■ 第17号 2003年1月号 ■
〈特別企画〉    2002年フーダニット・ベスト10発表!
〈座談会〉     フーダニット・ベスト10で2002年のミステリを振り返る

■新春特別企画 ―― 2002年フーダニット・ベスト10発表!
 恒例の「フーダニット翻訳倶楽部年間ベスト・ミステリ」の投票が、2002年も行わ
れました。1年間に読んだ話題作や佳作、はたまた個人的にはずせない作品などに、
会員ひとりひとりが思いを込めて票を投じました。今号では、その集計結果を発表し
ます。フーダニット会員の選んだ2002年を代表する新刊ミステリ作品とは? あなた
のベスト作品と比べながらごらんください。

※投票規定
 2001年11月1日〜2002年10月31日に刊行された新刊ミステリ作品が対象(文庫化は
 除く)。投票者は各自10作品まで投票可能。それぞれ、1位=10点〜10位=1点に
 換算して集計。
※投票期間=2002年11月25日〜12月9日
※投票者数=16人


1.『雨に祈りを』 69点
  デニス・レヘイン/鎌田三平訳/角川文庫
  ◆元依頼人の女性が謎の自殺を遂げる。納得のいかないパトリックがその原因を
  探っていくと――心の闇を執拗なまでに描くレヘインのシリーズ第5作。

2.『さらば、愛しき鉤爪』 54点
  エリック・ガルシア/酒井昭伸訳/ヴィレッジブックス
  ◆おれはヒトの扮装をまとった恐竜、しがない私立探偵だ。友人の死後、暮らし
  はすさむ一方だが、そこへ仕事が舞い込んだ。抱腹絶倒のハードボイルド!

3.『家蠅とカナリア』 47点
  ヘレン・マクロイ/深町眞理子訳/創元推理文庫
  ◆公演初日、舞台上で殺人が。容疑者は3人の役者。鍵は家蠅とカナリア? 精
  神分析学者ベイジルの推理はいかに――名手マクロイの本格傑作、待望の完訳。

4.『飛蝗の農場』 45点
  ジェレミー・ドロンフィールド/越前敏弥訳/創元推理文庫
  ◆どこからともなく現れて宿を求めた男は、ある事故を境に記憶を失う。農場を
  営む女との生活、脈絡のない幾つもの挿話。読者を混乱から驚嘆へと導く問題作。

5.『わが名はレッド』 34点
  シェイマス・スミス/鈴木恵訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
  ◆赤ん坊を奪い、名前を与えて孤児院へ置き去りにしたレッド。20年後、その秘
  めたる計画が動きだす。『Mr.クイン』の作者が再び放った非情な犯罪小説。

6.『唇を閉ざせ』(上・下) 25点
  ハーラン・コーベン/佐藤耕士訳/講談社文庫
  ◆死んだはずの妻が生きている!? 最愛の人を探しもとめる若き医師の周囲に、
  いつしか謎の殺し屋の影が。コーベンのシリーズ外ノンストップ・サスペンス。

7.『ウイニング・ラン』 23点
  ハーラン・コーベン/中津悠訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
  ◆波乱&抗弁がキーワードのマイロンシリーズ第7作。「あの子は、あなたの息
  子よ」ワーオ! マイロンが父親だって? ひねった結末も、パアフェクト!

8.『ボトムズ』 22点
  ジョー・R・ランズデール/大槻寿美枝訳/早川書房
  ◆1933年の夏、11歳の少年ハリーが迷い込んだ森で発見したものは――。テキサ
  ス東部の自然を背景に、独特の筆致で描くサザンゴシックの傑作。

9.『第四の扉』 20点
  ポール・アルテ/平岡敦訳/ハヤカワ・ミステリ
  ◆イギリス小村の幽霊屋敷。降霊会の最中に起きた密室の殺人。怪奇趣味と不可
  能犯罪が織りなす本格の醍醐味。フランスのカー、アルテ期待のデビュー作。

9.『壜の中の手記』 20点
  ジェラルド・カーシュ/西崎憲 他訳/晶文社
  ◆今シーズンのお薦めです。誰も行ったことがない夢まぼろしへの旅はいかがで
  しょう? 行先は南米のジャングル、絶海の孤島、ブライトン等。10泊11日です。

