――まず、文庫レーベルをお出しになった経緯についてお聞かせください。
「出版不況の昨今、あらたに文庫を出すことについては、ずいぶんご批判もいただき
ましたが、すべてはノリと勢いなんです(笑)。もともと、単行本で出していたもの
が文庫化の時期に入っていまして、どうせなら文庫オリジナルも出してみよう、くら
いの気持ちでした。めざすは楽しく読めるエンタテインメント。本屋にカップルで出
かけて、男性と女性がそれぞれ1冊ずつ〈ヴィレッジブックス〉の新刊を買っていく。
そんな品揃えにしたいと思っています」
――表紙のデザインなど、本の作りにとてもこだわっていらっしゃいますね。
「デザインは鈴木成一デザイン室というところにまとめてお願いしています。新刊は
毎月5〜6冊出ますが、書店で平積みになったときのバランスまで考えてデザインさ
れているんです。カバーをかけずに読んでもらえる本というのがコンセプトです。ま
た、内装も単行本なみにおしゃれな感じに作っているのも、当文庫の特徴です。じっ
さいに本を手にとって開いていただくとわかりますが、タイトルや目次のページなど、
細部にまでこだわっています」
――翻訳する本はどうやって決めるのですか?
「ニューヨークとロンドンにスカウトと呼ばれる人がいて、そこから常に新しい情報
が入ってきます。もちろん、エージェントから紹介される本もあります。本の形で来
るものだけで月に10冊くらい。そのほか、タイプ原稿のものや単なる情報まで含めれ
ば、かなりの数になります。その中からこれはと思うものをリーディングしてもらっ
て決めています」
――これまで出されたミステリ作品でいちばん売れた作品は?
「『雨の牙』(バリー・アイスラー/池田真紀子訳)でしょうか。まったく新しい作
家を紹介したいと考えていたところに、エージェントから紹介されました。リーディ
ングしてくださった方の感触もよかったですし、新人であること、東京が舞台である
ことなどから、はじめてのオリジナル作品にふさわしいと思いました。この作家とと
もに、わたしたちも成長していければという気持ちです」
――わたしどもの編集部では、『さらば、愛しき鉤爪』(エリック・ガルシア/酒井
昭伸訳)が大好評でした。
「はい、これもあちこちでご好評をいただいています。エージェントから紹介され、
『これはうちでなければ出せない』と編集長の即断で翻訳が決まりました。やっぱり
ノリと勢いですね。酒井昭伸さんに訳をお願いしたのも、『恐竜ものなら酒井さん』
とすぐに決まりました」※注:酒井昭伸氏は『ジュラシック・パーク』(マイクル・
クライトン/ハヤカワ文庫NV)の訳者。
――これから出版が予定されているミステリについて教えてください。
「秋には『さらば、愛しき鉤爪』の続編が出ます。お楽しみに。また、《海外ミステ
リ通信》の第7号でご紹介いただいたジョアン・フルークも当文庫から翻訳が出ます」
――今後はどんな作品を出していきたいですか?
「新しいものはもちろんですが、古いものにも目を向けていくつもりです。他の出版
社の目にとまらなかったものや、翻訳が途中でとまっているシリーズにもおもしろい
作品はいっぱいあると思うんです。また、日本で根強い人気のある本格ミステリも手
がけたいですね。わたし自身、エラリー・クイーンやヴァン・ダインなどからミステ
リの世界に入ったものですから。紹介されないまま埋もれていた本格ミステリを発掘
すると同時に、版権が切れた古い作品を新訳で出すことも考えています。〈ヴィレッ
ジブックス〉はトータルで採算を見ているので、作品ごとの売り上げにはこだわって
いません。その分、遊びや冒険ができます。いままでミステリを敬遠してきた読者に
も手にとってもらえるような、そんなおもしろい本を出していきたいです」