●ヴェネツィア人の生き方を映し出す作家、ドナ・レオン
ヴェネツィア在住の女流作家ドナ・レオンは、1942年ニュージャージーに生まれた。
1965年にローマへ留学し、アメリカ以外にも4か国で英語教師を務めたのち、メリー
ランド大学イタリア校に勤務している。彼女が書きついでいる警視グイド・ブルネッ
ティのシリーズを読むと、実際に肌で感じたヴェネツィアが描かれているせいだろう
か、ヴェネツィアの細かい水路や迷宮のような小道の1つ1つを、そしてそこに生活
する人々の様子を鮮やかな映像として思い浮かべることができる。
シリーズの幕開けは、1991年に第9回サントリーミステリー大賞を受賞した『死の
フェニーチェ劇場』(春野丈伸訳/文藝春秋)。オペラ『椿姫』の上演中に世界的に
有名な指揮者が謎の死を遂げた。ブルネッティは指揮者の半分ほどの年齢の妻や、同
性愛者の歌手や演出家、現在は貧困に身をおくかつてのプリマドンナなど、いわくあ
りげな人々から話を聞きだしていく。シリーズ1作目とあって、とくに登場人物の外
見について詳しく述べられているため、頭の中でイメージをふくらませつつ読んでい
きたい読者には、はずせない作品だ。
そして1998年に訳書が出た2作目の『異国に死す』(押田由起訳/文春文庫)は、
運河にアメリカ人青年の死体が浮かぶ場面から始まる。単なる物取りの仕業として処
理しようとする上司にさからってひとり事件を追うブルネッティは、やがて事件の裏
に隠された恐ろしい事実を知ることに。
このあともシリーズは続くのだが、訳書としては2000年CWAシルバーダガー賞を
受賞した9作目にあたる『ヴェネツィア殺人事件』(北條元子訳/講談社文庫)が昨
年出ている。週末に自宅でくつろぐブルネッティのもとへ突然役人が訪ねてきて「お
宅のアパートは未承認で違法な建築です」と言う。その後この男は、別の件で話した
いことがあるとブルネッティに電話してきたあとで、ビルの足場から転落死をするの
だ。うちに来たときには高所恐怖症であることがうかがえた彼がなぜ高いところに上
ったのか。例によって上司は事故としてすませたがるのだが……。あまり仕事ができ
るとは思えない部下たちの中で、無能な上司の面倒をみさせておくにはもったいない、
調査能力に長けた優秀な秘書エレットラの存在が光る。
また昨年には、12作目にあたる最新作 "UNIFORM JUSTICE" が出版されている。士
官学校のトイレで首吊り死体となって見つかった学生。自殺ではなく殺人だと見るブ
ルネッティが事件を追う。
ブルネッティの上司パッタは、常に自分の保身と昇進のことしか考えない俗物で、
煩雑な捜査を避けるため事件が起こってもすぐにそれを事故や自殺などとして片づけ
たがる。また部下の中にもいい加減な仕事しかできない者が多く、結果として機動力
を駆使した緻密な捜査などできない状況にある。
そうなれば何らかのコネを使って情報を集めなければならない。ヴェネツィアはゴ
シップに満ちており、新聞などいらないほど口コミでニュースが知れわたる町だ。自
分が長年警察官を勤めてきて培ったコネはもちろんのこと、裕福な実業家で伯爵であ
る義父のコネも大いに利用する。
イタリアではその歴史的な建造物に彩られた美しいイメージとはうらはらに、根の
深い政治的、社会的な腐敗が進んでいる。それでも法律がそのすべてを裁けるわけで
はない。このシリーズでもブルネッティは、自分の力ではどうしようもない現実に無
力感を覚えながらも、彼なりの正義を貫こうとするのだが、事件の結末はあまり釈然
としないものであることが多い。
そんななかで読者をほっとさせてくれるのは、ブルネッティの普通の夫、普通の父
親としての顔だ。妻のパオラは大学教師をしている聡明な女性。ブルネッティが忙し
くて昼食に帰宅できなくても彼に罪悪感を感じさせないよう、私は大学で教えている
作品の作者と昼食をとっていたのよ(つまりその作者の本を読みながら食事をしてい
