『仮面舞踏会』 "MASQUERADE"
ウォルター・サタスウェイト/大友香奈子訳
創元推理文庫/2004.03.26発行 1080円(税別)
ISBN: 4488192033
《ベルエポックのパリ、怪しい仲間とグルメの饗宴》
1923年、ピンカートン探偵社のフィル・バーモントはアメリカ人出版者フォーサイ
スの変死事件を調査するためパリを訪れる。警察の見解では拳銃による自殺、同じ部
屋にドイツ人の愛人ザビーネの死体もあり心中として処理されていたが、死因に疑問
を抱くフォーサイスの母親が調査を依頼したのだ。フィルは臨時採用のフランス人ル
ドックとコンビを組み事件にあたるが、仕事より食事が大切なルドックのおかげで調
査は遅々として進まない。調べれば調べるほど事件は複雑になり、2人はなぜか刑事
に尾行され、パリの街なかでカーアクションを展開するはめに。
一方、やはりピンカートン社に雇われるフリーの調査員ジェーンはフォーサイスの
叔父一家に家庭教師として潜入するが、世話をする幼い子供たちと共に正体不明の暴
漢に襲われたり、18歳の長男にほのかな恋心をよせられたりで、こちらもなかなか調
査が進まない。
それでも一歩ずつ真実に近づいていく2人。事件の背後にはドイツの新進政党、国
家社会党(後のナチス)の陰謀がひそんでいた。クライマックス、登場人物せいぞろ
いの仮面舞踏会が開かれる中、おもわぬ事実が明らかになる。真犯人は……。
アクションあり、陰謀あり、ロマンスありのユーモア・ミステリ。アーネスト・ヘ
ミングウェイ、ガートルード・スタイン、エリック・サティといった実在の人物が、
怪しい脇役としてフィルとジェーンの捜査にからんでくるのも楽しめる。フィルの語
りとジェーンの手紙文が交互に出てくる文体は前作『名探偵登場』に続くものだが、
これも物語にうまくアクセントをつけている。
はっきりいって謎解きの仕掛けはミステリ作品としてちょっと物足りないところも
あるが、それをおぎなって余りあるのが、パリの街そして料理の描写である。この作
品はパリのガイドブック、できれば細かい通りの名前まで載っているものを側におい
て読むことをおすすめする。今とほとんど変わらない80年前のパリが堪能できるだろ
う。さらにおなかを空かせて読むともっといい。グルメ本顔負けの料理解説、特にル
ドックのうんちくはあなたを名シェフにしてくれるかもしれない。
(三浦真司)
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『代理弁護』 "MOMENT OF TRUTH"
リザ・スコットライン/高山祥子訳
講談社文庫/2004.03.15発行 990円(税別)
ISBN: 4062739747
《優先すべきは依頼人か、それとも真実か》
スコットラインの7作目であり〈ロザート・アンド・アソシエイツ〉シリーズの3
作目。一見おとなしそうだがここぞというときに意外な強さを見せる(あとがきより)
メアリー・ディナンツィオが、このストーリーの主人公である。
メアリーと同僚のジュディが事務所で書類の整理をしていたところに、殺人の罪で
逮捕されたジャック・ニューリンという男性から電話が掛かってきた。事務所のボス
が不在のため、アソシエイトのメアリーはジュディと共にジャックのもとに接見に出
向く。
有名な弁護士事務所の共同経営者であるジャックは自ら妻殺しの罪を認め、メアリ
ーを呼ぶ前に警察にすべて自白済みであった。殺人事件の経験に乏しいため、ジュデ
ィとチームを組んで担当するというメアリーに対して、彼女1人にこの事件を担当し
てもらいたいと言い張るジャック。会話を交わすうちに、ジャックの供述に疑問を抱
き始めたメアリーは独自の調査を開始する。
物語が始まるとすぐに真犯人らしき人物が浮かび上がってくるが、ジャックが必死
になって隠そうとしている事実を、その弁護士であるメアリーが職業倫理に悩みなが
らも、結果として次から次へと暴いていく事になってしまう。あくまでも事実を追求
するのか、たとえ事実と違うと知りつつも依頼人の意思を尊重するべきなのか。悩む
メアリーが夜遅く訪れた両親の家で、父親とコーヒーを飲みながら交わす会話が心に
残る。
裏表紙にはリーガル・サスペンスと書かれてはいるが、裁判の描写が多いわけでも
ないし、難しい専門用語が飛び交うわけでもない。肩の力を抜いて読み進めることが
できるだろう。
(佐藤枝美子)
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『チャーリー退場』 "EXIT CHARLIE"
アレックス・アトキンスン/鈴木恵訳
創元推理文庫/2004.04.09発行 840円(税別)
ISBN: 4488265049
