日増しに秋らしくなってきたが、読書の秋、みなさんはどの本を手にとるか、もう
決めておられるだろうか。『海外ミステリ通信』は、秋の夜長のお供にコージーミス
テリをお薦めする。先月刊行された『お茶と探偵1 ダージリンは死を招く』を中心
に、ほかに未訳コージーミステリを3シリーズご紹介しよう。
----------------------------------------------------------------------------
『お茶と探偵1 ダージリンは死を招く』 "DEATH BY DARJEELING"
ローラ・チャイルズ/東野さやか訳
ランダムハウス講談社文庫/2005.09.13発行 780円(税別)
ISBN: 4270100079
《お茶とお菓子とミステリと――とびきりコージーなミステリ》
イギリス植民地の雰囲気を色濃く残す街チャールストン。その中でも歴史を感じさ
せる地区の一画にあるインディゴ・ティーショップ。「ここにいれば元気になれる」
そんなこだわりのティーショップで、経営者セオドシアとアメリカ屈指の茶葉鑑定人
ドレイトン、菓子職人ヘイリーがきょうもおいしいお茶とお菓子で迎えてくれる。
年に一度、由緒ある邸宅が公開される〈ランプライター・ツアー〉の夜、セオたち
は自慢のお茶とお菓子で客をもてなしていた。ツアーが成功裏に終わるかと思われた
とき、男がダージリンの入ったティーカップを手にしたまま死んでいるのが発見され
た。第一発見者はヘイリーの友人で、その夜、セオたちの手伝いをしていたベサミー。
疑いをかけられたべサミーを救うため、セオは真相解明に乗り出す。
ヒロイン、セオは落ち着いた物腰ながら真っ赤なジープで駆け回るパワフルな30代。
凛とした強さと優しさを併せ持つセオのもとに、きょうもたくさんの人がやってくる。
30代のセオ、60代のドレイトン、20代のヘイリーという世代の違う3人が包み込む
ような雰囲気を醸し出す。ブティック経営者でゴシップ好きなデレイン、強面なのに
甘党の刑事ティドウェル、法廷でのスーツ姿も素敵だけどエプロン姿もきまっている
若き弁護士ジョリーなど、一癖あるけどどこか憎めない常連さんたちの「これから」
も気になるところだ。
セオドシアとともに暮らすのはラブラドールとダルメシアンのミックス犬、その名
もアール・グレイ。セオに拾われた犬だが、ただの犬ではなく、セオとともに高齢者
・児童施設や病院を訪問する公認セラピー犬である。頼りになる相棒アール・グレイ
の活躍に注目されたい。
本書はローラ・チャイルズ「お茶と探偵」シリーズ第1作で、第2作も2006年3月
出版予定。原書は第6作まで出されており、第7作が2006年に刊行される予定である。
お茶とお菓子の香りが漂う中でテンポのいいミステリを楽しみながら一息に読み終
わると、ほわっとした温かさに包まれる。秋の夜長、お気に入りのお茶をおともに、
とびきり心地よいミステリをお楽しみいただきたい。
1."DEATH BY DARJEELING" (2001) Laura Childs/Berkley Prime Crime ISBN:
0425179451 上記参照。
2."GUNPOWDER GREEN" (2002) Laura Childs/Berkley Prime Crime ISBN:
0425184056
ヨットレースでにぎわう初夏の海岸に銃声が響き、新婚の妻の目前で年の離れた夫
が倒れた。凶器は南北戦争当時使われていた銃だった。
3."SHADES OF EARL GREY" (2003) Laura Childs/Berkley Prime Crime ISBN:
0425188213
華やかな婚約パーティもたけなわとなったそのとき、花婿となるべき若者が死に、
由緒ある指輪が消えた。泥棒か、それとも?
4."THE ENGLISH BREAKFAST MURDER" (2003) Laura Childs/Berkley Prime Crime
ISBN: 042519129X
暗い海に浮かんでいたのは骨董品店店主フィスクの死体だった。南北戦争フリーク
のフィスクに何が起こったのか?
5."THE JASMINE MOON MURDER" (2004) Laura Childs/Berkley Prime Crime ISBN:
042519986X
月夜のジャスミン墓地でジョリーのおじが急死した。足元には注射器が――。そし
て、魔の手はセオに迫る!
