■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■              月刊 海外ミステリ通信           第20号 2003年4月号(毎月15日配信) ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ★今月号の内容★ 〈特集〉        2003年の新星を探そう!               MWA賞処女長篇部門全レビュー 〈インタビュー〉    扶桑社ミステリー書籍編集部 金子編集長にきく 〈注目の邦訳新刊〉   『反撃』『ダークライン』 〈スタンダードな1冊〉 『ホッグ連続殺人』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■特集 ―― 2003年の新星を探そう! MWA賞処女長篇部門全レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ミステリ界でもっとも長い歴史をもち、注目を集める賞である、アメリカ探偵作家 クラブ(MWA)主催によるMWA賞のノミネート作が出そろった。  本誌編集部では今年も期待の新人をみつけるべく、処女長篇部門にノミネートされ た作品をすべて読んでみた。旅客機事故に端を発するサスペンスから1頭の鹿をめぐ るすったもんだまで、なんともパワフル、かつバラエティに富んだ顔ぶれである。こ のなかから晴れて栄冠を手にするのはどの作品だろうか。  なお、今年は受賞作予想企画もついている。読者のみなさんも以下に紹介した全5 作品のレビューを参考に、これはという1作にはぜひ投票してほしい。(くわしくは 特集の最後を参照)                          (陽) ▼MWA公式サイト http://www.mysterywriters.org/ ▼処女長篇部門以外の部門とノミネート作(本誌2003年2月号速報) http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0302.htm#news ▼MWA賞概要と昨年のノミネート作(本誌2002年4月号特集) http://www.litrans.net/whodunit/mag/html/0204.htm#feature ---------------------------------------------------------------------------- "SOUTHERN LATITUDES" by Stephen J. Clark Berkley Prime Crime Book/2002/ISBN: 0425186377 《20年ぶりに帰ってきた男が故郷でみつけたものは……》  アラバマ州の小さな町リッチフィールドで、ある夜若い黒人男性の死体が見つかる。 彼は頭を撃ち抜かれ、クー・クラックス・クランがかつて行っていたリンチの方法で 首をつられていた。被害者のレジナルドは妻子のあるまじめな塗装工で、なぜそのよ うにして殺されたのか、家族も知人も思い当たる節はなかった。地元新聞《リッチフ ィールド・レジャー》の記者ネルソン・イングラムは、レジナルドがリッチフィール ド周辺でこの1年間に不審な死を遂げた3人目の黒人と知り、人種差別による連続殺 人ではないかと考えた。だが次の日に白人が殺され、事件の真相が別にあることを知 る。またレジナルドが人違いで殺された情報もつかんだネルソンは、レジナルドの遺 族のため、そして自分自身のため、正義を全うしようと決意を固める。  リッチフィールドの名士の家に生まれ大学入学と同時に町を離れたネルソンは、20 年後の母親の葬式に、ぼろをまとい抜け殻のような状態で戻ってきた。大学卒業後ヨ ーロッパやアメリカ各地を転々としていたが、運に見放されつづけ自殺寸前にまで追 いつめられていたのだ。見かねた叔父に諭され、ネルソンは町にとどまり地元新聞社 に就職した。そしてレジナルドの事件をきっかけに、燃えつきていたはずの心に再び 火がつく。調査に没頭するうち、ネルソンは正義感あふれる弁護士だった亡き祖父と 父親の血が自分にも流れていること、酒に逃げるしかなかった父親のことを理解する ようになる。傷だらけになりながら自分の人生とアイデンティティを取り戻したネル ソンは、40歳を前にようやく大人としての一歩を踏みだすのだった。  事件がほぼ1週間と短期間で解決するため、緊張感が途切れることはなくスピード 感もある。血なまぐさいシーンがあり現代的なテーマを扱っているにもかかわらず、 住民同士が皆知り合いで結束の固い南部の小さな町が舞台のせいか、どこかのんびり とした牧歌的な印象をうけた。ストーリー展開にやや甘さを感じるが、背景となる町 の深刻な現状やネルソンの経歴などが過不足なく描かれていて無理はない。