《幻の本格ミステリ、再登場》
スリラー劇『第二の警告』の幕が上がる前から、暗い影はちらついていた。
新参者の女優は無神経にも『マクベス』を引用し、仲間を不安に陥れた。シェイク
スピアのこの悲劇は、演劇関係者にとっては凶事の前兆を意味する。おまけに本番が
はじまって早々に、珍しくも主演女優は台詞をとちり、気の強い性格女優は楽屋で涙
を流すところを若い男優に見られていた。
だがまさか殺人事件が起きるとは、誰も予想していなかった。本番が終わった瞬間
に楽屋で必ずウイスキーを飲むのは、主演男優チャールズ・マニオンのよく知られた
習慣だが、そのグラスに砒素が入っていたのだ。
チャールズがアマチュアからプロの役者に転向したのは2年前で、文句のない演技
力の持ち主だったが、女たらしだった。女優からパンフレット売りにまで見境なく手
を出し、かつては彼のせいで自殺した若い女優がいたという。また謙虚さに欠けるた
め、共演する男優からは反感を買うことが多かった。
一癖も二癖もある演劇人たちに挑むのは、スコットランド・ヤードのファーニス主
任警部とアップルビー部長刑事だ。彼らの粘り強い聞き込みと綿密な調査により、た
った1日で事件は解決する。
演劇界という世界独特の空気がよく描き出されている。風変わりな俳優たちはもち
ろん、うるさ型の老いた守衛や劇団にまつわるゴシップが大好きな床屋の親父など、
ほんの脇役にいたるまで個性が輝いている。
構成はシンプルにして巧みだ。そして最後に明らかになるトリックは、本格ミステ
リ愛好家を喜ばせるだろう。登場人物への尋問がストーリーの大半をしめるなか、芝
居の上演中に行われるクライマックスの逮捕劇は、「これぞ演劇ミステリの醍醐味」
と思わせる華やかさが感じられた。
この『チャーリー退場』は、アレックス・アトキンスンの唯一の長編ミステリで、
1959年に東京創元社から叢書〈クライム・クラブ〉の第17巻として堀田善衛氏の訳で
出版されている。入手困難だったため、幻の本格ミステリとして名高かったが約45年
ぶりにこうして復刊されることとなった。
ちなみにアトキンスンには俳優にして戯曲家の側面があり、また訳者の鈴木恵氏に
も舞台監督の経験があるという、まさに演劇尽くしのミステリになっている。登場人
物紹介の欄が「配役」とされているあたりも心にくい。
(柳田有里)
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『荊(いばら)の城(上・下)』 "FINGERSMITH"
サラ・ウォーターズ/中村有希訳
創元推理文庫/2004.04.22発行 各940円(税別)
ISBN: 4488254039(上)、4488254047(下)
《2人の少女の数奇な運命が絡まり合うビクトリアン・ミステリ》
19世紀半ばのロンドン。公開処刑で名高いホースマンガー・レイン監獄を間近に見
るサザーク地区の裏通りにある袋小路、ラント街。怪しげな風体の人々が行き交う中
に錠前屋があった。裏の稼業は故買屋――盗品売買である。孤児スウことスーザン・
トリンダーは故買屋のおかみに育てられ、掏摸(すり)を生業としていた。ある日、
顔見知りの詐欺師通称〈紳士〉がうまい話を持ちかけてくる。さびれた城館に伯父と
暮らす令嬢をだまして結婚し、財産をいただこうというのだ。スウはにわか仕込みの
侍女として一役買うことになる。ブライア城(荊の城)で同い年の孤独な令嬢モード
に仕えるうちに、いつしかスウは偽りの主従関係を超えた絆を感じ始める。〈紳士〉
が企みを実行に移したとき、スウの目に映ったのは……。
昨年、ミステリ・ファンを騒然とさせた話題作『半身』に次ぐサラ・ウォーターズ
の翻訳第2作。繊細さと重厚さはそのままに、物語の楽しさを満喫させてくれる。そ
の展開の早さ、あっと驚かせる仕掛け、そして存在感あふれる人間像は19世紀イギリ
スの文豪ディケンズを彷彿とさせる。物語が始まるサザークのラント街はディケンズ
が貧しい少年時代を過ごした街であり、物語のそこここに『オリバー・ツィスト』
『大いなる遺産』などの面影がほの見える。ディケンズが女の姿で現代にあらわれた、
そんな感さえある。
『半身』と同じく舞台はビクトリア朝英国。ロンドンの暗黒街と片田舎の陰鬱な城館
を舞台に、生まれも育ちも違う2人の少女の運命が荊(いばら)の蔓のように絡まり
合い、秘密が明かされる。
がちがちのコルセットのような厳しい道徳や倫理に縛られながらも、自分らしく生
きようとする女たちの魂の熱さに打たれる。ときに激しく、ときにしたたかに、とき
に妖しく生きる女たちに、いつしか自分もその中に生きているような錯覚さえ覚えて
しまう。だましだまされ、何が真実なのかとめまいすら感じながら、終幕へと一気に
