2000年新刊翻訳書ベスト10
内容紹介とコメント・感想


・フーダニット翻訳倶楽部の会員投票により決定された、2000年の新刊翻訳書ベスト10作品です。(投票規定はこちらです)
・「内容紹介」は、すべてフーダニット翻訳倶楽部のメンバーが執筆したものです。一部、日刊メールマガジン「海外読物案内」で配信されたものを転載しています。
・「投票者コメント」は、投票時のコメントを掲載したものです。
・「投票者以外の感想」は、投票結果発表後に該当作を読んだ会員の感想です。


第1位  75点
闇よ、我が手を取りたまえ
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デニス・レヘイン著 鎌田三平訳
角川文庫
■ 内容紹介 ■

 パトリック・ケンジーの父親は、勇敢な消防士としてボストンで地元の尊敬を集めた人物だったが、家では妻や息子を殴りつける暴君だった。近所には同じようにすさんだ家庭が多く、家に居場所のない子供たちは、お互いの中に救いを求めて固い絆で結ばれていた。成長したパトリックは、その頃からの親友のひとり、アンジーと探偵事務所を経営している。最近調査を依頼してきた女性は、息子の命をおびやかすような手紙をアイリッシュ・マフィアから受け取っていた。依頼人の息子を監視しているうちに市内で残虐な殺人事件が起こり、二十年前に起こった犯罪へとさかのぼった捜査は、やがて思いもよらない事実を掘り返すことになった。
 犯罪捜査の原動力となるのは、犯行そのものや犯人に対する憎悪と、被害者の無念を晴らしたいという気持ちだろう。しかし、悪を滅ぼそうとする崇高な行為は、凄惨な犯行現場や凶悪な犯人像を直視せざるをえないという、まっとうな人間の神経をすり減らすような現実を伴っている。捜査の過程でこの世の闇を覗き込んでしまった人間には、その後どんな生きかたが残されているのだろうか。
 『スコッチに涙を託して』に続いてレヘインの描く、現代のハード・ボイルド。 (ビー)
日刊「海外読物案内」2000年10月23日 第7号)

 
■ 投票者コメント ■

● テーマの重さよりも、現代の私立探偵像の典型として。
● 現代を代表する、ハード・ボイルドですよね。文句なしです。
● これまたずっしり重くて救いのないお話というか。でもその救いがなさそうな世界に光明を見出せそうなところが魅力。
● レヘイン愛読者の方がたくさんいらっしゃるので、なにもいうまじ。今年のベストテンに入るだろうな、と思いながら読んだ一冊。
● 原書を読んで、勉強会で訳して、訳書を読んで……と深く味わえた忘れられない作品。
● このミス8位は不満だ。(怒)
● 正直に言うと、前作の『スコッチに涙を託して』を読んだときには、確かに面白いが探偵ものの定石の範囲内という感じで、絶賛というほどではなかった。けれども本作では印象が一変した。まさに凄絶。「いわれなき者もなべて辱めを逃れられない」という一行、犯人がパトリックに送りつけた手紙、アンジーの放った肉を斬らせて骨を断つがごとき2発の銃弾、すべてが脳裏に焼きついてしまう。これからこのシリーズがどこへ行ってしまうのか、目が離せない。あ、原書を読めばいいのか。
● わたしにとって、レヘインはデ・フォ・ル・トです。
● みなさん、異論はないでしょう。ハードボイルドは苦手なのですが、主人公ふたり+一人のキャラに惹かれました。
● かっこいいハードボイルドでした。コワかわいいブッバがやはりいいです。