9.『わしの息子はろくでなし』 20点
  ジャネット・イヴァノヴィッチ/細美遙子訳/扶桑社ミステリー
  ◆今回はなんとレンジャーがお尋ね者に! 前作から悶々とした日々を過ごして
  いたかたにはお待ちかねのシリーズ6作目も絶好調です。

12.『ダーウィンの剃刀』 18点
  ダン・シモンズ/嶋田洋一・渡辺庸子訳/早川書房
13.『最後の審判』 17点
  リチャード・ノース・パタースン/東江一紀訳/新潮社
13.『サム・ホーソーンの事件簿 2』 17点
  エドワード・D・ホック/木村二郎訳/創元推理文庫
13.『ソルトマーシュの殺人』 17点
  グラディス・ミッチェル/宮脇孝雄訳/国書刊行会
13.『どこよりも冷たいところ』 17点
  S・J・ローザン/直良和美訳/創元推理文庫
13.『レイトン・コートの謎』 17点
  アントニイ・バークリー/巴妙子訳/国書刊行会
18.『ジャズ・バード』 16点
  クレイグ・ホールデン/近藤純夫訳/扶桑社ミステリー
18.『諜報指揮官ヘミングウェイ』(上・下) 16点
  ダン・シモンズ/小林宏明訳/扶桑社ミステリー
20.『狩りの風よ吹け』 14点
  スティーヴ・ハミルトン/越前敏弥訳/ハヤカワ・ミステリ文庫
20.『著者略歴』 14点
  ジョン・コラピント/横山啓明訳/早川書房
20.『嘲笑う闇夜』 14点
  ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ/内田昌之訳/文春文庫
■座談会 ――
  フーダニット・ベスト10で2002年のミステリを振り返る
 2002年12月、クリスマスまであとわずかとなった某日、フーダニット翻訳倶楽部の
会員5人が、フーダニット・ベスト10を肴に2002年のミステリを振り返った。4時間
半にも及んだ座談会の様子を、スペースのゆるす限りご紹介しよう。

●全く趣向の異なる3作品が同点9位

朋:去年と同じように下位からいきますね。まずは同点9位、ジャネット・イヴァノ
ヴィッチ『わしの息子はろくでなし』から。
林檎:なんか、去年もイヴァノヴィッチから入ったような。
蘭:5作目『けちんぼフレッドを探せ!』でさんざんじらされた方も多いのではない
でしょうか。今回はレンジャーが逃亡しちゃうんでした。
朋:シリーズ6作目でレンジャーに殺人容疑がかかるんです。おばあちゃんは転がり
込んでくるし、謎のコンビに部屋に侵入されるし。
姫:内容を忘れていました。
林檎:がーん! どうしてー。
姫:だって……。
林檎:だって、なんですか(笑)。
姫:レンジャーにいくのか、モレリにいくのかが気になってて……。
林檎:結局はそれかいな(笑)。
蜜柑:みなさま、サブストーリーのほうに目がいかれておりますのね、だから本筋忘
れる……。
蘭:イヴァノヴィッチって吉本みたいじゃないですか? お約束が必ずありますよね。
毎回車が燃えるとか。
姫:ドタバタとかが吉本新喜劇っぽいってことですよね。
林檎:そりゃあ新説だね、イヴァノヴィッチ=吉本説。吉本ふうロマンスふうミステ
リってことかな?
若菜:『このミス』では誰も投票していない作品ですが、フーダではポイントが高い
のはなぜでしょう?
林檎:世間的にも人気は高いと思う。
蘭:シリーズものって結構無視されませんか?
朋:それはあるよね。シリーズものよりはどうしても、新しい作家、新しいシリーズ
のほうがポイントが高い。
姫:基本的にはお笑いが好きだから、このシリーズの笑えるところが好き。
林檎:やっぱり、軽く楽しく読めるのがいいのかな。
蜜柑:これがベストに入っているのはほっとします。
朋:いかにもフーダらしい……と。では次にいきますか? 同点9位のジェラルド・
カーシュ『壜の中の手記』。短篇集です。
蜜柑:このベストテン中では異色ですよね、限りなく幻想文学に近い。
林檎:作家としても古い時代の人でしょう。
朋:カーシュというのは、今までにも紹介されているの?
林檎:長篇の邦訳はない。短篇ばかりぽつぽつと訳されていたみたいですね。
若菜:クラシック・ミステリ好きの間では「おもしろいらしい」といううわさがあっ
たのです。
朋:どんな印象を持ちました?
若菜:作品それぞれ味わいが違っていて、おもしろかったです。こわくて、悲しい話
が多かった。
蜜柑:不思議な味わいはおもしろいのだけど、少し物足りなかった。
林檎:あまり強烈ではなかった? ポオみたいかな、と思っているんだけど。
蜜柑:わたしには、ポオほどの強烈さは感じられなかった。
若菜:ポオより発想は変わっていると思う。作家としての発想は豊か。わたしは好き
です。本当に、このへんは読んだ人の好みによりますね。
朋:やっぱり読んでみないとわからんなあ。
若菜:あのカーシュ作品を日本語で読めたのがうれしい、というところでしょうか。
朋:もうひとつ9位、ポール・アルテの『第四の扉』。
若菜:アルテは、ミステリ作家の殊能将之さんのサイトで評判になっていたんですよ。
わたしは仏語が読めないしどんな作品かなあと思っていて、翻訳が出てうれしいです。
朋:どんな話なんでしょう?
若菜:カーっぽいです。密室、降霊会……。
蜜柑:作者がジョン・ディクスン・カーを大好きなのはわかるんだけど、ちょっと芝
居がかりすぎだと思った。でもね、ラストはびっくりこきました。
林檎:これ、すごく評判だったけど、まだデビュー作なのね。
蜜柑:本国ではもう何冊もシリーズの続きが出てるんですよね。
朋:姫さん、好みじゃないですか。
姫:やっぱ、読まなきゃ。
若菜:これから次々翻訳されることでしょう。
姫:じゃあ次々出る前に読んじゃおうっと。
若菜:この作品は軽いんですよねえ。
林檎:もっとおどろにしてほしかった?(笑)
若菜:おどろおどろおどろにしてほしかったです。
朋:おどろの3乗かあ。
姫:やっぱ、わたし好みかも。軽いの好きだし……。
蜜柑:アルテはデビュー作だから、このあと名作があるかもしれないと期待していま
す。だから、翻訳の続きが出たらきっと読むと思う。