導かれていく。加えて、光るのは小道具使いの巧みさである。モードの象徴ともいえ
る白い手袋、そして2人の少女の「指」が残像のように脳裏に刻まれる。
『半身』に圧倒された方はもちろん、物語を愛するすべての皆様にお薦めしたい作品
である。CWA賞エリス・ピーターズ・ヒストリカル・ダガー/最優秀歴史ミステリ
賞受賞作品。
次に荊(いばら)の城の囚われ人になるのは、あなたかもしれない。
(中島由美)
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『さよならの接吻』 "A KISS GONE BAD"
ジェフ・アボット/吉澤康子訳
ハヤカワ・ミステリ文庫/2004.03.31発行 900円(税別)
ISBN: 4151745513
《友だちになりたいミステリ主人公ナンバーワン!》
ジェフ・アボットといえば、テキサス州の田舎町ミラボーの図書館長ジョーダン・
ポティートを主人公としたシリーズで、すでに日本でもおなじみの作家だ。前シリー
ズ休止後、5年間の沈黙ののちに世に送り出された新シリーズが本書である。
舞台はテキサス州の小さな町ポートレオ。みんなが互いに顔見知りという平和な町
では、フリーターをしていたホイット・モーズリーが父親のコネで判事になっても、
さして問題にはならなかった。おごそかな黒い法服の下にはポロシャツ、ショートパ
ンツ、サンダルという、なんともだらしないいでたち。審理の最中にアンチョコをひ
っくり返して調べては、せっかちな被告に貧乏ゆすりをされる始末。そんなホイット
も着任して半年、判事という職を自分でも意外なほど好きになり始めていた。
ある日、州上院議員の息子ピートがクルーザーの中で死んでいるのが発見される。
銃を口にくわえた状態で死んでいること、15年前に失踪した弟は自分が殺したとの遺
書が見つかったことから、警察署長を始め大方は自殺と見ていた。
ところが検屍審問のために情報を集めていくと、ピートは弟に関する記録映画を撮
るつもりでいたことが明らかになる。時を経て複雑にからみあう小さな町の人間関係。
さらに麻薬取引、マネーロンダリングなど新たな謎が次々にわいてくる。ときおり挿
入される変質的な連続殺人者“ナイフの刃”の正体は? ピートの死を自殺と判定せ
よとホイットに迫る謎の人物とは?
プロレスラー上がりの新興宗教家ジャベス、ホイットよりも若い女性を妻にしてい
る父親ベイブなど、多彩な脇役はアボットの真骨頂。事件解決後にホイットが見せる
やさしさには胸に迫るものがあり、ポティート図書館長のファンであれば必ずや、こ
の田舎町の治安判事に親しみを覚えることだろう。さらに、単純な自殺と見えたもの
が謎に次ぐ謎を生み出すストーリー展開は、謎解きを楽しみたい読者をも十分に満足
させてくれる。
このホイット・シリーズは第2作 "BLACK JACK POINT" がMWA賞、アンソニー賞、
バリー賞の候補になり、第3作 "CUT AND RUN" はMWA賞の候補になるという具合
に、作を重ねるごとに快調になっている。次に心優しき友だちに再会できるときが心
から待ち遠しい。
(森まり)
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『運び屋を追え』 "THE COURIER"
ジェイ・マクラーティ/山本光伸訳
二見文庫/2004.04.25発行 829円(税別)
ISBN: 4576040219
《インターネット時代の逃亡サスペンス》
ただ飲むだけで痩せられる――そんな夢のような薬があるなら試してみたいと思う
人は私を含め大勢いることだろう。けれど、うますぎる話にはやはり落とし穴が……。
奇跡のダイエット薬〈ミラ・ロス〉には、長期間服用すると100パーセントの確率
で肝臓障害を起こして死に至る副作用があることを、ひとりの研究員がつきとめた。
報告を受けた社長は、大事な合併前でもあり事実を隠蔽しようと考え、分析データを
研究所から本社の自分の手元へ内密に送らせることにした。
依頼を受け、荷物を取りにいった“運び屋”ボリス・レオノヴィッチ(通称サイモ
ン)は、そこで研究員から予定外のディスクを預かったことから、得体の知れない危
険な男レトナーに追われる羽目になる。レトナーは、社長と共謀している専任弁護士
が雇った“失せ物探しの専門家”で、ディスクは、社長の揉み消しを恐れた研究員が
念のためにとった分析データのコピーだった。冷酷非情なレトナーはサイモンの妹ラ
ラを誘拐し、ディスクとの交換を要求する電子メールを送りつけてきた……。サイモ
ンは、ララの命を救えるのか? ディスクにかかった3300万人のミラ・ロス利用者の
命は?