たということ)と言ってくれるような、さりげない心配りのできる人だ。息子ラッフ
ィや娘キアーラのそれぞれの反抗期に悩むことはあっても、仲良く円満な家庭を築い
ている2人。ブルネッティが何よりも楽しみにしているパオラの手料理の描写はその
香りまで伝わってきそうで、このシリーズの魅力のひとつになっている。
(花田美也子)
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●クルト・ヴァランダー〜オペラを愛する、仕事人間
スウェーデンの警察小説といえば、1960年代から70年代にかけて発表された、シュ
ーヴァル&ヴァールーの刑事マルティン・ベック・シリーズを思い出す人も多いかも
しれない。だが今回紹介するのは、90年代にベストセラーとなり、日本でも1作目の
『殺人者の顔』と2作目の『リガの犬』(ともに柳沢由実子訳/創元推理文庫)が翻
訳されている、ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダー・シリーズだ。
作者ヘニング・マンケルは、1948年生まれ。最初の長編小説を1973年に発表して以
来、児童向けや大人向けなどの小説を書き続けている。ヴァランダー・シリーズの他
に日本で紹介されているのは、スウェーデンの児童文学賞「ニルス・ホルゲッソン賞」
を受賞した『少年のはるかな海』(菱木晃子訳/偕成社)と、モザンビークを舞台に
地雷の悲劇を描いた『炎の秘密』(オスターグレン晴子訳/講談社)の2つの作品だ。
また劇作家と舞台監督としての顔も持ち、1980年代の後半からはモザンビークにある
劇場の芸術監督を務め、スウェーデンとの間を往復する生活をおくっている。
ヴァランダー・シリーズは、1991年から1999年までの間、1年に1冊ずつ発表され
た。長篇としては1998年の8作目 "BRANDV(A)GG" が最後の作品で、1999年に出版さ
れた "PYRAMIDEN" は短篇集。本国で1995年に発売された5作目 "VILLOSP(A)R"(英
題 "SIDETRACKED")で、2001年にCWAのゴールドダガーを受賞している。シリーズ
自体は終了したものの人気が衰えることはなく、現在でもスウェーデンではテレビド
ラマ化が進んでいる。また2002年には、警察官となったヴァランダーの娘リンダが、
父親を助けて活躍する "INNAN FROSTEN" も出版された。
主人公クルト・ヴァランダーが勤務するのは、スウェーデン南部の都市マルメにほ
ど近い小さな町、イースタの警察署。90年代に入って凶悪犯罪が増え、警察の仕事は
ハードなものになってきた。ヴァランダーは、現場の責任者として刑事たちをまとめ、
犯罪に立ち向かう。彼は天才でも凄腕でもない。失敗もするしうっかりミスもする。
間違った答に行き着くこともある。だが寝食を忘れるほど事件に熱中し、同僚たちと
ともに地道に証拠を探し出し証言を集めながら、確実に真相と犯人に迫っていくのだ。
初登場した『殺人者の顔』では40代前半。私生活では3か月前に突然妻に去られ、生
活が乱れたせいで7キロも体重が増え、腹が出始めたことを気にしている。また年頃
の娘の考えや行動が全く理解できず、老いて弱っていく自分の父親の姿を目の当たり
にしてとまどってもいる。唯一の趣味はオペラを聴くことで、若い頃は友人をオペラ
歌手にして、自分はそのマネージャーになるのが夢だったらしい。
(本文中の "BRANDV(A)GG" の (A) はAウムラウト。
"VILLOSP(A)R" の (A) は、Aの上に(。)がついたもの。)
●
"ONE STEP BEHIND" by Henning Mankell/translated by Ebba Segerberg
Vintage Books/2003.01.14/ISBN: 1400031516