●あのランズデールが家族小説に挑戦?

朋:次いこ、8位のジョー・R・ランズデール『ボトムズ』。エドガー賞をとった作
品です。
蜜柑:とっっっても、おもしろかったです。
朋:時代設定がいいですね。
林檎:ランズデールと言えば、ハップ&レナード・シリーズのイメージがありますが。
朋:同じ作家とは思えない。描写はやっぱりランズデールですが、語りは違います。
蜜柑:別人のようでした。これ、『アラバマ物語』だよねえ。時代と地域の設定を活
かして家族小説を書いてみた、というノリだと思う。
朋:連続殺人事件をからませてね。『スタンド・バイ・ミー』に似た味わいかも。
蜜柑:語り手の少年と父親、母親、おばあちゃん(最高)の交流がよいのよ。
朋:けがをした犬を殺せなくてね。ああいうところにじんとくる。
蜜柑:そうそう、犬。
林檎:ああっ、犬が……はっ!(笑)
朋:あ、起動した。
蜜柑:安楽死させたほうがいいと言われて、でも少年は殺せなくて。
林檎:ひーん。
朋:ツボにはまったな。林檎さんは去年の座談会でもデイヴ・バリー『ビッグ・トラ
ブル』に出てくる犬に反応してた。
蜜柑:で少年は殺せなくて、の続きがよいのです。
朋:殺人事件はあるけれど、それを解決するだけの話じゃない。
林檎:読みます……。
朋:ぜひ。
蜜柑:読んで、じんとこよう。
林檎:そうかあ。ということは、ランズデールをはじめて読む人にも、きっとおすす
めだな。
朋:ハップとレナードは人を選ぶからな。
林檎:みんな、まず『ボトムズ』を読もう! そしてハップとレナードに流れよう!
(笑)
朋:なぜかフーダの人は、ハップ&レナード・シリーズにハマるんだよな。みんな、
お下劣なのが好きなのかな。

