■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■               月刊 海外ミステリ通信           第58号 2006年11月号(隔月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈未訳原書レビュー〉    "TOO MANY CROOKS SPOIL THE BROTH" 〈注目の邦訳新刊レビュー〉 『毒杯の囀り』 〈黒猫フーダの散歩道〉   これぞコージーの醍醐味!? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■未訳原書レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ "TOO MANY CROOKS SPOIL THE BROTH" by Tamar Myers Signet/1995.08/ISBN: 0451182960 《田舎の風薫るドタバタ・ミステリ》  メノナイトの家庭で育ったマグダレナは、両親を事故でなくしたため、自宅の農家 を改装してちょっと変わった民宿を始めた。それは、メノナイト/アーミッシュのコ ミュニティでその独特な生活スタイルを実際に体験できるという、マイノリティーを 逆手に取った商売だった。自然豊かな土地柄ゆえ、狩猟期にはハンターたちでにぎわ うようになり、そこそこの収入を見込めるようになっていた。  禁猟の解禁日、宿は満室となった。有名な下院議員が猟をしに訪れたのはいいが、 ある動物愛護団体がそれに反意を唱えようとやってきた。村に宿は1軒しかなく、当 然、両者はマグダレナの民宿にいっしょに泊まることに……。  何事もなければいいがと思っていた矢先、宿泊客のひとりが夜中に階段から転落し て死亡した。ど田舎のうえに、折悪しく保安官も不在で、死因がはっきりしない。宿 の設備不良を訴えるという客が出てきて、マグダレナは気が気でない。裁判になって 負けたりしたら、必死で切り盛りしている民宿がつぶれかねない。むしろ、他殺だっ たらいいのに……と、つい不謹慎なことを考えてしまうのだった。  マグダレナの頭を悩ますことは他にもあった。勝手気ままな妹は民宿の仕事をちっ とも手伝ってくれないし、アーミッシュの料理人は何かあるたびにすぐにへそを曲げ てしまう。はてさて、マグダレナはこの難局を乗り切ることができるのか?  メノナイトやアーミッシュというと厳格でお堅いというイメージがあるが、この作 品はマグダレナの1人称によって軽妙なタッチで描かれていて、そのギャップがコミ カルさを感じさせる。しかも、客の死因より宿の存続を心配するとは、メノナイトと いっても聖人君子ではないのだと親しみを覚えた。宿泊客もベジタリアンあり、横柄 な下院議員あり、いちいち文句をつける嫌われ屋ありと、キャラクターがてんこ盛り だが、迎える側のメノナイトのほうもまた、わがままだったり、短気だったり、プラ イドが高かったりと個性豊かだ。そんなすったもんだの日々を主人公があっぷあっぷ しながら切り抜け、最後には犯人と対決する、というお決まりのパターンながら、バ ラエティー豊かなキャラクターやユーモア溢れるやり取りで存分に楽しませてくれる。  本書は「レシピつきペンシルヴェニアダッチ・ミステリ」の第1作で、来年の2月 には15作目が出版される予定だ。                                 (矢野真弓) ◇著者のサイトはこちら http://www.tamarmyers.com/index.html ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0611 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■注目の邦訳新刊レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『毒杯の囀り』 "THE NIGHTINGALE GALLERY"  ポール・ドハティー/古賀弥生訳  創元推理文庫/2006.09.29発行 800円(税別)  ISBN: 4488219020 《若き托鉢修道士とのんだくれ検死官が、相次ぐ不審死の真相に迫る!》  1377年、エドワード3世が崩御し、10歳になる孫息子リチャード2世があとを継い だ。リチャードの叔父で密かに王位を狙っていたランカスター公ジョン・オブ・ゴー ントは摂政に任ぜられ、不満を募らせる。不穏な雰囲気が漂うなかで、王侯相手の金 貸しでもある豪商トーマス・スプリンガル卿が自室で毒殺され、執事が屋根裏で縊死 しているのが発見された。