■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■               月刊 海外ミステリ通信           第44号 2005年4月号(毎月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈特集〉       MWA賞処女長篇部門全レビュー 〈注目の邦訳新刊〉  『カジノを罠にかけろ』            『ベスト・アメリカン・ミステリ ハーレム・ノクターン』            『夜明けのメイジー』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■特集 ―― MWA賞処女長篇部門全レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  今月は『海外ミステリ通信』4月号恒例の、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)処 女長篇部門ノミネート全作品レビューをお届けする。  ミステリ界で権威ある賞のひとつ、MWA賞は、当然日本の出版社も注目していて、 受賞作はもちろんのこと、ノミネート作品のほとんどが邦訳される。4月28日の発表 まで、今年の栄冠はどの作品に輝くのか、みなさんも予想していただきたい。                                 (清野 泉) ▼MWA公式サイト http://www.mysterywriters.org/ ---------------------------------------------------------------------------- "COUNTRY OF ORIGIN" by Don Lee W. W. Norton & Co Inc/2004.06.01/ISBN: 0393058123 《1980年夏、東京。闇に消えた魂は何を求めていたのか?》  イランでアメリカ大使館が占拠され、韓国で金大中に死刑判決が出され、ジョン・ レノンが射殺された1980年。その夏の東京で若い女性が消えた。女性の名はリサ。リ サの母は日本人だが、父についてはアフリカ系と推定されるのみ。孤児院で育ち、幼 いころ黒人家庭の養女となってアメリカにわたったリサは90日間の観光ビザで来日し た後、行方がわからなくなっていた。アメリカ大使館に勤務するトム・ハーレイと麻 布警察警部補オオタケンゾウがリサの捜索に当たる。リサに何があったのか? リサ は何を求めて日本に来たのか? リサの行方を追い、歌舞伎町から田園調布へと舞台 は移り、3者3様の生き方が描かれる。  父祖の地でありながら頼る人とてない日本でのリサの暮らしは英会話教師を経て水 商売へとお決まりのコースをたどり、ある日、忽然と消える。白人と韓国人のハーフ でありながら出自を偽ってハワイ出身と名乗るトムは諜報機関員の妻との情事にふけ る。融通のきかなさが災いして妻に去られた窓際族のオオタにはくつろげる家もない。  バブル景気が沸騰する前の日本社会の爛熟した世相が合わせ鏡で見るように映し出 される。華やかな舞台の裏で徒花のように咲き誇っていた性産業とそれを支える闇世 界がリアルに描かれ、そこに生きる人々の体温まで感じられる。  捜査を通して、リサの抱えていた痛みが薄紙をはぐようにさらけ出される。国籍、 民族、父祖の文化のはざまで引き裂かれながら、自分が何者であるかを求め、自分の いるべき場所を探し求めるリサの苦悩と悲しみがずっしりと伝わってくる。謎を追う おもしろさのみにとどまらず、日本人としての自分に何かを問うてくる物語でもある。  暗く重い物語であるが、カラオケを強制されて困惑するサラリーマンやオオタの大 家で茶髪の若き女性ミス・サオトメの奇矯なふるまいがほろ苦い笑いを誘う。  韓国系アメリカ3世である著者ドン・リーは少年時代のほとんどを東京とソウルで 暮らした。アメリカで生きるアジア系民族の暮らしを描いた短編集 "YELLOW" でアメ リカ芸術文化アカデミーによるスー・カウフマン賞を受賞。本作には、荒削りではあ るが、熱い魂のほとばしりが感じられる。筆者の独特の視点と筆力に注目したい。                                 (中島由美) ◇著者のサイトはこちら http://www.don-lee.com/ ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ---------------------------------------------------------------------------- "TONIGHT I SAID GOODBYE" by Michael Koryta Thomas Dunne Books/2004.09.20/ISBN: 0312332459 《探偵の死と妻子の失踪の裏にうごめくものは? 期待の新鋭が放つサスペンス》  春まだ浅い3月のクリーヴランド。私立探偵リンカーン・ペリーはジョン・ウェス トンから、息子ウェインの死の真相とその妻子の行方を調べてほしいという依頼を受 ける。ウェインは5日前、郊外の自宅で死体で見つかり、妻ジュリアと5歳になる娘 ベシーの姿が消えた。