■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■               月刊 海外ミステリ通信           第51号 2005年12月号(毎月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈特集〉CWAジョン・クリーシー賞(最優秀処女長篇賞)ノミネート作品レビュー 〈インタビュー〉木村二郎さん 〈お気に入り見つけた! 〜11月のミステリから〜〉 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■特集 ―― CWAジョン・クリーシー賞(最優秀処女長篇賞)        ノミネート作品レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  これまで本メルマガでは秋に、アメリカのバウチャーコン関連の新人賞ノミネート 作品のレビューを特集してきた。だがバウチャーコン関連の作品は、受賞作だけでな くノミネート作品も邦訳されて日本の読者の目にふれる機会が多い。そこで今年は趣 向をかえて、イギリスのCWAジョン・クリーシー賞(最優秀処女長篇賞)受賞作お よびノミネート作品のレビューをお届けする。  CWA賞は、イギリス推理作家協会(Crime Writers' Association)の主催する賞 で、そのなかのジョン・クリーシー賞はCWAの創設者のひとり、ジョン・クリーシ ーに敬意を表して作られたものだ。  すでに先月受賞作は Dreda Say Mitchell の "RUNNING HOT" と発表になっている が、レビューをお読みになって受賞の理由を推理したり、アメリカのミステリとの違 いなどを感じていただければと思う。 ---------------------------------------------------------------------------- "RUNNING HOT" by Dreda Say Mitchell The Maia Press Limited/2004.09.20/ISBN: 1904559093 《夢に向かって、ハードでせつない旅立ち》  イライジャ・レイ・キャンベル、通称スクールボーイは失業中。ある晩、イースト ・ロンドン一の犯罪多発地域ジャンクションを歩いていて死体を見つけた彼は、そば に落ちていた20年ほど前の型の携帯電話を盗んだ。デヴォンに自分のレストランをか まえた友人から一緒に仕事をしようと誘われていたので、その携帯を売って自分の料 理用ナイフを買う金を作ろうと思ったのだ。  ところが、彼が携帯を売ろうと動き出したとたんに周りで死者が出るようになり、 ナイジェリア人のギャングと、金のためには殺しもいとわない正体不明の女クイーン が、それぞれその携帯を手に入れようと躍起になっていることがわかる。スクールボ ーイは自宅近くで待ち伏せされ、命からがら逃れたあと戻った部屋も徹底的に家捜し されていた。悪党たちがこの骨董品のような携帯を狙う理由はいったい何なのか。そ してスクールボーイは自分のナイフを手に入れ、新たな人生の一歩を踏み出すことが できるのだろうか。  スクールボーイは29歳。ロンドンの下町ハックニーで生まれ育った。グレナダ人の 母親に料理を習ったときからシェフになりたいという夢をもっていたが、学校のカウ ンセラーの心無い一言でホテルへの就職の道を閉ざされたことをきっかけに、14歳で ドロップアウトした。その後窃盗やドラッグの売買で服役もしたが、出所後に自暴自 棄になっていたときカリビアン料理の極意を教えてくれた隣人のおかげで、自分の夢 を思い出したのだった。  思いがけずやばいことに巻き込まれ、窮地に追い込まれることによって、逆にこの 試練をはね返して夢をつかむんだという思いが強くなっていくスクールボーイ。追っ 手から彼を守り心から彼の身を案じてくれる隣人や友人、そしてそれまで自分を理解 しようとはしなかったが次第に心を開いてくれるようになった姉への自分の気持ちを 再確認し、それでも彼らとの別れを決意するスクールボーイの姿に胸が熱くなる。  ジョン・クリーシー賞を受賞したこの作品の著者ドレダ・セイ・ミッチェルは、ロ ンドンのグレナダ人コミュニティで生まれ、教育機関で黒人の学力向上を図る仕事を しているという。彼女の生い立ちや仕事の中から生まれた小説だといえるだろう。                                (花田美也子) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0512 ---------------------------------------------------------------------------- "THE GREAT STINK" by Clare Clark Penguin Books/2005.02.24/ISBN: 0670915300 《ヴィクトリア朝ロンドンの地下にうごめく欲望の行方》  19世紀半ば、ヴィクトリア朝文化が花開く英国。首都ロンドンの人口は膨張し、都 市としての機能が追いつかなくなっていた。