■ 第35号 2004年7月号 ■
〈注目の邦訳新刊レビュー〉
  『助産婦が裁かれるとき』   
  『サンセット・ヒート』   
  『嘘はよみがえる』      
  『ワイオミングの惨劇』
  『蜘蛛の微笑』
  『千里眼を持つ男』
〈黒猫フーダの散歩道〉
   『ダ・ヴィンチ・コード』のワタクシ的影響
〈ミステリな古書店たち〉
   千日前古書センター …… 大阪・ミナミ
 
■注目の邦訳新刊レビュー

『助産婦が裁かれるとき』 "MIDWIVES"
 クリス・ボジャリアン/高山祥子訳(「高」は旧字体)
 創元推理文庫/2004.05.28発行 1000円(税別)
 ISBN: 4488248020

《助産婦は死んだ産婦の腹から赤ん坊を取りあげた――が、産婦は生きていた?》

 1981年、カナダ国境に近いヴァーモント州の小さな町。自宅の寝室で出産の時を迎
えようとしていた牧師の妻の呼吸が止まった。外は吹雪、道路は凍結し、電話も通じ
ない。介助していた無認可助産婦シビルは必死で産婦に蘇生術を施すが、息を吹き返
す気配はない。胎児だけでも助けたい一心でシビルは助産婦には禁じられている帝王
切開を行い、元気な男の子がこの世に生まれ出た。だが、シビルは殺人罪で起訴され
る。生きた産婦に麻酔もかけずに帝王切開を施し、死に至らしめたというのだ。
 出産は自然の営みであるが、ひとたび不測の事態が起これば母子ともに命を落とし
かねない。医師たちは危険性を回避するためとして病院での出産を勧める。彼らにと
って、家庭での出産を尊いとする無認可助産婦は排除すべき存在でしかない。シビル
の裁判はシビル個人のみならず、無認可助産婦に対する医療側からの攻撃であった。
 裁判の争点は「シビルがナイフを入れたときに産婦は生きていたか否か」の1点に
絞られる。シビルの助手はナイフを入れたとき、産婦の身体から血が噴き出たと証言
する。産婦の心臓はまだ動いていたのか。助産婦はいつ産婦の異変に気づき、どう対
処したのか。そもそも産婦は家庭での出産に耐えられる健康状態だったのか。それぞ
れの証人の目から見た「事実」が細やかに描き出され、積み上げられていく。シビル
を罪に問おうとする州検察官、家庭での出産をよしとしない産科医、シビルを無実と
する証拠を探して奔走する女性私立探偵、シビルに心を寄せる担当弁護士、それぞれ
の思惑が法廷で絡み合い、読者もまた、固唾をのんで裁判を見守らずにはいられなく
なる。
 物語の語り手はシビルの一人娘、コニー。思春期の少女らしい張りつめたトーンで、
コニーは母の裁判を語る。章の初めに挟み込まれたシビルの日記とあいまって、助産
婦として自宅での出産を介助することを何よりの喜びとし、誇りとしていた1人の女
性の真摯な生き方、そして、母の生き方をまっすぐに見つめる娘との温かく、確かな
絆が伝わってくる。
『助産婦が裁かれるとき』はボジャリアンの5作目の小説。〈オプラズ・ブック・ク
ラブ〉で取り上げられ、注目を浴びた作品である。出産や医療のあり方を考えさせる、
読みごたえのある佳編である。
                                (中島由美)
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『サンセット・ヒート』 "SUNSET AND SAWDUST"
 ジョー・R・ランズデール/北野寿美枝訳
 早川書房/2004.05.31 1900円(税別)
 ISBN: 4152085703

