■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■               月刊 海外ミステリ通信           第42号 2005年2月号(毎月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈特集〉         シャーロット・マクラウドを偲んで 〈注目の邦訳新刊〉    『喪失』 『失われし書庫』 『夢の破片』               『迫り来る死』 『もつれ』 『悪魔の赤毛』 〈短期連載〉       クラシックミステリ秘宝                    ―― グラディス・ミッチェル(最終回) 〈速報〉         MWA賞ノミネート作品発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■特集 ―― シャーロット・マクラウドを偲んで ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  アメリカを代表するコージー・ミステリ作家、シャーロット・マクラウド(別名: アリサ・クレイグ)が1月14日、メイン州の療養先で亡くなった。82歳だった。すで に第一線を退いていたとはいうものの、30冊以上にもおよぶ著作で多くのファンを楽 しませてくれたマクラウドの死は残念でならない。今月はマクラウドの死を悼み、彼 女の軌跡をたどるとともに、数々の著作の中から当編集部選りすぐりの作品をご紹介 する。 ---------------------------------------------------------------------------- ●シャーロット・マクラウド略歴  1922年にカナダのニューブラウンズウィック州で生まれ、アメリカのマサチューセ ッツ州で育つ。ボストンの美術学校を卒業した後、広告会社に就職。1960年代頃から 仕事のかたわらに、短篇やヤング・アダルト向けミステリなどを書きはじめる。1970 年代後半にあいついで発表した大人向けのミステリ、バラクラヴァ農業大学教授のピ ーター・シャンディ・シリーズとボストンの主婦セーラ・ケリング・シリーズで人気 作家の仲間入りをする。別名のアリサ・クレイグでも、騎馬警官隊警部マドック・リ ース・シリーズと秘書代行サービス会社社長のディタニー・ヘンビット・シリーズの 2つのミステリ・シリーズなどを書いた。小説の他にも、メアリ・ロバーツ・ライン ハートの評伝 "HAD SHE BAD KNOWN" を発表。児童向けに書いたミステリ "WE DARE NOT GO A-HUNTING" で1981年のMWA賞最優秀児童図書賞にノミネートされ、1998年 にはアガサ賞を主催するマリス・ドメスティックから功労賞を贈られた。 ---------------------------------------------------------------------------- ●著作リスト(シリーズ作品の長篇のみ) ★ ピーター・シャンディ・シリーズ(Peter Shandy) 1."REST YOU MERRY" (1978)    『にぎやかな眠り』高田恵子訳/創元推理文庫 2."THE LUCK RUNS OUT" (1979)    『蹄鉄ころんだ』高田恵子訳/創元推理文庫 3."WRACK AND RUNE" (1982)    『ヴァイキング、ヴァイキング』高田恵子訳/創元推理文庫 4."SOMETHING THE CAT DRAGGED IN" (1983)    『猫が死体を連れてきた』高田恵子訳/創元推理文庫 5."THE CURSE OF THE GIANT HOGWEED" (1985)    『オオブタクサの呪い』高田恵子訳/創元推理文庫 6."THE CORPSE IN OOZAK'S POND" (1986)    『ウーザック沼の死体』片岡しのぶ訳/扶桑社ミステリー      (ネロ・ウルフ賞受賞/MWA賞最優秀長篇賞ノミネート) 7."VANE PURSUIT" (1989)    『風見大追跡』片岡しのぶ訳/扶桑社ミステリー 8."AN OWL TOO MANY" (1991)    『フクロウが多すぎる』高田恵子訳/創元推理文庫      (アガサ賞最優秀長篇賞ノミネート) 9."SOMETHING IN THE WATER" (1994)    『水の中の何か』高田恵子訳/創元推理文庫 10."EXIT THE MILKMAN" (1996)    『牛乳配達退場』高田恵子訳/創元推理文庫 ★ セーラ・ケリング・シリーズ(Sarah Kelling) 1."THE FAMILY VAULT" (1979)    