ゴミも排せつ物も犬猫の死骸もかまわず 投げ込まれた下水からは悪臭と有害ガスが漂い、たびたびコレラが蔓延して何万もの 人命が失われた。1855年、迷路のようにロンドンの地下に張りめぐらされた下水シス テムを一新するためのプロジェクトが立ち上げられ、委員会が組織される。測量技師 ウィリアム・メイもその一員となった。  植物を愛する心優しいウィリアムは、クリミア戦争でロシア兵を殺したことで心に 深い傷を負っていた。ウィリアムが生きていると実感できるのは、悪臭ふんぷんたる 地下の下水溝で自分の腕を切りつけ、ほとばしる血潮に見入っているときだけだった。  ある雪の夜、ウィリアムは、委員会との契約をめぐって、レンガ工場主といさかい になった。安息所を求めて地下の下水溝をさまようウィリアムに、冷たい流れがひた ひたと押し寄せる。疲れ切って意識を失ったウィリアムは、見知らぬ老人に助けられ た。下水漁りを生計の手段としてきた老人、通称ロング・アーム・トムとウィリアム が出会ったそのとき、2人の人生を変える出来事が起こる――。  ヴィクトリア朝ロンドンを舞台とする歴史ミステリ。近代都市へと歩み始めようと しているロンドンの表の顔とその裏にあるもうひとつのロンドンが、史実に基づき、 緻密に描かれている。世界にも例を見ないほど壮大な下水システムの構築に奮闘する 男たちとそこにうごめく欲望に、戦争によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を 絡ませた力作である。  本作は、ケンブリッジ大学の歴史教授である著者のデビュー作であり、オレンジ賞 候補にも挙げられている。監獄船や公開処刑などが描かれ、ヴィクトリア朝ロンドン の雰囲気を満喫させてくれる。題材はおもしろいが、人物に感情移入しにくく、物語 の展開にひねりが足りない点が惜しまれる。今後の活躍に期待したい。                                 (中島由美) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0512 ---------------------------------------------------------------------------- "GRIP" by David McKeowen Hodder & Stoughton Ltd/2005.06.20/ISBN: 0340752327 《奥さん! あなたの息子がドラッグの売人だったら、どうします?》  物語は葬儀の場面からはじまる。冬の薄暗い午後、会葬者が教会に集まり亡骸は荼 毘に付された。そして舞台は葬儀の半年前にさかのぼり、登場人物がひとりずつ紹介 される。このなかの誰かが死んだのだ。読者は誰に死がもたらされたのか考えながら、 物語を読み進める。  投資会社を経営するフランシスは元妻ヴァージニアから、ふたりの息子ジェームズ がトラブルに巻き込まれたので助けてほしいと頼まれる。弁護士の卵ジェームズは23 歳、大学生の頃からドラッグの売人をしていたが最近上納金が払えず「1週間以内に 3万ポンド用意しろ」と元売りディーラー、ロジャーに脅されていた。息子を溺愛す るヴァージニアはなんとか金を工面しようとするが、これまで何度もジェームズの尻 ぬぐいをしてきたフランシスは、会社の経営状態も危機に瀕していたことから、金を 払わず警察に届けることを提案する。金を用意できなければ息子の身に危険が及ぶ。 警察に届ければ息子は刑務所行きだ。思い悩んだヴァージニアはロジャーから逃げる のではなく、ロジャーに対抗しようと考える。こちらも殺し屋を雇うのだ。  物語の半分くらいまでは、金を払うべきか警察に通報すべきか、フランシスとヴァ ージニアが悶々と悩んでいるだけで退屈だが、ヴァージニアがロジャーに立ち向かう と決めたあたりから俄然おもしろくなる。殺し屋を雇うためにロンドンからスペイン に飛んだり、あの手この手を使ってロジャーを陥れようとしたりと、息子を思う母の 底力をみせつけるヴァージニア。またフランシスの現在の妻レイチェルは、いつまで も自分と夫との間に入りこんでくる前妻と息子を疎ましく思い、前妻を排除するため に策を練る。ロジャーはロジャーで、ジェームズのせいでゆらいだギャングからの信 頼を取り戻そうと画策するし、そもそもことの発端であるジェームズも親に頼らず自 分で事態を乗り切ろうと考えはじめる。登場人物たちがそれぞれの思惑で動きだすこ とで、事態は複雑になり混乱してくる。ユーモアあり、サスペンスあり、どんでん返 しありの展開は、おおいに楽しめる。  そして冒頭の葬儀は、いったい誰のものだったのだろうか。結末もお楽しみに。                                 (清野 泉) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0512 ---------------------------------------------------------------------------- "BLOODY HARVESTS" by Richard Kunzmann Macmillan/2005.02.04/ISBN: 1405041013 《アフリカの警察ミステリはオカルトのスパイスが効いている!》  