●若くさわやかなキャラクター、生きた文章が魅力のコーベン

朋:7位いくよ、ハーラン・コーベンの『ウイニング・ラン』。コーベンは2作とも
ベスト10入りしていますが、シリーズ物のほうが低かった。
蜜柑:なぜ、7位どまりなの!
林檎:やっぱり、シリーズ物には厳しい?
朋:このくらいできて当然と思ってしまうところがある。
林檎:結構、急展開ですよね。
蜜柑:その設定、無理やりだろ、ってところはあるのかも(笑)。
朋:ただ、今回のウィンはなかなかいいことを言う。
蜜柑:ウィン、よかったねえ。たとえ病気だって、罪はつぐなわなくちゃみたいなセ
リフがあった。
朋:ウィンの口からそういうせりふが出るとはね。マイロンの影響か。
蜜柑:改心したのよ。『ウイニング・ラン』は、ミステリ的にもよくて、シリーズ中
の1番か2番に好きな作品でした。
林檎:マイロンって若い探偵ですよね。主人公が若いと、未来があっていいなと思う。
姫:若い、かなぁ……。
蘭:マイロンはいくつなんですか?
朋:マイロンはもう30代後半でしょう。
蜜柑:そう、35ぐらい。
林檎:じゃ、ファンの人に質問。マイロン・シリーズの魅力とは?
蜜柑:若さです。
姫:やっぱ、登場人物の魅力かな。
朋:さわやかさ。
蜜柑:文章が弾けたところがいい。
朋:でも、やりすぎてない。
林檎:イヴァノヴィッチと違って、事件自体はわりとシビアかと思うのですが。
朋:ただ、レヘインのような救いのなさはない。前向きになれるんですよね。
蜜柑:そうね。マイロン・シリーズの魅力は「ほどよさ」なのかも。
姫:会話もおしゃれだし。
朋:クレイスが好きならハマると思う。
林檎:やはり読まねば。わたしのコーベンの感想は、のちほど『唇を閉ざせ』にて。
朋:では、そのハーラン・コーベン『唇を閉ざせ』にいきましょうか。6位です。
林檎:すぐ上だったのね(笑)。
朋:コーベンのシリーズ外作品、邦訳第1弾。事件で妻を失った主人公のもとに謎の
メールが届き、どうやらそのメールは亡き妻からのものらしく……。
林檎:原題は "TELL NO ONE" なんだけど、邦題が意表を突いたなあ。最後まで読む
と意味深だよね。
蜜柑:いいタイトルがついたよねえ。
林檎:わたしはこれが、コーベンほとんどお初だったんだけど、うまいと思いました。
最初のプロローグで夫婦の愛情をきちんと見せるでしょ。それと悲惨な事件を見せて
おいて、現在にくるじゃない。するとメールの使い方がうまくて、あとネットのライ
ブカメラなんかも。それで、つかみは十分なんです。あとはもう読まずにいられない。
朋:今の時代にマッチした小物づかい、で文章がやっぱりコーベンなんだよね。
蜜柑:個性はしっかりでている。
林檎:生きた文章を書きますね。
姫:悪役もよかった。
朋:主人公のキャラクターと設定のうまさには感心した。
蜜柑:主人公を助けてくれるギャングがよかった。血友病だっけ、白血病だっけの男
の子の父親。
林檎:タイリーズですね! 彼、好きですよー、大好きだなー。
姫:若いのにめちゃくちゃしっかりしてる。
朋:コーベンはこの本、ホントに楽しんで書いてるって感じだよね。
蜜柑:うん、そういうのが伝わってきてよかった。今とてものっている作家ですね。
朋:次も楽しみだなー。次作 "GONE FOR GOOD" は泣かせるらしいよねえ……。
蜜柑:"GONE FOR GOOD" は、またすごいよかったです。
林檎:早くペーパーバックにならないかな。
朋:その前にマイロン読まなくちゃね。

