■インタビュー ―― ランダムハウス講談社編集部
 今月、ランダムハウス講談社から文庫シリーズが創刊された。13日に出版されたば かりの第1回配本は、歴史ミステリ、YA、ファンタジイ、コージー・ミステリ、ロ マンスと多岐にわたっている。今回は編集部の宮田昭宏さんと相原結城さんに新シリ ーズにかける思いをうかがった。 ――まず、文庫シリーズ創刊の経緯についてお聞かせください。 宮田:ランダムハウス講談社は、当初から若い女性を読者ターゲットにしていたんで すが、以前うちから刊行していた小B6判のシリーズは大きくてバッグに入りにくい という欠点がありました。それにあのシリーズは、書店の置き場所や価格的にも中途 半端だったんです。その点、文庫は安価で持ち運びが便利という利点があります。い ままであまり書店に行ったことがなかったり、読書の習慣がない若い世代に読んでい ただくためにも、今回ソフトカバーから文庫へ移行する運びになりました。 ――講談社文庫との住み分けはどうなるのでしょうか? 宮田:うちは講談社とランダムハウス社が共同出資した会社ですが、組織的には完全 に独立した別会社です。 相原:同じエンターテイメントを扱う出版社としてだぶる作家が出てくるかもしれま せんが、講談社と相談してなにかを決めるということはありません。 ――では、講談社で翻訳がとまっているシリーズを取りあげる可能性もないのでしょ うか? 宮田:そういう視点では特に考えていません。 相原:新たにエージェントなどからお話があれば検討するかもしれませんが、あくま で作品ありきです。うちが見ていいと判断すれば出す可能性もあります。 宮田:ミステリにも時代性がありますからね。社会情勢が変化するなか、以前の作品 を取りあげるより、新鮮なものを出して行きたいですね。 ――出版する作品は、どのように選んでいるのですか? 宮田:エージェントから紹介される場合もありますが、全世界に広がる系列会社から も情報を得ています。うちはファーストルック権といって、海外の系列会社が扱って いる作品に日本で最初に目をとおす権利を持っているんです。これは大きなアドバン テージですし、今後数多くの作品を文庫から出していく体力にもなると考えています。  ランダムハウスにはグローバルなネットワークがあり、多くのエンターテイメント を出版しています。YAやミステリなど、狭いところを専門にしている出版社が多い なか、このネットワークを活用して海外文学の総合文庫を出すのはチャンスだと思い ます。たとえば第1回配本の6タイトルは、どれをとってもおもしろい。しかもバラ エティに富んでいるので、さまざまな読者のニーズに応えられる内容になっています。 ――文庫シリーズ創刊にあたって、独自のコンセプトがあるとうかがいましたが? 相原:うちはマーケティングを重視しているんです。ミステリやYAというようなジ ャンル分けではなく、ヤングアダルト層とコンテンポラリー層というふたつの読者層 を設定し、それぞれに合った作品を出して行きたいと考えています。 ――そのふたつの読者層について、もう少し具体的に説明していただけますか? 相原:コンテンポラリー層は、これまでも文庫を読んでいた人たちです。読書慣れし ていて、比較的むずかしい作品も読む意欲のある人たちですね。ヤングアダルト層は、 年に3、4冊しか読まないけれど、読む意欲はある、でもどう選んだらいいのかわか らないという人たちです。この層が選びやすい作品を投げかけていきたいですね。Y Aやコージー・ミステリなど、会話が多くて読みやすい内容のものを考えています。 ――作品のジャンルがそれだけ多岐にわたると、編集者の方もたいへんだと思うので すが、何人でやっていらっしゃるんですか? 宮田:わたしを入れて4人ですが、おもに作品を選んでいるのはふたりです。そのふ たりは育ってきたバックグラウンドが違うので、それぞれの得意分野を生かして作品 を選んでいます。 ――創刊シリーズの6タイトルはどれもおもしろそうですが、特にお薦めはあります か? 宮田:『聖骸布血盟』は、スペインで出版後半年で50万部を突破し、17か国語に翻訳 されている作品です。来年6月にアメリカでも出版されますが、今回はそれに先駆け ての出版になりました。 相原:キリストの聖骸布が保管されているトリノ大聖堂で火災が発生し、焼け跡から 舌のない男の遺体が発見されるんです。