《女性が主人公のウェスタンミステリ》

 舞台はテキサス東部の製材所を中心とする小さな田舎町。大恐慌にあえぐ1930年代
は、黒人や女性への差別が色濃く残っている時代でもあった。
 その日、大嵐が町を襲っていた。なぜか、いつもにも増してひどい暴力を振るう夫
に、命の危険を感じたサンセットはとっさに夫を射殺してしまう。彼女は正当防衛を
主張した。夫は町の治安官だったので、新任者を選ぶ集会が開かれた。製材所の所有
者であるサンセットの姑は、残りの任期を彼女に務めさせるべきだとみんなを説得す
る。姑もまた夫の暴力に泣かされていたため、サンセットの立場に理解を示していた
のだ。サンセットは、娘を養っていくためにも治安官の職に就くことにした。
 嵐でばらばらになった夫の業務日誌を整理していたサンセットは、奇妙な事件に目
を留めた。それは、ある黒人の畑で、油がついた胎児の死体が甕に入って見つかった
というものだった。事件を調べ始めた矢先、同じ畑で今度は女性の死体が見つかった。
同じように油にまみれ、しかも、腹部が裂かれていたことから胎児の母親と見られた。
ところが、その死体はサンセットの夫の愛人のものだとわかり、彼女は窮地に立たさ
れる。自分の容疑をはらすべく、2人の助手と事件の調査を進めるが、それはやがて、
狡猾な者たちの黒い陰謀へとたどり着く。
 ランズデールの作品は、暴力、セックス、下品な会話、と内容が猥雑であるにもか
かわらず、読後感は不思議とさわやかだ。主人公たちのまっすぐで無欲なキャラクタ
ーがそうさせるのだろう。今回の主人公は女性。入日のような赤毛のため、サンセッ
トと呼ばれている。時代がら、女性治安官に対する反発は強かったが、彼女には堂々
と名乗る逞しさも、真摯に職務をこなそうとするひたむきさもあった。しかも、散弾
銃を持って映画館に立てこもった黒人に1人で立ち向かっていく勇気の持ち主であり、
やくざ者に見得を切るほど度胸もあり、事件の謎を解きほぐす観察眼さえ備えていた。
ラストの身の振り方といい、彼女の生き様は潔くてかっこいい。
 時には荒々しさを見せる手付かずの自然、製材所や油田などを中心とした素朴なコ
ミュニティーの様子、恐慌後の救いようのない貧困、人種差別の理不尽で残酷な実態
などが、作品を通してまざまざと伝わってくる。著者の代表作の1つである『ボトム
ズ』と時代や場所といった背景は同じなのだが、『ボトムズ』のおどろおどろしい怪
物の伝説が醸し出す、あのじっとりとした重苦しい雰囲気はなく、主人公の髪の色に
象徴されるかのような、からっとした明るさと軽妙さがある。ランズデールのまた一
味違った魅力を楽しめる作品だろう。
                                (矢野真弓)
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『嘘はよみがえる』 "BODY OF LIES"
 アイリス・ジョハンセン/北沢あかね訳
 講談社文庫/2004.06.15発行 952円(税別)
 ISBN: 4062748002

《復顔彫刻家──身元不明の遺骨と、帰宅を待ちわびる家族の橋渡し役》

 殺された娘の遺体が見つからないまま過ごした12年。それがイヴを、科学捜査の復
顔彫刻家という仕事へと駆り立てた。娘が発見されて埋葬をすませたのがつい昨年の
こと。ようやく心の平穏を取りもどしたのも束の間、フリーランスながら屈指の評判
を誇る彼女のもとに、次期大統領候補の上院議員から、ある頭蓋骨を極秘で復顔して
ほしいと怪しげな依頼が舞い込んだ。それがすべての始まりだった。
 まず娘の墓石が血の色のペンキで汚され、次いで埋葬して間もない遺骨は娘のもの
ではないと判明した。その事実を知りつつ口を閉ざしていた恋人のジョーに対する信
頼は音を立てて崩れ、イヴは現実から逃れるように得体の知れない依頼を引き受けた。
指示どおりアトランタ郊外の自宅からルイジアナ州都のバトンルージュに向かうが、
滞在先としてあてがわれた家政婦つきのコテージで今度は自分が毒殺されそうになっ
た。病院に運ばれて命はとりとめたものの、どうやら犯人と思しき家政婦も口封じの
ために殺されたと知って愕然とする。
 物語は、冒頭からイヴを絡めとろうとする不穏な影が随所に見え隠れして、読者は
固唾をのんで先行きを見守ることになる。このあとも頭蓋骨の復顔を望む者と阻む者
が、彼女をめぐってめまぐるしく暗躍し、夥しい数の犠牲者を出しながら、しだいに
背後に潜む国際的陰謀が明らかにされていく。だがどうやら敵はイヴという人間を侮
っていたようだ。復顔彫刻家という、事件の犠牲者の頭蓋骨と日々対話を重ねる人間
にとって、また娘の無言の帰宅をひたすら待ち続けた母にとって、「死」ほど忌まわ
しいものはないのだから。イヴは巨大組織の餌食になる前に反撃に転じることで、さ
らなる犠牲者を食い止めようとする。
 それをサポートするのが、『見えない絆』(北沢あかね訳/講談社文庫)にも登場
するショーン・ガレンだ。ジョーがせめて自分の身代わりにと送り込んだこのボディ
ガードは、特殊部隊並みの能力にウィットとユーモアを合わせ持ったイヴの援護者で、
主役を張れる存在感を持ちながらあくまで脇役に徹し、さりげなくイヴとジョーの仲
をとりもつなど、何ともにくい役まわりだ。またイヴとジョーの養女であるジェーン
は、若干12歳にして、大人顔負けの冷徹な判断力でイヴの反撃を後押しする実にたの
もしい存在だ。
 身元不明の頭蓋骨が1つ、それがどこまでスケールの大きな物語に発展するか、ア
イリス・ジョハンセンの大胆かつ大がかりな趣向をぜひお楽しみいただきたい。
                                (崎浜祐子)
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『ワイオミングの惨劇』 "INCIDENT AT TWENTY-MILE"
 トレヴェニアン/雨沢泰訳
 新潮文庫/2004.06.01発行 819円(税別)
 ISBN: 4102139214