南アフリカ共和国ヨハネスバーグで少女の遺体が見つかった。死体からは手や内臓 が取り去られており、呪術に関連した殺人事件に思われた。悪辣な呪術師たちは、商 売繁盛のお守りに子供の手を、将来を見通せるからと子供の目を売ったりするからだ。 捜査にあたった殺人強盗課のハリーとその相棒ジェイコブは、もし呪術目的の犯行で あれば連続する可能性が大きいので、真相の究明を急ぐ必要に迫られた。  同じころ、拘留中だった大物麻薬ディーラーが保釈されたというニュースが街を騒 がせていた。また、空港では人の頭蓋骨や手が入ったスーツケースが見つかり、呪術 犯罪課が捜査にあたっていた。これらがハリーたちの事件と結びつくのかどうかは判 断ができないでいた。そして、被害者の身元がいっこうに割れないでいる一方で、イ ギリスからやってきたジャーナリストのニナのお陰で突破口が開かれることとなる。 彼女は、実の叔父にだまされて怪しげな呪術師の元に送られ、危ういところで助け出 されたある少女の事件について調べていたが、彼女自身の身にも危険が迫り……。  担当刑事のハリーはイギリス出身の白人。子供時代にある事件に巻き込まれ、親友 をなくしたことで心に深い傷を負っている。一方、ジェイコブは偉大な呪術医を祖父 に持つ地元出身の黒人。呪術医とは本来、先祖の声を聞きそれを子孫に伝える役割を 担う者であり、その能力は長男によって代々受け継がれていく。ジェイコブもまたそ の呪術医を継ぐべき立場にあったが、幼いころ邪悪な呪術師にさらわれそうになった とき、祖父が村人を率いて呪術師を成敗したことで種族の信仰に疑問を感じ、クリス チャンとなって家を出ていた。この文化的背景のまったく異なる2人がアフリカに根 深く息づく信仰に関連した犯罪を捜査する過程で、最初は相容れない意見をぶつけ合 っていたが、2人の間にある信頼関係の強い絆ゆえにお互いの世界観を受け入れてい くようになる。南アフリカ出身の著者はこの物語を通して、アフリカ文化の良い面と 悪い面を飾ることなく紹介し、異なる世界観を持つ者どうしでも必ず理解しあえると いうことを訴えたかったのかもしれない。  事件の謎の解明を縦糸に、2人の刑事のそれぞれのトラウマとの闘いと友情を横糸 に、著者が2年間をかけてつむぎだしたストーリーは読み応えがあった。まだ20代の 若き著者の今後の活躍が期待される。                                 (矢野真弓) ◇著者が紹介されている新聞記事 http://www.news24.com/Regional_Papers/Components/Category_Article_Text_Template/0,,303-716-743_1615859~E,00.html ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0512 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■インタビュー ―― 木村二郎さん ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  翻訳家であり、アンソロジー編さん者であり、ミステリ評論家でもある木村二郎さ んの最新の訳書が、2006年1月17日に刊行される。エドワード・D・ホックの人気シ リーズ『サム・ホーソーンの事件簿4』である。今回は、木村二郎さんに、ホックの 短篇ミステリを中心に、ミステリ全般にわたるお話をうかがった。 +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ |《木村二郎さん》大阪府出身。英米文学翻訳家、作家、ミステリ研究家。サム・| |ホーソーン・シリーズ、怪盗ニック・シリーズなどのエドワード・D・ホックの| |諸作品のほか、『斧』ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)、『幻影――| |名無しの探偵シリーズ』ビル・プロンジーニ(講談社文庫)などの訳書多数。 | +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ ――『サム・ホーソーンの事件簿4』には、どのような作品が収録されていますか?  サム・ホーソーンのシリーズは "EQMM" に発表された順番がそのまま事件の起きた 順番になっています。1つの短篇集につき12篇を収録していて、今度出るのが4作目 なので、37番目から48番目までの作品、時代でいうと1935年から1937年までに起きた 事件ですね。それにプラスしてボーナス作品が1つつきます。今回のボーナス作品は、 西部探偵ベン・スノウが初登場した作品「フロンティア・ストリート」です。『サム ・ホーソーンの事件簿4』には、ホーソーンとベン・スノウが競演している「呪われ たティピーの謎」が収録されているので、ベン・スノウがどういう人物かを紹介して いる「フロンティア・ストリート」がちょうどいいかなと。