6."CHAMOMILE MOURNING" (2005) Laura Childs/Berkley Prime Crime ISBN:
0425202518
ヘリテッジ協会でのティー・パーティーの最中、競売商がバルコニーから転落した。
その直前、彼にお茶を手渡したのはセオだった。
7."BLOOD ORANGE BREWING" 2006年刊行予定。
(中島由美)
▽著者のサイトはこちら
http://www.laurachilds.com/
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ
◇bk1へ
----------------------------------------------------------------------------
"ON WHAT GROUNDS" by Cleo Coyle
Berkley Prime Crime/2003.09/ISBN: 042519213X
《香り立つコーヒーのアロマが読者を魅了する》
離婚後ひとりで子供を育てるため、ニュージャージーに引っ込んでいたクレア。10
年が経ち、娘が調理師専門学校に通うためにマンハッタンに引っ越したこともあり、
かつての雇い主の申し出を受け入れることにした。ウェストヴィレッジにあるコーヒ
ーハウス〈ヴィレッジ・ブレンド〉――著名な作家や芸術家たちが通っていたことで
も有名な歴史のある店――でふたたび雇われ店長をすることにしたのだ。
ある朝、クレアが店に着くと、開店の準備をしているはずの副店長アナベルの姿が
なかった。クレアは、地下の物置へと続く階段の下にアナベルが倒れているのを見つ
け、慌てて救急車を呼んだ。だが、なぜか警察までやってきて、クレアはクイン刑事
の事情聴取を受けることに。最初は事故だと思っていたクレアも、次第に、アナベル
はだれかに突き飛ばされたのではないかと思い始めた。証拠がない限り動けない警察
に代わって、彼女は自ら犯人探しに乗り出した。
舞台が由緒あるコーヒー専門店だけに、コーヒーの種類から入れ方までかなりの薀
蓄が盛り込まれている。とはいえ、堅苦しさはまったくなく、むしろ、ギリシャのコ
ーヒーなど普段目にする機会のない珍しいものも登場して大いに楽しめる。頻繁に出
てくるおいしそうなコーヒーの描写では、香りまで漂ってきそうで、この本を読むと
きは片手にコーヒーを持っていないと、コーヒー好きは禁断症状を起こしかねない。
また、登場人物のキャラクターも面白い。クレアの元義理の母でもある雇い主のマ
ダムは裕福な夫を最近亡くしたばかりの未亡人で、有り余るほどの存在感を持ってい
る。豆の買い付けをしている元夫のマットは、世界中を飛び回っているため根無し草
的な雰囲気を持つ、ハンサムなイタリア系男性。娘のボーイフレンドに敵対心を燃や
し、クレアにはクイン刑事を近づけさせないようにするなど、三枚目的な面ものぞか
せる。マダムは、クレアとマットを元鞘に納めさせようとたびたび策略をめぐらし、
マットもその気があるようだが、シリーズ2作目以降、さてどうなっていくのか……。
読者は、このアンティークなコーヒーショップを訪れてクレアのコーヒーを飲んで
みたいと切望することだろう。だがそれは無理なので、代わりに巻末にある〈ヴィレ
ッジ・ブレンド〉のコーヒーとケーキのレシピを実行して訪れた気分に浸るしかない。
1."ON WHAT GROUNDS" (2003) Cleo Coyle/Berkley Prime Crime ISBN: 042519213X
2."THROUGH THE GRINDER"(2004) Cleo Coyle/Berkley Prime Crime ISBN: 042519714X
店の女性客が自殺した。それが2人、3人と続き、クイン刑事は殺人を疑い始める。
その第一容疑者は、あろうことかクレアが最近出会って好意を寄せていた男性だった。
3."LATTE TROUBLE"(2005) Cleo Coyle/Berkley Prime Crime ISBN: 0425204456
様々な業界のVIPが訪れる〈ヴィレッジ・ブレンド〉。だが、ファッション業界
の大立者が飲んだラッテには毒が入っていた……。店を守るためクレアが立ち上がる!
