■ 第50号 2005年11月号 ■

〈未訳原書レビュー〉
  "IN THE EVENT OF MY DEATH"
  "CASE HISTORIES"

〈お気に入り見つけた!〉
  〜10月のミステリから〜

〈速報〉
  CWA賞受賞作発表
 
 ■未訳原書レビュー

"IN THE EVENT OF MY DEATH" by Carlene Thompson
 St. Martin's Paperbacks/1999/ISBN: 0312972741

《6つのハートが欠けていく》

 6つのハート。それはウェストバージニア州ホイーリングに住む6人の少女が作っ
た秘密クラブだ。彼女達がおこなっていたのは他愛もない黒魔術の真似事だった。だ
がメンバーの1人、フェイスが死んだときに6つのハートは解散になった。
 それから13年が経過し、かつての少女達はそれぞれの人生を歩んでいた。地元で祖
父の代からの花屋を継いだローレルは仰天した。ニューヨークで女優として成功の階
段を登っているアンジーが殺されたと言うのだ。しかも現場にはタロットカードの正
義の札が置かれ、鏡台にはアンジーの血で6とハートが書かれていた。だがローレル
の驚愕が恐怖に変わったのは、アンジーの死体の写真と在りし日のフェイスの写真が
送られてきたからだ。
 誰かがフェイスの復讐を果たそうとしている。ローレルを含め、連絡を取り合った
6つのハートの元メンバーは怯えた。フェイスは真夜中、ある農場で焼死した。妊娠
していたため、狂信的な父親を恐れて自殺したのだと人々は噂した。しかし事実は違
った。フェイスは黒魔術の儀式の最中、火が衣服に燃え移ったために命を失う羽目に
なったのだ。その場にいた少女達は沈黙を守り、身ごもった恋人を捨てた非道な男と
して罪はフェイスのボーイフレンドに被せられた。
 過去の経緯からなかなか警察に相談できないままでいるメンバーへと魔の手は伸び
ていく。最もフェイスと親しかったにも関わらず、彼女の死の真実を言うことのでき
なかった過去を悔いつつローレルは犯人を見つけ出そうとする。だが、また旧友が殺
された。
 ありふれた設定のスリラーなのだが、筆者の力量ゆえか実に怖い。アンジーが殺さ
れる場面で、殺人犯が女性だと分かっているにも関わらず、次から次へとあやしい人
物が出てきて読者を迷わせる。最後の最後まで緊張感を持続させるのがうまい作家で
ある。またウェストバージニアの冬の町の様子もとてもきれいに描かれている。
 カーリーン・トンプスンの作品は『黒い蘭の追憶』と『殺しの歌が聞こえる』がハ
ヤカワ・ミステリより出版されている。どちらもこの作品と同じく女性を主人公とし
ており、またきめ細やかな描写が共通する特徴となっている。見えない敵に追いつめ
られ、恐怖におののきつつ勇敢に戦う女性が主役という点が似ているためか、しばし
ばメアリ・ヒギンズ・クラークと比較されるカーリーン・トンプスンだが、ヒギンズ
が富裕で華やかな世界の人々を登場人物にすることが多いのに比べ、トンプスンはあ
くまでどこにでもいる人物を使いつつ、強烈なスリラーを描き出している。
                                (柳田有里)
▽著者の作品データ
http://www.fantasticfiction.co.uk/authors/Carlene_Thompson.htm
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"CASE HISTORIES" by Kate Atkinson
 Black Swan/2005.06.01/ISBN: 0552772437