■ 投票者以外の感想 ■

● 面白かったです。面白かったので、前後作がさらに気になってます。
 出だしの火事場後の追憶。あまりにも美しくて(文章も)、まさかあれを伏線にあんな風につながっていくとは思いもしませんでした。パトリックが身震いした、っていうのも後で思うと意味深です。あと気になったのは、ブッバ。一番好みのキャラです。グレイスが怒ると、「そんな言わんでもー」と、パトリックと一緒にかばっていました。人なんてどうでもいい、自分だけの正義って好きなんです。いろんな所で出てくるミュージシャン名には、現代の小説なんだなぁ、と変に感心しました。
 でも、ひとつ納得がいかなかったのが犯人なんです。納得いっていないということはもちろん、当たらなかった訳なんですが、どうしても合点がいかない。むーん。

第2位  37点
夜が終わる場所
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クレイグ・ホールデン著 近藤純夫訳
扶桑社ミステリー
■ 内容紹介 ■

 タマラという名の少女が失踪した。現場には、少女が乗っていた自転車が残されていた。マックスの脳裏に、七年前の事件がよみがえる。マックスの親友で、同僚の警察官であるバンクの娘ジェイミーが、大事にしていたソフトボールのバットを残したまま失踪し、事件は今も未解決のままだった。そしてタマラの自転車から、ジェイミーのバットについていたのと同じ指紋が採取された。二つの事件は何らかの形でつながっているようだ。捜査が進まない中、マックスの娘ナオミが戻ってこないと妻のペギーから連絡が入る。ナオミとタマラは以前からの知り合いだった。
 物語は主人公ともいえるバンクの娘が失踪した七年前の事件と、現在起こっている事件が交互に語られている。またその合い間に、語り手のマックスとバンクの生い立ちから現在にいたるまでの様子が、丹念に描かれている。読者は最初いぶかしがるかもしれないが、これが大切な伏線になっていることは言うまでもない。事件の真相が明らかになった時、納得がいくことだろう。だが、事件は終っても解決されない謎が残る。そして、この謎は永久にとけることはない。 (うさぎ堂)

■ 投票者コメント ■

● 過去と現在が交錯する構成は苦手、でも物語に流れている雰囲気がよかった。
● ずしりと重いテーマ。おぞましさが「怖いもの見たさ」につながったのか、あっというまに読み終えちゃった。
● 泣ける、泣ける。ホールデンってこんなすごい作家だったっけ? というわけで、未読の『この世の果て』(1998年に『ラスト・サンクチュアリ』というタイトルで発売になったもの)も買っちゃいました。
● 犯罪は憎しみからのみ生まれるのではない。こんな形の罪もあるのだと気づかされる。しかし構成、筆致とも読み飛ばしを許さないもので、気温が35度を越える日に読むのはいささかしんどかった。冬の間に読むのが吉。

第3位  36点
わが心臓の痛み
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マイクル・コナリー著 古沢嘉通訳
扶桑社ミステリー
■ 内容紹介 ■

 心筋症を患ってFBI捜査官を退職したテリー・マッケイレブは、最近やっと心臓移植手術を受けることができた。人口比一パーセント以下というめずらしい血液型だったために、ドナーが現れるまで二年待ったあげくの手術だった。退院した彼のもとに、コンビニで妹を殺した犯人を探してほしいと言って女性が現れる。その女性から、殺された妹が自分の心臓のドナーだったことを知らされたマッケイレブは、術後の体調をおして調査を開始した。無差別強盗殺人と思われた犯行の影に、徐々に犯人の動機が見え始め、やがて驚くべき真相が明らかになる。
 自分が生きるためには、誰かが死ななければならない。移植を待つものにとって、この現実はいわれのない罪悪感の原因になるのかもしれない。亡くなったの人の死を無駄にしないという、ドナーの立場からしか考えたことがなかったわたしは、臓器移植のもうひとつの側面に気づかされた。事件を追う探偵役と被害者が、臓器の受容者と提供者という設定も他に類を見ないが、動機や真犯人が解明していく過程は意外性とスピード感にあふれ、本書の大きな魅力となっている。
 一九九九年のアンソニー賞、マカヴィティ賞、フランス推理小説大賞の三賞に輝いた文句なしの傑作。 (ビー)
日刊「海外読物案内」2000年10月30日 第12号)

