"RELATIVE DANGER" by Charles Benoit
Poisoned Pen Press/2004.02.28/ISBN: 1590580915
《平凡な生活から冒険の旅へ……その結末は?》
長年勤めていたワイナリーから解雇され暇をもてあましていたダグは、父方のおじ
ラッセルの友人エドナから手紙を受け取り、彼女に会いにカナダのトロントへ出かけ
る。ラッセルは第2次世界大戦後すぐ、珍しい赤色のダイヤモンドをカサブランカで
盗み、逃亡先のシンガポールで仲間のチャーリーに殺されたとされていた。だがチャ
ーリーは見つからず、真相もダイヤの行方も分からないまま50年が過ぎていた。エド
ナはラッセルや仲間たちと過ごした当時の話を聞かせ、ダグに風変わりな仕事を依頼
する。費用を全額負担するので、ラッセルの足跡をたどって事件の真相を解明し、チ
ャーリーの汚名をそそいでほしいというのだ。はじめはしぶっていたダグだったが、
観光をかねた危険のない情報を集めるだけの仕事ならばと、結局は引き受けることに。
だがそれは今までの生活では味わうことのなかった、冒険のはじまりだった。
エドナに会うまで、ダグはラッセルのことをほとんど知らなかった。親戚も、数年
前に死んだ父親も、ラッセルに関しては口をつぐみ、ごくたまに何かの拍子でその名
前が出るぐらいだったからだ。だが一方で謎に包まれたラッセルにたいし、ダグは好
奇心を持っていた。そんなわけで、それまで生まれ故郷のペンシルベニア州の小さな
町ポッツビルからほとんど出たことがなかったダグは、トロントからカサブランカ、
カイロ、シンガポールへと、地球をほぼ1周する旅に出発した。だが気軽な観光気分
で調査をはじめてまもなく、何者かの影が彼につきまとうようになる。どうやら失わ
れた赤いダイヤを、今でも追い求めている人間がいるようだ。ラッセルの死の真相が、
ダイヤのありかを教えてくれるのか。急激な環境の変化にとまどいながらも、ダグは
ラッセルの足跡をたどっていく。
事件に関係あるなしに関わらず、ダグの巻き込まれるトラブルがコメディタッチで
描かれているので、全体的に緊張感も緊迫感もあまりない。またステレオタイプに描
かれている登場人物も多いし、中東や東南アジアも冒険小説の舞台としては定番とも
いえる。だが読み終わってみるとそれが著者の意図だと気がつくのだ。1冊の本で、
ミステリと冒険小説が同時に楽しめる作品だ。
(かげやまみほ)
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"BAHAMARAMA" by Bob Morris
St. Martin's Minotaur/2004.10.01/ISBN: 0312328893
《軽くてトロピカルでカリビアンな世界》
アメフトの元スター選手ザックは、引退後、マイアミ沖でボート・サービスを営ん
でいたが、乗せた客がギャングの一味だったことからトラブルに巻き込まれ、無実の
罪で刑務所に入っていた。そして2年後、出所してきたザックを待ち受けていたもの
は、さらなるトラブルだった……。
釈放の日、恋人バーバラの代わりに迎えにきたのは見知らぬ男だった。ザックは男
からバーバラの手紙と彼女が待つバハマ行きの航空券を受け取り、迎えの車に乗り込
んだ。ところが、途中で置き去りにされるわ、わが家に戻ればギャングの待ち伏せを
くらうわ、の災難続き。命からがら逃げ出してやっとバハマに着いたと思えば、再会
を果たす間もなく、バーバラは彼女の元フィアンセとともに姿を消してしまった。捨
てられたと落ち込むザックだったが、元フィアンセが死体で発見され、バーバラは誘
拐されたのだということが判明する。因縁のギャングの仕業なのか、それとも……。
誘拐事件で事態は緊迫し、空気は張りつめているはずなのに、なぜかのんびりムー
ドが漂っている。なにせ、舞台はまぶしい日差しが降り注ぐバハマ諸島なのだ。青い
空に青い海、そこかしこに立つ、潮風にそよぐ椰子の木。そして、道を走るのは電動
のゴルフカートのみ! テンポがスローになるのも自然の成り行きというもの。この
独特のテンポと軽い語り口が妙に癖になる。それだけに、事件の解決シーンもありき
たりなものでは納得できないという気持ちが募っていったが、一味との対決に用いた
手段には島民の知恵が活かされていて、最後までトロピカルな雰囲気が味わえた。
登場人物にもまた味がある。あんなに魅力的な女性が恋人でいいのだろうかと不安
がる謙虚な主人公や、観光客のポーターやガイドをして小遣いを稼いでいる目端の利
く島の少年。なかでも相棒のボギーは、絶滅したといわれているタイノ族の生き残り
でありシャーマンの末裔だというから、なんともミステリアスな存在だ。
著者のボブ・モリスは、新聞のコラムニスト、雑誌の編集者、あるいはトラベルラ
イターとしてフロリダでは有名な人物。シリーズ第2作 "JAMAICA ME DEAD" は2005
年10月に出版される予定だ。ザックとカリビアンな世界にまた逢える!
