"A QUESTION OF TIME" by Helen McCloy
Dodd, Mead & Company/1971/ISBN: 039606387X
《壮麗な舞踊室が死を招く》
1960年の大晦日、イタリアから13歳の少女がボストンの名家ホランド家へとやって
きた。少女の名前はエリザベタ。現在は孤児だが、ホランド家の女主人ソフロニアの
息子がイタリアに従軍したときに当地の女性と結婚してもうけた娘だという。ソフロ
ニアはもしエリザベタが本当に孫娘なら、10年後に遺産を受け取ることができるよう
にとりはからうつもりだった。
いとこの姉弟とも友達となり、アメリカでの生活もうまくいくと思われた矢先、屋
敷の舞踏室へと足を踏みいれたエリザベタは恐慌状態に陥った。「私はここにきたこ
とがある」と大声で叫び、周囲はあっけに取られた。エリザベタはこれまでアメリカ
に来たこともなければ、この家に足を踏み入れたこともない。イタリア系の精神科医
アルフレッド・ネローニがなんとかしてエリザベタを落ち着かせる。その直後母方の
祖父がイタリアの貴族だと判明し、エリザベタは再びイタリアへとつれ戻されること
となった。
10年の月日が経った。再びエリザベタがイタリアからやってくる。エリザベタはか
つての恐怖をまるで忘れ去っているように、舞踏室に入ることをすんなりと承知する。
しかしほかの客の悪戯によって舞踏室に閉じ込められたとき異変は起こった。再びエ
リザベタは錯乱し叫び出す。壁に飾ってある絵が落下して当たり、彼女は生命を失っ
た。絵を吊ってあったワイヤーには切れ目が入れてあり、殺人だと分かった。ネロー
ニは殺人事件を解決するために調査に乗り出す。
ヘレン・マクロイの文学や芸術、そして心理学への深い造詣が感じられる作品。壮
麗な舞踊室にひどく怯える少女の謎めいた態度や舞踊室に飾られた不気味な絵が人の
生命を奪うなど、恐怖小説風のストーリーが詩的な文章で描かれる。残念なことにト
リックは偶然に頼りすぎていると感じられるものの、全体に漂う暗く甘美な雰囲気は
『暗い鏡の中に』、『ひとりで歩く女』といった佳作に勝るとも劣らない。本格ミス
テリよりも心理サスペンスのファンに勧めたい、神秘的なミステリ小説だ。
(柳田有里)
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今月ご紹介するのは『チョコ猫で町は大騒ぎ』と『ロデオ・ダンス・ナイト』。ど
ちらも小さなコミュニティを舞台にしているが、片や素人探偵が活躍する明るいコー
ジー・ミステリ、片や地味ながら骨太の社会派ミステリと、趣向が全く違う2冊だ。
『チョコ猫で町は大騒ぎ』は、「すべてのチョコ好きに捧げる……」ミステリ。主人
公のリーはバツイチの会計士で、財務担当兼雑用係としてチョコレートショップを営
むおばネッティのもとで働きはじめたばかり。ある日ネッティの作った特製チョコに
青酸カリが仕込まれ、それを食べた注文主が即死し、店は休業においこまれる。放っ
ておけば容疑者にされかねないお人好しのおばと大事な店を守るため、リーは独自の
調査を始める。
作品の目玉は、ネッティが作るこだわりのチョコレートだ。「ヘーゼルナッツのセ
ンターをミルクチョコレートでコーティングし、ヌガーをまぶした」トリュフや、チ
ョコレートにくぐらせてコーティングしたフルーツなど、読んでいるだけでも唾が出
てくるし、チョコレートを作るシーンではその香りが漂っているように感じる。また
章と章の間に豆知識のコラムがあるなど、チョコレート好きにはたまらない。読んで
いる間にチョコレートが食べたくなること請け合いのミステリだ。
『ロデオ・ダンス・ナイト』の舞台はテキサスの小さな町。油井予定地で、10年前に
行方不明になった女性の死体が見つかった。自分の無能さを知りながらも再選を狙う
保安官に頼まれ、元テキサス・レンジャーのジェレマイアは捜査に協力をする。次々
と明らかになっていく、町の暗い秘密。ジェレマイアが最後にたどりついた真実とは、
そしてくだした決断とは……。
この作品の読みどころは、主人公のジェレマイアと家族の絆だ。酒浸りの妻マーサ
との関係や、白血病で余命幾ばくもない娘とマーサとの長年の確執。家族がばらばら
なのはつらい。そのうちのひとりに死が迫っている時はなおさらだ。なんとかして娘
とマーサの仲が修復されることを願うジェレマイア。その願いが通じるのかどうか、
捜査の進行とともに、こちらも目が離せなかった。
なおこの作品は、2004年のMWA賞とマカヴィティ賞の処女長篇部門にノミネート
され、本メルマガ2004年4月号に詳しいレビューが掲載されている。
(かげやまみほ)
『チョコ猫で町は大騒ぎ』 "THE CHOCOLATE CAT CAPER"
ジョアンナ・カール/岩田佳代子訳
ヴィレッジブックス/2005.05.20発行 840円(税別)
ISBN: 478972557X
◇bk1へ
『ロデオ・ダンス・ナイト』 "THE NIGHT OF THE DANCE"
ジェイムズ・ハイム/真崎義博訳
ハヤカワ・ミステリ文庫/2005.05.31発行 1000円(税別)
ISBN: 4151755519
◇bk1へ
▽本メルマガ2004年MWA賞処女長篇部門ノミネート作特集で、原書レビューがお読
