【Q】翻訳の道に進まれたきっかけをお聞かせください。
【A】もともと本が好きで、書くことを仕事にできればという憧れはありました。で
も、こと翻訳に関していうと、翻訳物は読んでいたのに、原書のまま読まなければそ
の本のメッセージは充分に伝わらないのではないかとの思いもあって……そのハード
ルを乗り越えさせてくれたのが、スティーヴン・キングの "IT" です。原書で読み、
“子どもの不幸”に共感するあまり、この作品のメインとなる感覚やアイデアは日本
語に移しかえても充分に伝わる、と感じました。その手応えと、東京を離れて仕事探
しに苦労したという体験が重なって、翻訳学校へ。通いはじめて8年ほどたった頃、
姉弟子にあたる翻訳家の方からリンダ・ハワードの下訳をやってみないかというお話
をいただき、それが今の仕事に結びつきました。デビュー作を訳すときは頭に血が昇
り、訳しているあいだずっとドキドキでしたね。
【Q】リンダ・ハワードはニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにもたびた
び登場し、米国では女性読者から圧倒的な支持を得ている作家ですが、訳にあたって
はどのようなことを念頭におかれていますか。
【A】登場人物については自分なりにイメージが作れるよう、毎回キャスティングし
ています。たとえば今夏に出版された『夜を忘れたい』(原題 "DREAM MAN"/二見文
庫)では、殺人事件に巻き込まれた超能力者のヒロインに大人になったナタリー・ポ
ートマン(映画『レオン』の少女役)を、犯人を追いかけヒロインにぞっこん惚れ込
むヒーロー刑事には大きくて包容力がありそうなリーアム・ニーソン(『シンドラー
のリスト』の主演男優)をイメージしました。『夜を〜』はこのヒロインとヒーロー
の内面の葛藤――たがいに相手を思いながら、心に隠しもっているものがある――が
面白く書けている作品です。そのあたりを丁寧に追い、あとは物語のスピード感を損
なわないことでしょうか。
【Q】ハワードの作品にはかなり刺激的なラブ・シーンが頻繁に登場しますね。
【A】きわどいシーンの訳には気を使います。時間にすると通常の倍はかけているで
しょうか。気をつけているのは、あまり清々しくならないようにすること。それと読
者に感情移入してもらえるよう、視点を整理することですね。最初のうちは慣れない
こともあって照れてしまい、時間ばかりかかって。こういうことは訳すより実行する
方が簡単だなあ、なんて溜息が出たものです。読者に理屈抜きに楽しんでもらえたら、
訳者としては幸せです。
【Q】これからのご予定をお聞かせください。
【A】11月には、またリンダ・ハワードの "AFTER THE NIGHT" が二見書房から出ま
す。これは家族に恵まれなかった美貌のヒロインと、ハンサムな大富豪の因縁もの。
また同じく11月に、日本では初登場となるミシェル・ファイバーの『アンダー・ザ・
スキン』が出ます。これはスコットランドが舞台のSF・ホラー的な作品で映像が目
に浮かびやすく、不気味でいて切ない物語。乗って訳せるリンダ・ハワードとはまた
違う楽しさを味わいました。今後もチャンスがいただける限りいろいろなタイプのも
のにチャレンジしたいですが、もともとは怖いもの、不気味なもの好き。いつかはパ
トリック・マグラアやジョナサン・キャロルなど、自分が好んで読んできた類の雰囲
気のある作品を訳してみたいですね。