■インタビュー ―― 小林宏明さん
 今年6月、ミステリの翻訳にたずさわる者が長いあいだ待ち望んでいたレファレン ス本が出版された。題して『小林宏明のGUN講座』(エクスナレッジ社)。  警官や自衛官でないかぎり、実銃を目にする機会のないわれわれ日本人にとって、 海外ミステリに登場する銃器の描写をどう訳すかは悩みの種だった。インターネット で外国のサイトを調べても定訳があるかどうかわからないし、日本で出版されている ごくわずかな本はマニア向けで、基礎知識のない者が読んでもさらに疑問が増えるだ けだった。  そんな状況のなか、拳銃やライフル、ショットガン、マシンガン、弾薬について初 心者にもわかりやすいように系統だてて説明されているこの本は、まさに銃器レファ レンスのバイブルと言っても過言ではないだろう。  今回は著者の小林宏明さんにメイキング・ストーリーをうかがった。
《小林宏明さん》1946年生まれ。東京都出身。明治大学英米文学科卒。『LAコンフィデンシャル』(ジェイムズ・エルロイ著/文春文庫)、『キリング・フロアー 上・下』(リー・チャイルド著/講談社文庫)、『多重人格殺人者 上・下』(ジェイムズ・パタースン著/新潮文庫)など、翻訳書多数。


『小林宏明のGUN講座』
小林宏明
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『死を啼く鳥』
モー・ヘイダー

©角川春樹事務所
表紙の画像は、出版社の
許可を得て掲載しています。
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――『GUN講座』を出版された経緯についてお聞かせください。
「2000年11月から1年間、『通訳・翻訳ジャーナル』誌に《エンターテインメントの
陰に銃がある》というエッセイを連載していました。それを読んだ翻訳家の東江一紀
さんに1冊の本にまとめるように勧められ、出版社まで紹介してもらいました。実際
に本にするにあたっては、大幅に加筆してあります」

――銃についてくわしく調べようと思われたきっかけはなんですか?
「もともと銃には関心があったのですが、翻訳家仲間のパティオ(注)に寄せられた
銃に関する質問について調べているうちに歴史や由来などの背景がわかり、さらに興
味が深まって自分なりに勉強するようになりました」
(注)認証を受けたメンバーだけが参加できるオンライン・コミュニティ

――執筆にあたって苦労された点は?
「銃というのは特殊な世界ですから、まったくの初心者にもわかりやすい内容にする
ためにはどこから説明すればいいのか、そのポイントをつかむのがむずかしかったで
すね。その点では、翻訳家仲間から寄せられた質問や、@niftyの文芸翻訳フォーラム
で翻訳を勉強中のメンバーが作ってくれた質問リストがたいへん役に立ちました。
『GUN講座』は翻訳にたずさわる人たちだけでなく、海外ミステリを読むのが好き
な人たちにも読んでいただきたい本です。銃の知識がなくても海外ミステリを読むこ
とはできますが、ウェザビー・ライフルはライフルのなかでも高価で強力なモデルだ
ということや、ライフルやサブ・マシンガンには善玉(警察や軍隊)が持つモデルと
悪玉(ギャングなどの犯罪者)が持つモデルがあるということを知っていると、もっ
とミステリを楽しむことができると思います」

――銃の初心者にとって『GUN講座』はとても役に立つレファレンスだと思います
が、この次にそろえる資料としてお薦めのものはありますか? 
「『最新ピストル図鑑』(床井雅美著/徳間文庫)などの図鑑がいいと思います。実
物の写真を見ることで具体的なイメージがわきます」

――銃の描写がうまい作家としてダシール・ハメットやドナルド・ハミルトンをあげ
ていらっしゃいますが、そのほかには?
「最近読んだなかでは『鋼(はがね)』(ダン・シモンズ著/嶋田洋一訳/早川書房)
がおもしろかったですね。また、『最も危険な場所 上・下』(スティーヴン・ハン
ター著/公手成幸訳/扶桑社ミステリー)には実在した有名なガンマンをもじった人
物がたくさん登場し、さながら活字版『荒野の7人』を思わせるストーリーでたいへ
ん楽しめました。以前に比べると、ミステリのなかに銃の細かい描写が多くなったの
は事実ですが、すべての描写が正しいとはかぎりません。銃や銃撃の場面を書いてい
る作家がみな実際に銃を所有していたり、実射の経験があるわけではなく、資料をも
とに想像力で書いている人もいるようです。逆に、もと警官や軍人という経歴を持つ
作家は生々しい銃の場面を書かないことが多いのですが、それは銃のおそろしさや被
害者の悲惨な姿をよく知っているからかもしれません」

――ハワイで実射を体験されたそうですが、感想は?
「実銃を撃ちたいと強く思っていたわけではなく、ハワイに行ったついでにためしに
ちょっと撃ってみただけですので、44マグナムの衝撃の強さが印象に残っている程度
です。ただ、最近は同じ口径のオートマティックとリボルバーの反動のちがいを実感
してみたいと思っています」

――続編の予定はありますか?
「具体的にはありませんが、もし機会があれば、次はショットガンについてもっとく
わしく書いてみたいですね。ショットガンはアメリカのミステリによく登場しますが、
もともとは狩猟用としてイギリスで生まれたもので、精巧な彫刻をほどこしたものが
貴族のあいだで珍重されていたようです。その後の発展の過程で有名人が関わった歴
史もあり、くわしく調べたらおもしろそうだと思っています。また、ケネディ大統領
暗殺事件やキング牧師暗殺事件など、アメリカで起こった実際の銃撃事件を、使用さ
れた銃の側面からとらえた本も書いてみたいと思います。最近おこったロサンゼルス
空港での事件も、日本ではそういう事件があったという報道しかされませんでしたが、
犯人はどんな銃を使ったのか、そういうことに興味があります」


                           
(取材・文 中西和美、山本さやか)
(2002年8月号)
 
■主な訳書と著書紹介■

【著書】
『小林宏明のGUN講座―ミステリーが語る銃の世界』(エクスナレッジ)
【訳書】
『諜報指揮官ヘミングウェイ』(上・下)ダン・シモンズ著(扶桑社)
『死を啼く鳥』モー・ヘイダー著(角川春樹事務所)
『ジョン・レノン語録』マイルズ著(シンコー・ミュージック)
『ジェニーのなかの400人』(上・下)ジュディス・スペンサー著(早川書房)
『診断名サイコパス―身近にひそむ異常人格者たち』ロバート・D・ヘア著(早川書房)
『キリング・フロアー』(上・下)リー・チャイルド著(講談社)
『キラー・オン・ザ・ロード』ジェイムズ・エルロイ著(扶桑社)
『FBI殺人教室』ラッセル・ヴォーバゲル著(アスペクト)

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