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"FOOL'S PUZZLE" 1994  夫亡き後、職に就いたフォークアート博物館で陶芸家が殺害された。現場で目撃さ れた親戚の娘に容疑がかかり、臨時警察署長ゲイブとぶつかりながらも、ベニは真相 を探っていく。 2. "IRISH CHAIN" 1995  “シニア・プロム”に参加した男女が遺体で発見された。死亡した男性の甥は元カ レで、久しぶりの再会にベニの心は揺れる?! 太平洋戦争時の在米日本人収容所の話 が絡む。 3. "KANSAS TROUBLE" 1996  結婚式を挙げたベニはゲイブと共に彼の故郷カンザスへ。歓迎会で歌手が殺され、 犯人探しをするベニはゲイブの親友たちを悩ませる。アーミッシュの逸話もあり。 4."GOOSE IN THE POND" 1997  アガサ賞最優秀長篇賞ノミネート 5. "DOVE IN THE WINDOW" 1998 アガサ賞最優秀長篇賞ノミネート 6."MARINER'S COMPASS" 1999 アガサ賞最優秀長篇賞受賞 7. "SEVEN SISTERS" 2000  継息子サムが結婚宣言! しかも、相手はゲイブの部下のブリスだ。実母、つまり ゲイブの前妻も乗り出し、あげくはブリスの実家で殺人事件までおきてしまい……。 8. "ARKANSAS TRAVELER" 2001 アガサ賞最優秀賞ノミネート 9. "STEPS TO THE ALTAR" 2002  エルビアとダヴのダブル結婚式の準備に大忙しのベニ。だが、ある遺品の目録作り を依頼され、数十年前の未解決殺人事件にどうしても意識が飛んでしまうのだった。 10. "SUNSHINE AND SHADOW" 2003  ベニの好きなミステリ作家がサン・セリーナを訪れる。その直後、殺人事件が起こ り、ベニのもとに匿名の手紙が届く。「次の犠牲者はおまえだ!」 11. "BROKEN DISHES" 2004  知人が始めた観光用牧場を手伝い、客集めに成功するベニ。だが、敷地内で犬が人 骨を見つけたために客足が遠のく。危機感を抱いたベニは、真相解明に乗り出す。 12. "DELECTABLE MOUNTAINS" 2005  ベニが教会の祭壇の前で管理人の遺体を見つけ、博物館からは貴重なバイオリンが 消える。2つの謎をめぐって、ベニとゲイブが奔走する。 13. "TUMBLING BLOCKS" 2007  博物館のオーナー、コンスタンスがベニに、友人アルバの死について調べてくれと 頼む。アルバは何者かに殺害されたとコンスタンスは確信していた。 ★シリーズ外作品 "THE SADDLEMAKER'S WIFE" 2006  アガサ賞最優秀長篇賞ノミネート ---------------------------------------------------------------------------- ●ベニ・ハーパー・シリーズ "GOOSE IN THE POND" by Earlene Fowler Berkley Prime Crime Mystery/1998.03/ISBN: 9780425162392 《フェスティバルに殺人事件……ベニの前には問題山積》  ゲイブとのジョギング中、ベニは沼に浮かぶ死体を見つける。まわりの状況からし て、どうやら殺されたらしい。マザーグースをイメージさせる衣装を身につけたその 死体が、ノーラだということはすぐにわかった。図書館でストーリーテラーとして働 くノーラは、自分が語るお話にあわせた衣装をいつも着ていたからだ。ベニはノーラ が人から恨まれ、殺されるような人物だとは思っていなかった。しかし彼女は匿名の コラムニストとして、町のちょっとした有名人たちを地元の週刊新聞でこき下ろして いたのだ。やり玉に挙がり、彼女の正体を知った何者かが殺したのだろうか? ノー ラも参加するはずだった、町のストーリーテリング・フェスティバルの準備の合間を ぬって、ベニは独自に事件を調査する。  そこへ突然、ゲイブと前妻との間に生まれた息子のサムが姿を現す。サムとはじめ て会ったベニは喜ぶが、父親のゲイブはそれほどではなく、むしろサムとはことある ごとに口論となる。2人の関係に心を痛めるベニはなんとかしようと思うが、サムの 話題になるたびにゲイブの機嫌は悪くなる。その上はとこのリタや、ガーネットとけ んかして家を飛び出してきた祖母のダヴまでがやってきて、家の中は落ち着かない。  パッチの1つ1つに思い出の一場面や品物をアップリケし、1枚のキルトに物語を つづるストーリーテリング・キルト。フェスティバルの一環として展示されるキルト は、思い出や愛情がたっぷりつまった、作者やその家族の人生が凝縮されたものだ。 それを見るうちに、家の中のごたごたを忘れベニの心が和んでいく。またストーリー テリング・キルトは、知っていると思っていた人間の知らない一面をかいま見せるこ ともある。話が進むにつれて、ノーラだけではなくサン・セリーナのストーリーテラ ーたちの、それまで見えなかった一面が見えてくる。  