(矢野真弓)
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ
----------------------------------------------------------------------------
"VEILED THREATS" by Deborah Donnelly
A Dell Book/2002.01/ISBN: 0440237033
《あまい、あまい、ウエディングの結末は、ちょっぴりほろ苦い》
永久の愛を誓うふたりにとって結婚式とは一世一代の晴れ舞台であり、登山が趣味
なので日の出の山頂で式をあげたいというカップルもいれば、スタートレック風の式
にしたいというカップルもいる。そんなふたりの希望をかなえ、式場・スタッフの手
配に料理・衣装・花の準備、そしてさまざまな打ち合わせから、式前に神経質になっ
ている花嫁のカウンセリングまでいっさいを引き受けるのが、ウエディングプランナ
ー、カーネギー・キンケイドの仕事だ。
カーネギーにとって、大富豪の娘ニッキー・パリーの結婚式はいままで扱ったこと
がないほど規模が大きく、この式を成功させればビジネスチャンスがひろがるはずと
はりきっていた。ところが式を目前に控えていろいろなトラブルが発生する。ニッキ
ーの車に細工がされて乗っていた友人が事故死し、ニッキーの父親に脅迫状が送りつ
けられ、ニッキーのペットのドーベルマンが自宅の庭で惨殺される。好奇心旺盛で、
何事にも首をつっこみたがる性格のカーネギーは、ナンシー・ドルー気取りで頼まれ
もしないのに、素人探偵となってパリー家の関係者の調査をはじめる。ところが費用
の不正請求を理由に仕事を解約されて、あげくにニッキーが式の当日に誘拐されてし
まった。パリー家に嫌がらせをしている犯人は誰なのか、そしてニッキーの結婚式は
無事とり行われるのだろうか。
絶対に予定どおりにことがすすまず、なにかしらハプニングが起きてしまう結婚式
同様、カーネギーのまわりでも事件やトラブルが絶えない。しかし持ち前のバイタリ
ティと頭のよさ、それにユーモアのセンスで、彼女は難局を切り抜ける。ストーリー
は展開が早くテンポよくすすみ、読者を飽きさせない。
そして他人のお世話ばかりでさみしい私生活を過ごしていて、独身、恋人なしのカ
ーネギーが、パリー家のハンサムな顧問弁護士に一目惚れしたり、会えばけんかばか
りだったむさくるしいチビの新聞記者に突然言い寄られたりするのも、その後の展開
が楽しみなところだ。
事件の真相はちょっぴりほろ苦いが、最後の最後にはハッピーエンドが待っている。
1."VEILED THREATS" (2002) Deborah Donnelly/A Dell Book ISBN:0440237033
2."DIED TO MATCH" (2002) Deborah Donnelly/A Dell Book ISBN:0440237041
カーネギーは、IT長者の新郎と編集者の新婦のためにロックンロールスタイルの
結婚式を計画することになった。ハロウィンパーティで婚約を発表することにしたが。
3."MAY THE BEST MAN DIE" (2003) Deborah Donnelly/A Dell Book ISBN:
0440241294
BFがいかがわしい独身男性パーティに出席するというので、カーネギーが双眼鏡
でその様子をのぞき見していると事件が発生する。
4."DEATH TAKES A HONEYMOON" (2005) Deborah Donnelly/A Dell Book ISBN:
0440241308
旧友の結婚式を計画することになったカーネギーは、いつになくプレッシャーを感
じていた。
(清野 泉)
▽著者のサイトはこちら
http://www.deborahdonnelly.org/
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ
----------------------------------------------------------------------------
"MUM'S THE WORD" by Kate Collins
Signet/2004.11/ISBN: 0451213505
《コージー版ステファニー・プラム? アビー・ナイト登場!》
山椒は小粒でもぴりりと辛い――これは本書の主人公アビーのためにあるような言
葉だ。赤毛で小柄のアビー。だが、彼女は並外れて強い正義感の持ち主なのだ。
ロースクールを中退し、フィアンセに婚約を破棄されたアビーは、ひょんなことか
ら花屋の経営者となった。意気揚々と愛車のコルベットで出勤したが、路地から飛び
出してきた男に車を当て逃げされてしまった。後になって、ちょうどその時間、近所