熟年世代 の登場人物がみないい味を出しているのに対し、ネルソンを含め若い世代がそれに比 べてやや面白みにかけていたのが少々残念。テーマは目新しくはないものの、読み終 わった後に大人向けのちょっと苦味を含んだ爽やかさが残る佳作だ。                               (かげやまみほ) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0425186377/bookswhodunit-22 ---------------------------------------------------------------------------- "THE BLUE EDGE OF MIDNIGHT" by Jonathon King Dutton/2002.04/ISBN: 0525946438 《生い茂る木々と川の流れ。静寂の蒼のなかに浮かび上がる、ひとつの憎悪》  フロリダ州南部の広大な湿地帯、エヴァグレイズ。ここは貴重な亜熱帯性の動植物 がみられる地域で、一部は国立公園として保護されている。この湿地帯を流れる無数 の川のひとつに、マックス・フリーマンの住む古い小屋がある。月の輝く深夜、マッ クスは小屋からほど近いところで、布にくるまれた幼女の遺体が置かれているのを発 見した。悪夢のように感じつつ警察に通報しようとするが、警官たちは予期していた かのような反応をみせる。旧友の弁護士ビリーによれば、付近ではこの数か月間に3 人の幼児が遺体で見つかっていたという。さらに、マックスの小屋からは何者かが残 した携帯用GPS受信機がみつかる。ほかの事件でも子供の遺体のそばにGPS受信 機があったことと関連づけ、警官たちはマックスをあからさまに犯人扱いする。  そんなおり、あらたな少女行方不明事件が発生する。犯人は地理に明るい人間とみ たマックスは、観光ガイドの男から情報を得てある場所へ向かった。そこで出会った のは、年配のネイトをリーダー格とする4人の男たちだった。みなエヴァグレイズの 出身で、後ろ暗い過去をもち、警察に追われる身だった。彼らの出自を調べるにつれ、 殺された子供たちとのつながりが見えてくる。それは奇妙な死因とかかわりがあった。  かつてフィラデルフィアの警官だったマックスは、ギャングの少年を正当防衛のた めに射殺し、みずからも瀕死の重傷を負った。その暗い記憶をぬぐい去れず、警官を 退職して他人とのかかわりを断ち、ひとり川辺に暮らす孤独を選んだのだ。  トラウマを負った主人公の闘いというありふれた設定をはじめ、いくつか気になる 点はある。だが、疑いを晴らすためだけでなく元警官としての義務感から犯人を捜す マックスには、読者をひきつける魅力がじゅうぶんにそなわっている。また、深閑と した林とその間をぬうように流れる川、降りつづく雨といったみずみずしい自然描写 も本作の大きな魅力で、地元紙の現役記者だという著者の力量を見てとることができ る。不時着したセスナ機からの脱出劇、敵対しながらも少しずつ打ちとけてゆく警官 たちとの関係など、細部のエピソードもいい。静かにひたりたくなる、地味ながら正 統派のハードボイルドである。                                 (影谷 陽) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0451410785/bookswhodunit-22 ---------------------------------------------------------------------------- 『ジェットスター緊急飛行』 "HIGH WIRE"  カム・マージ/戸田裕之訳  ヴィレッジブックス/2002.6.20発行 800円(税別)  ISBN: 4789718786 《現役機長の処女ミステリ 面白さファーストクラス!》 「ジェット−イースト394、こちらニューヨーク進入管制。右へ旋回して、進路を350 にとれ。3000フィートまで降下して、その高度を維持せよ。計器着陸を許可する。滑 走路はケネディ国際空港31番左」(p.8)  北からは風速35ノットの吹雪。滑走路には2分の1インチの積雪。ジェット−イー スト航空394便のケイト・ギャラガー機長はこの悪天候の中、機体を制御しきれずに 着陸に失敗。乗客乗員223人中、死傷者40名の惨事となった。マスコミはケイトの操 縦ミスと報道したが、彼女は25歳で操縦桿を握り、34歳で機長に抜擢された優秀な技 量の持ち主。墜落の原因が操縦系統のシステム異常だと見抜いていた。会社側はマス コミに合わせたかっこうでケイトを謹慎処分にするが、納得できないケイトは墜落原 因を調べるうちに、ブラックボックス化されている最新鋭の衛星を使った航法システ ム〈STAR〉に目をつけた――。  