キルトを説明する部分を読んでいると、そのキルトが目の前にあるように思えてき て、ファウラーのキルトに対する愛情も一緒にこちらに伝わってくる。もちろん、登 場人物への愛情も、行間からにじみ出ていることを忘れてはいけない。 〈ベニ・ハーパー・シリーズ〉のキルトをモチーフにした本が出ているという。作る のは苦手だが見るのは大好きなので、チャンスがあればその本も見てみたい。                               (かげやまみほ) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0425157822/whodunithonny-22/ref=nosim "DOVE IN THE WINDOW" by Earlene Fowler Berkley Prime Crime Mystery/1999.05/ISBN: 9780425168943 《今はもう“家族”ではないといいつつも、やはり放っておけないのがベニ!》  感謝祭の週末、ベニの実家、ラムジー牧場では、毎年恒例のバーベキュー・パーテ ィーが催された。親戚一同、親しい友人を招いての盛大なパーティーだ。今年はアー カンソーから遠縁で幼なじみのエモリーがはるばるやって来たので、久しぶりの再会 にベニの心は弾んでいた。だが一方で、招かれざる客もやってきた。ベニの元義兄、 トラブルメーカーのウェイドが、ふらりと牧場を訪れたのだ。今は亡き前夫ジャック の面影をもつ彼の出現に、夫ゲイブの心中は穏やかではなかった。  バーベキューにはベニの職場のアーティストたちも招かれていた。しかし、その中 のひとり、将来有望な若き写真家シェルビーが、翌朝、変死体となって発見される。 前日に彼女ともめていたことから、ウェイドに嫌疑がかかった。ベニはジャックの愛 した兄が容疑者となるのを放っておけずに行動に出るが、警察署長を夫にもつベニに とって、それは新旧の身内の間で板ばさみになることを意味していた。  今でこそ酒飲みで女にだらしなく、どうしようもないウェイドだが、若くして父を 亡くした彼は、朝から夜中まで働いて幼い弟や母親を養う、誰よりも弟思いでベニに も優しい兄だった。そんなウェイドを見るたびにジャックを思い出していたベニにも、 少しずつ変化が現れる。ベニがジャックの死を本当の意味で乗り越えようとするラス トシーンに胸を打たれた。  しかし、注目度でいえばこの人も負けてはいない。これまで電話の向こう側だけで 登場してきたエモリーだ。南部紳士でハンサムなエモリーは性格も最高にいい。ベニ とは父方と母方の両方に遠いつながりをもつ親戚関係だが、歳も近く、幼いころにラ ムジー牧場でともに過ごしたこともあって、ふたりは親友といえる間柄だ。その彼は ベニのもうひとりの親友エルビアに首っ丈で、今回サン・セリーナを訪れたのも彼女 とのデートが目的だった(実は、過去2回の事件で、ベニは情報を提供してもらう代 わりにエルビアとのデートのセッティングを約束していた!)。当のエルビアは彼を 毛嫌いしているのだが……。はてさて、どうなることやら、今後の展開が楽しみだ。  今後の展開といえば、もうひとつ忘れてならないのが、なんと、あのベニの祖母ダ ヴにボーイフレンドができたことだ。どこまでの関係なのかは定かでないが、それも これからの作品で語られるだろう。読後、すぐに次を読みたくなるシリーズである。                                 (矢野真弓) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0425168948/whodunithonny-22/ref=nosim "MARINER'S COMPASS" by Earlene Fowler Berkley Prime Crime/2000.04.10/ISBN: 9780425174081   《ベニに遺産を相続させると遺言を残した人物の正体は?》  キルトのパターン名がタイトルとなっている〈ベニ・ハーパー・シリーズ〉の6作 目。今回ベニは友人のアマンダからの電話で、自分が遺産相続人になったことを知る。 その遺言を残したのはジェイコブ・チャンドラーなる人物で、相続の条件はベニがひ とりで2週間、チャンドラーの住んでいた家に滞在すること、という奇妙なものだ。 しかしさらに奇妙なのは、チャンドラーとはだれなのか、ベニにはまったく心当たり がないことだった。  とりあえず遺言どおりにチャンドラーの家に滞在することにしたベニは、なんとか 彼の素性を知ろうと家のなかを調べ回るうちに、キルトを見つける。そのパターン名 は「マリナーズ・コンパス」、つまり羅針盤だ。チャンドラーの遺品から得たメッセ ージが羅針盤よろしく、ベニを様々な方向に導き、ひとつの驚くべき真実へと向かわ せる。しかしその過程で、いやがらせを受けたり家のガレージが放火されたり、さら にはチャンドラーの遺産を狙っているらしき人たちが現れたりして、夫のゲイブは気 をもむことになる。  