《ケンブリッジの町で、すれ違い、つながる、過去と人間たち》

 事件はすべてケンブリッジで起きた。1970年、ランド家の四姉妹の末っ子オリビア
3歳は、就寝中に何者かに連れさらわれて行方不明になった。1979年、フレッチャー
は、結婚生活と育児に疲れた、まだ10代の妻ミシェルに斧で頭を叩き割られた。1994
年、弁護士ワイアの娘ローラは、父親の事務所で見知らぬ訪問者によってナイフで殺
害された。あとに残された家族の反応はさまざまだった。まるで事件がなかったのか
のように振る舞い、過去を封印しているものもいれば、ときが止まったかのように事
件に囚われて、前に進めずにいるもの、名前を変えてまったく新しい人生をはじめる
ものもいた。そして2004年、関係者たちがそれぞれ、私立探偵ジャクソンのもとを訪
れる。事件の真相を明らかにしてほしい、行方のわからなくなった家族を捜しだして
ほしいと。
 依頼人たちと同じように、ジャクソンも犯罪で姉を失い、また現在、離婚した妻と
のあいだで娘の養育についてもめていた。犯罪被害者の少女たちと、自分の姉、娘の
姿を重ね合わせながら、ジャクソンは事件をあらいなおす。
 物語は、過去の事件と現在のジャクソンの調査を、章ごとに視点を変えながら進ん
でいく。ケンブリッジの町の様子をふんだんに紹介しつつ、事件によって平凡な家庭
生活が破壊されてばらばらになってしまった家族、自らも心に傷を抱えながら依頼人
たちと接するジャクソンなど、弱さと愚かさをもつ人間たちを、シニカルな笑いを誘
うようなエピソードを交えて描く。
 ケンブリッジの町で、探偵、被害者の家族たち、事件の関係者が、微妙にすれ違い、
偶然出会い、つながっていく。そのことで、警察の過去の捜査ではわからなかった事
実が少しずつ明らかになり、意外な、悲しい真相が見えてくる。そして事件の真相が
明らかになってはじめて、事件のあと、それぞれの家族のしめした反応にも説明がつ
く。派手なアクションや華麗な謎解きはない。だが、犯罪のあとに残されたものの、
さまざまな思いが伝わってくる佳作だ。
 本作は、2004年ウィットブレッド賞候補作品、2005年オレンジ小説賞候補作品にも
選ばれている。
                                (清野 泉)
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 ■お気に入り見つけた! 〜10月のミステリから〜

 今月は日本での紹介が数年ぶりとなるシリーズを2冊紹介したい。偶然ではあるが、
2作品とも物語の主となる舞台がアメリカ国外で、どちらの主人公たちもおしどり夫
婦としても知られている。

 フェイ・ケラーマンの『逃れの町』は、日本では4年ぶりの紹介となる、ロサンゼ
ルス市警の殺人課刑事ピーター・デッカーと、敬虔なユダヤ教徒である妻のリナが活
躍するシリーズの7作目だ。本作品がアメリカで発売されたのは1994年で、シリーズ
はこれまでに15作が発表されている。
 弟夫婦とその息子2人が行方不明になったと、あるユダヤ人女性が警察に届け出た。
最初は女性の思い過ごしと考えられていたが、夫婦の他殺体が見つかったことで、殺
人事件としての捜査がはじまり、行方が分からないままの息子たちの捜索も行われる。
捜査をすすめるうちに、事件の鍵がイスラエルにあり、息子たちもそこにいるのでは
ないかと考えたデッカーは、リナを通訳兼案内人としてイスラエルへ向かう。
 殺人事件と同時進行で、リナの旧友とその子供たちが失踪するという事件も起こり、
旧友たちが暮らしていた、戒律を厳しく守るユダヤ人の村の様子などが描かれる。そ
の他にも、さまざまな形でユダヤの慣習やしきたりなどが出てくるのがこのシリーズ
の特徴で、日本ではあまり知られていないユダヤ人の暮らしの一端がうかがえる。
 そして今回の舞台となるイスラエルは、民族の対立という以外、やはり日本人にと
ってなじみが薄い場所だが、そこで暮らす普通の人々や、町の様子がいきいきと愛情
を込めて描かれているので、親近感がわいてくる。またリサがひとりでエルサレム周
辺を車で走る場面では、聖地としてのエルサレムの姿も伝わってくる。とくにヘブロ
ンにあるマクベラの洞窟のシーンは印象的だ。洞窟には、創世記の最初に登場する4
組の夫婦が埋葬されているということだが、リナがその中で祈りを捧げる場面は厳粛
で胸を打つものがあった。もしかしてこのシーンを書きたくて、ケラーマンはこの作
品を書いたのではないか、そんな思いがふと頭をよぎった。