 
■ 投票者コメント ■

● 現実にはあり得ない動機と手段だが、小説世界では可。
● 最近、しがらみを背負ったヒーローが多いけど、これは究極のしがらみでした。犯人の意外な動機にもびっくり。
● 地道な捜査過程を読むのがおもしろかったです。動機は、「まさかね〜」と一瞬思ったのが当たってしまった。
● 展開も気になったけど、主人公の体調が気になって気になって、ハラハラの2乗でした。
● この発想と展開にかけては、誰もかなわないと思う。

■ 投票者以外の感想 ■

● とにかく読ませる作品だった。ありふれた強盗殺人と思われた事件がほんの小さな手がかりから180度様相を変え、ストーリーが一気に加速し始める。そして驚愕の事実。果たして前半の展開からこの結末を予想できた読者はいるんだろうか、そう思えるくらい意外性に富んでいる。また、ストーリー運びのみごとさだけではなく、主人公マッケイレブの心の揺れ動くさま、依頼人のグラシエラとのやりとりのシーンなども丁寧で読ませる。

● 本筋は重い内容だし、事件の真相もかなり衝撃的なものでした。しかし本筋とは関係ない部分では楽しかったし、読後感もさわやかだったのが救い。でも一番はらはらしたのは、主人公の体調でした。また主人公の隣人が、日本の推理小説を読んでいたのにはびっくりしました。

第4位  35点
氷の闇を越えて
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スティーヴ・ハミルトン著 越前敏弥訳
ハヤカワ・ミステリ文庫
■ 内容紹介 ■

 ミシガン州の小さな町に暮らす元警官のアレックスは、誘われるままに探偵の仕事を始めた。ある夜、友人に呼び出されて駆けつけたモーテルで、一面の血と男の死体を発見する。友人たちの頼みで身辺警護をするアレックスの元に不審な電話がかかり、続けて第二の殺人がおきる。やがて浮かび上がった犯人は、かつてアレックス自身に瀕死の重傷を負わせ、同僚の警官を射殺した男だった。
 悲劇を経験した探偵が登場する作品はこれまでにも多々あったが、本書の主人公アレックスの痛手はとりわけ生々しい。けっして癒えることのない傷を身体に負っているせいだ。都会を離れて少しずつ忘れかけていた血の記憶が、突然の殺人事件によってよみがえる。事件の犯人だけでなく、おのれの心のうちにひそむ恐怖という闇とも対峙せざるを得ない。アレックスはやがて、その双方との闘いを強いられることになる。
 大きな謎を中心に据えたストーリー展開で、最後の最後まで緊張が途切れない。加えて、舞台となっているスペリオル湖周辺の描写が印象的だ。狩猟区の林、その中に建つキャビン、深い湖に浮かぶボート。どの風景からも冬間近の厳しい寒気がこちらに伝わってくる。デビュー作とは思えぬ風格をたたえた、シリーズ第一作。 (DRACO)
日刊「海外読物案内」2000年9月14日 第2号)

 
■ 投票者コメント ■

● リー・チャイルドとともに今年最高の収穫です。長さの関係でこっちが上。
● 出だしが話題を呼びましたね。20歳そこそこのころはハード・ボイルドの主人公って変に気取ってるみたいで好きになれなかったんだけど、年を取ったのかなぁ。
● みなさんおっしゃっていますが、ほんと、最初の一文がいいんですよねえ。
● 最初の1文からぐっと引き込まれました。
● それほど濃密な書き込み方ではないのに、一つ一つの場面がくっきりと印象深い。すでに自分の世界を確立しており、今後の期待度大。わたしのルーキー・オブ・ザ・イヤーはこの人で決まり。
● ストレートな探偵物語。こういう話がもっと読みたいものです。
● 先というか、続きが楽しみです。