その2年前にも舌のない男が窃盗犯としてつ かまったんですが、当然なにもしゃべれないし、指紋も焼かれていたため、くわしい 事情がわからないままいまも投獄されている。それで、ふたつの事件にはなにか共通 するものがあるのではないかと考えた美術品特捜部の刑事が捜査に乗りだしたところ、 過去から現在につづく謎が次々に明らかになり……というストーリーです。聖骸布の 歴史には実際に2世紀にわたる空白の期間があって、そのあいだになにがあったのか、 著者がオリジナルのアイデアを盛りこんでいます。 宮田:トリノ大聖堂の聖骸布は、時代鑑定で13世紀のものという結果が出ていて、本 物は別のところにあると言う人もいる。だとすると、現在の13世紀のものになった理 由があるはずだし、本物はどうなったのかという疑問も生まれる。現在の捜査に聖骸 布の歴史的ミステリ要素をからめ、緻密に計算されつつもスピーディに展開する作品 です。これはデビュー作なんですが、著者はもともとジャーナリストなだけあって、 綿密な調査にのっとって書かれているんです。実在する組織が登場するなど、文句な くおもしろいとお薦めできます。 ――今後の刊行予定を教えてください。 宮田:来月も6タイトルを刊行しますが、そのなかでも特にお薦めはスティーブン・ レザーの『ロンドン爆破まで九日間』でしょうか。タイトルどおり、ロンドンを舞台 にした9日間の物語です。娘を誘拐され、爆弾をつくるよう強迫された母親と、爆弾 をつくらせる側のリーダー、それを阻止しようとする公安官の3人が全員30代の女性 なんですが、立場の違う3人それぞれに哀しい過去やドラマがあるんです。個性的な 脇役とのからみもあったりで、ひじょうに周到にできた作品です。先日ロンドンで実 際に爆破テロがありましたが、なぜロンドンはあれだけ爆弾に神経質で、あれだけ早 く犯人を逮捕できたかなど、今回の事件の背景も理解できる内容になっています。 ――YAの文庫というのも斬新ですね。 相原:最近いいYAがいろいろ他社から出ていますが、ああいうものを文庫で読める ようにしたかったんです。実は、ヤングアダルト層の裏コンセプトは少女漫画なんで すよ。作品を選ぶ基準として、会話が多く、登場人物が少なくて、展開が速くてビジュ アル的にイメージしやすい、という方向で考えていたら、それがすべてあてはまるの は少女漫画ではないかと。少女漫画を読んで育ち、漫画と小説を同列に捉えている人 たちに訴える作品を探しています。  10月配本の『さよなら、星の向こうへ』は父子の別離を描いた泣ける作品です。女 性向けのつもりだったんですが、社内では男性の評判もよくて、万人に受け入れても らえそうです。 宮田:これまで読書に馴染みがない人も、読書ってこういうものなのかと感じたり、 読後になんらかの問題意識を持ったりしてもらいたい。小説を読む楽しみをわかって もらえる作品、大人でも素直に楽しめる作品を紹介していきたいですね。 ――ホラーの出版予定はありますか? 宮田:ホラーも出したいんですが、いまのところまともなホラーが見つからないんで す。最終的にはコメディになってしまったり、奇天烈な落ちになっていたりで、どう もピンとくる作品がないんですよね。笑いのつぼと同じように、怖さのつぼにも文化 的側面が影響して、アメリカ人が怖いと思うものと日本人が怖いと思うものは違いま すから。ただ、いい作品があれば取りあげていきたいと思っています。
(取材・文/中西和美、山本さやか)
 (2005年9月号)
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■ランダムハウス講談社文庫の第1回配本■

『聖骸布血盟』(上) フリア・ナバロ/白川貴子訳  
『聖骸布血盟』(下) フリア・ナバロ/白川貴子訳  
『あなたが見えなくて』 ダイアナ・パーマー/香野純訳  
『絹の女帝 遙かなる野望』 ジョゼ・フレーシュ/番由美子訳  
『ノー・セカンドチャンス』(上) ハーラン・コーベン/山本やよい訳  
『ノー・セカンドチャンス』(下) ハーラン・コーベン/山本やよい訳  
『お茶と探偵 ダージリンは死を招く』 ローラ・チャイルズ/東野さやか訳  
『黄色い気球』 ローリー・ハルツ・アンダーソン/赤尾秀子訳  

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