以下のサイトを参照してほしい。
http://www.malicedomestic.org/
(矢野真弓)
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毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。
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■編集後記■
フェラーズの本は、表紙の絵がかわいらしいですよね。『ひよこはなぜ道を渡る』
は表紙にはかわいいひよこが何羽も飛んでいます。
さて編集部からのお知らせです。これまで毎月配信していた本メルマガですが、4
月から隔月配信となります。次回の配信は5月15日で、恒例の「MWA賞処女長篇部
門全レビュー」をお届けする予定です。 (清)