主人公サイモンは、違法でないものなら宝石からヒトの臓器までなんでも、世界中
どこへでも配達するという“運び屋”。この設定に惹かれて読み始めたが、期待を裏
切らないスリリングな展開だった。追うほうも追われるほうも、コンピュータやイン
ターネットをふんだんに活用していて、世界中どこにいても、メールやチャットなど
で瞬時に連絡や情報がとれてしまうという、まさにIT時代のスピード感が満喫でき
た。ことに、追跡者レトナーがパソコンで電話の逆探知をしたり、クレジットカード
の使用から相手の居場所をつきとめたりするあたりは、コンピュータに詳しい人なら
ちょっと背伸びをすればできるのではないかと思えて、大いにわくわくさせられた。
こんなふうに、コンピュータを駆使した物語を書ける作者とはいったいどういう経
歴の持ち主だろうと思ったら、ソフトウェア会社を経営していたということだ。なる
ほど。本作品は彼のデビュー作だが、人気を博してシリーズ化されることになった。
次回作 "BAGMAN" は8月に刊行予定とか。心清きサイモンの次の活躍が楽しみだ。
(矢野真弓)
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『三毛猫ウィンキー&ジェーン1 迷子のマーリーン』 "MISSING MARLENE"
エヴァン・マーシャル/高橋恭美子訳
ヴィレッジブックス/2004.04.20発行 840円(税別)
ISBN: 4789722430
《最後のピースがはまったのは、ウィンキーの“おいた”のおかげ》
ああケネス、こんなとき、あなたならどう対処する……? ピンチに見舞われると、
亡き夫を思って涙に暮れることもある。それでもジェーンは、9歳になるひとり息子
のニックと猫のウィンキーの保護者として、また夫と立ち上げたオフィスを切り盛り
する著作権代理人として、請求書や原稿の山に追われながら日夜奮闘していた。
そんなある日、旧友の娘でもある住み込みベビーシッターのマーリーンが、置き手
紙ひとつ残さず姿を消してしまう。マーリーンは大変な美人だがベビーシッターとし
ては最悪で、実は近々やめてもらうつもりでいた。とはいっても旧友の手前、責任を
感じて心当たりを探っていくと、たちの悪い男や大金がらみの誘惑など、芳しからぬ
風評が次々に聞こえてくる。彼女は私の知らないところで何をしていたのだろう、い
くら気に入らないとはいえ、私はあまりに彼女に無関心だった──ジェーンは何とも
後味が悪く、マーリーンの無事を確かめようと必死で行方を追う。
とまあ、こう来ると、どこかしらほのぼのとした雰囲気のままエンディングを迎え
そうだが、なかなかどうして、マーリーン失踪には意外などんでん返しとむごい結末
が待っている。だが生意気盛りのニックをはじめ、ベビーシッターの鑑のようなフロ
ーレンス、やり手だけどどこか優柔不断なアシスタントのダニエル、言いたい放題で
ジェーンを振りまわすクライアントの作家たち、町のプチホテル〈紫陽花館〉で隔週
ごとに集う編み物クラブのお仲間など、平穏な日常を彷彿とさせる脇役陣のおかげで、
やっぱりコージー。クセのある人物もちらほらと登場して、それがまた適度なスパイ
スとなっている。
本書はシリーズものだが、その原題がまたふるっている。この『迷子のマーリーン』
(原題は "MISSING MARLENE")を皮切りに、以下 "HANGING HANNAH"、"STABBING
STEPHANIE"、"ICING IVY"、"TOASTING TINA" とそれぞれ頭韻を踏みつつ、直訳すれ
ば「首つりのハンナ」だの「めった刺しのステファニー」だのと、なかなか物騒なタ
イトルが並んでいる。続刊ではジェーンにあらたな恋が生まれたり、成長したニック
と事件解決に奔走したりということなので、日本での出版が待たれるところだ。
作者のエヴァン・マーシャルは意外にも男性で、ジェーンと同じく著作権代理事務
所のオーナーであり、本シリーズ以外に "The Marshall Plan for Novel Writing"
に始まる「小説の書き方と出版」についての一連の著作があることをご紹介しておこ
う。
(崎浜祐子)
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『弁護士は奇策で勝負する』 "OPEN AND SHUT"
