■インタビュー ―― 《ミステリマガジン》編集部
 1956年6月に《エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン》としてスタート以来、 実に半世紀近くもの歴史を誇る早川書房の《ミステリマガジン》は、海外ミステリの 貴重な情報源であるとともに、毎月、良質の短篇を世に送り出してきた。今月は入社 以来4年にわたって《ミステリマガジン》の編集に携わってきた、木全一喜さんにお 話をうかがった。
――毎号、趣向を凝らした特集を組まれていますが、どのようにして決めているので すか?  編集長とぼくとでお互いの持っている企画を持ち寄り、あれこれ検討して決めます。 たとえば、3月25日発売の5月号では〈ブラック・ライターの系譜〉という特集を組 みましたが、これはぼくがあたためていた企画です。トニ・モリスンの最新作『ラヴ』 (大社淑子訳)が小社から3月刊で出たので、それにからめてやったらいいんじゃな いかということで決まりました。こんなふうに、持っている企画と書籍の刊行とをう まくからめる場合もあります。でも、それはかなり稀有な例で、必ずしもそううまく はいきません。4月25日に出た6月号ではチャック・パラニュークの短篇を載せまし たが、これは特集ではなく〈傑作ミステリ〉の枠で扱いました。4月に『ララバイ』 (池田真紀子訳)という新作が出たので、なにかからめて特集ができるか検討したの ですが、けっきょくうまくはまるものがなくて、じゃあ〈傑作ミステリ〉の枠でいこ うかという感じで。  また持ち込み企画を使わせていただくこともあります。最近の例で言えば、フラン ス・ミステリの特集は高野優さん、ホームズの特集は日暮雅通さん、2005年2月号の マックス・アラン・コリンズや2004年8月号の〈幻想と怪奇〉特集は、尾之上浩司さ んの持ち込みです。 ――特集に載せる短篇はどのようにして選ぶのですか。  作家特集の場合はまず短篇集を調べます。また、"Ellery Queen's Mystery Magazine" や "Alfred Hitchcock's Mystery Magazine" といった雑誌に新しい短篇 が入っていることもあるので、それもチェックします。そんなふうにアンテナを広げ ながら10篇ほど読み、おもしろいものから優先的に載せていきます。  テーマ特集の場合はいろいろなケースがあります。たとえば、今年の4月号で〈危 険な女たち〉という特集をやりましたが、これはオットー・ペンズラー編による "DANGEROUS WOMAN" という、危険な女性が出てくる話ばかりを集めたアンソロジーが 出たので、掲載した作品はすべてそこからのものです。同じようにアンソロジーで決 まる特集に、毎年3月の〈ベスト・ミステリ〉があります。これは年に1度アメリカ で出る "THE BEST AMERICAN MYSTERY STORIES" というアンソロジーから選んで載せ ています。  同じテーマ特集でも2004年10月号の〈犯罪と音楽の協奏曲〉の場合は、ぼくがずっ と寝かせていた企画で、使えそうな短篇を見つけたらメモして、もしくはパソコンの なかに保存して……という感じで、時間をかけてためていたものです。でもその月は 特集にあまりページが割けなくて、ぼくとしてはちょっと不満が残ってますね。なに しろずっとずっと寝かせていたものだから、25篇くらい読んでいるんですよ。そのな かからなるべく短いのを選んだわけですが、ジョン・ラッツの「タンゴは彼女のすべ てだった」だけは、いちばん思い入れがあったので、長いけど入れました。 ――まもなく発売になる7月号も音楽ミステリ特集ですね。  ええ、今度のには6篇載せます。音楽のジャンルとしてはジャズあり、パンクあり、 ダンス・ミュージックあり、ブラック・ミュージックありといろいろです。すべてぼ くが読んで決めました。また、この号はブック・ガイドやライターズ・ノートも担当 します。 ――これまで手がけたなかでいちばん気に入っている特集はなんですか?  