卿の部屋の前の廊下は人が通ると歌う〈小夜鳴鳥の廊下 (ナイチンゲール・ギャラリー)〉。卿の自室には鍵がかけられており、隣りの部屋 に住む卿の母アーメンギルドは、事件当夜、執事がゴブレットを手にこの廊下を歩い ているのを見たと証言する。執事は事件の前日、卿に厳しく叱責されているのが目撃 されており、その腹いせに卿を殺害し、自分も自殺したものとされ、ドミニコ会托鉢 修道士アセルスタンは国王勅任の検死官ジョン・クランストン卿とともに検死に立ち 会う。翌日、トーマス卿の仲間がロンドン橋で首を吊っているのが発見され、アセル スタンとクランストンは、相次ぐ自殺に疑念を抱き、真相を解明しようとする。  ポール・ドハティーの手による修道士アセルスタン・シリーズ第1作。景気づけと 称して何かにつけ大酒を呑んでところかまわずげっぷする巨漢クランストンと、星の 動きに魅了されるきまじめな青年修道士アセルスタン。正反対に見えるが、ともに心 の奥に痛みを抱えた2人のやりとりは軽妙で機微にあふれている。修道士であると同 時に、貧民窟サザークの教区司祭であり、クランストンの書記でもあるアセルスタン は、もつれた糸を少しずつほぐすように推理を進めていく。中世版フロストと呼びた くなるクランストンもまた、酔って居眠りしながらもぽつりと的を射た一言を発し、 がさつな外見からは想像もできないほど鋭い観察眼を披露する。陰謀渦巻く不穏な世 情と衛生事情がきわめて悪かった当時のロンドンが活写され、下水や死体の匂いまで 伝わってくるようだ。物語の幕切れ近くに少年王リチャード2世がつぶやく言葉は意 味深長で、王の数奇な生涯を思いめぐらしたとき、その言葉の重みがずしりと響く。  中世英国ものを中心に数々の歴史ミステリを著し、世評は高いもののこれまで短篇 しか邦訳されたことのなかったポール・ドハティーであるが、ことし3月に出版され たロジャー・シャロット・シリーズ第1作『白薔薇と鎖』に続いて本作が出版された ことは、歴史ミステリを愛するものにとって大きな喜びである。ヘンリー8世時代の ロンドン塔を主な舞台とする『白薔薇と鎖』は強欲でしたたかなロジャー・シャロッ トとその主君が繰り広げる下ネタ炸裂臭気ふんぷんたる冒険物語という趣が強いが、 本作では歴史が大きく動くときのエネルギーのうねりを感じながら謎解きや人間ドラ マが存分に楽しめる。ともにシリーズを通して訳書が続刊されることを強く望む。  修道士ものといえば、本メルマガ9月号のエッセーでふれたエリス・ピーターズの 修道士カドフェル・シリーズがある。若干時代は前後するが、世事に長け、酸いも甘 いもかみ分けたカドフェルと未亡人である美しい女性信者に心動かされる若きアセル スタン、2人の違いを読み比べてみるのも一興であろう。  カドフェルを薫り高く清々しいハーブティーとすれば、ロジャー・シャロットは匂 いは強烈だがひとたび口にするとクセになるブルーチーズ、アセルスタンはさまざま な食材を練り込み、じっくり寝かせたクリスマス・プティングのような味わいがある。  10月にはピーター・トレメインの7世紀のアイルランドを舞台にした修道女フィデ ルマ・シリーズ第1作『蜘蛛の巣』が出版された。ことしは歴史ミステリファンにと って思いがけない喜びに恵まれた年といえよう。                                 (中島由美) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0611 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2706438/p-bkswhod00154 ______________________________________                                   ΛΛ οοΟ○οο。。。黒猫フーダの散歩道。。。οοΟ○οο。。。   ミ・.・ミ                                   (m m)/γ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 《これぞコージーの醍醐味!?》  今年3月に扶桑社より発行された『死んでもいきたいアルプス旅行』を読んだ。失 業中の主人公エミリーが、宝くじでリッチになったおばあちゃんの付き添いでアルプ ス・ツアーに参加し、そこで事件に遭遇するというお話。団体旅行といえば日本人、 と言われたのは昔の話なのだろうか、いつごろからか、ご年配のアメリカ人の旅行客 集団を見かけることが多くなった気がする。この小説でも、パック旅行に参加してい るのは高齢の人たちで、毎日服用している持病の薬やサプリメントの自慢大会が始ま るシーンさえ登場する。