(スウェーデン語原題:"STEGET EFTER"/1997)
休暇から戻って早々、ヴァランダーは同僚スヴェートベリの惨殺死体を発見する。
彼は死の直前、娘の行方を捜して欲しいという母親からの訴えを、単独で調べていた
らしい。ヴァランダーたちが捜査をはじめて数日後、行方不明とされていた娘と、そ
の2人の友人の無惨な死体がみつかる。犯人の動機は何か。そもそも2つの事件につ
ながりはあるのか。手がかりになりそうなものは、スヴェートベリが隠していた写真
だけだ。わずかな手がかりを頼りに、ヴァランダーたちは東奔西走する。
1作目から7年ほどがたち、ヴァランダーは50歳になっている。そして長年の不摂
生と不規則な生活がたたってか、糖尿病と診断され血糖値をさげるようにと医者から
注意を受ける。その上、別れた妻から再婚するという電話を受け、気分は落ち込むば
かり。だがスウェーデン史上もっとも凶悪な犯人は、ヴァランダーを休ませてはくれ
ない。医者の言葉を気にしながらも、大好きなオペラを聴くこともなく、ヴァランダ
ーは仕事に没頭する。
事件がかなり悲惨なので、ともすると暗いだけの作品になりかねない。それをやわ
らげているのが、ヴァランダーや同僚たちの行動かもしれない。深夜に犯人を連行し
たあと、ヴァランダーはオフィスに入ったまま出てこない。会議中に意識を失ったこ
とがあるので、朝になってやってきた同僚たちが心配して覗いてみると、彼は上着を
枕にして床の上で熟睡している。一安心した同僚たちは、彼を寝かせたままドアを閉
める。こんな何気ない場面や、ややコミカルな場面が随所にちりばめられているので、
読んでいてもそれほど重苦しさは感じられない。慣れない地名と人名にややてこずっ
たが、しみじみとした北欧の警察小説をじっくり堪能させてもらった。
(かげやまみほ)
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| ■インタビュー ―― 森 英俊さん、藤原義也さん →こちらへ |
『ブレイン・ドラッグ』 "THE DARK FIELDS"
アラン・グリン/田村義進訳
文春文庫/2004.02.10発行 819円(税別)
ISBN: 4167661586
《げに恐ろしきは人の欲望なり――魅惑の薬がもたらす人生の悲劇》
10年前に離婚し、さえない風貌でさえない暮らしを送っている売れないコピーライ
ター、エディ。わずかな収入源の仕事はいっこうに進まず、煙草の吸いすぎとストレ
スで体調が悪く、人生の悪循環から抜け出せそうにない。こんな自分でも、美しく聡
明な妻とニューヨークのヤッピー生活を楽しんでいたときがあったというのに。
うんざりするほどサイテーな毎日。そんなとき目の前に魔法の薬を差しだされたら、
あなたならどうするだろう? それを飲めば頭がすっきり、みるみるうちに意欲がわ
いてきて、市場の予測も外国語の習得も大衆の心をつかむ演説も朝飯前、誰もが一目
置くスーパーヒーローになれるとしたら? エディはためらった。そんなうまい話が
あるものか、と。しかし、人間の欲望の力は偉大だ。ふとした気まぐれから薬の効果
を知って果てなき欲望を抱いてしまった彼は、この得体の知れない薬におぼれていく。
エディがのめりこんだ知能向上薬〈MDT−48〉は、体ではなく脳に作用し、記憶
力や思考力、集中力などを向上させる。その効用たるや凄まじく、服用すれば、平凡
な人間があれよあれよという間に上昇気流にのり、とてつもない成功を手に入れる。
いいよなあ、そんな薬を飲んでみたいよと思う気持ちはわからぬでもない。しかし、
効き目の強い薬には副作用がつきものだ。やがてエディはあまりにも高い代償を払う
ことになる。この夢のような薬〈MDT−48〉の鳥肌が立つほどの魅力と恐怖は、1
人称で綴られた彼の心情が十二分に語ってくれるだろう。
そして、なんと恐ろしい。この荒唐無稽な物語は、けっして現実からかけはなれて