メディアは、ウェインが妻子を殺害後自殺と書き立てたが、ジ ョンは報道を否定する。絵に描いたように幸せな暮らしを送っていたウェインが妻子 を殺害して自殺するなどとても考えられない、ウェインは殺害され、妻子は誘拐され たとジョンは主張する。金に糸目をつけないという条件にひかれ、リンカーンはパー トナーであるジョー・プリチャードとともに調査を開始する。  探偵だったウェインは死の2週間前、助手に調査依頼リストを渡していた。その中 には犯罪歴のあるロシア人男性3名の名前があった。ロシア人たちの家へ様子を探り に行ったリンカーンとジョーが事務所に帰るや、クリーヴランド警察の刑事とともに FBI特別捜査官コディが訪ねてきた。コディは、ウェインの事件とロシア・マフィ アとの関連を示唆し、捜査から手を引くよう求める。麻薬と銃を密輸し、殺戮を好む ロシア・マフィアは、今やクリーヴランドを新たな拠点としつつあった。  死の数日前、ウェインはサウス・カロライナにいたが、そこにはウェインの海軍時 代の同僚で親友のハーティクが住んでいた。鍵を握るかと思われたハーティクは、リ ンカーンとジョーの目の前で射殺された。新たな手がかりを求めてサウス・カロライ ナに飛んだリンカーンは意外な人物に遭遇する――。  ときに叙情さえ感じさせる文章とスピード感のあるサスペンスに溢れた展開で読者 を楽しませてくれる。ともに警官から探偵へと転身したリンカーンとジョー、2人に 協力する雑誌記者エイミーのやりとりは軽妙で、続きを読んでみたいと思わせる。  著者コーリタはインディアナ大学在学中の21歳。デビュー作である本作には高校時 代から続けている私立探偵と新聞記者としての経験が生かされており、みずみずしさ のうちに完成度の高さがうかがえる。2003年セント・マーティン・プレス最優秀処女 私立探偵小説賞受賞。執筆中の次作の刊行が楽しみである。                                 (中島由美) ◇著者のサイトはこちら http://www.michaelkoryta.com/ ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ---------------------------------------------------------------------------- "THE CLOUD ATLAS" by Liam Callanan Delta/2004.10.26/ISBN: 0385336950 《風船爆弾を追う男2人と女1人、それぞれの思い》  司祭ルイス・ベルグはアラスカにあるホスピス病院で、友人のエスキモー人シャー マン、ロニーの看病をしている。重い糖尿病を患い、下肢も切断したロニーに残され た日は幾ばくもない。昏睡状態に陥ったロニーのそばで彼との思い出を回想していた ルイス司祭は、いつしか戦争中に出会ったエスキモー女性のことに思いをはせる。  18歳のルイス・ベルクは、爆弾処理班として軍務に従事していた。太平洋戦争中の サンフランシスコで、日本軍が送りこんだ風船爆弾に遭遇したルイスは、彼の判断が 遅れたせいで仲間を爆死させてしまう。罪の意識に苦しむルイスは、秘密の任務を帯 びたガーリー大尉に連れられて、辺境の地、アラスカのアンカレッジに向かった。大 尉は、日本軍が満州で生物兵器を開発していて、風船爆弾を使って細菌をアメリカ本 土にまき散らそうとしていると言う。ルイスに課せられた任務は、海岸を監視し風船 爆弾を発見してただちに処理すること、しかも住民の不安をかき立てないように秘か に行動することだった。広大な範囲からどうやって風船爆弾を見つけたらよいかルイ スが思案していると、彼が思いを寄せていたエスキモー人売春婦リリィが、爆弾のあ る場所を予言する。どうしてリリィは爆弾の在処がわかったのだろうか。  ホスピス病院の場面と、戦時中のアラスカの場面が交互に語られて、物語はゆった りとすすんでいく。はじめは、若い下士官ルイスが仲間を死に至らせたことに苦しみ ながらも、気むずかしい上官によってくだされた任務に奮闘する様子が描かれている。 しかし、上官である大尉が実はリリィの恋人だとわかってルイスと大尉の間に確執が 生じ、そしてリリィの過去の秘密が少しずつ明らかになるにつれて、物語はどんどん 悲壮感を帯びてくる。そのうえ物語後半で登場する、風船爆弾に自らの体を縛りつけ てアラスカに流されてきた日本人少年の描写は涙をさそうし、シャーマンである友人 ロニーの力を借りてルイスが幻想を見るラストシーンは、切ない。  ミステリというよりも、戦争の悲惨さと、決して結ばれない男女の愛を描いた物語 といった方がいいだろう。                                 (清野 泉) ◇著者のサイトはこちら http://www.liamcallanan.com/ ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ---------------------------------------------------------------------------- "LITTLE GIRL LOST" by Richard Aleas Hard Case Crime/2004.10.31/ISBN: 0843953519 《なぜストリッパーに? 