で殺人事件があったと知り、おせっかいプラス好奇心の強い性格から、アビーは警察
に目撃情報を話すと同時に事件について探りを入れずにはいられなかった。
一方で、店のスタッフで親友のロティーに、いとこのパールが夫から精神的虐待を
受けているので相談にのってやってほしいと頼まれた(ロースクールに通っていたと
いう理由でアビーはいつもみんなからアドバイスを求められるのだ!)。ところが、
先日の殺人事件の被害者である少年がパールの夫の会社で働いていたことがわかり、
アビーが自主的に取り組む2つの案件が微妙にからまり始める。
アビーが事件の関係者をあちこちつつくたびに、次から次に災難が降りかかり、そ
れを隣の店のセクシーなオーナー、マルコ(私立探偵でもある)とともに推理し、と
きには証拠を手に入れるために屋敷に忍び込んだりする。そのスピード感とロマンス
的タッチは、イヴァノヴィッチのステファニー・シリーズを彷彿とさせる。著者が以
前はロマンス小説を書いていたというところまで似ている。ただ、派手な爆発騒ぎは
出てこないし、主人公が3人の同性の親友に囲まれてほんわかしている点は大きな違
いと言えるだろう。また、度重なる汚職警官からの嫌がらせや行政上層部からの圧力
にもめげず、被害者の遺族のため、気の毒な女性のため、と頑張る主人公の姿は、ス
テファニーとはちょっと毛色が違うかもしれない。
ところで、アビーは元警官の父親の血を受け継いだのか、素人ながら聞き込みの腕
はかなりいいが、忍び込み捜査となるとやはり経験不足。何度も危険な目にあい、そ
のたびに何となく難を逃れ、ここ一番では頼りになる男性に救われる……それはちょ
っとできすぎなんじゃない、と突っ込みを入れたくなるが、しかし、それこそコージ
ー・ミステリの特権ではないか? 本書はコージー好きの筆者のツボにはまった1冊
だった。
1."MUM'S THE WORD" (2004) Kate Collins/Signet ISBN: 0451213505
2."SLAY IT WITH FLOWERS" (2005) Kate Collins/Signet ISBN: 0451214552
アビーはいとこの結婚式の花の飾り付けを頼まれた。だが、式を前に花婿の付添い
人の1人は行方不明になり、別の参加者は死体で発見される。
3."DEARLY DEPOTTED" (2005) Kate Collins/Signet ISBN: 0451215850
いとこの結婚式では花の手配だけでなく、花嫁の付添い人、花婿の90歳の祖父のお
守り役と大忙しのアビー。そんな中、見つけたのは出席者の死体だった……。
(矢野真弓)
▽著者のサイトはこちら
http://www.katecollinsbooks.com/
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ
『サルバドールの復活(上・下)』 "RESURRECTING SALVADOR"
ジェレミー・ドロンフィールド/越前敏弥訳
創元推理文庫/2005.10.14発行 各940円(税別)
ISBN: 4488235077(上)、4488235085(下)
《めくるめく幻惑と悪夢の世界が再び!》
2002年の『飛蝗の農場』で日本での衝撃的なデビューを飾ったドロンフィールドの
第2作が、いよいよ翻訳で読めることになった。今度はデヴォンの片田舎にそびえる
古城を舞台にした、ゴシックホラー風の物語だ。
ケンブリッジ大学の学生時代に共同生活を送っていたベス、オードリー、レイチェ
ル、リディアの4人は、卒業後は別々の道に進み、互いに連絡をとりあうこともなく
なっていた。そんな彼女たちが7年ぶりに再会することになったのは、大学時代に知
り合った世界的な天才ギタリスト、サルバドールと結婚したリディアの葬儀でのこと
だった。すでに亡くなっていた夫に続いて謎の多い死を遂げたという彼女に思いをは
せるベスとオードリーは、サルバドールの母親ジュヌヴィエーヴから晩餐に招かれて、
その住まいである城館へ赴くことに……。
冒頭からいきなりお得意の断片的なイメージの描写が始まり、続いて城館でくり広
げられる物語に、4人の学生時代のエピソードを含めたサルバドールとリディアの過
去の物語がはさまれていく。前作と同じく自由自在に現在と過去を行き来する手法が
使われてはいるが、コンピューターゲームのストーリー、大学の試験問題、手記、小
説、手紙などの凝った挿話は、読者を前作以上の混乱に陥れる。
城館にまつわる第二次大戦中の忌まわしい逸話や、精神を病んだあげくに幽閉され
た塔から身を投げたという若い女性の伝説。夜中に幽霊を見るなど恐ろしい思いをし
ながら、故障した車も一向に直らず、携帯電話もつながらず、不気味な館から出るこ
とができないベスとオードリー。才能あふれる最愛の息子サルバドールに執着し、彼