みいただける。
http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0404.htm#NIGHT
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■速報 ―― シェイマス賞ノミネート作品、マカヴィティ賞ノミネート作品発表 |
●シェイマス賞ノミネート作品
アメリカ私立探偵作家クラブ(PWA)の選ぶシェイマス賞の2005年ノミネート作
品が発表された。受賞作は9月2日(現地時間)、シカゴで開かれる晩餐会で発表さ
れる。各部門のノミネート作は以下のとおり。
▼最優秀長篇賞(Best P. I. Novel)
"FADE TO CLEAR" レナード・チャン
"THE WAKEUP" ロバート・フェリーニョ
"AFTER THE RAIN" チャック・ローガン
"CHOKE POINT" James Mitchell
"WHILE I DISAPPEAR" Ed Wright
▼最優秀処女長篇賞(Best First P. I. Novel)
"LITTLE GIRL LOST" Richard Aleas
"THE LAST GOODBYE" Reed Arvin
"THE DEAD" Ingrid Black
"ASPEN PULP" Patrick Hasburgh
"SOME DANGER INVOLVED" Will Thomas
▼最優秀ペイパーバック賞(Best Paperback P. I. Novel)
"CALL THE DEVIL BY HIS OLDEST NAME" サリー・ビッセル
"SHADOW OF THE DAHLIA" Jack Bludis
"LONDON BLITZ" マックス・アラン・コリンズ
"ISLAND OF BONES" P・J・パリッシュ
"FADE TO BLONDE" Max Phillips
▼最優秀短篇賞(Best P. I. Short Story)
"Hasidic Noir" パール・アブラハム
("BROOKLYN NOIR")
"Burnt Wood" Mitch Alderman (AHMM, July 2004)
"Trumpeter Swan" John F. Dobbyn
(AHMM, January/February 2004)
"Dog on Fire" Gregory S. Fallis (AHMM, May 2004)
"Tricks" スティーヴ・ホッケンスミス
(AHMM, August 2004)
詳しくは公式サイトをご覧いただきたい。
▽アメリカ私立探偵作家クラブ(PWA)公式サイト
http://hometown.aol.com/rrandisi/myhomepage/writing.html
●マカヴィティ賞ノミネート作品発表
〈ミステリー・リーダーズ・インターナショナル〉が選ぶマカヴィティ賞のノミネー
ト作品が発表になった。受賞作は9月にシカゴで開催されるバウチャーコン期間中に
発表される。
▼最優秀長篇賞(Best Mystery Novel)
『酔いどれ故郷にかえる』 ケン・ブルーウン
"COLD CASE" Robin Burcell
"DARKLY DREAMING DEXTER" Jeff Lindsay
"HIGH COUNTRY FALL" マーガレット・マロン
"CALIFORNIA GIRL" T・ジェファーソン・パーカー
"PLAYING WITH FIRE" ピーター・ロビンスン
▼最優秀処女長篇賞(Best First Mystery Novel)
"UNCOMMON GROUNDS" Sandra Balzo
"SUMMER OF THE BIG BACHI" Naomi Hirahara
『ウィスキー・サワーは殺しの香り』 J・A・コンラス
"DATING DEAD MEN" ハーレー・ジェーン・コザック
"MISDEMEANOR MAN" Dylan Schaffer
▼最優秀短篇賞(Best Mystery Short Story)
"Viscery" Sandra Balzo
(EQMM, December 2004)
"The Widow of Slane" テレンス・ファハティ
(EQMM, March/April 2004)
"The Lady's Not for Dying" Alana White
(Futures Mystery Anthology Magazine, Winter 2004)
なお、上記3部門以外のノミネートは〈ミステリー・リーダーズ・インターナショ
ナル〉の公式サイトをご覧いただきたい。
▽〈ミステリー・リーダーズ・インターナショナル〉公式サイト
http://www.mysteryreaders.org/macavity.html
(清野 泉)
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■編集後記■
〈未訳作品レビュー〉でご紹介したヘレン・マクロイは、大好きな作家のひとりです。
ここ数年、幻想的な雰囲気を持つミステリの人気が高まって翻訳もいろいろでていま
すが、マクロイ作品ももっと読んでみたいですね。
(清)