タイトルからして、ふーん航空パニックものか、と手に取ったらなんのなんの。M WA新人賞の候補作に挙げられ、はやばやと邦訳されたのもなるほどと首肯できる出 来のよさなのである。作者は現役の航空機パイロット。この手の小説でお決まりの航 空機に関わるディテールは精確でありながら一般読者にも分りやすい。登場人物の造 形や動かし方も巧く、緊密なプロットはジェットコースター、いや、まさしくジェッ ト旅客機並みの速度で最後まで読者を引っ張っていく。  ヒロインのケイト・ギャラガーは身長5フィート8インチ、アイルランド系の父、 ギリシャ系の母の血を受け浅黒い小麦色の肌、碧緑色の目を持つ美人。病気で急逝し た夫との間に生まれた5歳の娘モリーがいる。NTSB(国家運輸安全委員会)の事 故調査官マイケル・オロークとのロマンスもなかなかよろしい。母として女として、 そして機長として魅力的なヒロインを引き連れてデビューしたカム・マージ、MWA 賞の結果も楽しみだが次作 "HIGH IMPACT" でもケイトを登場させるというから、首 を長くして待つことにしよう。                                 (板村英樹) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4789718786/bookswhodunit-22 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02187702 ---------------------------------------------------------------------------- "BUCK FEVER" by Ben Rehder St. Martin's Minotaur/2002.09/ISBN: 0312291140 《テキサス、ブロンコ郡の愛すべき男たち》  オジロジカ猟の解禁まで1週間あまりとなった10月末、猟区監視員マーリンは密猟 の通報を受けた。現場であるスワンク氏の狩猟牧場に駆けつけると、倒れていたのは 鹿皮をかぶって群れと行動をともにしていた動物学者だった。救助しようとしたとこ ろ、1頭の雄鹿が興奮して立ちはだかる。マーリンは麻酔をつかってこの鹿を保護し たが、実はこの鹿、牧場の元の持ち主でマーリンの親友コルビーの大事なペットだっ たのだ。どさくさにまぎれてマーリンは鹿をコルビーに渡す。ところがスワンク氏は 予想以上にこの鹿に執着し、保安官を使って厳しく追及してきた。その様子に驚いた マーリンは、スワンク氏を不審に思い、コルビーには気をつけるようにと警告するが、 コルビーは襲われ、鹿が奪われてしまう。ちょうどそのころ不審なコロンビア人がス ワンク氏を訪ねてやってきた。  スワンク氏の牧場で何が起こっているのか知りたいのだが、話はなかなか核心に近 づかない。その代わりに次々と現れるのは、ブロンコ郡に住む男たちだ。みなどこか で事件と係わっているのだが、どれも掠る程度でもどかしい。しかしそこをこらえて じっくり読んでみると、彼らが実に愛すべき男たちであることがわかる。それぞれ個 性的で面白いのだ。みなやるせない事情もあって、少々ずるかったり、または少々欲 深すぎたりと欠点があるが、それがいかにも人間らしい。実際の行動はといえば、ど うも間が悪くずれているから、他人にあまり害もない。そんな彼らのことを半ば呆れ ながら読み進むと、意外な事件の真相が見えてくる。そうして、うっかり事件に近づ きすぎたマーリンは悪人たちに囚われてしまうが……。  マーリンをはじめ、誰をとってもヒーローにはなりきれない男たちだが、友情には あつい。そして最後にものをいうのはその友情だ。信頼すべき親友がいれば、乗り越 えられない危機はない。最後に、こんなにうまくいくわけないじゃないかなどと怒っ てはいけない。ブロンコ郡に根っからの悪人はいないし、悪は自ら滅びるものなのだ。  テキサス、ブロンコ郡の晴れやかな秋の空の下、広大な牧場に群れる鹿と、のんき な男たちの物語。終わりよければすべてよし、と、おおらかな気分で楽しもう。                                 (唐澤涼子) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0312291140/bookswhodunit-22 ---------------------------------------------------------------------------- "OPEN AND SHUT" by David Rosenfelt Mysterious Press/2002.05/ISBN: 089296748X 《ユーモアとへらず口を武器に、弁護士アンディはきょうも行く》  弁護士のアンディ・カーペンターは、再審を請求している死刑囚ウィリー・ミラー の代理人をつとめることになった。