これは密室ものじゃない んですが、担当の編集者と相談して選びました。    ――サム・ホーソーンのシリーズとしての魅力はどういうところにありますか?  パズラー好きな人はパズラーとして、そうでない人には歴史物みたいな感じで楽し んでもらえます。戦争のとき、アメリカの一般市民はそれほど影響を受けていなかっ たんじゃないかと日本人は考えがちだけど、アメリカにだって配給みたいなものがあ った。そういう当時の事情や生活様式をきちんと調査して書いてあるから、懐かしさ みたいなものがあるような気がするんですよ、パズラーの要素だけではなくてね。 ――エドワード・D・ホックは短篇ミステリをいろいろ書いていますが、その中で特 に印象的な作品は何ですか? 『怪盗ニック対女怪盗サンドラ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)の中に「禿げた男の櫛 を盗め」ていうのがあったでしょ。ああいうのがおもしろい。『夜はわが友』(創元 推理文庫)に収録されている作品のような、ちょっとダークな味わいがいいかなと。 『革服の男』(光文社文庫)の中の「刑事の妻」とか、あれもダークな感じがありま すね。当時の作家はみんなそうだったんだけど、ホックも若いころ、サイエンス・フ ィクションみたいなものを書いていたり、ウェスタンみたいなものを書いてた。そう いうのがおもしろくて、印象に残るのもやっぱりそういう作品かな。 ――エドワード・D・ホックの数あるシリーズキャラクターの中でとりわけお気に入 りのキャラクターは?  サム・ホーソーンはよく売れるから好きなんだけど(笑)。怪盗ニックも好きな方 ですね。あれも売れる方だから。  ほんとに好きなのは、あまり出てないけど、私立探偵のアル・ダーランものなんで す。ぼくはほんとは私立探偵ものが好きなんです。オカルト探偵サイモン・アークは、 一時期私立探偵みたいなことをやっていたことがあるんですよ。でも、今はオカルト の調査員ということになっています。だから今、ホックの中でほんとうの私立探偵も のと呼べるのはアル・ダーランじゃないかと思うんです。引退しかかっていた私立探 偵なんですけどね。 ――次にエドワード・D・ホックの短篇集が出るとしたら、どのキャラクターになり そうですか?  サム・ホーソーンは、6まで出したらもう作品がないんですよ。昔は1年に3作く らい書いてたけど、最近は1作か2作しか書かなくなったから。だから今、そのあと どうしようかっていうのを担当の編集者と話し合ってるんだけど、密室もののレオポ ルド警部かオカルト探偵サイモン・アークがかなり有力でしょうね。 ――木村さんはエドワード・D・ホックをはじめ、プロンジーニ、ウェストウェイク などの作品を訳しておられますが、手がけておられる作家以外でお好きな作家、注目 されている作家は?  ハメットとかチャンドラー、エド・マクベインなんかが好きですね。女の人だとス ー・グラフトンとかS・J・ローザン、マーシャ・マラーかな。ほかにはマイクル・ コナリー、ハーラン・コーベンとか。カミンスキー、ダグ・アリンもいいね。 ――最後に、翻訳ミステリファンに一言メッセージをお願いします。  買ってください(笑)。お金がなかったら図書館で借りるかなんかして、とにかく 人が言うからじゃなくて、自分が好きだから選んでいるといえる、自分のミステリを 探してほしいですね。ミステリというジャンルがこれからも長く続くために。                     (取材・文/中島由美、かげやまみほ) ▽THE GUMSHOE SITE 木村二郎さんのサイト http://www.nsknet.or.jp/~jkimura/ ★このインタビューのロングバージョンがWebでご覧になれます★ http://www.litrans.net/whodunit/int/kimur.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■お気に入り見つけた! 〜11月のミステリから〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  今月紹介する2冊はコージーとサスペンスで、主人公もかたや素人探偵かたやプロ 中のプロともいえるFBI捜査官と、ジャンルや作風はまったく異なる。だがどちら も有能な女性なので、今後の活躍が期待される。  ローラ・ダラムのデビュー作『ウエディング・プランナーは眠れない』は、ワシン トンDCでウエディング・プランニング会社を経営するアナベルと、仲間たちが活躍 するコージーだ。  アナベルとアシスタントのケイトは、結婚式当日の披露宴会場で、花嫁の母親クラ ラの死体を発見する。警察は薬物による他殺と判断。パーティの食べ物に毒物が混入 されていた可能性もあると、アナベルの友人でケイタリング業者のリチャードを営業 停止処分にする。そして式の翌日の夜、アナベルが留守にしていたアパートに泥棒が 押し入る。だが犯人がねらっていたと思われる結婚式の招待者リストは、警察に提出 していた。しかし犯人がまた来るかもしれないし、リチャードの疑いも晴らさなくて はならない。アナベルは仕事の合間を縫って、クララの周辺を探りはじめる。  