■ 投票者以外の感想 ■

● 「わたしの心臓のそばには銃弾がある」読み初めていきなりのこの一文で、一気に物語に引き込まれてしまった! 過去の事件でトラウマを抱えた主人公が、ある事件をきっかけに恐怖心と戦い事件を解決しようとする姿は、こちらにも胸が痛くなるような苦しみが伝わってきます。そしてラストのどんでんがえし。これには意表をつかれましたが、あとにさわやかな読後感が漂うのは、正統派探偵小説を読んだ満足感から? ぜひ次作も読んでみたいと思わせる逸品。

第5位  33点
悪魔の涙
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ジェフリー・ディーヴァー著 土屋晃訳
文春文庫
■ 内容紹介 ■

 1999年の大晦日。朝のラッシュアワーで混雑するワシントンの地下鉄駅で、男が銃を乱射した。現場は混乱をきわめ、多数の死傷者が出た。ほどなくして、市長のもとに脅迫状が届く。市が2000万ドル払わなければ、午後4時から4時間おきに〈ディガー〉による無差別殺人が繰り返されるとある。FBIは、元捜査官で文書検査の第一人者であるパーカー・キンケイドに、唯一の手がかり、手書きの脅迫状の分析を依頼する。
 大晦日の朝から新年を迎えるまでの限られた時間の中で、殺人兵器と化した〈ディガー〉と彼を追うFBIとの、息をもつかせぬ戦いがくり広げられる。スピード感にあふれ、起伏に富んだストーリーは、まさにジェットコースター小説。臨場感あふれる描写に、読者は自分も小説の中にいるような錯覚をおぼえるにちがいない。前作『ボーン・コレクター』の主人公、リンカーン・ライムが脇役で登場するのもご愛敬。
 紙やインクの質や筆跡だけでなく、つづりや文法の間違い、さらには文体や論理の組み立て方から、犯人像を明らかにしていくパーカーの手腕は、ライムに通じるものがある。だが、強烈な個性を持ったライムとちがい、男手ひとつで3人の娘を育てたトマス・ジェファーソンを尊敬し、仕事より子どもと言い切るパーカーには人間くささが感じられ、それも本書の魅力となっている。 (H・S)

日刊「海外読物案内」2000年11月6日 第17号)

 
■ 投票者コメント ■

● 一ヶ所の瑕瑾を除けば、絶対に『コフィン・ダンサー』より上。
● 主人公のキャラクターだけで言うとライムのほうが好きなんだけど、ストーリーでは、『コフィン・ダンサー』よりこっちのほうが面白かった。
● 膨大な専門知識で読ませるパターンでありつつ、キャラもまあまあ。
● 文句なしにおもしろかった。

■ 投票者以外の感想 ■

● 二転三転していく事件に目が離せなくて、一気に読んでしまった作品。また筆跡鑑定という職業にも興味を持ちました。主人公の養育権問題も、うまく本筋にからみあって面白かったです。

第5位  33点
キリング・フロアー
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リー・チャイルド著 小林宏明訳
講談社文庫
■ 内容紹介 ■

 最近のミステリは幼児期のトラウマや悩みごとなど、弱さが一種の売り物になっている人間ばかりが登場する、そんな思いを抱いているむきに朗報である。故郷は軍隊だという元憲兵のリーチャーにそうした弱さはいっさいない。
 半年まえに軍をはなれ気ままに旅を続けていたこの男は、ふと立ちよったジョージア州の田舎町で殺人容疑のため逮捕される。それでも動じることはない。彼には地元警察をしのぐ推理をみせる頭の冴え、あらっぽい場面を切り抜けるきわだった戦闘能力があるからだ。思いがけず悲しい事実を知らされ、事態収拾のためにさらなる強さが必要となってからも、この男は臆せず数々の難局を乗り越えていく。
 リーチャーはあくまでも強い。しかし、自信に満ちてはいるが自意識過剰ではない。みずからの力を誇示する態度や言葉など、本当にできる男には不要だ。こうした男を主役にすえた物語が広く支持されたことは、本書がミステリ・ファン投票によるアンソニー賞の新人賞にかがやいたことで証明された。退屈とは無縁のストーリーを読み終えたとき思い浮かぶのは、背筋を伸ばして通りを歩いているにちがいないリーチャーの姿である。 (ケイ)