(矢野真弓)
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『カジノを罠にかけろ』 "GRIFT SENSE"
ジェイムズ・スウェイン/三川基好訳
文春文庫/2005.03.10発行 771円(税別)
ISBN: 4167661942
《謎の賭博師を追え! 老齢のイカサマ・ハンター、トニー・ヴァレンタイン登場》
痛快で楽しいクライム・ノベルはないかとお探しの方に、ぜひお勧めしたいシリー
ズが登場した。フリーのイカサマ・ハンター、トニー・ヴァレンタインを主人公とす
るシリーズがそれだ。
アトランティック・シティ警察の元刑事という経歴を持つトニーは、現役時代はカ
ジノにおける不正行為、いわゆるイカサマの摘発に手腕を発揮してきた。60歳を過ぎ
て引退し、のんびり余生を過ごすつもりでフロリダに引っ越してきたものの、長年連
れ添った愛妻に先立たれたせいか、それともイカサマを見抜く才能をまわりが放って
おかなかったのか、いつしかカジノ相手のコンサルタント業に手を染めていた。そん
なトニーのもとに、ラスベガスのカジノから相談が舞い込んだ。ブラックジャックで
大儲けしている客がいるのだが、どう考えてもイカサマとしか思えない。しかし手口
がわからず、対応のしようがない。その手口を見破ってほしいと言われ、トニーは真
夏のラスベガスへ飛ぶ――。
最初は単純なイカサマ事件に見えたが、手口が明らかになるにつれ、その裏にさら
なる陰謀が隠されていると見抜くトニー。だが敵の目的はなんなのか。共犯とされた
女性ディーラーは本当にクロなのか? そもそも謎のイカサマ師の正体とは?
なんといっても主人公が渋くていい。62歳というけっして若くはない年齢だが、正
義感が強くて、一本筋がとおっていて、ひと昔前のタフな探偵を思わせるようなかっ
こよさがある。柔道の達人で、作品中でもその腕を披露してくれたかと思えば、年齢
を感じさせるどこか枯れたような描写もあったりして、そのアンバランスさがいい味
を出している。そんな彼を取り巻く脇役陣がまた、強烈なほど個性的。おふざけ広告
を考えることに情熱を燃やす隣人のメイベル、女にだらしがなく下品で横暴なカジノ
のオーナー、不気味な殺し屋リトル・ハンズ、いい年をしてまっとうな職に就かず、
父親から金をせびり取ることばかり考えている、トニーの息子のゲリー。このダメ息
子ゲリーとトニーのやりとりがまた傑作で、物語にほのぼのとした雰囲気をあたえて
いる。
本国ではすでに5作目までが刊行されているというこのシリーズ、訳者あとがきに
よれば、2作目の翻訳出版も決まっているとのこと。タフで熱くてちょっぴり枯れた
トニーにふたたび会えるときが、いまから楽しみでならない。
(山本さやか)
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『ベスト・アメリカン・ミステリ ハーレム・ノクターン』
"THE BEST AMERICAN MYSTERY STORIES 2002"
ジェイムズ・エルロイ&オットー・ペンズラー編/木村二郎・他訳
ハヤカワ・ミステリ/2005.03.15発行 1900円(税別)
ISBN: 4150017689
〈ベスト・アメリカン・ミステリ〉シリーズは、評論家のオットー・ペンズラーとゲ
ストの作家が選んだミステリを集めた短篇集で、1997年から毎年出版されている。日
本ではこれまでDHCが出していたが、2002年版からは出版社が早川書房に変わった。
マイクル・コナリーの「二塁打」や、スチュアート・M・カミンスキーの「うまくい
かない時もある」など、2002年版でもベストと呼ぶにふさわしい作品が揃っている。
(かげやまみほ)
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『夜明けのメイジー』 "MAISIE DOBBS"
ジャクリーン・ウィンスピア/長野きよみ訳
ハヤカワ・ミステリ文庫/2005.03.31発行 840円(税別)
ISBN: 4151753516
1行目を読んだだけで物語の中にすっと入り込み、時間がたつのを忘れて読みふけ
ってしまう。『夜明けのメイジー』は、そんな作品のひとつだ。主人公のメイジーを
はじめ、登場人物たちは生き生きと小説の中を動き回り、事件や時代の背景となる第
一次世界大戦は、控えめでありながらリアルに描写されている。歴史小説としても読
み応えのある、良質のミステリである。
(かげやまみほ)
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▽本メルマガ2004年9月号バウチャーコン関連新人賞ノミネート作品レビュー(パー
ト1)で、原書レビューが読める。
http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0409.htm#MAISIE
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■編集後記■
2004年MWA賞最優秀長篇部門にノミネートされた桐野夏生『OUT』は昨年PB
版もでて、また今年2月には宮部みゆき『R.P.G.』が英訳されました(宮部み
ゆき『クロスファイア』も英訳の予定があるそうです)。日本のミステリが、海外で
もどんどん紹介されていくといいですね。
(清)