●ともにパワーで圧倒した、アイルランドと英国の異色作家

朋:そろそろ5位にいくよ。シェイマス・スミス『わが名はレッド』。『Mr.クイ
ン』で日本じゅうを震撼(?)させた、シェイマス・スミスの第2弾。やられました
よ、こんなすごいもの出してくるとは。
姫:最後までどこにいくのかわからないストーリー展開だった。
蜜柑:傑作でしょう。あちこちで言われているけど、ただのノワールじゃないところ
もすごい。
林檎:まじめに隠しテーマを据えたところでしょうか。前作『Mr.クイン』は不謹
慎と思いつつ、犯罪が完成したら「やったあ」という(笑)達成感みたいなのが、な
ぜかあったりしたんですよね。それはあのクインが全然恨みとか持っていなくて、ひ
たすらビジネスライクにやってたからかな、というところがあったんです。
朋:主人公を応援していた……。
姫:自分の人格疑った。
蜜柑:人殺しじゃん、みたいな(笑)。
朋:正義の人殺しはだめで、ビジネスで殺すのはいいなんて、あたしのモラルってそ
んな程度かと。
林檎:だけど今回のは趣向は似ていても、全体の雰囲気が全く違う。それってやっぱ
り、主人公の目的が違うからだよねえ。
朋:それにしても、主人公をそこまで駆り立てる恨みってのは想像を絶する。そこま
で怒りが持続するのか。ロバート・ウィルスン『リスボンの小さな死』の復讐もすご
かったけど。
林檎:最初読んでると、いきなり20年飛ぶでしょ、驚きますよねえ。それだけの時間
をかける犯罪って何?って。意図はわからないけど、全編が怒りにみちみちてるのね。
その緊張感がすごかった。
朋:それが最後にうわーっときて。
林檎:そうか、そうか、そうかっときて、最後の1行ぽつんとあるでしょ。はっ!
という感じ。そこですべてのパズルのピースがぴたり。
蜜柑:とても納得したよね。
朋:見事だった。次作も期待しちゃうなあ。
林檎:あー、なんか力説して疲れた。
朋:座談会開始から2時間経過、先いくね。また林檎さんが語る本だ。ジェレミー・
ドロンフィールドの『飛蝗の農場』。
林檎:出た(笑)。とりあえず、みなさんの感想を教えてください。
若菜:タイトルにひかれました。本筋に挿入された挿話がおもしろいです。ぜひ、幻
想系を書いてほしい。
蜜柑:著者の脳内をスキャンしてみたい作品でした、何なのよ、これは〜。最後も何
なのよ〜。
蘭:地味目の表紙からの予想を裏切り、読んでみてビックリ。
朋:こんなサイコスリラーがあったのか。
林檎:そのサイコスリラーというやつなんですけど、これ、サイコスリラーといって
いいのか?という違和感がいまだにあるんですよね。『このミス』とか週刊文春でも
みんな、変わったサイコスリラーだ、と紹介している。今から読む人はそうかと思っ
て読む。それって、すっごくつまらないと思う。
朋:全然サイコスリラーじゃない。
蜜柑:記憶喪失の男が、女ひとりの農場に迷い込む、というお話なのに、関係なさそ
うな挿話がつぎつぎに展開されて、一体話はどうなってんのと思いつつ読み、最後に
そうだったのかと納得する。でも、最後もようわからんという(笑)。
林檎:「正体不明」。この本を形容するなら、自分の中ではこれが一番ぴったりくる。
サスペンスでもない、サイコでもない、どういう系統の話か、それすらもよくわから
ない。よくわからないままに、読まされてしまう。それがおもしろいんじゃないの、
と思うんだけど。
朋:好みかどうかと言われると、わたしの好みではない。でも、おもしろい。この人、
べつにミステリが書きたかったわけじゃないのかもね。存在感があるんだよね。その
存在感に負けて票を入れてしまった。
若菜:双子の話で、幻想小説書いてくれたらうれしいなあ。
蜜柑:あの双子はとても気になる。