日刊「海外読物案内」2000年9月13日 第1号)

■ 投票者コメント ■

● 苦手な上・下二巻本だけれど、それを意識させないほど物語にひきこまれてしまいました。
● かっこよすぎるゼ、ジャック・リーチャー!! このクールなヒーローが、ただただ好きでございます。
● 主人公が気にいっちゃったんです。しがらみだらけの田舎町の問題は、強くてきれるよそ者が片づけなくちゃね。
● リーチャーがかっこいい〜! 強い(賢い)主人公が活躍する話って好きです。

■ 投票者以外の感想 ■

● アンソニー賞最優秀処女長編賞と、帯に書かれている。著者は英国人で、アメリカを舞台に書きたかったということだと聞いている。あれやこれやでたいへん興味を持っていたのですが、なぜか今日まで読んでいませんでした。そして読み始めて数時間、上下巻を一気に読んでしまいました。
 主人公らしき男がいきなり銃を持った警官に囲まれ逮捕されるシーンから始まるストーリーは、要所要所でひねりがきいていて、読む者を飽きさせないし、人物設定もおもしろい。読み始めてしばらく、この主人公がどういう男かと頭をひねらされます。二人の老人がやっている床屋は、この物語のオアシスのようでもあります。起きる事件は凄惨なので。
 あとがきによると、本作の主人公リーチャーのシリーズがもう3作書かれているとのことだし、映画化の話もあるそうです。とても楽しみ。

第7位  30点
子供の眼
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リチャード・ノース・パタースン著 東江一紀訳
新潮社
■ 内容紹介 ■

 テリは夫リッチーとの結婚生活を終わりにしようとしていた。が、まともに働くことをきらい、弁護士事務所で働く妻の稼ぎをあてにするリッチーは、テリから金をせびりとろうと、なりふりかまわず、あらゆる手段を講じてきた。攻撃の矛先はテリ自身だけでなく、彼女の上司でもあり新しい恋人でもあるクリス・パジェット、さらにはクリスの息子のカーロにまで向けられる。そんな緊迫した状況の中、リッチーが死んだ。銃をくわえ、自ら引き金を引いたように見えるが、検察はこれを他殺と断定。容疑者としてクリスを逮捕、起訴する。弁護側は自殺の線で押し通そうとするが、陪審員の心情は日々揺れ動き、そして……
 本書の最大の魅力は、陪審員選定から評決がくだるまでの、2週間以上におよぶ息づまる法廷シーンだ。読者は自分もその場にいるがごとく、検察側の主張にうなずき、弁護側の反論になるほどとうなずく。このあたり、大手弁護士事務所で長年活躍してきたパタースンだけあって、しっかりツボをおさえている。
 だが、主人公が無罪放免されてめでたしめでたしという、単純な展開を期待してはいけない。事件の真相が明らかになるとき、読者は深い絶望感におそわれるだろう。親子ひいては家族のありかたまでも考えさせられる、重厚で読み応えのある内容だ。 (H・S)

日刊「海外読物案内」2000年11月20日 第24号)
 
■ 投票者コメント ■

● リーガル・サスペンスの食わず嫌い王だったわたしを生まれ変わらせたパタースン様、どうもありがとう。この本を読んでるあいだ、毎晩寝不足で目が赤くなっちゃった。次作がすでに楽しみ。
● はっきりいって、贔屓してます、この作家。おまけに東江先生訳だし。『ラスコの死角』『罪の段階』を読んでいなくても、楽しめるはず。
● 大作ながら一気に読ませる力量はさすが。脂ののりきったパタースンを堪能できます。リーガル・サスペンスはどーも苦手という方にもおすすめ。
● 期待に外れませんでした。次作も間もなく出るそうなので楽しみです。