ウィリーは7年前、女性ジャーナリストを殺害し た容疑で逮捕され、死刑を宣告された。被害者の手の爪からウィリーの皮膚片が発見 されるなど、物的証拠は圧倒的に彼に不利で、“オープン・アンド・シャット”すな わち、誰がやったか一目瞭然の事件という見方が大勢を占めていた。とても勝てそう にない依頼をアンディが引き受けたのは、尊敬する父のたっての頼みだったからだ。 その父が検察官としてウィリーを起訴し、死刑囚監房に送ったのだった。  調べてみると、酒を飲まないはずのウィリーが逮捕時に泥酔状態だったり、腕に新 しい注射痕があるのに血液からは薬物が発見されなかったりと、いくつか不審な点が 浮かびあがってきた。しかし、どれひとつとして、7年前の裁判では問題にされてい なかった。おまけに、当時の弁護士が無資格だったことまで判明し、単純な殺人事件 の裏に陰謀の影がちらつきはじめる。アンディは町の有力者たちがからんでいるとに らむが、確たる証拠を得られぬまま公判の日を迎えることに……。  こう書くと、熱血派弁護士が冤罪を晴らそうと奮闘する硬派なリーガル・サスペン スかと思われるだろうが、読んでみるとかなり味つけが違う。主人公のアンディは弁 護士でありながら、エルヴィス・コールかマイロン・ボライターを思わせるへらず口 とユーモアのセンスの持ち主で、オフィスビルのエレベーターの電子音声にジョーク で応答し、法廷でも法廷侮辱罪すれすれの物言いで判事の不評をかう。クロスワード ・パズルに熱中してばかりで絶対に電話に出ない事務所の電話番や、コインランドリ ーで無料の法律相談をやっているところをアンディにスカウトされた弁護士など、脇 役陣もどこかすっとぼけていて魅力的だ。シリアスな事件を扱っていながら、全体に 流れるほんわかしたムードはまさに癒し系。とはいえ、ミステリとしてもきっちりで きている。たった1枚の写真からじわじわと真相が明らかになっていくところなどは、 うまさを感じさせる。裏表紙を飾るハーラン・コーベンやドナルド・E・ウェストレ イクの賛辞にも納得の1冊だ。                                (山本さやか) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/089296748X/bookswhodunit-22 ---------------------------------------------------------------------------- 《過去10年の受賞作リスト》(1993年〜2002年)  最優秀処女長篇賞は、2003年現在13部門(特別賞を除く)あるMWA賞のなかでも 最も早い1946年に設置され、ここに挙げた10年よりさらに遡れば、1991年にパトリシ ア・コーンウェル、1982年にスチュアート・ウッズ、1977年にジェームズ・パタース ンといったベテランが受賞者に名を連ねている。まさにベストセラー作家への登竜門 と言えるだろう。 2002年 "LINE OF VISION" by David Ellis 『覗く。』デイヴィッド・エリス(中津悠訳/講談社文庫) 2001年 "A CONSPIRACY OF PAPER" by David Liss 『紙の迷宮』デイヴィッド・リス(松下祥子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫) 2000年 "THE SKULL MANTRA" by Eliot Pattison 『頭蓋骨のマントラ』エリオット・パティスン                    (三川基好訳/ハヤカワ・ミステリ文庫) 1999年 "A COLD DAY IN PARADISE" by Steve Hamilton 『氷の闇を越えて』スティーヴ・ハミルトン                    (越前敏弥訳/ハヤカワ・ミステリ文庫) 1998年 "LOS ALAMOS" by Joseph Kanon 『ロス・アラモス 運命の閃光』ジョゼフ・キャノン                       (中村保男訳/ハヤカワ文庫NV) 1997年 "SIMPLE JUSTICE" by John Morgan Wilson 『夜の片隅で』ジョン・モーガン・ウィルスン                    (岩瀬孝雄訳/ハヤカワ・ミステリ文庫) 1996年 "PENANCE" by David Housewright 『ツイン・シティに死す』デイヴィッド・ハウスライト                      (川副智子訳/ハヤカワ・ミステリ) 1995年 "THE CAVEMAN'S VALENTINE" by George Dawes Green 『ケイヴマン』 ジョージ・ドーズ・グリーン(岩瀬孝雄訳/ハヤカワ文庫NV) 