< インタビュー 延原泰子さん  
■インタビュー ―― 延原泰子さん
 今月のインタビューは、「スタンダードな1冊」でも取り上げたリーバス警部シリ ーズの訳者、延原泰子さんにお話を伺った。
《延原泰子さん》神戸生まれ、大阪大学大学院英文学修士課程卒業。『採用できない証拠』(フィリップ・フリードマン著/ハヤカワ文庫NV)、『ケネディ家の女たち』(ローレンス・リーマー著/早川書房)、『シンプルな豊かさ 1月―6月〜癒しと喜びのデイブック』(サラ・バン・ブラナック著/早川書房)等訳書多数。


『黒と青』
イアン・ランキン
©早川書房
表紙の画像は、出版社の
許可を得て掲載しています。

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『滝』
イアン・ランキン
©早川書房
表紙の画像は、出版社の
許可を得て掲載しています。

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――翻訳を志されたたきっかけを教えていただけますか。
「もう15年以上か、もっと前になりますが、その頃現代の英米女性作家の本をぼちぼ
ちと読んでいました。ドリス・レッシングとかケイト・ショパンとか。とてもいい作
品がたくさんあるのに、その頃は翻訳されることがめったにありませんでした――今
でこそどんどん翻訳出版されていますけど。それで自分が大感動した小説を、ぜひと
もほかの女の人たちにも読んでもらいたい、などと自分の能力はさておき、夢のよう
なことを考えていたら、ちょうどおりよく、大阪で翻訳学校(サイマル・アカデミー)
が開校されたので、そこに第1期生として入りました。そして菊池光先生の教えを受
け、ミステリもおもしろいよと言われて、翻訳の仕事をいただくようになりました」

――リーバス警部シリーズを訳されたいきさつをお聞かせください。
「早川書房の編集者の千田さんから、今後のイギリス・ミステリの柱となりうる、す
ごく力のある作家なので、訳してみませんか、というお誘いを受けました。もしかし
たらゴールド・ダガー賞を取れそうなんです、というお話でした。まず『血の流れる
ままに』を翻訳し始めたのですが、『黒と青』が期待通り受賞したので、順番が逆に
なるけれど、大作の『黒と青』から読者に紹介することになりました」

――リーバスの魅力はどんなところだと思われますか。
「単純なタフガイでないところかな。しょぼくれた頑固な中年男で、屈折していて内
省的で、やさしさと乱暴さが同居しているという複雑な性格に描かれているでしょ。
自立心旺盛な娘がいる、という設定が利いていますね。とりわけエジンバラに深い思
い入れがあるというところが魅力的です」

――リーバス警部シリーズでお好きな登場人物は?
「リーバス警部の部下のシボーン刑事です。爽やかな性格がリーバスと対照的ですね。
訳していてシボーンが出てくる箇所になると、嬉しくなります。彼女のせりふはなる
べくきびきびした感じにして、好感を持たれるようにしたいと心がけているんです
が……」

――スコットランドの地名や固有名詞が出てきますが、苦労話などはありますか。
「とにかくカタカナで表記するのが難しいですね。失敗もあります。最初の頃、
Cockburn という通りの名前を確認し損なって、コウバーンと表記すべきところをコ
ックバーンなどと書いてしまったり。作品の中にスコットランド語の単語がさらっと
混ぜられているのですが、その全部を、ここはスコットランド語で書かれていますよ、
とルビ付きやら訳注付きで紹介するとわずらわしいので、ぜったい残したいと感じた
箇所以外は、残念ながら、ふつうに訳してしまっています。訳者だけが楽しんでいる
わけで、申し訳ないです」

――スコットランドに行かれたことはありますか?
「リーバス警部シリーズを手がけるより前に、2回ほど行きました。1回目はエジン
バラを振り出しに、アバディーン、インヴァネス、ピットロッホリー、グラスゴーと、
B&Bに泊まりながら、ぶらぶらと回りました。2回目はエジンバラだけ。今ならエ
ジンバラにリーバス警部ツアーもあるそうなんですけどね」

――お勧めのレファレンスブックはありますか。
「Fodor's の "Exploring Scotland" という観光案内書ですが、写真がたくさん載っ
ていて、歴史や由来などが詳しく説明されている美しい本なので、お気に入りです」

――作品中、音楽についてのうんちくが多いですが、調べもののコツなどありました
らお願いします。
「バンドや曲名については、インターネットがいちばんの味方です。ほぼすべてのバ
ンドにはホームページやファンのページがあります。おどろおどろしい凝ったページ
が出てきたりして、なかなかおもしろいですよ。歌詞の一節を訳すときは、リリック
のページからその歌詞の全文を読み、誤訳のないようにつとめます。ローリング・ス
トーンズの古いレコードジャケットの描写があったときも、そのジャケットの写真が
ちゃんと載っていたので、訳語を選ぶ上でずいぶん助かりました。もちろん作品に出
てきた曲を全部聴いたわけではありませんよ。CDショップで運よく見つけたら、嬉
しくなって買うこともありますけど」

――ランキンのほかに好きなミステリ作家を挙げるとしたら?
「ジョン・ル・カレ、ディック・フランシス、スティーヴン・ハンター、高村薫など
かな。ぐっと哀感がこみ上げるような作品が好きです」

――今後の予定をお聞きしたいです。
「今は Eddie Muller という作家の "The Distance" という小説を翻訳中です。とき
は1948年、ところはサンフランシスコで、新聞記者とボクサーの話なんです。その
当時の華やかで無頼なボクシング業界が、見事に描かれています。煙草の煙が立ちこ
めるみたいに、濃密な雰囲気の作品で……そのあとリーバスものの次の作品にかかる
予定です」
(取材・文/大越博子)
(2002年9月号)
 
■主な訳書紹介■ 

『危険な道』クリス・ネルスコット著(ハヤカワ・ミステリ)
『シンプルな豊かさ 1月―6月〜癒しと喜びのデイブック』
  サラ・バン・ブラナック著(早川書房)
『ケネディ家の女たち』ローレンス・リーマー著(早川書房)

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