若き探偵が元恋人殺害事件の謎を追う》  ニューヨークの私立探偵ジョン・ブレイクは、新年が明けたばかりのある朝、新聞 を見てショックを受けた。〈ストリッパー、殺される〉という見出しの記事に、高校 時代の恋人だったミランダの写真が載っていたのだ。医者になるためニューメキシコ の大学に進んだはずの彼女が、どうしてこんなことに? 金にならない事件に手を出 すなとボスには言われたものの、ジョンはミランダの死の真相を知りたいという衝動 を抑えられず、彼女のことを調べ始める。  ミランダは寮で同室だった女子学生と一緒に大学をドロップアウトしたあとストリ ッパーとなり、中南部のクラブを転々とした末にニューヨークへ流れ着いた。そして 殺人現場となったクラブのオーナーの自宅であった押し込みに関係していたらしい。 彼女がストリッパーになっていたばかりか犯罪にまで加担していたという事実に愕然 とするジョン。ミランダを殺したのはクラブのオーナーか、ドラッグの取引に使う金 の情報をつかんで彼女を利用したらしいマネージャーか、それとも……。  もともとは普通の会社勤めとは違う仕事をしたくて探偵事務所に入ったジョン。29 歳という年齢のせいもあるが、正義感や使命感だけで突っ走ってしまう青さがある。 不用意な行動からクラブの用心棒にしたたか殴られ、自分にとって大切な人だったミ ランダが実はどんな人間だったのかということを知り、肉体的にも精神的にも傷つい ていきながら、「なぜこんなふうになってしまったのか」という問いを自分自身にも ぶつけるようになっていく。苦渋の決断を迫られた事件の結末のあと、またなんとか 前を向いて歩いていく決心をするジョンの心情がせつない。  作者名のリチャード・アレイアスは、1993年に短編がシェイマス賞にノミネートさ れたチャールズ・アルダイの別名。彼は昨年秋に、黄金期のペイパーバック・クライ ム・ノベルの雰囲気を再現したレーベル《ハード・ケース・クライム》を創設し、そ の中に収める作品の1つとして自ら本書を執筆した。表紙のイラストもパルプ・マガ ジン風にする凝りようである。インターネット・ビジネスで成功した起業家でもある この作者、才能はあるところにはあるものだ。                                (花田美也子) ◇《ハード・ケース・クライム》のサイトはこちら http://www.hardcasecrime.com/ ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ---------------------------------------------------------------------------- "RELATIVE DANGER" by Charles Benoit Poisoned Pen Press/2004.02.28/ISBN: 1590580915 《平凡な生活から冒険の旅へ……その結末は?》  長年勤めていたワイナリーから解雇され暇をもてあましていたダグは、父方のおじ ラッセルの友人エドナから手紙を受け取り、彼女に会いにカナダのトロントへ出かけ る。ラッセルは第2次世界大戦後すぐ、珍しい赤色のダイヤモンドをカサブランカで 盗み、逃亡先のシンガポールで仲間のチャーリーに殺されたとされていた。だがチャ ーリーは見つからず、真相もダイヤの行方も分からないまま50年が過ぎていた。エド ナはラッセルや仲間たちと過ごした当時の話を聞かせ、ダグに風変わりな仕事を依頼 する。費用を全額負担するので、ラッセルの足跡をたどって事件の真相を解明し、チ ャーリーの汚名をそそいでほしいというのだ。はじめはしぶっていたダグだったが、 観光をかねた危険のない情報を集めるだけの仕事ならばと、結局は引き受けることに。 だがそれは今までの生活では味わうことのなかった、冒険のはじまりだった。  エドナに会うまで、ダグはラッセルのことをほとんど知らなかった。親戚も、数年 前に死んだ父親も、ラッセルに関しては口をつぐみ、ごくたまに何かの拍子でその名 前が出るぐらいだったからだ。だが一方で謎に包まれたラッセルにたいし、ダグは好 奇心を持っていた。そんなわけで、それまで生まれ故郷のペンシルベニア州の小さな 町ポッツビルからほとんど出たことがなかったダグは、トロントからカサブランカ、 カイロ、シンガポールへと、地球をほぼ1周する旅に出発した。だが気軽な観光気分 で調査をはじめてまもなく、何者かの影が彼につきまとうようになる。どうやら失わ れた赤いダイヤを、今でも追い求めている人間がいるようだ。ラッセルの死の真相が、 ダイヤのありかを教えてくれるのか。急激な環境の変化にとまどいながらも、ダグは ラッセルの足跡をたどっていく。  事件に関係あるなしに関わらず、ダグの巻き込まれるトラブルがコメディタッチで 描かれているので、全体的に緊張感も緊迫感もあまりない。またステレオタイプに描 かれている登場人物も多いし、中東や東南アジアも冒険小説の舞台としては定番とも いえる。だが読み終わってみるとそれが著者の意図だと気がつくのだ。1冊の本で、 ミステリと冒険小説が同時に楽しめる作品だ。                               (かげやまみほ) ◇著者のサイトはこちら http://www.charlesbenoit.com/ ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ---------------------------------------------------------------------------- "BAHAMARAMA" by Bob Morris St. Martin's Minotaur/2004.10.01/ISBN: 0312328893 《軽くてトロピカルでカリビアンな世界》  アメフトの元スター選手ザックは、引退後、マイアミ沖でボート・サービスを営ん でいたが、乗せた客がギャングの一味だったことからトラブルに巻き込まれ、無実の 罪で刑務所に入っていた。そして2年後、出所してきたザックを待ち受けていたもの は、さらなるトラブルだった……。  釈放の日、恋人バーバラの代わりに迎えにきたのは見知らぬ男だった。ザックは男 からバーバラの手紙と彼女が待つバハマ行きの航空券を受け取り、迎えの車に乗り込 んだ。ところが、途中で置き去りにされるわ、わが家に戻ればギャングの待ち伏せを くらうわ、の災難続き。命からがら逃げ出してやっとバハマに着いたと思えば、再会 を果たす間もなく、バーバラは彼女の元フィアンセとともに姿を消してしまった。捨 てられたと落ち込むザックだったが、元フィアンセが死体で発見され、バーバラは誘 拐されたのだということが判明する。因縁のギャングの仕業なのか、それとも……。  誘拐事件で事態は緊迫し、空気は張りつめているはずなのに、なぜかのんびりムー ドが漂っている。なにせ、舞台はまぶしい日差しが降り注ぐバハマ諸島なのだ。青い 空に青い海、そこかしこに立つ、潮風にそよぐ椰子の木。そして、道を走るのは電動 のゴルフカートのみ! テンポがスローになるのも自然の成り行きというもの。この 独特のテンポと軽い語り口が妙に癖になる。それだけに、事件の解決シーンもありき たりなものでは納得できないという気持ちが募っていったが、一味との対決に用いた 手段には島民の知恵が活かされていて、最後までトロピカルな雰囲気が味わえた。  登場人物にもまた味がある。あんなに魅力的な女性が恋人でいいのだろうかと不安 がる謙虚な主人公や、観光客のポーターやガイドをして小遣いを稼いでいる目端の利 く島の少年。なかでも相棒のボギーは、絶滅したといわれているタイノ族の生き残り でありシャーマンの末裔だというから、なんともミステリアスな存在だ。  著者のボブ・モリスは、新聞のコラムニスト、雑誌の編集者、あるいはトラベルラ イターとしてフロリダでは有名な人物。シリーズ第2作 "JAMAICA ME DEAD" は2005 年10月に出版される予定だ。ザックとカリビアンな世界にまた逢える!                                 (矢野真弓) ◇著者のサイトはこちら http://www.bobmorris.net/ ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■注目の邦訳新刊レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『カジノを罠にかけろ』 "GRIFT SENSE"  ジェイムズ・スウェイン/三川基好訳  文春文庫/2005.03.10発行 771円(税別)  ISBN: 4167661942 《謎の賭博師を追え! 老齢のイカサマ・ハンター、トニー・ヴァレンタイン登場》  痛快で楽しいクライム・ノベルはないかとお探しの方に、ぜひお勧めしたいシリー ズが登場した。フリーのイカサマ・ハンター、トニー・ヴァレンタインを主人公とす るシリーズがそれだ。  アトランティック・シティ警察の元刑事という経歴を持つトニーは、現役時代はカ ジノにおける不正行為、いわゆるイカサマの摘発に手腕を発揮してきた。60歳を過ぎ て引退し、のんびり余生を過ごすつもりでフロリダに引っ越してきたものの、長年連 れ添った愛妻に先立たれたせいか、それともイカサマを見抜く才能をまわりが放って おかなかったのか、いつしかカジノ相手のコンサルタント業に手を染めていた。そん なトニーのもとに、ラスベガスのカジノから相談が舞い込んだ。ブラックジャックで 大儲けしている客がいるのだが、どう考えてもイカサマとしか思えない。しかし手口 がわからず、対応のしようがない。その手口を見破ってほしいと言われ、トニーは真 夏のラスベガスへ飛ぶ――。  最初は単純なイカサマ事件に見えたが、手口が明らかになるにつれ、その裏にさら なる陰謀が隠されていると見抜くトニー。だが敵の目的はなんなのか。共犯とされた 女性ディーラーは本当にクロなのか? そもそも謎のイカサマ師の正体とは?  なんといっても主人公が渋くていい。62歳というけっして若くはない年齢だが、正 義感が強くて、一本筋がとおっていて、ひと昔前のタフな探偵を思わせるようなかっ こよさがある。柔道の達人で、作品中でもその腕を披露してくれたかと思えば、年齢 を感じさせるどこか枯れたような描写もあったりして、そのアンバランスさがいい味 を出している。そんな彼を取り巻く脇役陣がまた、強烈なほど個性的。おふざけ広告 を考えることに情熱を燃やす隣人のメイベル、女にだらしがなく下品で横暴なカジノ のオーナー、不気味な殺し屋リトル・ハンズ、いい年をしてまっとうな職に就かず、 父親から金をせびり取ることばかり考えている、トニーの息子のゲリー。