の魂の復活について狂気にも近い信念をもつジュヌヴィエーヴ。物語が次第におどろ
おどろしい様相を呈していくなか、ついにベスとオードリーを招いたジュヌヴィエー
ヴの真の目的が明らかになる。さらに、すべてが終息したかに見えたあとのラスト数
行で、読者はタイトルの本当の意味を知ることになる。
それにしても、ジュヌヴィエーヴが「信じる心は論理をも覆す」と言ってのけた精
霊との交感の手段については、空いた口がふさがらなかったのだが……。
(花田美也子)
◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ
◇bk1へ(上) (下)
このコーナーでこれまで紹介した作品は、コージー・ミステリやユーモア・ミステ
リが多かったので、今月は少し目先を変えてタフな男が主人公のサスペンスと、タフ
な女が主人公のクライムノベルを1冊ずつ紹介したいと思う。
『獣たちの庭園』は、リンカーン・ライム・シリーズで日本でもおなじみの、ジェフ
リー・ディーヴァーが描く初の歴史サスペンスだ。1936年のオリンピックが開催され
たベルリンで、様々な人の思いが交錯していく。
ニューヨークの殺し屋ポールは、あるアメリカの上院議員からナチス高官の暗殺を
依頼され、オリンピックを間近にひかえて賑わうベルリンへとやってきた。与えられ
た期間は3日。これまで関わった事件をすべて不問にし、なおかつ1万ドルが支払わ
れるという仕事だった。だがドイツへわたる船の中にナチスへの密告者がいたり、着
いて早々殺人事件に巻き込まれたりと、予定外の出来事が次々に起きる。またナチス
が台頭しているベルリンでは、アメリカとは勝手が違いすぎる。そしてポールの思い
とは関係なく、タイムリミットは刻々と迫っていた。
主人公のポール・シューマンはドイツ系アメリカ人で、慎重すぎるほど慎重な性格
と腕の確かさ、流暢にドイツ語が話せることを見込まれて、ナチスの高官の暗殺を依
頼される。物語はこのポールを中心に複数の登場人物たちの視点で、暗殺計画やナチ
ス政権内部の様子、当時のベルリンとそこで暮らす人々が描かれている。
もちろんポールが期限内に高官を暗殺できるかどうかのサスペンスが、この小説の
メインで読みどころなのだが、もうひとつ注目したいのは、オリンピック前の高揚感
などが伝わってくるベルリンの描写だ。この作品を書くにあたり、ディーヴァーは2
年間の準備を要したといい、実際に1936年のベルリンはこんな風だったかもしれない、
と思わせるだけの説得力がある。またドイツ側の登場人物たちがそれぞれに違う思想
の持ち主で、当時のドイツ人がナチス一辺倒でなかったこともうかがい知ることがで
き、歴史小説としても十分に楽しめる作品だ。
クライムノベルはあまり読まないのだが、人目をひく表紙と『男殺しのロニー』と
いう印象的なタイトル、そして作者のレイ・シャノンが、あるシェイマス賞作家の別
名義の作品だという言葉にさそわれて読んでみた。
ロニー・ディールは、やり手の女性映画プロデューサー。ある日、男に絡まれてい
た女性をバーで助けたことから、人生が変わってしまう。男は根っからの悪党ニオン。
人前で恥をかかされた借りを返すため、ロニーの家を突き止めて彼女をレイプし、今
度は金を用意しておくようにと言い残して去る。警察はたよりにならないし、このま
ま一生怯えながら暮したくないロニーは、ニオンを殺してしまおうという結論に達す
る。だがそれには助っ人が必要と、見つけだしたのは仮釈放中の男で、脚本家志望の
エリスだった。渋々承知した彼の協力を得て、ロニーはニオンとの闘いにいどむ。
表紙やタイトルから、暴力的で少し湿っぽい暗めの話という印象をうけたのだが、
読んでみると、暴力的ではあるがスピード感のある、からりとした作品だとわかった。
エリスにたたきのめされて動くのもやっとの状態なのに、彼に復讐しようともくろむ
麻薬売人の兄弟がいたり、ロニーを追い落とそうと画策する彼女の同僚などがいたり
と、漫画的な要素が多かったのもいい。レイプされお金を要求されたから殺してしま
おう、という結論に達するのに疑問もあるが、ロニーの立場に立たされたらと考える
と、やむをえないのかもしれない。クライムノベルが面白いのは、たとえそれが犯罪
であっても、読者が登場人物の行動に共感したりカタルシスを感じたりするからで、
そこに現実の世界を持ち込むのは御法度だ。
なおレイ・シャノンの本名だが、ここで明かしていいのかどうかよく分からないの
で、気になる方は本書の解説をチェックしていただきたい。
(かげやまみほ)
『獣たちの庭園』 "GARDEN OF BEASTS"
ジェフリー・ディーヴァー/土屋晃訳
文春文庫/2005.9.10発行 905円(税別)
ISBN: 4167705095
◇bk1へ
『男殺しのロニー』 "MAN EATER"