最初に挙げた、2005年5月号の〈ブラック・ライターの系譜〉です。自分のやりた い対象にどうアプローチしていったらいいのかがわかってきた段階でやったので、大 きなトラブルもなく、それでいて自分のやりたいものをぞんぶんに注ぎ込めました。 一種の理想形と言っていいと思います。でも、いちばん最初に手がけた〈コージー・ ミステリへの招待〉も捨てがたいですね。好きにやっていいと言われて、わがまます ぎるぐらいわがままにやらせてもらいましたから。 ――では、特に気に入っている作品はなんでしょうか?  むずかしい質問ですが、先に挙げたジョン・ラッツの「タンゴは彼女のすべてだっ た」、チェスター・ハイムズの「夢にうつつに」(2005年5月号)、マーシャ・タリ ーの「料理人が多すぎる」(2004年5月号)の3篇ですね。こうやって挙げてみると ジャンルがばらばらですが、雑誌の編集にかかわったことで、いままであまり読まな かったジャンルのものも読むようになった結果だと思います。 ――話は変わりますが、ジェフリー・ディーヴァーのように長篇作家のイメージが強 いけれども、実は短篇もおもしろいという作家を教えていただけますか?  ベタな答えですが、やはりローレンス・ブロックでしょう。なにをやらせてもはず れがありませんからね。マイクル・コナリーもすばらしいです。短篇は《ジャーロ》 に掲載された「空の青(シエロ・アズール)」、小誌で紹介した「クリスマス・イー ヴン」と「二塁打」の3篇だけと数は少ないですが、どれもうまいですね。2002年10 月号で特集を組んだ、ジョー・R・ランズデールもはずせません。長篇と同様、短篇 もいろいろなタッチの作品を書いていますがそれぞれにおもしろさがあります。特集 で載せた作品はみんな好きですね。また、ジョイス・キャロル・オーツは長篇と短篇 とでずいぶんとタッチがちがうという意味でお薦めです。 (注)「空の青(シエロ・アズール)」は『探偵稼業はやめられない』(光文社文庫) に、「二塁打」は『ベスト・アメリカン・ミステリ ハーレム・ノクターン』(ハヤ カワ・ミステリ)にも収録されている。 ――いわゆるビッグネームではないけれど、いい短篇を書く作家を教えてください。  フランス人作家のヴィルジニ・デパントは、ポップな壊れ具合が気に入っています。 もうちょっと暗いトーンで書いたら下手なノワールになってしまうんですが、どうし ても顔をのぞかせるポップなテイストというのがあって、そういうところが好きです。 原書房から『バカなヤツらは皆殺し』(稲松三千野訳)という長篇が出ています。あ とはそう……チェスター・ハイムズかなあ。黒人の権利を訴えたものもすごくいいし、 純粋にエンタテインメントに徹した作品もいいんですよ。ミステリとしても、文学と しても語れる稀有な作家だと思います。もうひとり、コージー好きとしてはドナ・ア ンドリュースを挙げておきましょうか。短篇の数は少なく、本誌でも1篇しか翻訳さ れていませんが、ぼくの考えるコージーの間口を広げてくれた素晴らしい作家です。 ――短篇の魅力とはどんなところでしょうか?  あたりまえですが、すぐ読めるところじゃないかと思います。短篇も長篇も本質は 同じだと思うんですよね。おもしろいものは短篇だろうと長篇だろうと、ちゃんと起 承転結があったり、あるいは意外なオチがあったりするわけです。物語のおもしろさ を手軽に味わいたいなら短篇を読めばいいし、物語の世界にどっぷり浸かりたいなら 長篇を読めばいい。だから中篇に近い作品は苦手ですね。非常に良い作品はあります が、どちらにしても中途半端な感じがして。
(取材・文/山本さやか、松本依子)
(2005年5月号)
 
■早川書房発行の最近の短篇集紹介■
『ベスト・アメリカン・ミステリ ハーレム・ノクターン』 J・エルロイ&O・ペンズラー編 
『ベスト・アメリカン・ミステリ ジュークボックス・キング』 M・コナリー&O・ペンズラー編 
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