『納骨堂の奥に』浅羽莢子訳/創元推理文庫 2."THE WITHDRAWING ROOM" (1980)    『下宿人が死んでいく』浅羽莢子訳/創元推理文庫 3."THE PALACE GUARD" (1981)    『盗まれた御殿』浅羽莢子訳/創元推理文庫 4."THE BILBAO LOOKING GLASS" (1983)    『ビルバオの鏡』浅羽莢子訳/創元推理文庫 5."THE CONVIVIAL CODFISH" (1984)    『消えた鱈』浅羽莢子訳/創元推理文庫 6."THE PLAIN OLD MAN" (1985)    『唄う海賊団』浅羽莢子訳/創元推理文庫 7."THE RECYCLED CITIZEN" (1987)    『リサイクルされた市民』浅羽莢子訳/創元推理文庫 8."THE SILVER GHOST" (1987)    『富豪の災難』片岡しのぶ訳/扶桑社ミステリー 9."THE GLADSTONE BAG" (1989)    『ポカパック島の黒い鞄』片岡しのぶ訳/扶桑社ミステリー 10."THE RESURRECTION MAN" (1992)    『復活の人』浅羽莢子訳/創元推理文庫 11."THE ODD JOB" (1995) 未訳 12."THE BALOON MAN" (1998) 未訳 ★ ディタニー・ヘンビット・シリーズ(Dittany Henbit) 1."THE GRUB-AND-STAKERS MOVE A MOUNTAIN" (1981)    『山をも動かす』森下弓子訳/創元推理文庫 2."THE GRUB-AND-STAKERS QUILT A BEE" (1985)    『キルトは楽しい』森下弓子訳/創元推理文庫 3."THE GRUB-AND-STAKERS PINCH A POKE" (1988)    『芝居も大変』森下弓子訳/創元推理文庫 4."THE GRUB-AND-STAKERS SPIN A YARN" (1990)    『レシピに万歳』森下弓子/創元推理文庫 5."THE GRUB-AND-STAKERS HOUSE A HAUNT" (1993) ★ マドック・リース・シリーズ(Madoc Rhys) 1."A PINT OF MURDER" (1980)    『殺人を一パイント』宮脇裕子訳/創元推理文庫 2."MURDER GOES MUMMING" (1981)    『今宵は浮かれて』宮脇裕子訳/創元推理文庫 3."A DISMAL THING TO DO" (1986)    『呑めや歌えや』宮脇裕子訳/創元推理文庫 4."TROUBLE IN THE BRASSES" (1989)    『ブラスでトラブル』宮脇裕子訳/創元推理文庫 5."THE WRONG RITE" (1992)    『昔むかしの物語』宮脇裕子訳/創元推理文庫                               (かげやまみほ) ---------------------------------------------------------------------------- ●シャーロット・マクラウド名義作品レビュー ★『にぎやかな眠り』/高田恵子訳/創元推理文庫 ISBN: 448824601X  バラクラヴァ農業大学の教職員が住むクレッセント通りは、クリスマスには連日連 夜お祭り騒ぎが繰り広げられる。騒ぎを苦々しく思うシャンディ教授は、家に途方も ない飾り付けをし、素知らぬ顔で出かける。逃げ出してはみたものの気がとがめて早 々に帰宅したシャンディは廊下に転がったビー玉を踏む。ビー玉の数が1つ足りない ことに気づき、ソファの後ろをのぞいたら、同僚の妻ジェマイマ・エイムズの死体 が!  ジェマイマはシャンディ宅の騒々しい飾り付けをはずそうとして転落したらしい。 だが、シャンディの頭には行方不明のビー玉のことがひっかかっていた。事故か殺人 か? スヴェンソン学長の命を受け、シャンディは独自に調査を開始する。  個性豊かな大学関係者が繰り広げる人間模様と機知に富んだ会話を楽しめるユーモ ア・ミステリ。司書ヘレンがいい味を出している。シャンディ教授シリーズ第1作。                                 (中島由美) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=00528797 ★『猫が死体を連れてきた』高田恵子訳/創元推理文庫 ISBN: 4488246060  ある朝、ミセス・ローマックスのところへ飼い猫がかつらをくわえて戻ってきた。 彼女はひと目でそれが下宿人のアングレー教授のものだとわかり、返しておこうと部 屋を訪ねるが、教授はゆうべのバラクラヴァ・ソサエティの月例会から帰ってきた形 跡がない。