1994年 "A GRAVE TALENT" by Laurie R. King 『捜査官ケイト』ローリー・R・キング(森沢麻里訳/集英社文庫) 1993年 "THE BLACK ECHO" by Michael Connelly 『ナイトホークス』マイクル・コナリー(古沢嘉通訳/扶桑社ミステリー) ▼MWA賞全受賞作品とノミネート作品のデータベース(MWA公式サイト) http://64.57.86.186/edgarsDB/edgarDB.php                                 (松本依子) ============================================================================  受賞作予想大募集! ※プレゼントあり※ ============================================================================  上記レビューと受賞作リストをご参考に、本年度最優秀処女長篇賞受賞作を予想し てください。見事当てられた方の中から1名様に、アマゾン・ジャパンのギフト券 1000円分をプレゼントします。  応募方法は「MWA賞予想」とタイトルを付け、以下のフォームにご記入の上、メ ールでお送りください。締め切りは★4月30日★です。予想結果とプレゼント当選者 は5月15日発行の本誌5月号で発表します。みなさまのご応募をお待ちしています。 メール送付先:mwmag@litrans.net -------------------ここから------------------- □お名前(ハンドルネーム可): □受賞予想作(1作品のみ): □その作品を挙げた理由: □今後特集で取り上げて欲しい内容や、メルマガへの感想をお聞かせください。 (                                  ) -------------------ここまで------------------- ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■インタビュー ―― 扶桑社ミステリー書籍編集部 金子編集長にきく ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ジム・トンプスンやジャック・ケッチャムなど、異色作家の作品を続々と出版して 独特のカラーを打ち出している扶桑社ミステリーは、ミステリ・ファンにとって目が 離せない存在だ。今回は書籍編集部の金子伸郎編集長に「扶桑社カラー」の秘密や今 後の出版予定をうかがった。 ――まず、扶桑社ミステリーの歴史をお聞かせください。 「1986年5月にできたサンケイ文庫が、会社の合併という激動を経て、2年後の1988 年5月に扶桑社ミステリーになりました。いまから7〜8年前にそこからロマンス作 品を扱う扶桑社ロマンスが分かれました。最近は、ノンフィクションや純文学、ロマ ンスからはずれる女性小説などをまとめる、扶桑社セレクトという分類をつくってい ます。今年は扶桑社ミステリーになってから、ちょうど15年目になりますね」 ――翻訳する作品は、どのように決めていらっしゃるのでしょうか。 「15年やって、出たのが900冊、出した作家の数は300弱です。出版作品の約半分はす でに扱っている作家の新作です。それ以外は、エージェントの紹介やシノプシスを参 考に、まだ出していない作家を選んでいきます。基本的に他社で名前が定着している 作家は避けたいと思っています。とはいえ、そうはなっていない事例もあるんですが。 どこかで他社のやらない扶桑社らしいカラーを生かしたいと思っていて、ジャック・ ケッチャムはその代表例です。毎月バラエティに富んだジャンルの新刊を出せるよう にはしているんですが、最近は、同じ月にロマンスを2冊出すということもあるので、 ミステリの出ていない月もありますね」 ――特に力を入れていらっしゃる作家はいますか。 「クレイグ・ホールデンに注目しています。『夜が終わる場所』で大きな反響をいた だき、昨年は『ジャズ・バード』が出ました。大切にしていきたい作家です。オース トラリアの作家、パトリシア・カーロン(『ささやく壁』1999など)もうちだけの作 家ですし、スティーヴン・ハンターも新作が出れば、是非扱いたいですね」 ――ジャネット・イヴァノヴィッチのステファニー・プラム・シリーズは順調に出版 されていますね。 「とても人気のあるシリーズで、ミステリのなかでは読者から次作の問い合わせがい ちばん多いんです。5月末に出る8作目のあと、昨年クリスマスに向けて本国で出版 された "VISIONS OF SUGAR PLUMS"、さらに新シリーズの "FULL HOUSE" の3作を、 今後1年以内に出版する予定です」 ――扶桑社というと、古くは初期のジェイムズ・エルロイから最近のジム・トンプス ンやケント・ハリントンなど、ノワールを継続して出版されているという印象があり ますが、今後もノワールの展開があるのでしょうか。 