第8位  25点
バッド・チリ
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ジョー・R・ランズデール著 鎌田三平訳
角川文庫
■ 内容紹介 ■

 おなじみ、ストレートの白人ハップとゲイの黒人レナードの過激コンビによる、シリーズ3作目が登場した。遠方での仕事を終え、自宅のあるテキサス州ラボードの町に帰ってきたハップ。だが、一息つくまもなく、狂犬病のリスに噛まれて入院することに。いっぽう、恋人ラウルに出て行かれて落ち込んでいるレナードは、ラウルの新しい相手を殺害した容疑者として、警察に追われるはめに。そこでハップは病院を抜け出し、親友の容疑を晴らそうと奔走する。しだいに明らかになる、背筋も凍るような真相とは……。
 このシリーズの魅力は、なんといっても、主人公ふたりのアクの強さと下品きわまりない会話にある。良識ある読者はその無軌道ぶりに眉をひそめながらも、自由に生きる彼らにほのかなあこがれを感じたりもする。自由で無軌道とはいっても、彼らなりの正義を貫き、けっして他人に責任転嫁しないところが、読者の共感を呼ぶゆえんであろう。
 また、視覚だけでなく嗅覚にも強く訴える情景描写にも注目してほしい。といっても、けっしてきれいな描写ではなく、あくまで不潔で猥雑なところがランズデールの特徴だ。他のどの作家ともちがう、独特の作風をぜひ堪能してほしい。 (H・S)

日刊「海外読物案内」2000年11月13日 第21号)
 
■ 投票者コメント ■

● この作家、かなりの職人。下品さの奥の純情がいい。
● このシリーズを知ったのは、今年の大きな収穫でした。
● ハップとレナードのコンビに楽しませてもらいました。自然描写の迫力もすごかったなー。
● 下品だけど、素敵!
● サイコー! この後、普通のミステリになかなか戻れなくて、間にSFを1冊はさみました。

■ 投票者以外の感想 ■

● はじめて手に取ったこのシリーズ、ストレートに楽しめた。主人公のハップとレナードは(ちょっと口が悪いけど)固い信頼で結ばれていて、理不尽な事件に真っ向から挑んでいく姿勢(多少荒っぽいけれど)に胸がすく。それにいちずな恋愛もある(相手が少々パワフルだけど)。なんとも個性的な面々の活躍がテキサスの広大な自然と熱気の中で繰り広げられる。眉をしかめて考え込んで読む本ばかりがミステリじゃない。こんな痛快なのもいいじゃないか。でも読了後は言葉遣いに要注意かも?

第9位  24点
Mr.クイン
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シェイマス・スミス著 黒原敏行訳
ハヤカワ・ミステリアス・プレス
■ 内容紹介 ■

 おれの名はクイン。職業は「犯罪プランナー」だ。裏組織のボスから依頼されて犯罪の計画を立てる。人殺しも誘拐も、べつに憎くてやっているわけじゃない、みんなビジネスの一環だ。ただし、おれ自身は決して表に出たりしない。自分の手は汚さずに計画を完璧に成功させる。使うのは頭だけ、だから尻尾もつかまれない。
 さて今回計画しているのは、不動産会社の社長一家を消し去り、その資産をまるごと手にいれること。社長は年寄り、女房は身体が弱く、子供は娘がふたり。作戦は着々と進みつつある。だが近ごろ、どうもこちらの身辺をかぎまわっているやつがいる。それは女性新聞記者のモリー、こともあろうにおれの義理の姉なんだが……。
 ――ダブリンを舞台に、徹底して犯罪者の視点から犯罪の成立過程を描いている作品。細心の注意をはらって危険な要素をつぶしてゆく手際のよさを読んでいると、自分が犯罪に加担しているような気になってくる。だがなによりもこの作品の魅力(?)は、クインのキャラクターにある。氷よりも冷え冷えとした残酷さで人をゴミのように葬り去るかと思えば、いい女とみるとついちょっかいを出して妻にやりこめられるというアンバランスさ。一人称の絶妙な語り口のせいで、不思議と嫌悪を感じない。このふざけた饒舌さに乗せられ、読みながら不覚にも笑みを浮かべてしまったら、読者はクインと作者の策にはまったも同然だ。 (DRACO)