クラブハウスへ様子を見に行ってみると、そこにはアングレー教授の死体 が! 活動内容がよくわからない排他的なクラブで、いったい何があったのだろうか。  シャンディ教授シリーズ第4作。もともとは第1作で事件の責任を感じ、またスヴ ェンソン学長に無理やり押しつけられるかたちで探偵を始めたシャンディだが、もは やオッターモール署長の臨時助手に任命されているばかりか、実質的に捜査の主導権 を握るまでになっている。シャンディが独身の頃から家の掃除を任せているミセス・ ローマックスの鋭い分析力も光る。                                (花田美也子) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=00620516 ★『下宿人が死んでいく』浅羽莢子訳/創元推理文庫 ISBN: 4488246052  シリーズ第1作『納骨堂の奥に』で姑と最愛の夫を亡くし、25歳の若さで未亡人と なったセーラは、死んだふたりが残した借金返済のために自宅で下宿屋をはじめる。 ところが、下宿人の男性が駅のホームから転落して死亡し、その後部屋を借りた美術 品収集家も暴漢に襲われて死ぬ。新聞は「あのセーラ・ケリングの家に住んでいた」 と書きたてるし、ホームから転落した男性は突き落とされたと証言する者も現れる始 末。セーラは、死んだ下宿人たちと交流のあった従兄ドルフの行動に疑いを抱く。  何かにつけて口をはさんでくる従兄のドルフとジェム、セーラを助ける女中のマリ ポーサと俳優修業中の執事チャールズなど個性的な脇役たちが登場して、暗いトーン だった前作から一転して、にぎやかでユーモラスな雰囲気になっている。美術品鑑定 家ビターソーンもセーラ宅に下宿することになり、ふたりの関係からも目が離せない。                                 (清野 泉) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=00616343 ▽シリーズ第1作『納骨堂の奥に』のレビューは本メルマガ2002年3月号〈スタンダ ードな1冊〉でお読みいただける。 http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0203.htm#standard ★『盗まれた御殿』浅羽莢子訳/創元推理文庫 ISBN: 4488246079  シリーズ第3作の舞台は美術界だ。セーラがビターソーンに誘われて、ケリング家 と犬猿の仲だったマダム・ウィルキンズの美術館を訪れると、そこで警備員の転落事 故に遭遇する。そして事故を目撃した別の警備員が殺される。美術館の所蔵作品が贋 作であることを見抜いたビターソーンや、ケリング一族の変人のひとりである従兄の ブルックスと一緒に、セーラも美術館の裏側で行われている悪事を暴く。  世間知らずのお嬢さまだったセーラは、シリーズがすすむにつれてどんどんたくま しくなり、本作ではビターソーンと一緒にインド人に変装して関係者を尾行したり、 贋作画家たちがたむろするいかがわしい場所に踏み込んだりする。しかし何と言って も注目は、セーラとビターソーンがようやくお互いの気持ちを打ち明けるのだ。                                 (清野 泉) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=00683855 ---------------------------------------------------------------------------- ●アリサ・クレイグ名義作品レビュー ★『キルトは楽しい』森下弓子訳/創元推理文庫 ISBN: 4488246192  舞台となるのは、カナダはオンタリオ州にあるロベリア・フォールズという小さな 町。シリーズ第1作の『山をも動かす』で殺人の被害者となった人物が、地元の婦人 会である〈グラブ&ステーク園芸ローヴィング・クラブ〉に自宅を寄贈するという遺 言を残していたことが判明した。ただしそれには、自宅を博物館として維持管理する ことという条件がついていた。すったもんだの末に理事団が組織され、建物の改装工 事がおこなわれた。しかし開館まであと少しという時になって、任命されたばかりの 館長が博物館から転落死した。事故か自殺か、はたまた他殺か。新婚のディタニーと オズバートの夫妻は真相解明に乗り出すが……。  個性豊かな登場人物たちがドタバタやっているように見えながら、実はミステリと してもしっかりツボが押さえられている。好奇心旺盛で元気いっぱいの主人公ディタ ニーと、ウェスタン小説家のオズバートのアツアツぶりがほほえましく、ふたりがこ れからどんな家庭を築いていくのかも気になるところ。                                (山本さやか) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=01180821 ★『殺人を一パイント』/宮脇裕子訳/創元推理文庫 ISBN: 4488246141  マクラウドの両親の故郷カナダを舞台にした、騎馬警官隊の警部マドックと観察眼 鋭い女性ジェネットのシリーズ第1作。ジェネットの隣人のアギーおば様が亡くなっ た。医者は食中毒だというが、夫を食中毒で亡くして以来、あれほど食べ物に気を配 っていたアギーに限ってそれはありえないことだった。地下貯蔵庫で不審なインゲン 豆の瓶詰めを見つけ、調べようとしたジェネットは第2の犠牲者の第1発見者となっ てしまう。ことの重大さに気づいた警察署長は騎馬警官隊に応援を要請した。  どんな些細なことでも1日で町じゅうに広まってしまうという小さな田舎町。そこ に暮らす個性的な面々がぶつかり合う様はなんともユーモラス。この作品はそんなふ うにコージーでありながらも、謎解きのほうもしっかりと堪能させてくれる。カナダ の美しい自然の描写も楽しめるブリティッシュ・テイストのミステリー。                                 (矢野真弓) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=00938847 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■注目の邦訳新刊レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『喪失』 "SAKNAD"  カーリン・アルヴテーゲン/柳沢由実子訳  小学館文庫/2005.01.01発行 638円(税別)  ISBN: 4094054618 《裕福な家庭のお嬢様が路上生活をしている理由とは?》  シビラの日々の関心事といえば、食べ物を手に入れることとその日の寝場所を確保 すること。そんなホームレスの生活をストックホルムで15年も続けてきたが、元は裕 福な家庭の出だった。といっても家が没落したわけではない。家族から逃れ、身元が ばれるのを恐れて、きちんとした職にもつけずに路上生活を送っていたのだった。  その日、シビラは久しぶりに奥の手を使ってホテルの部屋にもぐりこんだ。だが、 翌朝、ホテル代をおごらせた男が他殺体となって発見されたため、警察に追われる身 となる。さらに、同一人物の犯行と思われる猟奇的な殺人事件が次々と起こり、シビ ラはあっという間に連続殺人犯として指名手配されてしまった。せっかく社会の枠組 みからはずれてひとり平穏な暮らしを送っていたのに、今度は社会全体を敵にまわす ことになった。呆然としつつも逃亡生活を続けるシビラだったが、ひとりの少年と出 会って、真犯人を突き止める決心をした。  金持ちの家のお嬢様が何の因果で路上生活者となってしまったのか? 読者は最初、 みな首をひねることだろう。シビラと家族、とくに母親との確執が、よみがえる記憶 として現在の状況と交互に語られていく。傷つき、こわばってしまったシビラの心を 揉み解してくれる者は、当時ひとりもいなかった。そんな彼女にとって、社会の枠組 みの外で生きるということは唯一の逃げ道だったのかもしれない。ともすると生きる 目的、いや自分自身をも見失いがちになるホームレスの生活だが、少年との出会いに よって、困難に立ち向かっていく勇気や将来への希望を見出せるようになっていく。 そんなシビラの心情を追っていく読者もまた勇気を得ることになるのだ。  スウェーデン人作家アルヴテーゲンの2作目である本書は、ベスト北欧推理小説賞 を受賞している。あとがきによれば、今春刊行予定の第1作の邦訳『罪』(仮題)も、 負債を抱え神経を患った男を主人公にしたある種の心理小説だということだ。「人は 自分を見失うぐらい傷ついてしまうこともあるけれど、それでも踏ん張って自分自身 と向き合っていこうよ」というのが著者の共通のテーマらしい。そこには、最愛の兄 を事故で失ったという著者の辛い体験の影響が、少なからずあるのかもしれない。そ れゆえに、連続殺人の謎に主人公の半生というミステリを絡めた本書からも、心をく じいてしまった人々への著者からの熱いエールがひしひしと伝わってくるのだろう。                                 (矢野真弓) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ。 