「ジム・トンプスンは、水準の高い作品がたくさんあるのに、未訳のものが多いんで す。今後もコンスタントに出版していきたいと思っています。3月末には『深夜のベ ルボーイ』(三川基好訳)が出ました。また、一昨年出版されたドイツの注目作家5 人の短編をまとめた『ベルリン・ノワール』につづき、今年は『ロンドン・ノワール』 (邦題未定)という短編集が文庫版で出ます。これは、ミステリー専門書店の店主で、 うちから『キスしたいのはおまえだけ』が出たマキシム・ジャクボヴスキーが選んだ アンソロジーなんです」 ――最近エリザベス・ピーターズの『リチャード三世「殺人」事件』が出ましたが、 これからもこういうコージー作品を出版される予定ですか? 「コージーについては、バランスを見ながら、評判がよければ検討していきたいです ね」 ――最後に、今後の出版予定を教えてください。 「4月末に、アイザック・アダムソンの『東京サッカーパンチ』が出ます。現在の東 京を舞台に、わざとでたらめな話を書いた作品で、おもしろさは保証します。うちが 取らなかった『雨の牙』よりおもしろい! それから、マックス・アラン・コリンズ の『タイタニック・マーダーズ』と『ヒンデンブルグ・マーダーズ』(いずれも邦題 未定)を追って出版する予定です。うちで出ていた『シカゴ探偵物語』や、文春さん の『リンドバーグ・デッドライン』のネイト・ヘラー・シリーズではありませんが、 史実をからめた趣向がコリンズらしい作品です」                      (取材・文/中西和美、山本さやか) ★このインタビューのロングバージョンが、Web版でご覧になれます★ http://www.litrans.net/whodunit/int/fuso.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■注目の邦訳新刊レビュー ――『反撃』『ダークライン』 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『反撃』(上・下)"DIE TRYING"  リー・チャイルド/小林宏明訳  講談社文庫/2003.02.15発行 各876円(税別)  ISBN: 4062736659(上)、4062736667(下) 《リーチャーが帰ってきた! ファン待望のシリーズ第2弾》  2000年に『キリング・フロアー』で華々しいデビューを飾った孤高のスーパーヒー ロー、ジャック・リーチャー。あれから3年、彼のとりこになったファンが待ち望ん でいた続編がようやく出版された。  前作では、ほんの思いつきでブルースの黒人ギタリストゆかりの地を訪れたのをき っかけに事件に巻きこまれたリーチャーだったが、今回彼は、シカゴ・ブルースを聴 きたくてふらりと立ち寄ったシカゴで見知らぬ女性と一緒に誘拐されてしまう。その 女性はFBI捜査官。だが、捜査官になったばかりの新米のうえ、怨恨を買いそうな 凶悪犯罪を扱う部署にいるのではなく、暴力とは無縁の内勤だ。それでは、なぜ犯人 たちは彼女を誘拐したのか? 犯人たちの目的は? そして彼らは何者なのか? 謎 が深まる前半から、次第に背景が明らかになって新たな展開を見せる後半へと、じょ じょに盛りあげていくチャイルドの筆致はあいかわらず冴えている。  なにしろ主人公がかっこいい。家族も友人もいない天涯孤独の身、無職、住所不定 と言うとなにやら怪しげだが、195センチ、95キロの元軍人のリーチャーは、心身と もにとてつもなく強い男なのだ。なにがあろうと常に冷静、いざというときの腕っ節 の強さも言うことなし。そのうえフェミニストときている。ああ、恋人にしたい…… と思うかどうかは別にして、もう彼の活躍を読むだけでシアワセ、という女性読者は 多いはず。ここまで主人公がかっこいいと聞くと、男性の中には「ちぇっ」と思う方 もいるかもしれないが、それは誤解というもの。この作品は、綿密に練られたプロッ トを、刻々と進む秒針の音が聞こえそうな歯切れのいい文体で描いた、痛快アクショ ン・ハードボイルドなのだ。    このシリーズについてもっと知りたいという方は、著者の公式サイト(*)をご覧 ください。作品紹介や著者のインタビューが満載されているうえに、ご希望とあれば リーチャー・Tシャツも購入できます。