入道雲とにらめっこしながら読書
――裁判って、意外と面白いのかもしれない。
『食べられたいと望むブタ 100の思考実験』(未訳)
――あなたはついて行けるか? 思考実験100題
――裁判って、意外と面白いのかもしれない。
口を閉じなさい。そして、静かに、明瞭に証言しなさい――と裁
判官に言われたら、黙ればいいのか、しゃべればいいのか、一瞬と
まどいそうだ。これはアイルランドの法廷で実際にあった話で、口
数の多い証人に対してこのように裁判官が注意したという。
本書は、弁護士である訳者が、かれこれ25年以上前にロンドンの 古書店で原著を見つけ、その面白さを紹介しようと訳出したものだ。 翻訳は京都法曹文芸雑誌『奔馬』に1995年まで連載され、今般、1 冊の本にまとまったそうだ。19世紀(あるいはそれ以前)から20世 紀初頭の法律家や証人、被告人などによる、機知に富んだユーモア や、辛らつな皮肉、思わず口にしてしまった失言などが満載で、法 廷でのやりとりがこんなに面白くていいものだろうかと心配になる ほどだ。特に、エリートである法律家に対する庶民の当てこすりや、 法律家のなかでも法廷弁護士と事務弁護士という立場の違いが差別 や反目を生んでいることをうかがわせる逸話なども興味深い。
さすがに最近の英国法廷はもっと実務的になり、以前ほど自由な 発言はないようだ。また、まるで芝居の衣装のようなカツラと法廷 用衣装(ガウン)についても、08年からは一部の裁判では着用義務 はなくなる。刑事裁判では、被告人による裁判官の人物特定が容易 になることへの懸念から、着用の伝統は残されるようだが、英国法 廷の伝統への反感とこだわりとの拮抗が感じ取れる。
本書には「証言なんか、くそくらえだ。俺自身が現場にいて、見 たんだからな」と言ったという判事の話もあるのだが、日本の裁判 官が片肌脱いで桜吹雪の刺青を見せながらこんなタンカを切ったら どうなるだろう、などと想像したら楽しくなってきた。裁判という ものをもっと身近に感じるのに手ごろな1冊である。
――あなたはついて行けるか? 思考実験100題
複雑そうな問題も非常に簡潔なモデルにすると、問題の本質がは
っきりする。たとえば、余るほどの食料を積んだボートと食料がな
く困窮しているボートが出会う。前者の乗客は後者に食料を分ける
のをなんだかんだと拒む。これは、豊かな国と貧しい国のアレゴリ
ーだ。別のボートを使った思考実験では、目の前で溺れている人た
ちを助けるか、遠くで溺れている家族を助けるかの二者択一という
ものがある。家族を優先すべきか?
本書には、このような思考実験が100も収められている。どれも テクストが1ページで解説が2ページ弱という構成だ。解説といっ ても明確な答えは書かれず、どのように考えるのか、ポイントは何 かという説明で、ときにはさらなる論理の迷宮に導かれることもあ る。上に挙げた貧困の問題、倫理のほか、自己、認知、神の存在、 言語、論理、世界平和、環境問題などさまざまな題材が取り上げら れる。ちなみに表題の思考実験は菜食主義についてのものだ。
アキレスと亀のパラドックスはゼノンがレースの実況中継を担当 し、全能の神と哲学者の対話はユーモアがきいている。テレポーテ ーションする前と後の人物は同一人物かといったSFがらみのもの もある。『マトリックス』『マイノリティ・リポート』『時計じか けのオレンジ』など映画もたくさん取り上げられる。「ぼくはルネ ……」で始まる「我思う、故に我あり」に基づいた風変わりな独白 も楽しく、100題ずっと飽きることがない。
しかし、思考実験はやはり疲れる。普段とは違う視点や考え方が 求められ、常識は揺さぶられ、自己の存在まで疑わしくなってくる。 先に挙げたボートの問題のように、ドキリとさせられるものもある。 まんべんなく頭の柔軟体操ができる1冊だ。
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電子辞書が欲しいなと思い検索すると、最近はワンセグやMP3プレ ーヤーなど、おもしろそうな機能がついているのですね。辞書コン テンツも大事ですが目移りしそうです。(真)