時は奇しくも5月、母の日を挟んで進む話のなかで、ベニは6歳のときに亡くした 母への思い、母親代わりに育ててくれた祖母のダヴへの思い、同じく子供のときに母 を亡くした、親戚で幼なじみのエモリーとしか共感できない思い、そしてずっと再婚 せずにきた父への思いを、幾度となく語る。ベニはまた、母が残してくれたシグニチ ャー・キルトをダヴから譲り受ける。ベニに、そしてこれから生まれてくるであろう ベニの子供に向けて、母とその友人たちから贈られたメッセージはひとつひとつは短 い言葉ながらも、すべてが心に響いてくる。幼いときに母親を亡くしたことはどれほ どつらい体験だったか、それでもなんと多くの人に支えられてきたのだろうかと、一 読者としても哀しくなったり感謝したくなったりする。  本作は、2000年度のアガサ賞最優秀長篇賞を受賞している。今回ベニが解くのは殺 人の謎ではない。それでも充分ミステリアスで、その結末には驚かされ、つぎにあた たかい気持ちになる。シリーズのなかでも、異色の作品だろう。                              (吉野山早苗) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0425174085/whodunithonny-22/ref=nosim "ARKANSAS TRAVELER" by Earlene Fowler Berkley Prime Crime/2002.04/ISBN: 9780425184288 《大叔母の住むアーカンソーの小さな町を10年ぶりに訪れたベニが見たものは?》  ベニは10年ぶりに、大叔母のガーネットが住むアーカンソー州の町シュガーツリー を訪れた。町を離れた信者と町に残っている信者が10年ぶりに再会して親睦を図るホ ームカミング・フェスティバルが教会で催されるためで、ベニは子どものころの夏を ガーネットの家で過ごして、町の同年代の友達と遊んでいたのだ。今回は、夫のゲイ ブ、祖母のダヴ、そのボーイフレンドのアイザック、親戚のエモリー、その恋人であ りベニの親友でもあるエルビアも町を訪れた。  けれど、久しぶりに見る町は、ベニがかつて見ていた町とは違うものになってしま っていた。大叔母たちの所属するバプテスト教会は若者が減って財政的に苦しくなっ たため、アフリカ系アメリカ人の教会と統合する話が出ている。そして、目前に迫っ た町長選挙に立候補しているのは、白人の現職と、ベニの子ども時代の友達である黒 人女性のアーメンの2人。だが、90年代の今でも人種差別の残る南部のこの町では、 黒人の教会との統合に対する抵抗感が強く、黒人の、それも女性が町長に立候補した ことを快く思わない人間も大勢いるのだ。ある日、町長の息子トビーが仲間とともに、 アーメンの選挙資金集めのパーティを妨害し、その夜、トビーが殴り殺され、アーメ ンの甥のクイントンが逮捕された。パーティを妨害されて怒ったクイントンは、その 夜、トビーの後をつけまわしていたという。だが、クイントンは本当に犯人なのか? ベニが世間話から得た情報では、トビーは多くの人間から恨まれていたようなのだ。  周囲の人びとの語るベニたちの子ども時代のいたずらの数々や、昔から有名だった ダヴとガーネット姉妹の激しいけんかには笑ってしまうし、フェスティバルの様子も 楽しい。だが、ヒスパニックであるゲイブとエルビアも人種差別を受け、その結果、 エルビアとエモリーのあいだに危機が訪れたり、ゲイブやエルビアのことを思って白 人のベニが胸を痛めるということもおこる。ゲイブは休暇中である上、人種差別を受 けているので、なるべく事件から距離をおこうとするが、ベニが首をつっこもうとす るため、いや応なく巻き込まれてしまう。そんな中で、自分なりの方法で人種差別と 戦いながら警官として毅然と振る舞うゲイブの姿が印象的に描かれた作品だ。                                 (石田浩子) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0425184285/whodunithonny-22/ref=nosim ---------------------------------------------------------------------------- ●シリーズ外作品 "THE SADDLEMAKER'S WIFE" by Earlene Fowler Berkley Prime Crime/2006.05/ISBN: 9780425207789 《夫はいったい何者なの? 素朴な疑問が暴く、封印された家族の秘密》  カリフォルニア州南西部の小さな町にあるカフェでコックとして腕をふるうルビー は、近くの建設現場で働くコールと恋に落ちた。出会って3か月後に結婚するものの、 幸せは長くはつづかなかった。結婚して半年、コールが交通事故でこの世を去ったの だ。遺言のなかでコールは、彼の故郷にある土地をルビーに遺していた。その土地は、 コールと母親、弟ふたりの4人で均等に所有しているものだと知り、ルビーはショッ クを受ける。