これであなたもジャック・リーチャー? (*)http://www.leechild.com/index-us-2003.htm                                 (中西和美) ◇アマゾン・ジャパンへ (上)http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062736659/bookswhodunit-22 (下)http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062736667/bookswhodunit-22 ◇bk1へ (上)http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02283884 (下)http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02283886 ---------------------------------------------------------------------------- 『ダークライン』 "A FINE DARK LINE"  ジョー・R・ランズデール/匝瑳玲子訳  早川書房/2003.03.15発行 1800円(税別)  ISBN: 4152084804 《過去の事件にまつわる幽霊の謎》  1958年夏、13歳のスタンリーは家族とともにテキサスの田舎町デューモントに引っ 越してきた。この町のドライブ・イン・シアターのオーナーとなった父親の仕事を、 姉とともに手伝う毎日だ。ある日家の裏で犬と遊んでいたスタンリーは、少女が書い たと思われる手紙や日記の入った金属製の箱を見つける。さらにその先の森の中には 焼け落ちた屋敷の残骸があった。13年前のその火事では屋敷に住んでいた少女がひと り命を落とし、同じ夜に線路の近くで別の少女が首なし死体で発見されたが、どちら の事件も未解決だという。興味をおぼえたスタンリーは事件の真相を探ることにした。  ドライブ・イン・シアターの仕事に誇りをもっている父親や、時の経つのも忘れて 「ターザン」の本に夢中になるスタンリーの姿に、ランズデール自身の映画や本に対 する愛情が強く感じられる作品だ。  ほんの少し前までサンタクロースの存在を信じていて、世界がどうなっているかな ど何もわからない状態だったスタンリーが、ひと夏でそれまでの人生で起こったより も多くの出来事を体験する。言い伝えに満ちた町デューモントではさまざまな幽霊の 噂が絶えない。事件に関わってしまったせいで自分が幽霊に導かれ、この世とあの世 を隔てる細い闇の境界線(ダークライン)を越えてしまうという悪夢に悩まされつつ も、スタンリーはもと警官の黒人映写技師に捜査のてほどきを受けながら謎の核心に 迫っていき、ついに意外な犯人をつきとめる。  10代前半の少年が殺人事件にまきこまれていくという点では、2001年のMWA最優 秀長篇賞を受賞した『ボトムズ』と設定が似ているが、本書では少年の一家により安 定した強さと温かさがある。『ボトムズ』のおばあちゃんのように強烈なキャラクタ ーの持ち主はいないが、女性や黒人は自分の立場をわきまえて行動すべきとされてい た時代にもかかわらず、スタンリーの母も姉も、そして黒人家政婦も、間違いは間違 いだと毅然として言えるたくましい女たちだ。また高い理想を抱きながらもなかなか それを貫くことができない『ボトムズ』での父親に対して、家族を傷つけようとする ものを徹底的に撃退してくれるスタンリーの父親は少しかっこよすぎるかもしれない が、事件の凄惨さにもかかわらず読後感がさわやかな理由はそういったところにもあ るのだろう。                                (花田美也子) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152084804/bookswhodunit-22 ◇bk1へ http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi?aid=p-bkswhod00154&bibid=02295522 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ■スタンダードな1冊 ―― 町中を震え上がらせた無差別連続殺人事件の真相は? ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ではここで問題。過去にMWA賞を3回以上受賞したことのある作家は、誰? 答 えは、ローレンス・ブロック、ディック・フランシス、ルース・レンデル、ドナルド ・E・ウェストレイク、そして、今月のスタンダードの作者ウィリアム・L・デアン ドリアである。  まず1回目は1979年、華やかなテレビの世界を舞台に、放送局のトラブル処理を担 当する主人公が活躍する、ネオ・ハードボイルド風の作品『視聴率の殺人』でMWA 新人賞を受賞。そして次は、1980年、無差別連続殺人を題材にした、エラリイ・クイ ーンばりの本格ミステリ『ホッグ連続殺人』でMWAペーパーバック賞を受賞した。 