デイヴィッド・ローゼンフェルト/白石朗訳
文春文庫/2004.04.10発行 771円(税別)
ISBN: 4167661608
弁護士アンディ・カーペンターは、殺人罪で死刑判決を受けた男の再審請求をする
ことになった。私生活では冗談を控えるべきときについ冗談を飛ばしてしまい、法廷
では検察側の起訴事実をからかって笑いものにするのが得意なアンディ。しかし今回
の弁護は敬愛する父の頼みということもあり、被告に不利な証拠ばかりが並ぶ勝ち目
のない裁判に本腰を入れて挑む。軽妙な語り口は法廷ものの苦手な読者にもお薦め。
(花田美也子)
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▽本メルマガ2003年MWA賞処女長篇部門ノミネート作特集で、原書レビューが読め
ます。
http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0304.htm#OPEN
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『骨と歌う女』 "DEADLY DECISIONS"(DECISIONS の E にアクサン)
キャシー・ライクス/山本やよい訳
講談社文庫/2004.04.15発行 1048円(税別)
ISBN: 4062747561
ブレナンは爆発で吹き飛んだ人間ふたり分の肉と骨の断片215個を選り分けていた。
激化する暴走族の抗争で毎日のように悲惨な死体が運ばれてくる。大事な甥っ子はバ
イクに夢中で暴走族に興味をもち、伯母の忠告などはきいてくれない。モントリオー
ルを舞台に人類学の見地から捜査協力する法人類学者ブレナンを描いたシリーズ3作
目。主人公の普通のおばさんぶりと、切ない大人の恋がいい。
(唐澤涼子)
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《行ってみたいなミステリの舞台……モン・サン・ミッシェル》
ゴールデンウイークというのにどこへ行く予定もなく、今わたしはパソコンのディ
スプレイと向き合っている。どうせどこに行っても人でいっぱいだし、この期間の旅
行代金は高いからね、などとうそぶきながら。でももしどこかへ行くとしたら、いっ
たいどこに? 世界各地行きたい場所はいろいろあるが、ミステリ好きとしてはやは
りミステリの舞台になった場所がいい。
アーロン・エルキンズのギデオン・オリヴァー・シリーズ4作目『古い骨』では、
フランスのノルマンディー地方とブルターニュ地方との境目の海に浮かぶ、名勝モン
・サン・ミッシェルが印象的な舞台として登場した。
まず物語の冒頭、島を囲む干潟で貝を採集していた老収集家が、押し寄せる満潮の
波にのまれるという劇的な場面が描かれる。そして後半部分では、ギデオンと相棒の
FBI捜査官ジョン・ロウが、島で偶然会った事件関係者2人と、4人で食事をとる
食いしん坊にはたまらない場面がある。オフシーズンのために、レストラン・ホテル
〈メール・プラルド〉で、名物のオムレツを食べることはできなかった。だが別のレ
ストランで、海の幸をふんだんに使った伝統的なノルマンディー料理や、この地方特
産の、独特の旨みを持つという子羊の肉を堪能したようだ。そしてその後すぐ、物語
が展開する上で重要な場面でもある、九死に一生を得る出来事に4人は遭遇する。
708年に、夢の中で大天使ミカエルのお告げを受けた司教のオベールが、島に小さ
な聖堂を建てたのが、「聖ミカエルの山」であるモン・サン・ミッシェルの始まりと
される。その後何世紀にも渡って聖堂は増改築が繰り返され、今の荘厳な姿になった。
島の役割も最初は巡礼者が訪れる聖地、次に天然の要塞、フランス革命後には牢獄、
そして現在は年間300万人が訪れるフランス有数の観光地へと変遷した。
かつては唯一の道である砂地が干潮時に現れた時、しかもその中でもっとも足場の
安定した場所を歩いていくしか島へ渡る方法はなかったが、現在は1897年に完成した
堤防を通って、島の前まで車で行くことができる。だがこの堤防のせいで砂が堆積し、
満潮時でも島が海に囲まれることがまれになってしまった。事態を重視し1997年から
問題解決に取り組んできたフランス政府は、環境はもちろんのこと、島の観光に依存
する店の営業などにも配慮した浮き橋を、2005年から造りはじめる。そして2009年、