《“二十マイル”がゴーストタウンになった理由》

 デスティニーという町とおどろき銀山を結ぶ鉄道の中ほどにある小さな町“二十マ
イル”。銀鉱ブームのさなか突然出来上がった町だが、今ではわずか15人の住人が残
るのみ。毎週土曜日に山から下りてきては、どんちゃん騒ぎで稼ぎを使い果たしてい
く鉱夫たちのおかげでなんとか成り立っているような町である。名ばかりのホテル、
売春宿、理髪屋、よろずや、貸し馬屋があるだけだ。
 その町に古い銃を抱えた若者がふらりとやってきた。名はマシュー。ネブラスカか
ら歩いてやってきたという彼には何か事情がある様子ではあるが、空き家となってい
た保安官事務所に寝泊りするようになり、はんぱ仕事を引き受けながら、この町での
暮らしにもだんだんなじんでいく。マシューを加えた町のバランスが新しく出来上が
りつつあるところへ現れたのが、州立刑務所から脱獄してきたリーダーという名の凶
悪犯をはじめとする3人組。人々を暴力によって自分たちの思うがままに支配しよう
とする脱獄犯たち。町は恐怖で覆われる。土曜日に鉱夫を山から下ろし、日曜日には
鉱夫を山に連れ戻す列車のみが“二十マイル”と世間をつなぐもの。ほかの来訪者は
普段ならめったに来ないのだ。土日以外はこの町はまさに陸の孤島。そんな閉ざされ
た環境の中(帯には隔絶空間とある)で、物語はマシューとリーダーを軸に描かれて
いく。
 あとがきによると、この作品はトレヴェニアンが15年の沈黙を破り発表したもので、
日本で彼の新作が読めるのは実に18年ぶりのことだという。ご存知の方も多いと思う
が、トレヴェニアンの作品は今までに『アイガー・サンクション』、『夢果つる街』
などが訳出されている。恥ずかしながらトレヴェニアンの作品は今までに読んだこと
がなく、今回の『ワイオミングの惨劇』がわたしにとっての初トレヴェニアン体験だ
った。特定のせりふが心に残ったとか、ある場面が印象に残ったとか、そういう断片
的なものではなく“二十マイル”が頭の中に突然出現してしまったかのような、その
なんともいえない読後感に、作品ごとにまったく作風の違うという彼の作品を手にと
って、翻訳者言うところの〈トレヴェニアネスク〉な雰囲気をじっくり味わいたい気
持ちになった。
                               (佐藤枝美子)
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『蜘蛛の微笑』 "MYGALE"
 ティエリー・ジョンケ/平岡敦訳
 ハヤカワ・ミステリ文庫/2004.06.15発行 560円(税別)
 ISBN: 4151747516