■ 投票者コメント ■

● 小気味よいくらいの悪人ぶりに、自分の人間性を疑うことも。二作目が勝負か。
● わたしの良識と品性はどこに行ってしまったんだ。
● やだ〜、こいつ(←主人公)嫌いだ〜と思いながらも、おもしろくてやめられなかったわたし。
● ここまで悪いとねえ……

■ 投票者以外の感想 ■

● とにかくどこまでも淡々と犯罪のプランニングをするクイン。殺しも愛情や憎しみがドロドロからみあうとエグいものになっていきますが、ここまでそういった感情がなくビジネスライクにやられると、単なる普通の仕事の結果にすぎず、殺しであることすら気にならなくなってしまいます。死体を処理する手段が思いがけず牧歌的だったのがけっこう新鮮でした。

● 読み始めたときは、なんとなくルブランのバーネット探偵社みたいなのかな、と軽く考えていたんですが、はるかに極悪でした。ジム・バーネットは悪人でもヒーローじみた格好いいところがあって大好きだったのですが(だってルパンだもん)、クインは別格でした。ビジネスライクに謀殺してるかと思えば、プライベートではやりたい放題。自分のことが一番好きな根っからの悪魔っ子。身勝手な言い分にはほとほと呆れました。
 でも続編は是非読んでみたいです。

● クインという男の2手先、3手先を読む緻密さ、細心さといったら、まともな職業についていたらさぞかし成功するだろうにと思ってしまう。そう、詐欺も殺人もクインにとってはローリスク・ハイリターンをモットーとするビジネスの一環。こんなやつ、現実にいたら絶対関わり合いになりたくないぞと思いつつ、達者な口車に読んでるこちらが乗せられてしまう。危ない、危ない。だけどこれほど頭の切れる男が女関係だけはだらしなく、かみさんに脳天をぶん殴られて愚痴っているのがやたらおかしい。

第10位  19点
生への帰還
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ジョージ・P・ペレケーノス著 佐藤耕士訳
ハヤカワ・ミステリ文庫
■ 内容紹介 ■

 ある夏の暑い日、ワシントンDCでピザ・ショップが襲撃された。犯人たちは従業員4人を射殺し、駆けつけたパトロール警官を撃ち、さらには車で逃走するさい、5歳の少年を撥ねて殺してしまう。いっぽう、犯人のひとりも警官との銃撃戦の中で命を落とす。
 それから3年。犯人の行方は依然としてわからないままだ。事件で愛する者を失った人たちは、それぞれ心に深い傷をかかえながらも、なんとか折り合いをつけていこうとしているが、5歳の息子を殺されたディミトリ・カラスだけは、魂の抜けたような生活を送っていた。見かねた知人のはからいで、あるレストランでアルバイトをするようになったカラスは、ようやく立ち直るきざしを見せる。
 そのころ、3年前の襲撃事件の犯人たちが、銃撃戦で命を落とした仲間の復讐のために、街に戻ってきたといううわさが流れ――
 犯罪小説は犯罪をおかした者、あるいはそれを追う者の視点から書かれるのがふつうだ。だが、本作は、被害者、あるいは被害者の周囲の人々の視点から書かれ、凶悪犯罪によって生じる心の痛みや哀しみがみごとなまでに描きだされている。ストーリー展開もさることながら、登場人物ひとりひとりの描写をじっくり味わってほしい作品だ。 (H・S)

■ 投票者コメント ■

● うーん、なぜかペレケーノスの評価はいつも低いっすね>「このミス」(怒)ワシントン・サーガの完結編と謳われていますが、独立した作品としてじゅうぶん楽しめます。
● のめり込みました。密な人物描写が本当にうまい作家です。

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