このダメ息 子ゲリーとトニーのやりとりがまた傑作で、物語にほのぼのとした雰囲気をあたえて いる。  本国ではすでに5作目までが刊行されているというこのシリーズ、訳者あとがきに よれば、2作目の翻訳出版も決まっているとのこと。タフで熱くてちょっぴり枯れた トニーにふたたび会えるときが、いまから楽しみでならない。                                (山本さやか) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0504 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2528388/p-bkswhod00154 ---------------------------------------------------------------------------- 『ベスト・アメリカン・ミステリ ハーレム・ノクターン』  "THE BEST AMERICAN MYSTERY STORIES 2002"  ジェイムズ・エルロイ&オットー・ペンズラー編/木村二郎・他訳  ハヤカワ・ミステリ/2005.03.15発行 1900円(税別)  ISBN: 4150017689 〈ベスト・アメリカン・ミステリ〉シリーズは、評論家のオットー・ペンズラーとゲ ストの作家が選んだミステリを集めた短篇集で、1997年から毎年出版されている。日 本ではこれまでDHCが出していたが、2002年版からは出版社が早川書房に変わった。 マイクル・コナリーの「二塁打」や、スチュアート・M・カミンスキーの「うまくい かない時もある」など、2002年版でもベストと呼ぶにふさわしい作品が揃っている。                               (かげやまみほ) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2533156/p-bkswhod00154 ---------------------------------------------------------------------------- 『夜明けのメイジー』 "MAISIE DOBBS"  ジャクリーン・ウィンスピア/長野きよみ訳  ハヤカワ・ミステリ文庫/2005.03.31発行 840円(税別)  ISBN: 4151753516  1行目を読んだだけで物語の中にすっと入り込み、時間がたつのを忘れて読みふけ ってしまう。『夜明けのメイジー』は、そんな作品のひとつだ。主人公のメイジーを はじめ、登場人物たちは生き生きと小説の中を動き回り、事件や時代の背景となる第 一次世界大戦は、控えめでありながらリアルに描写されている。歴史小説としても読 み応えのある、良質のミステリである。                               (かげやまみほ) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/product/2528327/p-bkswhod00154 ▽本メルマガ2004年9月号バウチャーコン関連新人賞ノミネート作品レビュー(パー ト1)で、原書レビューが読める。 http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0409.htm#MAISIE =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  2004年MWA賞最優秀長篇部門にノミネートされた桐野夏生『OUT』は昨年PB 版もでて、また今年2月には宮部みゆき『R.P.G.』が英訳されました(宮部み ゆき『クロスファイア』も英訳の予定があるそうです)。日本のミステリが、海外で もどんどん紹介されていくといいですね。                                    (清) ********************************************************************  海外ミステリ通信 第44号 2005年4月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂(フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:清野 泉  企 画:板村英樹、かげやまみほ、片山奈緒美、唐澤涼子、崎浜祐子、      佐藤枝美子、中島由美、中西和美、花田美也子、松本依子、      三浦真司、森まり、柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子、      山本さやか  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans.jp/c-board/c-board.cgi?id=15  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2005 Whodunit Honyaku Club ********************************************************************