このインタビューは2000年11月25日(土)、東京・新宿の早稲田奉仕園で開かれた「文芸翻訳フォーラム 秋のオフライン・パーティー」に翻訳家の鎌田三平さんをお招きして行われたものです。
●ミステリを読み始めるきっかけとなった作品は何ですか。
小学生のころ読んだシャーロック・ホームズが最初だったと思います。小学校の何年生かも覚えていないくらい小さい頃。6歳上の兄が本好きで、ミステリもたくさん持っていた。それを読んだわけです。エラリー・クイーンなども小1か小2か、その頃に読んでいたんじゃないかな。もちろん、難しい言葉などは出てきても意味が全然わからないままでしたけれども。後から大きくなって振り返って、ああ、あの頃はあれを読んだのか、というふうに確認するという感じで。
SFも、早川のSFシリーズや、元々社のシリーズなどを読みましたね。ハバード(※1)とか、ハインライン(※2)とか。それから大きくなると、ホームズからだんだんと冒険小説へ好みが移ってきて、アリステア・マクリーン(※3)とかギャビン・ライアル(※4)などを読むようになりました。それで、そういった自分の好きな本を出しているところで仕事がしたいと思っていたら、たまたま早川書房に入社できた。だから、好きなことだけをずっとやってこれたという気がします。
●一口にミステリといっても、現在は非常に幅広いジャンルが含まれるようになっていますが、中でもどういった傾向のものがお好きですか。
理詰めで謎を解いていくようなものが好きですね。最近ならジェフリー・ディーヴァー(※5)。まあ、推理といってもよくよく考えれば怪しいぞ、ということもあります。ホームズのパロディでシュロック・ホームズ(※6)というのがありますが、あそこに書かれているようなもので、よく考えてみると別に推理でもなんでもないこともある。でも、物語という世界の中では楽しめる、というものですね。
ただ、ディーヴァーの場合は今年、『悪魔の涙』と『コフィン・ダンサー』が続けて出てしまったのが残念ですね。ベストテンの投票などではどうしても票が割れてしまうし、同じ作家のものを続けて読むと欠点が見えてしまうということもあって。次はこうなるぞ、とか。それで楽しみが減ずるとまではいいませんが……。
探偵が何もしないで終わってしまう話は嫌いなんです。横溝正史なんかそうでしょう。次々と殺人が起こって、最後の一人が殺されてから「犯人はおまえだ!」もっと前に気付けよ(笑)。探偵が物語の展開に直接コミットしていかないパターンですね。
●現代のミステリとは。
昔は探偵といえば、事件の関係者に話を聞いて回るインタビュアーという役目だった。でも今はそうではないですね。現代の探偵は、事件に対して、自分自身がコミットせざるを得なくなってきていると思います。たとえばレヘイン(主な訳書を参照)でいうと、主人公のパトリックという私立探偵が事件に直接コミットしていくし、事件の結末にまで直接かかわる。マット・スカダー(※7)などもそうです。その結果、パトリックの相棒のアンジーが「もう探偵をやめよう」と言い出したりするし、スカダーなら酒に逃げる。そんなふうに、深刻で悲惨な事件に直面して、自分の身にも否応なく跳ね返ってくるんですね。
【注】
(1)ロン・ハバード……東京元々社から『宇宙航路』が刊行されていた。
(2)ロバート・A・ハインライン……アイザック・アシモフとともに戦後アメリカSFの黄金期を築いた作家。主な著作は『人形つかい』『宇宙の戦士』ほか。
(3)アリステア・マクリーン……英国の冒険小説作家。主な著作は『女王陛下のユリシーズ号』『ナヴァロンの要塞』ほか。
(4)ギャビン・ライアル……英国の作家。『深夜プラス1』は現在も人気を誇る。
(5)ジェフリー・ディーヴァー……『ボーン・コレクター』に始まるリンカーン・ライム・シリーズで人気を集める作家。ほかに『静寂の叫び』『悪魔の涙』など著書多数。
(6)シュロック・ホームズ……ロバート・L・フィッシュによるパロディ・シリーズ。『シュロック・ホームズの迷推理』(光文社文庫)が入手しやすい。
(7)マット・スカダー……米国のハードボイルド作家、ローレンス・ブロックによる探偵シリーズの主人公。『過去からの弔鐘』(二見文庫)、『八百万の死にざま』(早川書房)ほか。
(聞き手=H・S、構成と注作成=DRACO)
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