家族は何年も前に事故で死んだと聞かされていたからだ。さらにルビー を驚かせたのは、コールの実家が地元では裕福な名家として知られているという事実 だった。  コールはなぜ自分の素性を隠していたのか。そんな疑問を胸に彼の故郷を訪ねるル ビーだが、コールの末弟で馬具職人のルーカスから、さらに恐るべき話を聞かされる。 コールは20代のときに父親を殺して逮捕され、服役していたのだ。事件当時、まだ少 年だったルーカスは詳細を知らされておらず、事件の目撃者である母親のジューンと 次男のデレクはなにも語ろうとしない。温厚で、声を荒らげたことすらないコールが なぜ? ルビーは心を激しくかき乱されながらも、どこか釈然としないものを感じ、 くわしい話を聞いてまわろうとするのだが……。  1994年のデビュー以来、キルトをモチーフにした〈ベニ・ハーパー・シリーズ〉を 書いてきたアーリーン・ファウラーだが、本作は初のスタンドアローン作品である。 シリーズとくらべ、暗く重い内容ではあるが、にぎやかなパーティの模様や、ランチ 時のダイナーの喧噪など、明るく心なごむ場面がバランスよく盛りこまれており、重 苦しいだけの内容にはなっていない。不遇な子ども時代を過ごしたルビーは人づきあ いがへたなうえ、夫を失った悲しみがようやく癒えてきたばかりだ。そんな彼女が見 知らぬ人ばかりの町で、孤独と不安にさいなまれながら、必死に真実を探ろうとする。 その一途な思いが行間からひしひしと伝わってくる。また、ルーカスをはじめとする 町の人のあたたかさに触れた彼女が、かたくなな心を次第にひらいていく様子がてい ねいに描かれているのもいい。真相は衝撃的だが心あたたまる終わり方に救われる。 ルビーのこれからのしあわせを願わずにはいられない。                                (東野さやか) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0425207781/whodunithonny-22/ref=nosim ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■未訳原書レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ "STILL LIFE" by Louise Penny St.Martin's Minotaur/2006.07/ISBN: 9780312352554 《長いあいだ犯罪の起こらなかった小さな村で起きた老婦人の変死の原因は?》  感謝祭の朝、カナダのケベック州にあるスリーパインズという村の森の中で、76歳 の女性ジェーン・ニールが亡くなっているのが見つかった。ジェーンはほんの2日前 に、展覧会に絵を出品できることになって大喜びしていたばかりだった。ケベック警 視庁のガマーシュ警部率いるチームが捜査を始め、傷口の形から、死因は今では使わ れていない古い木製の矢を射られたためということがわかった。ちょうど弓矢による 狩猟シーズンの最中だが、ジェーンの死は事故によるものなのか、それとも……。だ が、凶器となった矢は見つかっていない。  村の住民に話を聞いていくと、ジェーンには変わった点のあったことがわかった。 客はキッチンまでしか入れなかったし、長年描いていた絵は、今回の展覧会までは絶 対に人に見せなかったのだ。けれど、住民はそのことに慣れてしまっていたという。  ガマーシュ警部は人間をよく観察し、人の話にじっくりと耳を傾けながら捜査を進 めていく。チームワークを大切にし、部下にとって良き指導者であり、毎回捜査チー ムに新人を1人入れて育てようともしている。そして、捜査に関して納得できないこ とには決して妥協しない。その警部のチームに長く入っていて、警部を尊敬し慕って いる警部補。チームに配属されて捜査に役立つ意見は言えるものの、出世願望が強す ぎて警部の言うことを理解せずチームワークを乱してばかりいる婦警。ジェーンを母 のように慕っていたクララとその夫の画家夫妻。村で1軒しかないB&Bを経営する 同性愛者の男性たち。ジェーンの死を知っても遺産のことしか考えないジェーンの姪 とその家族。ジェーンの死が中心にあって織り成される物語であり、捜査の過程で多 くの人びとの秘密が明るみに出たり、辛いことも起こったりするのだが、人びとが愛 情こめて語るジェーンの人柄のせいか、ガマーシュが住民たちの中に入り込んで捜査 を進めていくためか、雰囲気は少しも暗くなく、全体的にどこかほのぼのとしている。  著者は長年カナダ放送協会でジャーナリストとして働いてきたが、現在は犯罪小説 執筆に専念しているらしい。本作はCWAニュー・ブラッド・ダガー賞などを受賞し ており、ガマーシュ警部ものはシリーズとなって続いている。                                 (石田浩子) ◇著者のサイト http://www.louisepenny.com/ ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0312352557/whodunithonny-22/ref=nosim ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■注目の邦訳新刊レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『制裁』"ODJURET"  アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム/ヘレンハルメ美穂訳  ランダムハウス講談社/2007.07.01発行 950円(税別)  ISBN: 9784270101070 《犯罪者に対する制裁は、正義なのか暴力なのか?》  愛する家族が無残に殺されたとき、いったいだれが制裁を下すべきなのか? 2005 年にグラスニッケル賞(最優秀北欧犯罪小説賞)を受賞したこの作品は、重いテーマ を突きつけてくる。  舞台はスウェーデンの町。幼い少女ふたりが強姦され殺されるという、卑劣極まり ない事件が起きる。犯人はほどなくして逮捕されるが、4年後にその犯人ベルント・ ルンドは護送中に脱走し、ふたたび少女を魔の手にかける。  脱走したルンドに娘を殺された父親のフレドリック・ステファソンは、自責の念に とらわれる。保育園の前で次の餌食とする少女を探していたルンドを見かけたとき、 ほかの園児の父親だと思い会釈までしていたのだ。やがてステファソンは自分の手で ルンドを殺そうと決意し、別の保育園でふたたび少女を探していたルンドを見つけ、 射殺する。  次にまた起きるかもしれない事件を防いだとして、ステファソンは自分の知らない ところで英雄となっていく。その英雄の行動に刺激され、ある町の住人たちは過去に わいせつ事件を起こした男性がまた同じような犯行を犯すかもしれないと危惧し、彼 の家に放火する。正当防衛を主張した、小児性愛者に対する暴行事件がたて続けに起 きる。気持ちは理解できるが、はたしてそれらの行動は正しいのだろうか?  タイトルの "ODJURET" は「怪物」「野獣」を意味するが、この話の中で怪物はい ったいだれなのか。もしかしたら、娘を殺されたステファソンさえも、怪物になって しまったのかもしれない。スウェーデンに死刑制度はなく、犯罪者たちは充分な矯正 教育を受けることもなく日常へ戻ってくる。そんな状況で一般市民がステファソンの 行動を自分の都合のいいように解釈することで、その人もまた怪物になってしまう可 能性、その恐ろしさを、この物語は余すことなく語っている。  以前あるテレビ番組で「死刑制度反対」の立場をとるドイツ人男性が、「自分の子 供が殺されたらどうするか」と訊かれて、こう答えていた。「僕は結婚していないし、 子供もいないから分からない。でもそうなったら、僕がそいつを殺す」                              (吉野山早苗) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4270101075/whodunithonny-22/ref=nosim ---------------------------------------------------------------------------- 『大鴉の啼く冬』"RAVEN BLACK"  アン・クリーヴス/玉木亨訳  創元推理文庫/2007.07.27発行 1100円(税別)  ISBN: 9784488245054  純白の雪原に広がる黒い髪に、首に食い込んでいるのは深紅のマフラー、そして顔 をつつくのは髪よりも黒い3匹の鴉。女子高生キャサリンは、新年に孤独な老人マグ ナスを友人のサリーと訪ねた4日後に絞殺された。キャサリンの殺害を耳にした、シ ェトランド諸島の小さな村の人々は、一様に8年前の少女失踪事件を思い浮かべた。 11歳だったカトリオナもまた、知的な障害を持つマグナスを訪ねたのちに姿を消して いる。当時、疑惑の目がマグナスに向けられたものの結局事件の輪郭ははっきりとせ ず、またカトリオナも見つからなかった。  2006年度CWA最優秀長賞受賞作。そして同じ諸島を舞台にした〈シェトランド四 重奏〉の第1作である。舞台となるシェトランド諸島は実在の島で、北極圏まであと 少し、夏には白夜が訪れるというイギリス最北端の地だ。この狭い集落を背景として、 アン・クリーヴスは本格ミステリの歴史に連綿と続く「小さな村の殺人事件」を描き 出した。キャサリン殺しの真相はミステリとして見事である上に酷い。 〈シェトランド四重奏〉のみならず、この作家のミステリをどんどんと翻訳しても らいたい。                                 (柳田有里) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4488245056/whodunithonny-22/ref=nosim ______________________________________                                   ΛΛ οοΟ○οο。。。