モン・サン・ミッシェルは本来の荘厳な島の姿を取り戻す予定だ。
そうなった暁にはぜひ行ってみたいものだと、今から心密かに願っている。
(かげやまみほ)
▽モン・サン・ミッシェルは、1979年にユネスコの世界遺産に登録された。
http://www.unesco.or.jp/cgi-bin/isan_syousai.cgi?target=1&no=115&pic=1
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桐野夏生『OUT』のノミネートで日本でも注目を集めた、アメリカ探偵作家クラ
ブ主催による第58回MWA賞の各部門受賞作が発表された。『OUT』は惜しくも受
賞を逃したが、MWA賞の認知度が日本国内で高まったのは喜ばしい。主要4部門の
受賞作は以下のとおりである。
▼最優秀長篇賞
『甦る男』 イアン・ランキン(ハヤカワ・ミステリ)
〈リーバス警部〉シリーズ15作目。上司と問題を起こしたということで、リーバス警
部は警察官再教育施設に送られる。協調性を養うため問題警官同士がチームを組んで、
未解決事件を追うが……。ランキンは、1997年に『黒と青』で英国CWA賞ゴールド
・ダガー/最優秀長篇賞を受賞していて、これで2冠達成である。
▼最優秀処女長篇賞
"DEATH OF A NATIONALIST" Rebecca Pawel
本誌先月号(2004年4月号)のレビューを参照のこと。
▼最優秀ペイパーバック賞
"FIND ME AGAIN" Sylvia Maultash Warsh
〈レベッカ・テンプル〉シリーズ第2作の歴史ミステリ。ポーランド伯爵と出会った
医師レベッカは、伯爵の故郷で殺人事件に遭遇する。伯爵の書いた小説のなかに、殺
人者の正体が記されていることを知ったレベッカが物語を読み進めていくと、そこに
は18世紀ヨーロッパを舞台にした許されない愛の真相も描かれていた。
▼最優秀短篇賞
"The Maids" G・ミキ・ヘイデン (BLOOD ON THEIR HANDS)
上記4部門以外の受賞作については、MWAの公式サイトでご覧いただきたい。
http://www.mysterywriters.org/index.htm
(清野 泉)
アガサ賞も受賞作が発表された。主要部門の結果は以下のとおり。
▼最優秀長篇賞
"LETTER FROM HOME" キャロリン・G・ハート
1通の手紙が新聞記者グレッチェン・ギルマンを1944年夏に引き戻した。当時戦争
で人手が足りなかったため、13歳にしてオクラホマの小さな町の新聞記者となった彼
女は、近所に住む友人の母親が殺された事件を調べることにしたが……。
▼最優秀処女長篇賞
"MAISIE DOBBS" Jacqueline Winspear
舞台は第1次世界大戦の影響が残る英国。メイジーは女中をしていた屋敷の女主人
に大学教育を受けさせてもらい、戦場での看護婦の仕事を経て探偵となる。最初に引
き受けた仕事は単純な不倫の調査だったが、それは死んだはずの兵士が生きているこ
とを示す手がかりへとつながっていった。
▼最優秀短篇賞
"No Man's Land" Elizabeth Foxwell (BLOOD ON THEIR HANDS)
その他の部門については以下のサイトで。
http://www.malicedomestic.org/
(花田美也子)
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毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。
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■編集後記■
今月から新しい仲間が増えました。フーダニット翻訳倶楽部からはもちろんですが、
出版翻訳ネットワーク内で、女性による女性のための翻訳作品を追求している「みも
ざ翻訳館」と、冒険小説ならなんでもおまかせの「西洋冒険譚翻訳倶楽部」の2つの
クラブからも集まってくださってます。ということで、今月は新しい仲間が書いた新
刊レビュー7作品を中心にお届けしました。新しい編集態勢がととのったところで、
来月号も編集部一同はりきっていきたいと思っています。 (か)