 アーロン・エルキンズの『骨の島』は、スケルトン探偵こと人類学者のギデオン・
オリヴァー教授シリーズの11作目。本国アメリカでも10作目の『洞窟の骨』から3年
の間をおいて発表されたが、日本ではもう少し時間がかかって、5年ぶりの紹介とな
る。シリーズの基本的な構成は、ギデオンが旅先で人骨がらみの事件に遭遇し、地元
警察と協力して事件を解決するというもので、今回の舞台は北イタリアのマッジョー
レ湖畔にある高級リゾート地、ストレーザだ。
 地元の建設会社のオーナーであり名士でもある、旧伯爵家の一人息子が誘拐され、
それに続いて、会社が開発を進めていた造成地から白骨化した死体が見つかった。ち
ょうどその頃ギデオンは妻のジュリーとともに、友人で伯爵家の親戚筋にあたるフィ
ルが企画した、ストレーザに滞在するツアーに参加していた。なりゆきからギデオン
が骨を調べた結果、白骨は10年ほど前に湖で溺れ死んだとされる前当主ドメニコのも
ので、しかも殺されていたことが分かる。現在の誘拐事件と過去の殺人事件の捜査が
すすむにつれて、一族の過去と隠された秘密が明らかになっていく。
 シリーズのおもしろさは、骨からその人物の性別や年齢、身長などさまざまな情報
をギデオンが引き出していき、事件や謎を解決する糸口をつくっていくところだ。今
回もギデオンの手腕が、いかんなく発揮されている。そしてもうひとつ、事件とは関
係ない場面にも楽しみがある。ギデオンが行く先々で、その土地ならではの名物料理
を味わうシーンだ。今回はヘミングウェイやクラーク・ゲーブルが泊まったホテルで、
車エビやオリーブを詰めた地元の魚の蒸し物をメインにしたコース料理を食べ、他に
もミラノ風カツレツやリゾットなどにも舌鼓を打っている。家にいながらミステリと
旅気分があじわえる、1冊で2つの楽しみがあるトラベル・ミステリだ。
                              (かげやまみほ)

『逃れの町』 "SANCTUARY"
 フェイ・ケラーマン/高橋恭美子訳
 創元推理文庫/2005.9.30発行 1300円(税別)
 ISBN: 4488282105
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『骨の島』 "GOOD BLOOD"
 アーロン・エルキンズ/青木久恵訳
 ハヤカワ・ミステリ文庫/2005.10.31発行 800円(税別)
 ISBN: 4151751041
◇bk1へ

 ■速報 ―― CWA賞受賞作発表

 英国推理作家協会(CWA)が主催する、CWA賞の受賞作が発表された。

●最優秀長篇小説賞
 ▼ゴールド・ダガー
  "SILENCE OF THE GRAVE"            Arnaldur Indridason 
 
 ▼シルバー・ダガー(次点)
  "DEADLY WEB"                 Barbara Nadel

●ジョン・クリーシー賞(最優秀処女長篇賞)
 "RUNNING HOT"                 Dreda Say Mitchell

●ショート・ストーリー・ダガー(最優秀短編小説賞)
 "No Flies on Frank"      Danuta Reah (Sherlock Magazine)

●イアン・フレミング・スティール・ダガー(スパイ、冒険、スリラー部門)
 "BRANDENBURG"                ヘンリー・ポーター

 その他の賞および詳細については、英国推理作家協会の公式サイトをご覧いただき
たい。
 http://www.thecwa.co.uk/

 なお来月号の特集では、ジョン・クリーシー賞受賞作とノミネート作品のレビュー
をお届けする。
                              (かげやまみほ)
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■編集後記■
〈お気に入り見つけた〉でご紹介した作品のほかに、12月には2年ぶりにキャロル・
オコンネルのマロニー・シリーズが出版されます。これから年末に向けて、読みたい
本が目白押しです。
 2001年9月からはじまった本メルマガも、今月で50号となりました。これからもお
もしろい海外ミステリを読者のみなさまにお届けできるよう、編集部一同がんばって
いきたいと思います。                         (清)


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