デアンドリアの代表作ともいえるこの『ホッグ連続殺人』を、今月のスタンダードな 1冊としてご紹介しよう。  豪雪のニューヨーク州の田舎町で、住民たちを震えあがらせる事件が起きていた。 6人もの被害者をだした連続殺人事件。犯人の名はHOG。事故に見せかけて殺人を 犯し、その後、警察をあざ笑うかのように犯行声明を送りつけてくる。はじめは、車 の事故に見せかけて若い女性2人を殺害、次は一人暮らしの老人を階段から突き落と し、そしてドラッグを大量投与して女子大生を死に到らしめ、4番目の被害者である 幼い少年は母親の目の前で首を切り落とされた。手口のあまりの巧妙さと手がかりの 少なさに、警察の捜査は行き詰まり、当局は犯罪研究家である天才ベイネデイッティ 教授に調査を依頼する。調査の見返りとして教授が要求したのは、高額の報酬と事件 が解決したとき犯人と二人だけで2時間話をすることだった。  常軌を逸した論理で犯行を重ねるHOG、警察に対するふてぶてしい挑戦状、それ でも次第に犯人を追いつめていく教授、そして驚愕のクライマックス。作中の、ヒー ターの前で凍死した男の謎には唸る。  物語は緊迫した展開ですすむが、ユーモラスで魅力的な登場人物たちのおかげで、 読者は救われる。異常なほどケチで絶対に自分からは金の支払いをせず、ただ女性に 対してだけは信じられないほどの魅力を発揮する教授。教授を支えるのは、愛弟子の 私立探偵と警察の顧問をしている女性精神科医。私立探偵と精神科医が、次第に惹か れあっていく様子もなかなか楽しい。  しっかりしたプロットに、程よいユーモアもある魅力的な作品だ。そして、読了後 再度読みかえすと、その巧緻な伏線に気づき、さらに驚くはず。  デアンドリアが受賞した3つめのMWA賞は、1995年評論賞である。彼の多才さと、 ミステリに対する造詣の深さがうかがえる。 『ホッグ連続殺人』       ウィリアム・L・デアンドリア/真崎義博訳/ハヤカワ・ミステリ文庫 "THE HOG MURDERS" by William L. DeAndrea                                 (清野 泉) ◇アマゾン・ジャパンへ http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/415073951X/bookswhodunit-22 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― □お詫び□  3月号の〈ミステリ雑学〉の中で店名に誤りがありました。お詫び申し上げ訂正い たします。 《PARTNER & CRIME》(誤)→ 《PARTNERS & CRIME》(正) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ■編集後記■  今年のMWA賞受賞式は、5月1日(現地時間)にNYのグランド・ハイアット・ ホテルで行われます。NYまでは行けなくとも、特集の受賞作予想企画に応募し、気 分だけでも参加してみませんか? 本誌初のこの企画、ご好評いただけるようでした ら来年も続けたいと考えていますので、みなさまからの反応をお待ちしています。  来月の特集は現代フランスミステリ。編集部のお薦め作家や作品をご紹介します。 どうぞお楽しみに。                          (ま) ********************************************************************  海外ミステリ通信 第20号 2003年4月号  発 行:フーダニット翻訳倶楽部  発行人:うさぎ堂 (フーダニット翻訳倶楽部 会長)  編集人:松本依子  企 画:板村英樹、大越博子、影谷 陽、かげやまみほ、片山奈緒美、      唐澤涼子、小佐田愛子、清野 泉、中西和美、水島和美、      三角和代、山田亜樹子、山本さやか  協 力:出版翻訳ネットワーク      小野仙内      花田美也子  本メルマガへのご意見・ご感想:  whodmag@office-ono.com  http://www.litrans.net/whodunit/bbs/wdlight01/light.cgi  フーダニット翻訳倶楽部の連絡先: whodunit@mba.nifty.ne.jp  http://www.litrans.net/whodunit/  配信申し込み・解除/バックナンバー:  http://www.litrans.net/whodunit/mag/  ■無断複製・転載を固く禁じます。(C) 2003 Whodunit Honyaku Club ********************************************************************