http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0502 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02498673 ---------------------------------------------------------------------------- 『失われし書庫』 "THE BOOKMAN'S PROMISE"  ジョン・ダニング/宮脇孝雄訳  ハヤカワ・ミステリ文庫/2004.12.31発行 900円(税別)  ISBN: 4151704086 《歴史の空白を埋める日誌はどこに? 失われた書庫を求めてクリフが飛ぶ!》  1987年秋。クリフはひょんなことからミセス・ギャラントなる老婆の死に際に立ち 会い、願い事を託される。それは、祖父が所蔵し、その死後詐欺同然に奪われた膨大 な蔵書を取り戻すこと。その中にはバートンの署名入り初版本や日誌が含まれていた。  ミセス・ギャラントの祖父はバートンと親交があり、新刊が出るたび、署名入りの 本を送ってもらっていた。さらに、ミセス・ギャラントは驚くべきことを口にする。 バートンが南北戦争のきっかけをつくったのであり、その一部始終が書庫にあった日 誌に記されているというのだ。  リチャード・バートンは19世紀に活躍した探検家であり、文筆家でもあった。彼の 翻訳による『バートン版千夜一夜物語』は今も読み継がれている。バートンの生涯に ついては詳細な伝記が著されているが、1860年に渡米後3か月間の行動は謎に包まれ ている。ミセス・ギャラントの祖父はその空白の3か月をバートンとともに旅し、バ ートンが記した日誌を生涯手元から離すことがなかった。  ミセス・ギャラントとの約束を守るため、クリフは失われた書庫を求めて、ボルチ モアへ、またチャールストンへ飛ぶ。  古書店探偵クリフ・ジェーンウェイ・シリーズ第3作。ミセス・ギャラントが暮ら していた施設にボランティアとして通い、その身の上話を聞いた60代のココと、若き 女性敏腕弁護士エリンがクリフをめぐって火花を散らす。本にまつわる蘊蓄度は前2 作に比べて薄いが、歴史ミステリとしては十分楽しめる。  3月には4作目 "THE SIGN OF THE BOOK" が出版される予定である。次作はいかな る趣向を見せてくれるのか、また、その蘊蓄の度合いが気になるところである。                                 (中島由美) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0501 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02498801 ---------------------------------------------------------------------------- 『夢の破片』 "HALF BROKEN THINGS"  モーラ・ジョス/猪俣美江子訳  ハヤカワ・ミステリ/2004.12.31発行 1500円(税別)  ISBN:415001762X 《夢が砕け散るまで》  コッツウォルド地方の壮麗なマナーハウスで、3人の男女が共に暮らしている。老 女ジーン、中年男性マイクル、そして若い妊婦ステフ。彼らは一見夫婦とその母親に 見えたが、血のつながりはなかった。ジーンは天涯孤独で住む家もない屋敷の留守番 係で、老齢を理由にこれが最後の仕事とクビを宣告されている。マイクルは孤児院育 ちの小悪党、その相棒のステフは彼と知り合う前、身ごもったにも関わらず恋人に捨 てられていた。彼らの付き合いは妄想にかられたジーンがかつて私生児の息子を手放 したという広告を打ち、それを自分のことではないかと考えたマイクルがステフを連 れて館を訪ねてきたときから始まった。偽りだらけの暮らしだったが、身の上を打ち 明けた彼らはすぐに家族に、そして共犯者になった。経済面での困難、ジーンの上役 の訪問などあらゆる危機を乗り越えてきたものの、破滅は意外な形で訪れた。  優雅な筆致で描かれたサスペンス。冬から夏にかけての風景描写はことに美しい。 主だった登場人物はすべてまともな道徳観の持ち主とは言えないのだが、細かな書き 込みゆえ圧倒的な存在感があり、哀れで愛すべき人間たちに見える。彼らの迎えた結 末は幸福なものだったと感じられるほどだ。  作者モーラ・ジョスはバースを舞台に、若い女性チェロ奏者を主役としたシリーズ を3作発表しており、そちらの翻訳が望まれる。                                 (柳田有里) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ。 