黒猫フーダの散歩道。。。οοΟ○οο。。。   ミ・.・ミ                                   (m m)/γ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 《ベニ・ハーパーとキルトの世界》  今号で特集した〈ベニ・ハーパー・シリーズ〉のタイトルは、すべてキルトのパタ ーン名から付けられている。そう、小さく切った四角や三角のピースをつなぎ合わせ、 裏布との間に綿を挟んで縫い込んでいく、あのパッチワークキルトの図柄の名前なの だ。どんな図柄かは、それぞれ本の表紙に描かれているが、たとえば、"FOOL'S PUZZLE" は正方形の中の一角を扇形の別布に変えた図柄、"KANSAS TROUBLES" は大小 の三角を使ってギザギザの風車のような模様を作り、『オズの魔法使い』のドロシー の故郷カンザスの竜巻を現している。  ひと口にキルトといってもさまざまなものがある。日本でも知られている前述のパ ッチワークキルトは、ピースをつなぎ合わせて幾何学模様を作り、組み合わせる布地 の色柄でグラデーションの美しさを楽しむタイプ。"KANSAS TROUBLES" では、無地の 布を使うのが特徴のアーミッシュキルトも登場する。一方で、具体的な物の形に切り 抜いた布を縫い付けていくアップリケキルトもある。"GOOSE IN THE POND" では、博 物館主催のストーリーテリング・フェスティバルにあわせてストーリー性を持たせた キルトを展示していた。日常生活の1コマや楽しい思い出などを、絵画を描くように キルトにしていくのだ。そこまでくると、まさに芸術品だ。実際、ファウラーがキル ト制作者と共同で出版した "BENNI HARPER'S QUILT ALBUM" には、物語にちなんでデ ザインされたキルトの写真がいくつも掲載されているが、本当に美しい。手作りであ ることに感心すると同時に、絵画を鑑賞している気分になる。  ところで、そもそも、ファウラーはなぜキルトを小説のモチーフにしようと思い立 ったのだろうか? これは、日本人だから感じる疑問なのかもしれない。なぜなら、 欧米人にとってキルトは、今でこそ愛好者はごく一部になったのだろうが、かつては 生活の中にごく普通に存在していたからだ。たとえば友人の結婚祝いに、娘の出産祝 いにと、心を込めて手作りされ贈られてきた。キルトというと普通はベッドスプレッ ドとして使う大きなものを指すようなので、手間隙がかかるのは言うまでもないが、 そのひと針ひと針に思いが込められている。母から娘へと受け継がれていくキルトに は、その家族の歴史がつまっているのだ。キルトは生活に密着したアートと言えるだ ろう。この〈ベニ・ハーパー・シリーズ〉を楽しむとともに、キルト展などを訪れて キルトの魅力にふれてみてはいかがだろうか。                                 (矢野真弓) "BENNI HARPER'S QUILT ALBUM" by Earlene Fowler & Margrit Hall C&T Publishing/2004.11/ISBN: 9781571202444 ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1571202447/whodunithonny-22/ref=nosim =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  早いものでもう9月、そろそろ年間ベスト10の季節となりました。早川書房では一 般読者からのベスト・ミステリの投票を募っています。投票するとこれまで以上にベ スト10の発表が楽しめるかもしれませんね。               (清) ****************************************************************************  海外ミステリ通信 第64号 2007年9月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、佐藤枝美子、中島由美、森まり、      柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子、吉野山早苗  協 力:東野さやか      出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans21.net/bbs/75/wforum.cgi  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2007 Whodunit Honyaku Club ****************************************************************************