《蜘蛛の巣よりもおぞましい罠》

 若く美しいエヴは有名な形成外科医リシャールの愛人だ。壮麗な屋敷にリシャール
と運転手、そしてメイドとともに暮らしている。エヴには自由はなく、つねに3重の
鍵がつけられた部屋に閉じ込められている。部屋の中でエヴがすることといえば、ピ
アノを弾いたり、絵を描いたりすることぐらいだ。リシャールがエヴを外に連れ出す
ときは、精神病院に入院している彼の娘ヴィヴィアーヌをともに見舞うか、あるいは
変質者を相手に売春をさせるときである。どれほど挑発したとしても、リシャールは
倒錯した性行為を眺めるだけでエヴを抱こうとはしない。どれほどつらい日々でもエ
ヴはリシャールの監視から逃げることはできなかった。
 アレックスというちんぴらがいる。銀行を襲ったとき警官を射殺し、今は隠れ家で
息をひそめて暮らしている。退屈な生活の中で、アレックスは頼りがいのある悪友ヴ
ァンサンのことを思い出していた。ヴァンサンは4年前に失踪、家族が警察にも捜索
願いを出したが、行方はいっこうに分からなかった。ある日、美容整形を扱ったテレ
ビ番組を見たアレックスは顔を変え、逃亡することを思いつく。テレビに出ていた医
師リシャールを尾行した彼は、屋敷の中に閉じ込められていた女を人質にとり、隠れ
家に連れ込むと、リシャールに電話をかけて自分の要求を伝えた。
 実はヴァンサンは4年前の夜、正体不明の男によって拉致され、そのままずっと監
禁されていた。飢えと渇きによってヴァンサンに服従を覚えさせた男は、それ以上の
危害を加えようとはせず、本や映画や音楽などの娯楽が与えられた。ヴァンサンは男
に心の中で蜘蛛と仇名をつけた。蜘蛛の意図が掴めないまま、時間のみが過ぎていっ
た。
 エヴを誘拐したアレックスとリシャールが顔を合わせたとき、なんの関連もない3
つの物語の隠れたつながりが明らかになる。だが物語はそこで終わりではなく、いっ
そう緊張感を増しながらもクライマックスへと向っていく。
 いかにもフレンチ・ミステリらしい緻密な心理描写と、心地のよい裏切りに満ちた
小説である。裏表紙のあらすじや帯の紹介では性愛部分ばかりが強調されているが、
登場人物たちの秘密を知ったのちでは、ラストで示されるエヴとリシャール、2人の
お互いへの愛がなんとも言えず皮肉かつ物悲しいもののように思える。
 作者ティエリー・ジョンケは、フランスでミステリの振興と発展を目的としてつく
られた「813の会」で3度に渡って「813フランス長編賞」を受賞しており、母
国では現代を代表するミステリ作家の1人として数えられているという。これからの
翻訳が楽しみである。
                                (柳田有里)
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『千里眼を持つ男』 "THE GREAT GAME"
 マイケル・クーランド著/吉川正子訳
 講談社文庫/2004.06.15発行 952円(税別)
 ISBN: 406274788X

《モリアーティ教授の匂いのしない事件が今までありましたかね?》

 世にホームズのパロディ/パスティーシュはそれこそ星の数ほどあふれており、ホ
ームズ以外のキャラクターを主人公にしたものも多い。とはいえ本書の主人公はホー
ムズの宿敵モリアーティ教授だ。なぜホームズの敵が主人公に!と思うまもなく、物
語はロンドンを飛び出していく。
 時は19世紀末、政府要人暗殺テロが頻発する欧州。多くの英国貴族の青年が、他国
のテロ集団に潜入する素人スパイ活動に従事していた。偽名を使ってウィーンに暮ら
す、英国アルバマール公爵の次男チャールズもその1人。彼が関わる『秘密結社・自
由連合』もあまたのテロ集団同様、政府要人暗殺を企てているらしい。
 さて、打って変わって舞台はイタリア。裕福なバーネット夫妻が3か月ほどの予定
で欧州をゆっくりと旅している。バーネット氏はかつてモリアーティの助手だった。
 ホームズとモリアーティはいつになったら出てくるんだろうと思いながらも、しば
し優雅な旅に付き合っていると、物語は急転回する。2人はモリアーティを敵とみる
一味によって誘拐され、監禁されてしまうのだ。さらにチャールズも要人暗殺の濡れ
衣を着せられ、投獄されてしまった。いよいよホームズとモリアーティの出番だ。
 アルバマール公爵に息子救出を頼まれたモリアーティは「千里眼の男」という触れ
込みでウィーンに乗り込む。一方、オーストリア政府に国内テロ集団の動向を探り出
すよう依頼されたホームズも、ワトソンを伴いウィーン入りしていた。
 すべての事件の裏に、テロ集団による陰謀があると睨んだホームズとモリアーティ
は、渋々ながら手を組むことにする。そして綿密な推理によってとうとうテロ集団の
計画を見破るが、それは全欧州をも危機に陥れる恐ろしいものだった。かくてオース
トリア軍隊を指揮下に加え、2人はクライマックスに向かって突き進んでいく。
 お馴染みのキャラクターたちは期待通りのことを言い、期待通りの行動をしてくれ
る。手を組んだ2人が丁々発止とやり合う皮肉たっぷりの会話にはドイル作品のパロ
ディが満載で、思わずにやりとさせられる。が、それにも増してクーランドによる脇
役が個性たっぷりで楽しい。バーネット夫妻救出作戦であっと驚く大活躍を見せる軽
業師トリヴァー、ホームズ顔負けの観察眼を持つバーネット夫人、モリアーティを遥
かにしのぐ手腕のインチキ霊媒師マダム・マドレーヌ……。そしてモリアーティは助
手たちから敬愛され信頼される科学者(!)であり、拡大鏡を構えたホームズの推理
はますます冴え渡る――とくれば、誰がこの本を読まずにいられようか。
                                 (森まり)
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 ■黒猫フーダの散歩道
《『ダ・ヴィンチ・コード』のワタクシ的影響》