著者のダラムは、主人公のアナベルと同じくワシントンDCに会社を持つ現役のウ エディング・プランナー。訳者あとがきによると、殺したくなるような花嫁の母親が いたのだが実際に殺すわけにもいかず、ミステリを書き始めたとか。現役のプランナ ーらしく、結婚式の裏側やわがまま放題のクライアント相手にアナベルが奮闘すると ころがこの作品のみそ。そんなエピソードは、ダラムの経験が生かされているようだ。  殺人事件なんて縁起でもないが、結婚式は花嫁や花婿を中心に多くの人が集まって くる。まして政治都市ワシントンDCでは、さまざまな思いを胸に客がやってきても おかしくはない。してみると結婚式、とくにワシントンDCでの結婚式は殺人現場に ふさわしいのかもしれない。著者のダラムもそう考えたのか、アナベルの活躍はまだ 続くらしい。ダラム自身もウエディング・プランナーの仕事も続けていくそうなので、 ネタがつきることはなさそうだ。  メアリ=アン・T・スミスの『かもめの叫びは聞こえない』は、FBI特別捜査官 ペネロピ(ポピー)・ライス・シリーズの2作目で、舞台はロード・アイランド州の 海岸から15キロ離れた、大西洋に浮かぶブロック島だ。  恋人のジョーとともに、彼の別荘があるブロック島で休暇を過ごしていたポピー。 そんなある朝、体が奇怪にねじれたほぼ全裸の少女の死体を見つける。少女は島にあ るダイエット・キャンプに参加していた。キャンプの責任者は少女が薬物を使用して いたせいだと言ったが、体から薬物反応は出ず死因の特定はできなかった。そして数 日後、2人目の犠牲者がでる。やはりキャンプに参加していた少女で、1人目と同じ ように体が奇怪にねじれていた。ポピーは休暇を返上し、島に駐在する州警察官とと もに事件の捜査を行う。  奇怪にねじれた被害者の体や、想像を絶する残忍な殺し方をする犯人や事件の異常 さに目がうばわれがちになる。だがブロック島の様子や、ポピーをはじめ登場人物を 静かなタッチで、丹念に描きこんでいるところにも注目してほしい。とりわけダイエ ット・キャンプに参加している太めの女の子たちへの著者の愛情は深い。参加者中最 年少で、親友でもあるお人形をいつも持ち歩いているスチューピッドと、何かと彼女 の世話をやく2人の少女、また会話の中にしかでてこないスチューピッドの祖父の話 など、悲惨な事件に難航する捜査の中で、ほっとできるエピソードだ。  実はまだシリーズ1作目の『テキサスは眠れない』(ヴィレッジブックス)を読ん でいないのだが、本作品でポピーという主人公と著者に興味を持った。気持ちがさめ ないうちに読もうと思っている。                               (かげやまみほ) 『ウエディング・プランナーは眠れない』 "BETTER OFF WED"  ローラ・ダラム/上條ひろみ訳  ランダムハウス講談社文庫/2005.11.11発行 760円(税別)  ISBN: 4270100176 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2604210/p-bkswhod00154 『かもめの叫びは聞こえない』 "SHE'S NOT THERE"  メアリ=アン・T・スミス著/匝瑳玲子訳  ヴィレッジブックス/2005.11.20発行 950円(税別)  ISBN: 4789727149 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2604278/p-bkswhod00154 =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  ちまたはベスト10の季節ですね。自分がひいきにしている書評家や翻訳家の方がど の本に投票したのか興味があります。その方たちが薦めた本を今後の本選びの参考に しています。                             (清) ****************************************************************************  海外ミステリ通信 第51号 2005年12月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:板村英樹、かげやまみほ、片山奈緒美、唐澤涼子、崎浜祐子、      佐藤枝美子、中島由美、中西和美、花田美也子、松本依子、      三浦真司、森まり、柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子、      山本さやか  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans.jp/c-board/c-board.cgi?id=15  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2005 Whodunit Honyaku Club ****************************************************************************