http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0502 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02508458 ---------------------------------------------------------------------------- 『迫り来る死』"NOW THIS"  ナンシー・スター/細田利江子訳  集英社文庫/2004.12.20発行 895円(税別)  ISBN: 4087604780 《若さと美貌への誘いは、死出の旅への第一歩だった》  バツイチ(でも恋は進行中)、幼い娘ふたり(母親業って大変!)、トーク番組の TVプロデューサー(生き馬の目を抜く過酷な世界に生きる)メイ・モリソンが活躍 する、シリーズ第2弾。  星の数ほどのネタ話と毎日格闘するメイのもとに、ある男から謎めいた問い合わせ が1件。だがせっかく休みを取った新学期初日の今日は、母親同士の情報交換が最優 先だ。夫が医者の親友ステイシー宅の昼食会では、サプリメントや若返り効果のある スパの話、それらをメイのトーク番組で扱う話で盛り上がった。だがそれからまもな く、ステイシーが死体で発見される。親友の死因がどうにも解せないメイが調べてみ ると、彼女は死の数日前から、必死でメイに連絡をとろうとしていたことがわかった。 さらに、ステイシーの友人が何人か、立て続けに亡くなっていることが判明する。同 じ頃、例の問い合わせの男が、メイに自宅にまで電話をかけてきたり、近所をうろつ いたりし始める。彼は何を言いたいのか? ステイシーは何を伝えたかったのか?   何かとんでもないことが起きているはずなのに、なかなかその理由が見えてこない サスペンス仕立てで、冒頭の挿話は意味深だ。だが、飽くなき探求心を発揮して公私 ともにてんてこ舞いのメイの日常のせいで、全体的には軽快でにぎやかな印象を受け る。決してスーパーウーマンではないメイの頑張りには、親近感を覚える女性も多い だろう。こぶつき男やもめの殺人課刑事とのロマンスは、今後の進展が気にかかると ころ。アップテンポで陽気な、元気の出るコージーミステリ。                                 (崎浜祐子) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ。 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087604780/bookswhodunit-22/ref=nosim ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02507496 ---------------------------------------------------------------------------- 『もつれ』 "RAVELING"  ピーター・ムーア・スミス/伏見威蕃訳  創元推理文庫/2004.12.24発行 1300円(税別)  ISBN: 4488196020  7歳の妹が消えた20年前の事件の真相を思いだした。ぼくは入院中で病室のベッド に縛りつけられているけれど、犯人の気持ちもわかるし行動もみえる。たとえば今、 ぼくの心理カウンセリングを担当しているキャサリンは、レストランでワインのグラ スを片手に、ハンサムな犯人にみとれている。脳外科医である兄は、ぼくの意識が混 乱しているだけだという。でも、ぼくは、真実を知っている……と、思う。  主人公が1人称で語る形だが、その言葉を鵜呑みにすることはできない。そのなか では決して彼がみることのできない場所や、他人の心情までもが語られているのだ。 すべては彼の妄想だろうか。いや鋭い洞察かもしれない、あるいは……? 登場人物 とおなじく、読者もなにが真実であるのか最後まで知らされることはない。虚実が錯 綜し、もつれあった情報のどれが真実かと目をこらそうとするよりも、騙されるつも りで彼の意識の流れに身をまかせるほうが楽しめそうだ。  独特な才能を感じさせる新人作家の長編デビュー作である。                                 (唐澤涼子) ◇アマゾン・ジャパンで本をお買い求めの場合は「BOOKS WHODUNIT」へ。 http://www.litrans.net/whodunit/bookswhodunit2/index.htm#tushin0502 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02498758 ---------------------------------------------------------------------------- 『悪魔の赤毛』 "THE DEVIL'S REDHEAD"  デイヴィッド・コーベット/小林宏明訳  新潮文庫/2005.02.01発行 933円(税別)  ISBN: 4102150811  ダンが10年の刑期を終えて出所したとき、かつての恋人シェルは別の男と暮らして いた。