いるわけではないのだ。知能向上薬は実在し、一般にスマート・ドラッグと呼ばれて
いる。現在はごく弱い効果しか確認されていないが、将来的に強い効果が見込めるス
マート・ドラッグの開発は絶対に不可能といえない。それほど現代テクノロジーは進
んでしまっている(らしい)。となると、魅惑の薬のせいで株価が暴落し、殺人事件
が起こり、怪しげなカルト教団が暗躍する未来がわたしたちを待っているのだろうか。
新人ながら卓越した筆力でぐいぐい読者を引きこみつつ、現代社会への警鐘を鳴ら
したこのサスペンスをぜひおすすめしたい。2002年CWA処女長編賞ノミネート作品。
(片山奈緒美)
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『苦い祝宴』"A BITTER FEAST"
S・J・ローザン/直良和美訳
創元推理文庫/2004.1.30発行 1000円(税別)
ISBN: 4488153062
《にぎやかなチャイナタウンに影を落とす、移民社会の現実とは?》
世界各地にあるチャイナタウンの中でも、ニューヨークのチャイナタウンはサンフ
ランシスコのそれと並んで最大級の規模を誇ると言われている。合法、非合法を問わ
ず、流入する中国系移民でその規模は年々拡大し、いまや近隣のイタリア人街やユダ
ヤ人街までをも飲みこもうとしていると聞く。夢と自由を求めてこの街にやってくる
中国人がいる一方、アメリカ生まれの若い世代はアメリカ人として生きる道を選び、
故郷であるチャイナタウンを去っていく。また、開発の波はこの地域にも容赦なく押
し寄せ、街は急速に変わりつつある。本書は4人の青年の失踪を軸に、そんなチャイ
ナタウンの現在を生き生きと描いた作品である。
物語は、大物華僑が経営する有名レストラン〈ガーデン・ドラゴン〉の前での労働
争議の場面からはじまる。その争議は、中国料理店従業員組合への加入を勧誘したと
して、店員ふたりが解雇されたことに対する抗議行動だったが、規模は小さく、警察
の介入であっさり鎮圧された。それから10日ほどしたある日、その〈ガーデン・ドラ
ゴン〉の店員チーチュン・ホーが、同僚でルームメイトの3人とともに姿を消した。
ホーは店に残る最後の組合員で、失踪の裏には組合活動がからんでいると思われた。
組合の弁護士ピーターから相談を受けた私立探偵のリディア・チンは、危険かもしれ
ないと渋るピーターを説き伏せ、パートナーのビルと協力して4人の行方を追うこと
に。さらに思いもよらぬ人物までもが、ホーたちを捜してほしいと依頼してきて……。
ケーブルテレビ局の技術者に扮して他人の家にあがりこんだり、飲茶レディとして
点心を給仕したりと、リディアの七変化ぶりが実に楽しい。銃をちらつかせたり、暴
力で脅したりせずとも、巧みな話術で知りたい情報を聞き出していく。かと思えば、
危険を承知で悪人のもとに乗りこんでいくという、いさましい一面も見せる。そんな
リディアをビルがさりげなくフォローする姿はほほえましく、そのことでヘソを曲げ
てみせるリディアもまたカワイイ。本書はシリーズ5作目だが、作者のローザンは前
の話のネタバレをしない作家なので、これだけ読んでも違和感なく楽しめる。シリー
ズものだからと尻込みしている方にも、自信を持ってお薦めできる作品だ。
(山本さやか)
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『気分はフルハウス』 "FULL HOUSE"
ジャネット・イヴァノヴッチ/細美遙子訳
扶桑社ミステリー/2004.02.29発行 876円(税別)
ISBN: 4594043372
《イヴァノヴィッチ新シリーズ、出足からフル加速!》
ステファニー・シリーズ全作品読破のぼくの密やかな愉悦のひとつは、わが最愛の
ステファニーがモレリに迫られながらもぐっと衝動を堪え、そう簡単に落ちてたまる