レイ・シャノン/鈴木恵訳
ヴィレッジブックス/2005.09.20発行 850円(税別)
ISBN: 4789726673
◇bk1へ
■速報 ―― CWA賞ノミネート作品およびエリス・
ピーターズ・ヒストリカル・ダガー(歴史小説部門)賞
受賞作発表 |
英国推理作家協会(CWA)が主催する、CWA賞のノミネート作品とエリス・ピ
ーターズ・ヒストリカル・ダガー(歴史小説部門)賞受賞作が発表になった。エリス
・ピーターズ・ヒストリカル・ダガー賞以外の受賞作は、現地時間11月8日にロンド
ンで行われる "DAGGER AWARDS LUNCHEON" で発表される。
主要部門のノミネート作品は以下のとおりである。
●ゴールド・ダガー(最優秀長篇小説賞)
"CALLING OUT FOR YOU" Karin Fossum
『狂気の王国』 フリードリヒ・グラウザー
"SKINNY DIP" カール・ハイアセン
"SILENCE OF THE GRAVE" Arnaldur Indridason
"DEADLY WEB" Barbara Nadel
"SEEKING WHOM HE MAY DEVOUR" フレッド・ヴァルガス
●ジョン・クリーシー賞(最優秀処女長篇賞)
"THE GREAT STINK" Clare Clark
"BLOODY HARVESTS" Richard Kunzmann
"GRIP" David McKeowen
"RUNNING HOT" Dreda Say Mitchell
●ショート・ストーリー・ダガー(最優秀短編小説賞)
"Miss Froom, Vampire" ジョン・コナリー (NOCTURNES)
"Test Drive" マーティン・エドワーズ (CRIME ON THE MOVE)
"Top Deck" Kate Ellis (CRIME ON THE MOVE)
"No Flies on Frank" Danuta Reah (Sherlock Magazine)
"The Wrong Hands" ピーター・ロビンスン
(NOT SAFE AFTER DARK AND OTHER WORKS)
●イアン・フレミング・スティール・ダガー(スパイ、冒険、スリラー部門)
"A BLIND EYE" G・M・フォード
"A GOOD DAY TO DIE" サイモン・カーニック
"THE APOTHECARY'S HOUSE" エイドリアン・マシューズ
"LABYRINTH" Kate Mosse
"BRANDENBURG" ヘンリー・ポーター
"DOUBLE CROSS BLIND" Joel Ross
"A DEATH IN VIENNA" ダニエル・シルヴァ
●エリス・ピーターズ・ヒストリカル・ダガー(歴史小説部門)
"DARK FIRE" C. J. Sansom
〈ノミネート作品〉
"THE GOD OF CHAOS" トム・ブラッドビー
"THE PALACE TIGER" Barbara Cleverly
"AFTER THE ARMISTICE BALL" Catriona McPherson
"THE PORTRAIT" イアン・ペアズ
"MORTAL MISCHIEF" Frank Tallis
その他の賞および詳細については、英国推理作家協会の公式サイトをご覧いただき
たい。
http://www.thecwa.co.uk/
(清野 泉)
=- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
☆★「月刊児童文学翻訳」☆★
インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報
誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。
http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm
毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -=
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■編集後記■
先月号の "EXILES ON MAIN STREET" のレビューについて、読者の方から、「登場
人物の名前が『ゾエ』となっているが『ゾーイ』の誤りではないか」とメールをいた
だきました。確認しましたところ、読み方は「ゾエ」ではなく「ゾーイ」が正しいこ
とがわかりました。お詫びして訂正します。
読者の方からメールをいただくと、編集部の励みになります。ご意見・ご感想・ご
質問などどんなことでも構いませんので、メールをいただければうれしいです。(清)