■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■               月刊 海外ミステリ通信           第68号 2008年5月号(隔月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈特集〉           MWA賞処女長篇部門全レビュー 〈注目の邦訳新刊レビュー〉  『名探偵モンク モンクと警官ストライキ』                『野良犬の運河(上・下)』 〈速報〉           MWA賞、アガサ賞受賞作発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■特集 ―― MWA賞処女長篇部門全レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  今月は『海外ミステリ通信』恒例の、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)処女長篇 部門の受賞作およびノミネートされた作品すべてのレビューをお届けする。  なお本メルマガの最後に主要各部門の受賞作リストを掲載している。 ---------------------------------------------------------------------------- ●受賞作品 ---------------------------------------------------------------------------- "IN THE WOODS" by Tana French Viking/2007/ISBN: 9780670038602 《その森で……なにが起きたのか?》  ダブリン郊外の町ノックナリーにある森で、ケイティという12歳の少女の他殺体が 見つかった。その森を高速道路が通ることになったため、工事開始に先立って、森の 中にある遺跡の発掘作業が行われていたのだが、死体はその作業が行われている場所 で見つかったのだった。奇しくも、この森では20年前に、12歳の少年と少女が行方不 明になるという事件が起きていた。その事件は未解決のままとなっているが、そのと きふたりと一緒に遊んでいて、ひとりだけ助かったものの、事件が起きたときの記憶 をなくしてしまった少年がいた。それが、今回の事件を担当することになった刑事の ひとり、ライアンだった。周囲の人々にわからないようにするために名前を変え、望 んで殺人課の刑事になったライアンだったが、20年前の事件と同じ場所で起きた事件 を捜査することになろうとは……。  ライアンは、同僚のキャシーと共にケイティの家を訪ねるが、家族のようすにどこ かしっくりこないものを感じる。さらに、ケイティの父親が高速道路建設反対運動の 中心人物で、それに対する脅迫電話が何度かかかってきていたこと、その電話をケイ ティも受けてしまっていたことなどがわかった。事件は、父親に悪意を抱いた人間の しわざなのだろうか? それとも、20年前の事件となんらかの関わりがあるのだろう か? また、同じ森で起きた事件を捜査することで、ライアンは20年前の事件の真相 を思い出すことができるのだろうか?   心の中に秘密と苦悩を抱えながら捜査を進めていくライアン。その秘密を知る数少 ない人間のひとりであり、ときにはライアンの支え役となるキャシー。けれども、そ のキャシー自身も、過去に辛い経験をしていた。本作には、捜査が進んでいくようす に加えて、ライアンやキャシーの、そして事件を起こした人間やその周囲の人々の心 の内が丹念に描かれている。それゆえ、事件を捜査する刑事たちもひとりの人間であ ることに変わりはなく、それぞれが抱える苦悩や過去の経験が、刑事として進める捜 査によくも悪くも影響を与えていることをしみじみと感じさせる。随所に見られる美 しい描写が、事件の残虐さをいっそう際立たせている。                                 (石田浩子) ◇著者のサイト http://www.tanafrench.com/ ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0670038601/whodunithonny-22/ref=nosim ---------------------------------------------------------------------------- ●ノミネート作品 ---------------------------------------------------------------------------- "PYRES" by Derek Nikitas   St.Martin's Minotaur/2007.10.16/ISBN: 9780312363970   《16歳の誕生日を前に、ルシアの運命はまったく予期しない方向に進み始める》  ニューヨークに住むルシア・モバーグは子供のころ、スウェーデン人の父親オスカ ーが話してくれるスウェーデンの物語を聞きながら眠りについていた。まもなく16歳 になる彼女は、髪を黒く染め、黒いスカートをはき、つめを黒く塗り、すこしばかり 反抗的な少女になっている。ルシアの母親ブレアは、担当教授だったオスカーと在学 中に結婚した。