■インタビュー ―― 藤原編集室の藤原義也さんに聞く
 今月は、埋もれていた海外の優れたクラシック・ミステリを数多く発掘し、紹介し ていらっしゃる藤原編集室の藤原義也さんにお話を伺いました。

『被告の女性に関しては』
フランシス・アイルズ
白須清美訳
©晶文社
表紙の画像は、出版社の
許可を得て掲載しています。
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『ウィッチフォード毒殺事件』
アントニイ・バークリー
藤村裕美訳
©晶文社
表紙の画像は、出版社の
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――《藤原編集室》について教えてください。
「《藤原編集室》と名乗っていますが、実質的には個人営業です。国書刊行会から5
年前に独立し、フリーランスの編集者として活動を続けています」

――国書刊行会や翔泳社から出ているクラシック・ミステリのシリーズを手がけてい
 らっしゃいますが、晶文社から新たにシリーズを出すきっかけはなんでしたか?
「国書刊行会の〈世界探偵小説全集〉は、クラシック・ミステリの中でも基本的には
〈本格〉物を中心に構成していますが、「クラシック=本格」という固定観念には、
ちょっと疑問を感じています。実際には、現代と同じように、サスペンス小説や犯罪
小説の優れた作品もたくさん書かれていたわけですから。そこで、〈本格〉物を軸に
しながらも、そうい った周辺ジャンルの作品や、短篇集やユーモア物なども含めて、
クラシック・ミステリ紹介の幅を広げていきたい、と思って始めたのが翔泳社のシリ
ーズです。今回の〈晶文社ミステリ〉も基本的にはその延長線上にあります。それと、
〈全集〉のほうで力を入れてきたアントニイ・バークリーの未訳作品を、この機会に
一気に出してしまいたい、ということもありました。〈全集〉の枠組みでは、どうし
ても2年に1冊、といった紹介ペースになってしまいますから」

――そもそも、なぜ〈世界探偵小説全集〉を出すことになったのでしょうか?
「このシリーズがスタートしたのは1994年ですが、その頃は、創元推理文庫や現代教
養文庫で単発的な企画があったのを除くと、クラシック・ミステリの紹介はほとんど
皆無に近い状態でした。もちろん、当時も翻訳ミステリ出版自体は活況を呈していた
わけですが、その一方で、クイーン、カー、クリスティーなどを読んで育ってきた海
外本格ミステリ・ファンには読むべき新刊がない、という皮肉な状況がしばらく続い
ていたのです。ぼく自身、そういう読者の一人でしたから、ほかで出ないのならいっ
そ自分で、というのがこの企画の出発点です。ちょうどそんなことを考えていた時に、
現在、翻訳・評論家として活躍している森英俊さんや、クラシック・ミステリのファ
ンジン〈ROM〉の皆さんなど、同じような思いを抱いていた人たちと出会えたことも大
きいですね。この全集では、作品選択や翻訳底本の提供など、いろいろな面でご協力
をいただいています。現在のように、各社から毎月のようにクラシック・ミステリが
出る時代が来るとは、あの頃は思ってもみませんでした」

――作家や作品の選定基準はなんでしょう? 出版社ごとに傾向などはありますか?
「上に述べたように、国書刊行会〈世界探偵小説全集〉ではオーソドックスな本格ミ
ステリをベースに、翔泳社や晶文社のシリーズでは、より幅広く、ミステリというジ
ャンルをとらえています。もちろん、ひと口に〈本格〉といっても、実際にはさまざ
まなタイプの作品があるのですが。とくに、バークリーやイネス、クリスピンなど、
ミステリ史的にも重要な作家でありながら、いままで不当に紹介が遅れていた作家を
積極的に取り上げていきたいと思っています。もちろん、従来、日本ではまったく知
られていなかった作家、作品にも面白いものはたくさんありますから、そういう未知
の鉱脈の発掘にも力を入れています。なかでも、J・T・ロジャーズ『赤い右手』、
J・F・バーディン『悪魔に食われろ青尾蠅』などは、特に多くのファンの支持を得
られた作品です。翻訳底本は、森さん、小林晋さん、真田啓介さんなど、〈全集〉刊
行開始当初からご協力いただいている方々からお借りしたり、自分で探したりしてい
ます。インターネットを利用し始めてからは、洋古書を入手するのがずいぶん楽にな
りました」

――〈世界探偵小説全集〉は作品自体もすばらしいのですが、あとがきや月報もとて
 も楽しいものでした。本を作る際の思い入れなどがありましたら教えてください。
「単なる推薦や感想、あらすじをなぞっただけの「解説」なら、わざわざ付ける必要
があるとは思えません。〈世界探偵小説全集〉の解説では、それ自体、独立した作家
論、作品論として、読みごたえのあるものを目指しています。もちろん、初紹介の作
家、あまり知られていない作家に関しては、プロフィールや他の代表作なども視野に
入れた上での作家の全体像も必要ですね」

――〈本格ミステリ〉の魅力はなんでしょう?
「難しいご質問ですね。そもそも、よく考えてみると、〈本格ミステリ〉というのは、
通常の文学の概念からすれば、おそろしく奇妙なジャンルですよね。不可解な謎を論
理的に解き明かすことを中心テーマとする不思議な文学です。大雑把な言い方になっ
てしまうのですが、〈本格ミステリ〉の大きな目的は、読者に驚きを与えることでは
ないかと思っています。しかし、それがただのパズルだったら、どんなに良く出来て
いても面白くはないでしょう。優れた〈本格ミステリ〉は、私たちの固定された考え
方、物の見方をものの見事に覆し、突き崩してくれます。その「世界の見方」が転倒
するときの新鮮な驚きが、〈本格ミステリ〉の大きな魅力ではないでしょうか」

――今後力を入れていきたい作家はいますか?
 「〈本格ミステリ〉からは離れますが、1950〜60年代の短篇ミステリに注目していま
す。晶文社から出たジェラルド・カーシュのような所謂〈異色作家〉系列のものに、
まだまだ埋もれた作家や作品がたくさんあります。古い EQMM や HMM などでずいぶ
ん紹介されているのですが、最近ではなかば忘れ去られているのは勿体ないですね。
今度出すマクロイの短篇集『歌うダイアモンド』も、そうした作品を集めたものです。
来年はスタージョンなども予定しています」

――子どもの頃に夢中になったミステリ作品あるいは作家はいますか?
「ご多分にもれず、原体験は乱歩の〈少年探偵団〉ですが、ミステリというジャンル
を意識して読み始めたのは、エラリー・クイーンの〈国名シリーズ〉ですね。なかで
も印象に残っているのは『エジプト十字架の謎』『オランダ靴の謎』あたり。真鍋博
装丁のカバーの色が違う創元推理文庫を1冊ずつ揃えていくのも楽しみでした。
次に夢中になったのがジョン・ディクスン・カーです」

――上記の質問と重なるかもしれませんが、最後に、邦訳された本格ミステリで藤原
 さんのお勧めの作品を教えてください。
「月並な選択ですが、いわゆる黄金時代の巨匠の、いろいろな意味であっと驚かされ
た作品を少しだけあげておきます。
*アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』創元推理文庫
*アガサ・クリスティー『三幕の悲劇』創元推理文庫他
*ジョン・ディクスン・カー『火刑法廷』ハヤカワ文庫
*エラリイ・クイーン『十日間の不思議』ハヤカワ文庫
(取材・構成 かげやまみほ)
(2002年7月号)

★森 英俊さん・藤原義也さんの対談がこちらで読めます★
 
藤原編集室URL  http://www1.speednet.ne.jp/~ed-fuji/index.html
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