かと、意地を張る姿を見ることなのだが、この作品のヒロインもまたそういう女性で、
たいへん魅力的なのである。つまりファンになってしまったわけだ。まったく、われ
ながら簡単なやつである。
主人公ビリーは38歳になる小学校教師。最近離婚したばかりで小学生の娘と息子を
抱え、家事に育児にお仕事にと、大忙しの毎日なのだがちょうどいまは夏休み。子供
たちは別れた夫のもとで休暇を過ごしていて、その寂しさを紛らわそうとポロクラブ
で講習を受け始めた。ここの講師がクラブの経営者で大富豪のニック。独身でしかも
名うてのプレイボーイときた。
男とベッドを共にすることは愛と約束を意味し、最終的に結婚につながるべき――
という堅固な信念を持っているビリーは、そんなニックに警戒心むき出し。そもそも、
ニックのようなプレイボーイタイプは、ビリーの好みとはかけ離れている、はずだっ
た。ニックはニックで母性豊かなビリーにぐんぐん惹かれ、あの手この手で迫るのだ
が、なんせ作者はイヴァノヴィッチ。普通の展開になろうはずがない。
当然のごとく脇を固める登場人物たちも個性派づくしで、みんなしてビリーの家に
集まっての大騒動ということでつけられた原題 "FULL HOUSE" なのだろう。こみあげ
る笑いに肩をふるわせつつ読み進めるこの至福のひととき――。ん? いまぼくが手
に持っているピンクの表紙のPBは何かって? ふっふっふ。次回作 "FULL TILT"
に決まってるでしょうが。ぱらぱら……お〜っ、ニックの従弟のマックスが大人にな
ってるぞ〜! これもまたいずれ当欄で紹介しよう。ご期待のほどを!
(板村英樹)
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『十六歳の闇』 "BLUEGATE FIELDS"
アン・ペリー/富永和子訳
集英社文庫/2004.01.25発行 895円(税別)
ISBN: 4087604535
ヴィクトリア女王時代のロンドン、そこには厳然とした階級制度があり、捜査のた
めであれ警察官の身分で貴族の生活に踏みこむなど許されない。貴族の少年が殺され
た事件で、家庭教師を逮捕し捜査は終了したが、まだ何か隠されている。ピット警部
が犯人に疑問を抱き捜査を続行したくても、貴族社会にはとりつく島がない。そこで、
良家出身の妻シャーロットが夫に代わり、真相究明のために社交界に乗りだした。
(唐澤涼子)
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『ホンキートンク・ガール』 "THE WIDOWER'S TWO-STEP"
リック・リオーダン/伏見威蕃訳
小学館文庫/2003.03.01発行 695円(税別)
ISBN: 4094038825
テキサス州サンアントニオ。トレス・ナヴァーは探偵見習い中。本物の探偵になれ
るかどうかは微妙なところだ。メジャーデビューをひかえた地元のカントリー歌手の
周辺で盗難、失踪、バンド仲間の殺害など事件があいついだ。かわいい歌手にたかっ
て甘い蜜を吸おうというやつが多すぎる? 探偵事務所のボスも兄貴も元FBIの強
面探偵も手を引けというがそれはできない。トレス・ナヴァーのシリーズ2作目。
(唐澤涼子)
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『天使の遊戯』 "THE FOUR LAST THINGS"
アンドリュー・テイラー/越前敏弥訳
講談社文庫/2004.02.15発行 781円(税別)
ISBN: 4062739542
4歳のルーシーが誘拐された。警察による捜査は進捗せず、両親は焦燥の色をつの
らせていく。やがて、子どものものとおぼしき切断された手足が発見され、事件は猟
奇的な様相を帯びていく。そして最後の最後で明かされる驚愕の事実。読めば読むほ
