■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■               月刊 海外ミステリ通信           第60号 2007年2月号(隔月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈インタビュー〉    法月綸太郎さん 〈速報〉        MWA賞、ハメット賞ノミネート作品発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■インタビュー ―― 法月綸太郎さん ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  2月10日《KAWADE MYSTERY》から、ロバート・トゥーイの初短篇集『物しか書けな かった物書き』(河出書房新社)が刊行された。今月は本書の編者をなさった作家の 法月綸太郎さんに短篇集編纂の裏話やお好きなミステリについてお話をうかがった。 +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ |《法月綸太郎さん》島根県出身。京都大学法学部卒。1988年『密閉教室』でデビ| |ュー。2002年「都市伝説パズル」で第55回推理作家協会賞[短篇部門]受賞。著| |作には『生首に聞いてみろ』『怪盗グリフィン、絶体絶命』『法月綸太郎ミステ| |リー塾 日本編/名探偵はなぜ時代から逃れられないのか』『法月綸太郎ミステ| |リー塾 海外編/複雑な殺人芸術』『ノーカット版 密閉教室』などがある。 | +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ ――今回トゥーイの短篇集の編者をなさることになったきっかけを教えてください。 《SFマガジン》2004年7月号で「異色作家短篇集・別巻」という特集をやったとき に、どうしてだかわからないんですけど僕のところに「私の偏愛する異色作家」とい うエッセイの依頼がきたんです。デイヴィッド・イーリイの『ヨットクラブ』がでた ばかりだったので最初はイーリイで書こうかなとも考えたのですが、そういえばトゥ ーイという好きな作家がいたっけと思いだしたんです。ただ、変な作家なんですけど 異色作家とはちょっと違うかなと思って「異色作家になりそこねた男」というタイト ルでエッセイを書きました。  僕はそれまで《EQ》に載っていたトゥーイの作品しか読んでいなくて、最高傑作 といわれる「物しか書けなかった物書き」も読んでいなかった。もし持っている人が いたら貸してくださいとそのエッセイに書いたら、早川書房の編集部の方が《ミステ リマガジン》のバックナンバーに載っていたトゥーイの短篇を全部コピーして送って くれたんです。それではじめて《ミステリマガジン》のトゥーイを読んで、《EQ》 のイメージとはまた違うトゥーイの像がある程度みえて、これは色物だけではない作 家だなと思ったんです。その頃ちょうどジャック・リッチーの『クライム・マシン』 がでた頃で、鮎川賞のパーティで元東京創元社の松浦正人さんに「トゥーイで短篇集 を編んだらおもしろいんじゃないか。藤原義也さんに企画を持ちかけられたらいいな と思っているんです」と話をした憶えがあります。そのときは立ち話で終わったので すが、去年の初め頃、藤原さんから編者をやりませんかとお話をいただいたので、や りますとすぐにお引き受けしました。  編者をやれば未訳作品が読めるというメリットもありましたしね。トゥーイの作品 の中には訳されてはいないけれどもMWA短篇賞の候補にもなった、本国で評価の高 い短篇がいくつもあるらしいと雑誌のコメントなどで知っていましたので。  今回の短篇集には、既訳の作品12編とMWA賞候補になった作品を含む未訳作品2 編を収録しました。初邦訳となる「オーハイで朝食を」は1986年MWA短篇賞の候補 作ですが、今まで未訳だったのが不思議なぐらいいい作品です。どうせぐだぐだにな る話だろうと思って読んでいるとちゃんとシリアスでショッキングな結末になってい て、これは紹介しなければと思いました。ほかの候補作もよかったのですが、インパ クトでくらべるとすこし落ちるかな。1982年の候補作 "Mousie" などはリアルタイム で訳されていたらそれなりに受けたお話だと思いますが。 ――トゥーイの魅力を教えてください。  シチュエーション自体が奇抜で不条理というのが1番の魅力です。まずシチュエー ションで読ませる。アイディアストーリーとか切れのいいオチというのとはちょっと 違って、どちらかというと“過程”で読ませる。解説で“ナックルボーラー”と書い たのですが、とにかく話がどこに転がっていくのかわからない、読んでいる最中のス リルみたいなのがどんな作品にもある。それが割とユーモラスな書き方になっていて、 かみ合わない会話から生じるおかしみとか、ものすごく達者で読ませます。《EQ》 の作品を読んでいた頃は、そういうイメージでした。「ハリウッド万歳」や「家の中 の馬」は、これほど意味のない話があるのかと感心しましたね。  ところがだんだん他の作品も読んでいくうちに、ダメ男とか負け犬の生活感がすご くにじみでていて、弱者の視点というのがちょっとした描写できっちり押さえてある。 狙って書いたあざとさみたいなのはあまりなくて、本当に作中の登場人物の目線で書 いている。たぶん作者自身をかなり投影しているところがあると思う。突き放した感 じもしなくて、どこかで救いがある書き方になっているんです。  解説でも書いたのですが続けて作品を読んでいくと、ミステリのお約束みたいなも のに対して、作者の都合でおきる出来事が物語の登場人物にとってはものすごく迷惑 で不条理なことであるというのが、作者の念頭にあるんじゃないかと思えるんです。 「いやしい街を…」がその1番の典型です。パルプ探偵小説の主人公が愚痴をこぼす メタフィクションで、作者が行き当たりばったりに不条理な展開を強要するのに弱り 果てるという話です。トゥーイは量産タイプの作家ではありませんでしたが、基本的 には職人的なミステリ作家になりたかった人だと思うんです。だからお約束の中で書 いているけれど、お約束に対してぶつぶつ文句をいわずにいられないというのが手癖 みたいにでてくる。それが彼の作風の球筋とうまくかみ合って、ほかのミステリ作家 にはない味になっています。単発でそういう雰囲気のでている作品は他の作家にもあ りますけれど、どれを読んでも通底しているのはトゥーイくらいじゃないでしょうか。 1つ、1つ短篇をとりだして見ていくとおもしろさの質は全部違います。きちっとし たクライムストーリーになっている作品もあるし、ジャンルミックスみたいな作品だ ったり、パロディのどんちゃん騒ぎが売りだったりと作品ごとのおもしろさがありま すが、それとは別にフィクションに対してアンビヴァレントな視線がトゥーイには常 にある。「物しか書けなかった物書き」には、たぶんかなり自伝的な部分があるんじ ゃないかなあ。結末の台詞などにも、自分がクライムストーリーを書き続けていると ころをちょっと引いたところから見ている感じがしました。すごくとっぴな小説では あるけれども、今は受け入れやすい時代になっているのではないかなと思います。 ――今後のお仕事のご予定を教えてください。  先月講談社から『法月綸太郎ミステリー塾 日本編/名探偵はなぜ時代から逃れら れないのか』『法月綸太郎ミステリー塾 海外編/複雑な殺人芸術』という評論集が 発売になりました。本の解説、『本格ミステリの現在』(国書刊行会)に書いた評論、 ガイドブック的な文章やユリイカ増刊号『ジェイムズ・エルロイ ノワールの世界』 に書いたロス・マクドナルド論などが収録されていて、バラエティ感があると思いま す。  小説は、クイーンの『犯罪カレンダー』のむこうをはって、星座をからめた〈犯罪 ホロスコープ〉という短篇をまとめてだしたいと思っています。6つ書いて上巻でだ したいのですが、なかなか星座の縛りは難しい。最初は書きやすい星座からはじめて 双子座、蟹座から書いて、まだ獅子座と乙女座が残っています。  長篇は、文藝春秋の〈本格ミステリー・マスターズ〉に書く予定です。                            (取材・文/清野 泉) ★このインタビューのロングバージョンがWebでご覧いただける★  http://www.litrans.net/whodunit/int/noritsu.htm ◇アマゾン・ジャパンでロバート・トゥーイ『物しか書けなかった物書き』をお買い 求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0602 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■速報 ―― MWA賞、ハメット賞ノミネート作品発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●MWA賞ノミネート作品  アメリカ探偵作家クラブは、第61回MWA賞のノミネート作品を発表した。最優秀 長篇賞をはじめ、主要4部門のノミネートは以下のとおり。  受賞作の発表は現地時間の4月26日、ニューヨークの〈グランド・ハイアット・ホ テル〉にておこなわれる。 ▼最優秀長篇賞 "THE PALE BLUE EYE"          Louis Bayard "THE JANISSARY TREE"          Jason Goodwin "GENTLEMEN AND PLAYERS"        ジョアン・ハリス "THE DEAD HOUR"            デニーズ・ミーナ "THE VIRGIN OF SMALL PLAINS"      ナンシー・ピカード "LIBERATION MOVEMENTS"         オレン・スタインハウアー ▼最優秀処女長篇賞 "THE FAITHFUL SPY"           Alex Berenson "SHARP OBJECTS"            Gillian Flynn 『キングの死』             ジョン・ハート "HOLMES ON THE RANGE"         スティーヴ・ホッケンスミス "A FIELD OF DARKNESS"         Cornelia Read ▼最優秀ペイパーバック賞 "THE GOODBYE KISS"              Massimo Carlotto "THE OPEN CURTAIN"              Brian Evenson "SNAKESKIN SHAMISEN"             Naomi Hirahara "THE DEEP BLUE ALIBI"            ポール・ルバイン 『シティ・オブ・タイニー・ライツ』      パトリック・ニート ▼最優秀短篇賞 "The Home Front"         チャールズ・アーディ(DEATH DO US PART) "Rain"              トマス・H・クック(MANHATTAN NOIR) "Cranked"            ビル・クライダー(DAMN NEAR DEAD) "Building"            S・J・ローザン(MANHATTAN NOIR) 上記4部門以外のノミネートについては、MWAの公式サイトでご覧いただきたい。 http://www.mysterywriters.org/pages/awards/nominees07.htm                               (かげやまみほ) ---------------------------------------------------------------------------- ●ハメット賞ノミネート作品  国際推理作家協会北アメリカ支部主催のハメット賞ノミネート作が発表された。同 賞の対象となるのは、カナダとアメリカで出版された英語で書かれた作品。受賞作は ボルチモアで10月14日と10月15日に開催される、NAIBAブックセラー・セールス・カ ンファレンス期間中に発表される。  "GHOST DANCER"          ジョン・ケース  "THE PRISONER OF GUANTANAMO"   ダン・フェスパーマン  "DARK COMPANION"         ジム・ニズビット  "THE CRIMES OF JORDAN WISE"    ビル・プロンジーニ  "FOUR KINDS OF RAIN"       Robert Ward  詳しくは、国際推理作家協会北アメリカ支部の公式サイトをごらんいただきたい。  http://www.crimewritersna.org/news/index.htm                               (かげやまみほ) =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  わが家に任天堂 Wii がきました。学生時代はゲームにはまっていましたが、社会 人になってからはきっぱり足を洗っていたのに……。読書の時間が減っていく……。                                    (清) ****************************************************************************  海外ミステリ通信 第60号 2007年2号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:石田浩子、板村英樹、かげやまみほ、崎浜祐子、佐藤枝美子、中島由美、      花田美也子、三浦真司、森まり、柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子、      吉野山早苗  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans21.net/bbs/75/wforum.cgi  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2007 Whodunit Honyaku Club ****************************************************************************