すぐにルシアが生まれたので、大学は休学した。ターニャはろくでも ない男とろくでもない生活を送っていたが、メイソンに救い出された。しかしメイソ ンもまたろくでもない男で、ターニャはいま、彼の子供を身ごもっている。グレタは 刑事で、離婚したときに手放した娘との関係をうまく築けずに悩んでいる。  ある日、オスカーとルシアは一緒に出かけたショッピングセンターの駐車場で強盗 にあい、オスカーは銃で撃たれて殺され、ルシアも大怪我を負った。ルシアの名前の 由来となっている聖ルシア祭の日で、ルシアの誕生日である12月13日まで、あと9日 という日だった。そしてこの日から、心の中に何かを抱ているルシア、ブレア、ター ニャ、グレタ、この4人の人生がかかわりを持ちはじめる。しかしこの事件は発端に 過ぎず、4人はここからさらに、先の見えない運命に翻弄されていくことになる。  場当たり的と思われた強盗事件だが、犯人はオスカーを撃つ前に「教授」と呼びか けていた。その後、ルシアは自宅の地下洗濯室で5,000ドルの現金を見つけた。薄皮 を1枚1枚はいでいって最後に現れる真実は、ルシアが受け入れるにはあまりにもつ らいものだった。それでも最後は、自らの手で決着をつける。トムテを見たからだ。 トムテとはスウェーデンの伝説上の妖精で、サンタクロースのようなものだ。子供の ころ父親は、このおとぎ話を聞かせてくれた。本書の冒頭では「いい子にしていれば プレゼントをくれる」と語られている。危機的状況におかれた娘のルシアに、オスカ ーがプレゼントとしてトムテを見せ、勇気を与えたのだろうか。  悲惨な話ではあるが後味が悪くないのは、すべてが終わった後、ルシアがきちんと 現実に向き合っているからだ。そんなすばらしいキャラクターを生み出した著者のデ レク・ニキータスは、ルシアと同じ12月13日生まれ。すでに短篇小説を何作か発表し ていて、2007年には国際スリラー作家協会の賞を受けている。                                (吉野山早苗) ◇著者のサイト http://www.dereknikitas.com/ ◇トムテについて http://www.isatokyo.org/opportunity_sweden/people/021216/index.html ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0312363974/whodunithonny-22/ref=nosim ---------------------------------------------------------------------------- "HEAD GAMES" by Craig McDonald A BLEAK HOUSE BOOK/2007.09.15/ISBN: 9781932557435 《メキシコ革命の英雄の頭蓋骨は誰の手に?》  1957年。メキシコ北部、シウダード・フアレス市郊外の酒場。犯罪小説作家で映画 の脚本も手がけるヘクター・ラシターと、彼へのインタビューに訪れた詩人のバド・ フィスクが酒を飲んでいると、詐欺師のビル・ウェイドが、メキシコ革命の英雄パン チョ・ビリャの頭蓋骨を持って現れた。自分はアメリカに入れないので、頭蓋骨をア メリカへ運び上院議員のプレスコット・ブッシュに渡して欲しいと、ビルはヘクタ− に頼む。しかし詳しい事情を聞く間もなく、酒場が襲われてビルが殺される。襲って きた相手をかろうじて倒し、頭蓋骨を持ちだしたへクターとバド。しかしそれは死闘 の始まりにすぎなかった。  革命後何者かに暗殺されたパンチョ・ビリャの頭蓋骨は、エール大学で結成された 秘密結社スカル・アンド・ボーンズの、有名人の頭蓋骨コレクションのために、ブッ シュ上院議員がかつて墓場から盗んだといわれていた。しかしそれがいつのまにか行 方がわからなくなっていた。しかもその頭蓋骨には、お宝の場所を記した地図も隠さ れているという。かくして頭蓋骨を手に入れたへクターとバドは、スカル・アンド・ ボーンズなどから狙われることになる。  日本ではあまり知られていないが、パンチョ・ビリャは実在したメキシコの革命家。 またプレスコット・ブッシュ上院議員は、現アメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュ の祖父にあたる人物。そしてブッシュ家は代々、実際にエール大学のスカル・アンド ・ボーンズのメンバーであるといわれている。  実在の人物と架空の人物たちが絡み合い虚実入り交じっているが、不自然さは感じ られない。またインタビューする側とされる側にすぎなかったへクターとバドが、死 を賭けた闘いの中で友情をはぐくみ固い絆で結ばれていくのは、この物語の軸であり、 読みどころである。  そして映画好きとしては、サイドストーリーではあるが、怪優オーソン・ウェルズ が監督する『黒い罠』の撮影現場が出てきて、ウェルズとヘクタ−がドイツ出身の歌 手で女優の、妖艶なマレーネ・ディートリッヒをめぐって争うシーンも興味深かった。                               (かげやまみほ) ◇著者のサイト http://www.craigmcdonaldbooks.com/index.php ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1932557431/whodunithonny-22/ref=nosim ---------------------------------------------------------------------------- "MISSING WITNESS" by Gordon Campbell HarperCollins-William Morrow/2007.09.25/ISBN:9780061337512 《引き金を引いたのは誰? 弁護士が守るべきものは何?》  1973年秋、アリゾナ州フェニックスで、裕福な農場主の息子トラビス・エディント ンが銃で殺害された。その直前、トラビスのいた小屋を妻リタと12歳の娘ミランダが 訪れ、銃声が響いた後、2人とも小屋を出たのが目撃された。そのとき、リタの手か ら銃が落ちたという証言もあった。  トラビスを撃ったのはリタか、ミランダか? ミランダは情緒が不安定になって粗 暴な行動をとることがあり、事件直前まで精神病院に入院して治療を受けていた。事 件後、リタとともに収監されたミランダは、極度の緊張によって全身が硬直し、言葉 も発せない状態に陥っていた。  トラビスの父は、容疑者とされたリタの弁護を、全米一の法廷弁護士と目されるダ ン・ホーガンに依頼する。ロースクールを出て1年目の新米弁護士ダグことダグラス ・マッケンジーは、ダンの助手として、弁護活動を開始する。  リタの証言を基に、ダンとダグは、鋭く追求してくる検事を相手に、法廷で熱い戦 いを繰り広げる。事件は解決したかと思われたとき、ミランダは回復の兆しを見せ、 驚くべき証言をする。  400ページを超す長編であるが、最後まで緊張感を保ち、手がたくまとめられてい る。検事と弁護士の応酬は火花が散りそうなほど激しく、裁判の進行につれ徐々に明 らかにされる家族の秘密におののく。ややありきたりではあるが、家族の物語として、 若き弁護士の成長物語として、また、法曹界に生きる人々の群像劇としても楽しめる 作品である。  著者ゴードン・キャンベルは60代のベテラン弁護士であり、妻は地方裁判所判事で ある。その経歴を生かしたこの作品は、新人賞候補作というより、中堅作家の手によ る読みごたえのある法廷ミステリという印象を与える。裁判の流れが丁寧に描かれて いるので、法廷ミステリ最初の1冊としても勧めたい。                                 (中島由美) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/006133751x/whodunithonny-22/ref=nosim ---------------------------------------------------------------------------- "SNITCH JACKET" by Christopher Goffard Vintage/2008.02.04/ISBN: 9780099501398 《酒場の常連のベニーにはもうひとつ別の顔があった》  おしゃべりで気のいいベニー。仕事はレストランの皿洗いで、家に帰れば女房にが みがみ言われるが、行きつけの酒場で呑み仲間たちと過ごすのをなによりの楽しみに していた。しかし物語は、そんなベニーが拘置所で国選弁護人と接見するところから 始まる。問われている罪は、銃器による殺人、放火による殺人、殺人の共謀、と凶悪 なものばかり。けれどもベニーはそのすべてを否定した。そして、なぜそんな泥沼に はまってしまったのか、事の始まりから弁護士に語っていく。  そもそもベニーはある刑事の情報屋をしていたのだと言う。麻薬を売っていたとこ ろをおとり捜査に引っかかり、引っかけた当の刑事ムニョスにスカウトされたという のだ。酒場に足しげくかよって内偵し、麻薬売買などの情報をつかんではムニョスに 教えていた。そんな酒場のひとつで知り合ったガスは、ベトナム戦争帰りの大柄な男 だ。その異様な雰囲気から、酒場の常連は敬遠しがちだったが、ベニーは心を許す友 になった。しかし、なんといってもベニーは情報屋だ。ガスにある違法な「仕事」を 持ちかけられたときも、迷いはあったがムニョスに報告した。ガスははっきりとした ことは言わなかったが、殺人を依頼されたらしいのだ。かくして、ベニーは不承不承、 マイクを服の下に忍ばせてガスに同行したが、警察は途中でベニーを見失った。その 間に事件が起きてしまい、最終的にベニーが逮捕される羽目になったというわけだ。 ただ、その裏には、いろいろな人間の思惑と企みが交錯していたのだが……。  随所に張り巡らされた伏線、最後にすべてのピースがぴたりとはまる感覚、そうい ったこの小説の構成はかなり好みだったが、それにもまして、主人公ベニーのキャラ クターは最高によかった。幸せとはいえない子供時代を経て、未成年のうちに家を出 てひとりで生きざるを得なかったベニーだが、いつも前向きで、口も軽いが心も軽い。 スパイダーマンが大好きで、ヒロインのグウェン・ステイシーは心の恋人だ。空想癖 はあるが現実は忘れない。清廉潔白とはいかないけれど、とにかく憎めないキャラク ターなのだ。久しぶりに不満な点なく楽しめるミステリに出会えた気がする。                                 (矢野真弓) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0099501392/whodunithonny-22/ref=nosim ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■注目の邦訳新刊レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『名探偵モンク モンクと警官ストライキ』 "MR. MONK AND THE BLUE FLU"  リー・ゴールドバーグ/高橋知子訳  ソフトバンク文庫/2008.03.31発行 720円(税別)  ISBN: 9784797343182 《刑事に復職したけれど、部下はモンク顔負けの個性派揃い。事件は解決できるか?》  潔癖症で強迫観念症。人と握手をしたあとはウェットティシュで手を拭く。シャツ のボタンは一番上まできっちり留める。犬の糞が落ちているドッグパークを有害廃棄 物処理場と呼ぶ。サンフランシスコ市警察の刑事だったが、強迫観念症が悪化したた めにいまは休職中。しかしコンサルタントとして市警に協力し、超人的な推理能力を 発揮して数々の難事件を解決している。そんな、ひとくせもふたくせもあるエイドリ アン・モンクを主人公にしたテレビドラマ『名探偵モンク』は、本国アメリカでも日 本でも大人気だが、このドラマの脚本をいくつか担当しているリー・ゴールドバーグ による小説版のモンクが、オリジナル作品として登場した。ドラマから取り出したい くつかのエピソードもうまく料理しなおし、よりおいしくして作中にちりばめている。  シリーズ2作目の本書で、モンクは市長に請われて念願だった刑事へ復職する。と いっても、警察官組合が待遇改善を求めてストを決行することにしたため、人手がな くなったからに他ならない(警官のストは認められていないので、インフルエンザに かかったことにしてみんなで一斉に休む、という計画だ)。しかしその要請を受け入 れれば、何かと気にかけてくれる友人のストットルマイヤー警部を裏切ることになる。 モンクのアシスタント、ナタリーはこの状況での復職に反対するが、モンクは刑事の バッジの魅力には抗えず、復職の話を受け入れてしまう。  モンクが持つことになった3人の部下も、問題を抱えて警官の職を離れていたが、 今回復職した面々だ。暴力的な捜査が過ぎて、バッジを取り上げられたワイアット。 囮捜査官としての生活が長すぎて、あらゆることに陰謀のにおいを嗅ぎつけてしまう チャウ。信頼はおけるが、傍からみても分かるほどの物忘れをするようになって退職 したポーター。モンク顔負けの個性派ばかりだ。  折りしも、女性を狙った絞殺事件が立て続けに起きている。また、モンクが復職し たとたんにあらたな殺人事件が起き、さらに別の殺人事件も続く。はたしてモンクと 部下たちは、事件を解決できるのか? ストの行方は? モンクとストットルマイヤ ーの友情はどうなるのか? 本格的ミステリとして十分に成立している事件解決まで の道筋はもちろん、モンクのキャラクター、かつて警察のお荷物だった部下たちの活 躍、テレビ版でモンクの吹き替えをしている角野卓造氏による、モンクへの愛情あふ れる解説まで、読みどころ満載の1冊だ。                                (吉野山早苗) ◇Monkのオフィシャル・ホームページ http://www.usanetwork.com/series/monk/ ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797343184/whodunithonny-22/ref=nosim --------------------------------------------------------------------------- 『野良犬の運河(上・下)』 "THE DEVIL'S PLAYGROUND"  スタヴ・シェレズ/松本剛史訳  ヴィレッジブックス/2008.03.20発行 (上)720円(税別)、(下)640円(税別)  ISBN: 9784789732802(上)、9784789732819(下) 《ホームレスの老人が追っていたのは? 歴史と人の心の深奥を描く慟哭のミステリ》  ロンドンでひきこもりがちに暮らすウェブ・デザイナー、ジョン・リードは、ホー ムレスの老人ジェイクが気になり、フラットに誘う。気まずい時間を過ごし、ぎこち ない会話を交わしながらも、共通の音楽をきっかけにふたりは少しずつ心を通わせて いく。ある夜、ジョンはふとしたはずみで、ジェイクの身体に無数の傷があるのを目 にする。翌日、ジェイクは姿を消し、奇妙な共同生活は一方的に終結する。  数か月後、ジョンのもとに、アムステルダムからジェイクらしき男性の遺体が見つ かったとの知らせが入る。身元確認を求められてアムステルダムに飛んだジョンは、 ジェイクが残した不可解な数字のメッセージを見て、ジェイクは自分に何か伝えたか ったのではないかと思い、その足跡をたどり始める。そのころ、アムステルダムでは 連続殺人事件が世間を震撼させていた。アムステルダム警察の刑事ファンヘインは、 ジェイクが事件に関係しているのではないかと疑い、その身辺を探ろうとする。当初 は反目しつつもいつしか協力し合うようになったジョンとファンヘインは、ジェイク がホロコーストにまつわるフィルムを追い求めていたことを知る。