 5月末、待ちに待った本が発売された。そう、いわずと知れたダン・ブラウンの新
作、『ダ・ヴィンチ・コード』(越前敏弥訳/角川書店)である。殺害されたルーブ
ル美術館館長が残した謎のメッセージが明らかになるにつれ、キリスト教の根幹を揺
るがす隠された真実が解き明かされていくというストーリーは、前作『天使と悪魔』
(越前敏弥訳/角川書店)を凌駕するほどエキサイティングで、眠るのも忘れて読み
ふけってしまった。
 この作品、昨年3月に本国アメリカで出版されて以来、現在に至るまで《ニューヨ
ーク・タイムズ・ベストセラー・リスト》の上位にランクインしつづけ、国内の売り
上げ785万部突破という偉業を達成している。けれど、これほどまでに売れている理
由は単におもしろいからだけではないらしい。作品中に描かれているキリスト教最大
の謎のひとつ、〈聖杯伝説〉に関する記述がかなり物議を醸しているようなのだ。そ
れを裏づけるように、「『ダ・ヴィンチ・コード』に書かれていることは、どこまで
真実なのか?」みたいな関連本がぞくぞくと出版され、すでに10冊は世に出ているし、
ABCテレビで特番まで組まれた。
 そんな騒動を海のかなたから傍観しているうちに、信仰というものが持つパワーを
改めて思い知らされ、ひいてはパレスチナ問題にまで思いが至った。そして、「神さ
まかどうかはともかく、この世に人知を超えたものが存在することだけは確かかも」
程度の信仰心しか持ち合わせていないわたしは、なんだかいろいろ考えさせられた。
本来気高く、人間の魂を救うものであるはずの信仰心が、「あたしが信じてる神さま
を信じないやつは人間じゃない」という次元に至ったときの悲劇は歴史上枚挙にいと
まがない。クリスマスは教会、初詣は神社、お墓はお寺、なんてことをなんの抵抗も
なくできる日本人の宗教観は、悪く言えば無頓着だけれど、よく言えばニュートラル。
こういうおおざっぱな感覚も、けっこう捨てたものじゃないんだろうな、きっと。
 次作は、フリー・メイソンにまつわる話だとか。よりによって、またしても物議を
醸しそうなテーマを選んだものだけど、フリー・メイソンと言われても、とっさにド
ル紙幣に印刷された目玉のピラミッドしか思い浮かばないわたしは、今度は著者がど
んなことを教えてくれるのか、いまからわくわくしているのである。
                                (中西和美)
◇角川書店『ダ・ヴィンチ・コード』特設ページへ
http://www.kadokawa.co.jp/sp/200405-05/
 ■ミステリな古書店たち(1)【千日前古書センター】‥‥‥大阪・ミナミ