シェルと麻薬中毒者である同棲相手との生活を見守っていたダンだが、ふたり が麻薬組織から追われる身になったとき、動きだす。暴力とドラッグによる人格破壊 が生々しく描かれていて、読者を凍りつかせる。愛する者を思いやるあまり、逆に相 手を窮地に追いやってしまうダンとシェルに救いの日はくるのだろうか。                                 (清野 泉) ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02507988 ▽本メルマガ2003年バウチャーコン関連新人賞ノミネート作品特集で、原書レビュー がお読みいただける。 http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0310.htm#THEDEVIL **************************************************************************** 〈短期連載〉クラシックミステリ秘宝 ―― グラディス・ミッチェル(最終回) ****************************************************************************  最終回は、『月が昇るとき』(晶文社)の解説で、ミッチェル作品の傑作のひとつ と評されていた "WHEN LAST I DIED" をご紹介する。 ●"WHEN LAST I DIED"(1941)  夏のひとときを孫と一緒に過ごした田舎の家で、ミセス・ブラッドリーはたまたま 古い日記をみつける。日記の作者ベラは、かつてその家に住んでいた婦人の姪で、叔 母殺しの疑いをかけられ、それを苦にして自殺した女性だった。偶然にもベラは自殺 する前、ミセス・ブラッドリーが心理学者として仕事をしている少年たちの更正施設 で、食堂の下働きをしていた。  日記には、ベラが作った食べ物を喉につまらせて叔母が窒息死し、そのことで彼女 を殺人犯呼ばわりする匿名の手紙を受け取っていたこと、叔母の死後、従兄夫婦と一 緒に近所の幽霊屋敷に住んでいたこと、従兄が幽霊屋敷の窓から転落死してその殺害 容疑もかけられていたことが記されていた。一方でベラが更正施設に勤務していた当 時、少年ふたりが脱走して行方不明になり、その脱走にベラが関与していたらしいこ ともわかった。ミセス・ブラッドリーが、死亡した叔母に仕えていた女中や、一時は ベラと暮らしていた従兄の妻らから話を聞くと、叔母と従兄の事件が、日記とは違う 様相をみせはじめる。 『ソルトマーシュの殺人』(国書刊行会)や "THE MYSTERY OF A BUTCHER'S SHOP" といったユーモラスな作品とは違い、本作の雰囲気は暗く、どちらかといえば『月が 昇るとき』に似ている。日記に書かれた事件が、別の語り手たちによってどんどん変 化して、全く違う事件が現れてくる様子は見事だ。しかし感心するのはこれだけでは ない。最後に読者が目にする事件の真相は、物語途中で予想した筋書きとは異なり、 ラストには驚きが待っている。ミステリとしての完成度が高く、ブラックユーモアを 描くオフビートな作家と一般的に評されているミッチェルの新たな面が見えてくる作 品だ。                                 (清野 泉) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■速報 ―― MWA賞ノミネート作品発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  アメリカ探偵作家クラブは第59回MWA賞のノミネート作品を発表した。最優秀長 篇賞をはじめ、主要4部門のノミネートは以下のとおり。  受賞作の発表は現地時間の4月28日、ニューヨークの〈グランド・ハイアット・ホ テル〉にておこなわれる。 ●最優秀長篇賞  "EVAN'S GATE" Rhys Bowen  "BY A SPIDER'S THREAD" ローラ・リップマン  "REMEMBERING SARAH" Chris Mooney  "CALIFORNIA GIRL" T・ジェファーソン・パーカー  "OUT OF THE DEEP I CRY" Julia Spencer-Fleming ●最優秀処女長篇賞  "LITTLE GIRL LOST" Richard Aleas  "RELATIVE DANGER" Charles Benoit  "THE CLOUD ATLAS" Liam Callanan  "TONIGHT I SAID GOODBYE" Michael Koryta  "COUNTRY OF ORIGIN" Don Lee  "BAHAMARAMA" Bob Morris ●最優秀ペイパーバック賞  "THE LIBRARIAN" ラリー・バインハート  "INTO THE WEB" トマス・H・クック  "DEAD MEN RISE UP NEVER" Ron Faust  "TWELVE-STEP FANDANGO" Chris Haslam  "THE CONFESSION" ドメニック・スタンズベリー ●最優秀短篇賞  "Something About a Scar" Laurie Lynn Drummond  (ANYTHING YOU SAY CAN AND WILL BE USED AGAINST YOU)  "The Widow of Slane" テレンス・ファハティ (EQMM - March/April 2004)  "The Book Signing" ピート・ハミル (BROOKLYN NOIR)  "Adventure of the Missing Detective" Gary Lovisi (SHERLOCK HOLMES: THE HIDDEN YEARS)  "Imitate the Sun" Luke Sholer (EQMM - November 2004)  上記4部門以外のノミネートについては、MWAの公式サイトでご覧いただきたい。 http://www.mysterywriters.org/pages/awards/nominees05.htm                                (佐藤枝美子) =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=             ☆★「月刊児童文学翻訳」☆★  インタビュー、最新情報、レビューなど、児童文学翻訳に関する記事が満載の情報 誌。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。                   http://www.yamaneko.org/mgzn/index.htm 毎月15日配信(1月と8月は休刊)。申し込み手続きは前日までにおすませください。 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ---------------------------------------------------------------------------- ■編集後記■  今月は1月に亡くなった、シャーロット・マクラウドの特集をお届けしました。こ こ数年は療養生活をおくって、新作を発表することはなくなっていました。でももう これで、二度とセーラやシャンディ教授の活躍が読めないのかと思うと、ファンとし ては寂しいかぎりです。                        (か) ********************************************************************  海外ミステリ通信 第42号 2005年2月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:きのこ (フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:かげやまみほ  企 画:板村英樹、片山奈緒美、唐澤涼子、崎浜祐子、佐藤枝美子、      清野 泉、中島由美、中西和美、花田美也子、松本依子、      三浦真司、森まり、柳田有里、矢野真弓、山田亜樹子、      山本さやか  協 力:出版翻訳ネットワーク 小野仙内      西洋冒険譚翻訳倶楽部、みもざ翻訳館  本メルマガへのご意見・ご感想、及びフーダニット翻訳倶楽部の連絡先   e-mail:mwmag@litrans.net   掲示板:http://www.litrans.jp/c-board/c-board.cgi?id=15  配信申し込み・解除/バックナンバー:   http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2005 Whodunit Honyaku Club ********************************************************************