フィルムに秘めら れた謎とは? ジェイクの死の真相は?  残虐な虐殺の歴史に踏みにじられた人々と、その歴史をたたえ継承しようとする人 々との間に今も残る相克、そして、その歴史が情報網の発達した現代社会でどのよう にして生き延びようとしているかがリアルに描かれている。登場人物はみな、病んだ 部分を抱え、麻薬や自傷行為、奇妙な嗜癖にとりつかれている。過去と現在が織り混 ざり、絡み合った関係がほぐされるにつれ、身の毛がよだつような事実が明るみにさ れていく。運河の街アムステルダム、その街から引き離された人々、引き離した人々、 今もその街で暮らす人々、それぞれの思いが運河をたゆたう。  ロンドン在住のフリージャーナリスト兼音楽評論家スタヴ・シェレズは、本作が大 手出版社の目にとまってデビューし、本作は2004年CWA最優秀新人賞候補となった。  歴史とその中に生きる人々の心の深部を描いた本作は、さまざまな要素を盛り込み すぎていささか混沌とした印象を与えるが、重く暗いテーマであるにもかかわらず、 どこか希望を感じさせる。それは、作中にちりばめられた音楽や、アウシュビッツで 26歳の命を絶たれたユダヤ人画家シャルロッテ・サロモンに負うところが大きい。シ ャルロッテは1300点もの自伝ともいえる絵を残し、奔放な色づかいと象徴性にあふれ た表現は、今も多くの人の心を揺さぶり続けている。  歴史と自己の深奥に目を向けたとき、本作のテーマは、だれにとっても、意外と近 いところにあるような気がする。                                 (中島由美) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4789732800/whodunithonny-22/ref=nosim http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4789732819/whodunithonny-22/ref=nosim ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■速報 ―― MWA賞・アガサ賞受賞作発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●MWA賞受賞作発表  第62回MWA賞の各部門受賞作が発表された。主要4部門の受賞作は以下のとおり である。 ▼最優秀長篇賞  "DOWN RIVER"       ジョン・ハート ▼最優秀処女長篇賞  "IN THE WOODS"      Tana French  本号特集のレビューを参照いただきたい。 ▼最優秀ペイパーバック賞  "QUEENPIN"        ミーガン・アボット ▼最優秀短篇賞  "The Golden Gopher"   Susan Straight (LOS ANGELES NOIR)  上記4部門以外の受賞作については、MWAの公式サイトをご覧いただきたい。  http://www.mysterywriters.org/?q=Home ---------------------------------------------------------------------------- ●アガサ賞受賞作発表  アガサ賞も受賞作が発表された。主要部門の結果は以下のとおり。 ▼最優秀長篇賞  "A FATAL GRACE"   Louise Penny ▼最優秀処女長篇賞  "PRIME TIME"    Hank Phillippi Ryan ▼最優秀短篇賞  "A Rat's Tale"   ドナ・アンドリューズ          (Ellery Queen Mystery Magazine, Sept/Oct, 2007)  その他の部門については以下のサイトをご覧いただきたい。  http://www.malicedomestic.org/                               (かげやまみほ) =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  GWは高尾山にハイキングに行きました。ハイキングのお供に持参した本は『クラ シック・ミステリのススメ』です。                   (清) ****************************************************************************  海外ミステリ通信 第68号 2008年5月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、佐藤枝美子、中島由美、矢野真弓      山田亜樹子、吉野山早苗  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans21.net/bbs/75/wforum.cgi  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2008 Whodunit Honyaku Club ****************************************************************************