●入り口の100均ワゴンに注目

 ぼくは毎日、近鉄の奈良線を使って難波(なんば)経由で梅田まで通勤している。
おかげで古本屋さんに関しては、今日はどこに寄ろうか、と迷うほどの選択肢がある。
その中から、ミステリ関連の品揃えが充実していて、ぼくが日頃からチェックしてい
る古書店を何回かにわけてご紹介する。
 第1回は「千日前古書センター(古本のオギノ)」から。決して分かりやすい場所
ではないので、方向音痴の人でも分かるように道順を説明する。まず、起点は「近鉄
難波駅」の東口とする。ここから東、日本橋(にほんばし)方面に向かって歩く。そ
の際、北側通路(1番街北通り)、つまり進行方向の左側の通りを進む。歩くことお
よそ2〜3分。天井から「南OS(オー・エス)ビル」電照看板が見えたら左へ。
 このビルは5階に「千日前OSスバル座」というヌード劇場……じゃなくて映画館
がある。地下街はこのビルのB2Fにつながっていて、呼び込みの喧しさで有名なダ
イコクドラッグや1時間380円のまんが喫茶が目印。そこからエスカレーターでB1
Fへ。あがってすぐのラーメン屋さん「大洋軒」の入り口に、ほんまもんの熊の剥製
があるのでびっくりしないように。ここは最近めっきり数が少なくなった貴重なサッ
ポロラーメンの専門店でもある。そしてその横が目指す千日前古書センターだ。
 まずは店舗前の100円均一文庫のワゴンをチェックしよう。入れ替えも頻繁で海外
翻訳文庫の掘り出し物が多く、絶対に見逃せない。取材日にはC・ハイアセンの古い
ものやハヤカワのNVが目立っていた。店内は人文系を中心に古い映画・演劇・音楽
関係の雑誌バックナンバーが並び、古い映画のパンフレットなども取りそろえている。
70年代の《ミュージックライフ》など懐かしい人も多いのでは?【特集:伝説のレッ
ド・ツェッペリン2度目の来日コンサート】なんて感じで。
 ミステリ関連では海外翻訳文庫が新旧取り混ぜて500冊ほど。値段は250〜400円く
らいだが、回転がいいので棚の表情はよく変わる。特筆すべきは早川書房のポケット
ミステリが120冊ばかりあることか。隅っこの最下段の薄暗いところにあるのでよく
探してね。ギャビン・ライアルの『拳銃を持つヴィーナス』や『もっとも危険なゲー
ム』などが4〜500円程度。ポケミスで揃えたい作品がある人はぜひ一度のぞいてみる
といい。
 ハードカバーでは、東京創元社『コナン・ドイル』(ジュリアン・シモンズ著/深
町眞理子訳)が1000円、映画とミステリを扱ったフィルムアート社『それはホームズ
から始まった』(児玉数夫著)が1500円。あとお勧めは、版元品切れ中の三省堂『表
音小英和』が800円。修訂版が出る前の中型版という、ひと回り大きいやつだ。この
辞書、ハンディなわりには収録語数が多く、通勤時にペーパーバックを読むときに重
宝する。persiennes なんてデイリーコンサイスにもエクシードにも載っていない単
語が出てたりする。はやく行かなきゃ売れちゃうよ。
 ちなみに、この「南OSビル」のB2Fでは通路を使って定期的に古本市が開かれ
る。たいした規模ではないが、まめに通うとそれなりの収穫はある。
                * * *
《次回予告》ミステリ古書専門店の「光国家書店」を予定。ヘップナビオのちょい裏
手にある。ここはちょっと凄いよ。近くにお勧めラーメン屋もあるし。乞うご期待!
                           (レポート:板村英樹)

◆千日前古書センター:大阪市中央区難波1-3-1 南OSビルB1 06-6211-8150

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■編集後記■
 7月からNHK総合でアニメ『名探偵ポワロとマープル』がはじまりました。ポワ
ロの声が里見浩太朗というのは少々ダンディすぎるような気がしますが、山下達郎が
歌う主題歌と番組の最後に流れる「クリスティー紀行」、それとメイベルのペット、
アヒルのオリヴァーが気にいりました。今月はどのエピソードもポワロ物のようです
が、来月はミス・マープルが活躍するのでしょうか。今から楽しみです。  (か)


********************************************************************  海外ミステリ通信 第35号 2004年7月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:青縁眼鏡 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:かげやまみほ  企 画:板村英樹、片山奈緒美、唐澤涼子、清野 泉、中西和美、      花田美也子、松本依子、山田亜樹子、山本さやか  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部、みもざ翻訳館      崎浜祐子、佐藤枝美子、中島由美、三浦真司、森まり、      柳田有里、矢野真弓  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail: mwmag@litrans.net   掲示板: http://www.litrans.jp/c-board/c-board.cgi?id=15  配信申し込み・解除/バックナンバー:  http://www.litrans.net/whodunit/mag/index.htm  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2004 Whodunit Honyaku Club ********************************************************************
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