また、「日本人は団体でやってきて、旅先の住民と触れ合う こともしないで、いつもグループで行動する」との批判をよく聞かされた経験がある のだが、この本に登場する〈仲良しディック・トリオ〉はいつも一緒にいる。な〜ん だ、日本人だけじゃないじゃない、と思わず突っ込みたくなった……。  さて、なぜ本書の話を持ち出したかというと、実はつい最近、スペイン人の団体旅 行者と触れ合う機会があり、なんだか、人生について色々考えさせられたからなのだ。 彼らもまた若くはなく、10人あまりいた全員が年金生活者だった。まず思ったのは、 年金生活で海外旅行ができるなんて、将来、年金がもらえるのかどうかさえ不安に思 っている日本の庶民と何たる違い!ということだった。しかも、エジプト、フランス、 ドイツと、毎年旅行しているというのだ。う、うらやましい……。彼らは、これまた 小説と同じく小さな町のご近所さんたちだそうで、大変に仲がよい。わたしの母も最 近ご近所の方たちとバス・ツアーにでかけているが、それはどうも女性同士のつきあ いらしい。だが、スペイン人旅行者はみな夫婦連れだった。これも文化の違いだろう か。あるいは価値観の違いか。  価値観の違いといえば、「海の近くに住んでいるのに、なぜちっとも日焼けしてい ないの?」と、スペイン人のおばさまに半ばとがめるように尋ねられた。もっとお外 に出て遊ばなくちゃダメよ、という気持ちでおっしゃったのだろう。彼らは毎週海で 日光浴をするそうだ。「でも、近頃、紫外線は体に毒なのよ〜」と言いたかったが、 そこまでスペイン語ができないわたしは、「日焼け止めクリームを厚塗りしてるの… …」と答えるのが精一杯。毎週海辺でのんびり日光浴なんて、そんなストレス・フリ ーな生活をしてみたーい! さすがはスペイン人だわ、と思った瞬間だった。  とはいえ、やはり共通点もある。旅行者側と歓迎者側でひとしきり挨拶が終わった ところで、さっそく写真撮影会が始まった。訊けば、東京に着いた早々、皆カメラを 購入したのだそうだ。「いままで、(スペインに)観光旅行に来た日本人がみんなパ チパチ写真ばっかり撮っているのを見て、ちょっとあきれていたけれど、いざ自分た ちが日本に来てみたら、見るものすべてが物珍しくて、すでに何百枚も撮っちゃった」 そうだ。やっぱ、観光客の心理は洋の東西を問わず同じなんだなーと再認識。そうい えば、『死んでもいきたいアルプス旅行』でも、観光船の窓が曇っているというのに、 有名な湖を写真に収めようとパチパチやっているシーンがあったっけ……。と、そん なふうに、彼らと話している間じゅう、何かにつけ『死んでも〜』の中の場面が、現 実に目の前で展開されているシーンとオーバーラップされて、まるで小説の中に入り 込んでしまったかのような、えもいわれぬ奇妙な感覚に陥った。それは、この本が等 身大の生活を舞台にしたコージー・ミステリというジャンルの小説だったからに他な らない。これだからコージーはやめられないのよ!と、コージー好きのわたしはひと り悦に入ったのだった。                                 (矢野真弓) 『死んでもいきたいアルプス旅行』 “ALPINE FOR YOU”  マディ・ハンター/智田貴子訳  扶桑社ミステリー/2006.03.30 933円(税別)  ISBN: 4594051391 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2660894/p-bkswhod00154 =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  早いもので2006年ももうすぐ終わり。これから年末に向けて、フーダニット翻訳倶 楽部のベスト10投票のために未読本を消化していきます。         (清) ****************************************************************************  海外ミステリ通信 第58号 2006年11号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:板村英樹、かげやまみほ、崎浜祐子、佐藤枝美子、中島由美、      花田美也子、三浦真司、森まり、柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans21.net/bbs/75/wforum.cgi  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2006 Whodunit Honyaku Club ****************************************************************************