ど謎が深まるこの物語は、作者が〈The Roth Trilogy〉と名づけた3部作の幕開けに
すぎない。次作ではどんな展開が待っているのか。いまから待ち遠しい。
(山本さやか)
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《ミステリと料理のおいしい関係》
「たとえ一流のすばらしい料理の本でも、料理の楽しみと犯罪がまざりあうこうした
小説に匹敵するほどスリルを提供することはできないだろう」(『ディナーで殺人を』
/ピーター・ヘイニング編/田口俊樹・深町眞理子他訳/創元推理文庫)
ミステリと料理の相性のよさは、いまさらあらためて言うまでもないだろう。「食」
をテーマにした前述の『ディナーで殺人を』や、『16品の殺人メニュー』などの傑作
アンソロジーのみならず、関連本も数多く出版されている。
で、けっして料理好きというわけではないけれど、料理の本をながめるのは大好き
というわたしはそうした本を見かけるとつい手が伸びてしまうのだが、最近とくに気
に入っていたのは、1999年にアメリカで出版された "A TASTE OF MURDER" だ。これ
はミステリ作家たち自身から寄せられた150ものレシピを収録した、読むだけでも楽
しいクッキングブックで、うれしいことに昨年末、その第2弾 "A SECOND HELPING
OF MURDER"(Poisoned Pen Press)が刊行された。今回もアレグザンダー・マコール
・スミスやジョージ・P・ペレケーノスなどの人気作家たちが名を連ねており、なか
でもわたしの目を引いたのは、スティーヴ・ハミルトンによる“グラスゴー・インの
ビーフ・シチュー”だった。
〈グラスゴー・イン〉は、『氷の闇を越えて』(越前敏弥訳/ハヤカワ・ミステリ文
庫)からはじまったアレックス・マクナイト・シリーズに登場するバーの名前で、ミ
シガン州パラダイスにあるその店は、グラスゴー生まれの店主ジャッキーがスコット
ランドのパブのようにしつらえている。アレックスは特別にカナダ産のビールを常備
してもらっており、ほとんどの食事をそこでとるほど居心地がいいらしい。そのジャ
ッキー自慢のレシピとあれば、試してみねばなるまい。
材料は玉葱、にんにく、じゃがいも、人参、小玉葱、牛肉、小麦粉、塩胡椒といた
ってシンプル。ただし、水の代わりにカナダ産ビールを加え、コンロではなくオーブ
ンで肉と野菜が柔らかくなるまでゆっくり煮込むのがみそ。そのため、鍋はダッチ・
オーブンやル・クルーゼのようなオーブンで調理可能なものを用意する。オーブンで
煮込み料理を作るのははじめてだったし、たったこれだけの材料でほんとに大丈夫?
と不安を感じながら待つこと2時間弱(レシピには数時間とあるが、材料を半分以下
にしたので時間も減らした)。できあがったシチューは野菜も肉もびっくりするほど
柔らかく、体の芯からほっこり暖まるようで、そっけないけどやさしいジャッキーの
人柄そのもののような味がした。いつもこんな料理にありつけるなら、アレックスじ
ゃなくても入り浸ってしまうこと間違いなしだろう。
ところがアレックスはといえば、このシチューになんとケチャップをかけてジャッ
キーを怒らせているとか。それはせっかくの料理がだいなしでしょう、アレックス。
(松本依子)
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■編集後記■
今月号で編集人が交代します。昨年4月に引き継いでから、あっという間の1年で
した。ご支援くださったみなさま、ありがとうございました。これからも『海外ミス
テリ通信』をどうぞよろしくお願いします。 (ま)
来月4月号から編集人をつとめることになりました。編集人交替にともない、『海
外ミステリ通信』も、大幅に刷新します。スタッフみんなと協力して、より楽しめる
内容を目指すつもりですので、今後ともよろしくお願いいたします。 (か)