●本格ミステリが上位入賞、僅差の2位は正統派恐竜ハードボイルド

朋:次いっていいでしょうか? 3位、ヘレン・マクロイ『家蠅とカナリア』です。
マクロイの1942年の作品です。
若菜:祝! 上位入賞!
蜜柑:本格ミステリはこうでなくっちゃ!
朋:これはホントによかったです。芝居の舞台のさいちゅうに役者が殺されるんです。
たまたま劇場にいた主人公が聞き込みをして解決していくの。その主人公というのが
精神分析学者で、今で言えばプロファイラーですね。
林檎:なんかとても、なつかしい感じがしますね。
蜜柑:雰囲気作りがとてもうまくて、すっと語りに入っていけた。
若菜:心理描写で、登場人物の人間性が読者に明らかになるんだけど、そこがうまい
ですよね。
朋:容疑者は同じ舞台にいた3人の役者だけなんです。
林檎:それは覚えやすくていい! ところで、家蠅とかカナリアは実際に出てくるの?
朋:出てきますよ。とくにカナリアは鍵をにぎっている。
若菜:つきつめて考えると、甘いところもたくさんある。
蜜柑:でもよい作品でした。読む価値あり。これでマクロイの他の作品も読んでみた
いと思った。
朋:水準は高いと思う。
若菜:とにかくこの上手さは普遍です。
朋:では2位にいくよ、ひさびさにお笑い系、エリック・ガルシア『さらば、愛しき
鉤爪』。これはアイディアの勝利でしょう。
姫:笑わせてもらいました!
蘭:楽しかったです。
蜜柑:正統派ハードボイルド、ただ恐竜なだけ。
蘭:ハーブでラリってるし。
林檎:一体どこをどうすれば恐竜が人間サイズになるのかと、まじめに考えてはいけ
ない。
朋:この本はまじめに考えちゃだめなのよ、設定をそのまま受け入れないと。
林檎:その設定が、またごていねいに造ってある。恐竜の評議会とか。
姫:基本設定が受け入れられない人は、なんだこれって感じになるかな?
林檎:ハードボイルドをよく知っている人ほど、笑えるのでは? 下地になっている
ハードボイルドは、結構しっかりしているよね。
朋:ハードボイルドのパロディですよね。
林檎:友人が死んだとか、結構泣かせますよ。ほろっとさせるんだよなあ。こんな人
間の着ぐるみを脱ぎ捨てて、2、3日自由に暮らせたらどんなにいいだろうか、とか
言うでしょ。不覚にも、そうだよねーとか思ってしまう(笑)。笑える中にも、決し
て軽いだけじゃないってところが、いいんじゃないだろうか。
朋:次作『鉤爪プレイバック』にも期待してます。
蘭:タイトルがいい!
姫:邦題もパロディなんですね。
蜜柑:3作目は『長い鉤爪』になるんだろうか(笑)。

●今年もやはり1位はこの作品でした

朋:じゃ、1位にいくよ、デニス・レヘイン『雨に祈りを』。パトリックとアンジー
のシリーズ第5弾。
林檎:レヘイン、強かったなあ。
蘭:やっぱり1位でしたかー。
蜜柑:読んでる人が多いし。
朋:フーダでは3年連続1位だっけ? 今回は『さらば〜』に負けるかと思ってたん
だけど。あらすじは、ストーカー行為に悩む女性を助けたまではよかったが、その後
その女性が自殺してしまって、責任を感じたパトリックが調査をする、というもの。
みなさま、一言ずつ感想を。
姫:ラストの何ページかがいらなかったかな。
蘭:前作『愛しき者はすべて去りゆく』が辛かったので、今回はちょっと軽い感じで
したね。ファンへのサービスのような。
林檎:ちょっと犯人像に無理があったような。
朋:今までと違って、ちょっと現実味に欠けましたね。
林檎:前作の終わりがああだったので、どうしてもパトリックとアンジーはどうなっ
たか、という部分に目がいってしまい、本筋の影が薄くなってしまったというところ
がある。
朋:なんだよ、1位の作品にむかって(笑)。
若菜:みなさん、厳しいご意見で……。
姫:好きだからかなぁ。
蜜柑:今年の1位には他の作品がきても、おかしくなかったかな。でも、シリーズの
別の作品同様、『雨に祈りを』も好きではある。
朋:わたしも実は好きなんです。仕掛けはちょっとだけど、パトリックのひたむきさ
がよかった。
蘭:アンジーが帰ってきて、ほっとしたりする。
林檎:アンジーが出てくるまで話がすごく味気ないの。やっぱり、パトリックとブッ
バのコンビでは、殺伐とするだけだと思った(笑)。
蜜柑:今回の目玉はやはりブッバでしょう。
姫:ブッバ、よかった。
蜜柑:その場限りしか出てこない脇役たちが好き。黒人の女性刑事。モーテルの車椅
子の主人。
朋:トニーTとか。
蘭:女性刑事、よかったですね。
朋:車椅子の人、わたしも好きだ。
蜜柑:映画会社の青年社長。
朋:ああいう会話がいいんだよなー。
蘭:映画オタクふたりの会話ですよね。
朋:ダイアン・ボーン宅でターキー焼いて待ってるシーンも好きだ。ボーン先生も、
ターキー食べておいて不法侵入で訴えるわよはないわなあ。
蜜柑:3人の性格がでているよね。
蘭:あれ、笑いました。レヘインのああいうユーモアが好きです。
蜜柑:だから、わたしは1番にはしなかったけど、ベスト10にはしっかり入れました。
林檎:本筋もすごい。毎回テーマが重くて、こうギリギリと締めつけられるというか。
朋:とくに前作がね。
林檎:それに体当たりしていくパトリックとアンジーがいいねえ。
若菜:今回の作品はシリーズの中でみるとどうなんですか?
林檎:問題はそれなんだよねえ。
姫:前作と2作目の『闇よ、我が手を取りたまえ』が好き。
林檎:やはり2作目と4作目だよね、白眉は。
朋:わたしも4作目と2作目が好きですね。
蜜柑:1番が4作目、次は2作目だな。
林檎:去年の1位『愛しき者はすべて去りゆく』が4作目。傑作です。それにしても
レヘインって、どうして『このミス』では評価が低いんだろう。
蘭:去年『ミスティック・リバー』は『このミス』でそこそこじゃなかったでしたっ
け?
朋:あっちは評価高かったですよねえ。シリーズのほうは悲惨すぎるのかなあ。
林檎:パトリックとアンジーのシリーズはシリーズ全体として、すごくクオリティが
高いということはまちがいないよね。
朋:というわけでベスト10を振り返る企画はおしまい。
蜜柑:去年までは1位と2位にすごい開きがあったけど、今年は2位とそれほど差が
なかったね。
姫:2位が個性的すぎるし……。
林檎:来年のベスト10がどうなるか、楽しみだわ。もっと混沌としてていいよね。探
偵ものもあったり本格もあったりいろいろ入っているのが、フーダらしい、となれば
いいな。
朋:それでは最後に、来年の抱負を。
姫:えっと、ドイツ・ミステリに注目したいですね。おもしろそうな本が出てきて、
盛りあがればいいなぁ。4年後に向けて。
林檎:4年後?
姫:ワールドカップにあわせて。
林檎:そこまで引っ張りますか(笑)。
朋:わたしは来年もやっぱりアメリカ中心だなー。基本はPIもの。
蜜柑:なんか、温かなミステリが読みたいな。「温か」という要素をミステリに要求
するのは、変かな。具体的に浮かばないのだけど、ノワールにとても飽きたのかもし
れない。あと、エルヴィス・コール・シリーズの新作が読みたい!
若菜:わたしはクラシック道、まっしぐらです。ポール・ドハティーの歴史ミステリ
が翻訳で読みたい。
林檎:うまく言えませんが、今年は肌にあうものが少なかったので、来年はじっくり
楽しめるものが読みたいなあ。
蘭:短篇もとりまぜていろんなのを読んでいきたいです。古典も読みたいし、新しい
変なのも読みたい。
朋:来年もいいミステリが読みたいですね。では長時間おつかれさまでした!
                        (構成 清野 泉・影谷 陽)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■編集後記■
 当メルマガにとって2回目の新年特別号を編集しました。昨年のミステリをふり返
りつつも、編集部員たちは、早くも今年の新作のなかから好みの作品を探しはじめて
います。今年もおもしろい作品にたくさん出会えますように!       (片)


********************************************************************  海外ミステリ通信 第17号 2003年1月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:片山奈緒美  企 画:板村英樹、大越博子、影谷 陽、かげやまみほ、小佐田愛子、      清野 泉、中西和美、松本依子、三角和代、山田亜樹子、      山本さやか  協 力:@nifty 文芸翻訳フォーラム      小野仙内  本メルマガへのご意見・ご感想:whodmag@office-ono.com  フーダニット翻訳倶楽部の連絡先:whodunit@mba.nifty.ne.jp  http://www.litrans.net/whodunit/  配信申し込み・解除/バックナンバー:  http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2002 Whodunit Honyaku Club ********************************************************************
2003年目次へ戻る

海外ミステリ通信  フーダニット翻訳倶楽部
 


Copyright (c) 2003 Whodunit Honyaku Club. All rights reserved.