「海外ノンフィクション便り」 第9号

2005年6月1日

雨が降ったら、読書をしよう!

目次

原書レビュー

原書レビュー

“What's the Matter with Kansas? :  How Conservatives Won the Heart of America”

――アメリカ保守化の謎を解く

Thomas Frank (2004) Metropolitan Books 251pp. ISBN 0805073396 $24.00 (USA) 『保守がアメリカを食いつぶす』(未訳) トーマス・フランク(著)

What's the Matter With Kansas: How Conservatives Won the Heart of America  ブッシュ大統領が再選を果たした翌日「アメリカは道徳を選んだ」 とマスコミがいっせいに報道した。大統領選で争われたイラク戦争、 経済政策、テロ対策はいったいどこへいったのか。アメリカが選ん だ「道徳」とは何を意味するのか。本書は、道徳という名のもとに 急速に保守化するアメリカの実態を政治経済の側面だけでなく、社 会文化面から鋭く考察する現代アメリカ論である。

 アメリカの中央部グレートプレーンズは貧困にあえぐ農民や労働 者が多く、昔は大企業の独占に反対した人民党や農民運動の本拠地 であった。だが、2000年の大統領選では平均所得の低い地域で有権 者の8割が共和党に投票した。「民主党を支持する労働者はカーネ ル・サンダースを崇拝する鶏だ」と車にステッカーを貼ってガン・ ショーに出かける彼らは、9/11事件後、強硬な国際戦略を非難する 有識者たちを「売国奴のリベラル」と忌み嫌い、自ら愛国者を標榜 するが、労働者階級であり搾取される側の人たちだ。その彼らがな ぜ大企業を優先する共和党を支持し、民主党への敵対意識をむき出 しにするのか。

 こうした保守反動の背景を探ると保守派が経済問題にはいっさい 触れず、労働者のような格好をして道徳や宗教を語っては住民の心 を捉えていった戦略が見えてくる。さらに、科学者や弁護士など知 識層への反発を利用してリベラル派の民主党つぶしのプロパガンダ を行ったため、中絶反対や進化論禁止は住民運動にまで発展してい った。結果的に有権者は自分で自分の首を絞めているわけだが、混 迷する現代社会では何が本物で何がウソなのか見分けがつかず、感 情に流されて自分を見失っていったのだと思える。全米に広がる保 守化の傾向は他人事ではないのかもしれない。

(ます)

“AMERICA (THE BOOK):  A Citizen's Guide to Democracy Inaction”

――アメリカのジョークと教養を同時に勉強できる!?

Jon Stewart, Ben Karlin, David Javerbaum et al. (2004) Warner Books 227pp. ISBN 0446532681 $24.95 (USA) 『アメリカ民主主義読本』(未訳) ジョン・スチュワート、ベン・カーリン、 デービッド・ジャヴァバウム、ほか(著)

America (The Book): A Citizen's Guide To Democracy Inaction (The Daily Show With Jon Stewart Presents)  社会科の教科書を思わせる体裁の本書は、アメリカが誇る民主主 義を解説するというのだが、ページをめくるとふざけた図版が目に 飛び込んでくる。それもそのはず。執筆陣は、時事問題をパロディ にするコメディ番組の司会者、出演者およびスタッフたちなのだ。

 民主主義の歴史、アメリカの建国、政治システム、選挙制度など を大まじめに説明するかのように見せかけている本文も、内容はハ チャメチャだ。しかし、単なるおふざけばかりではない。ときには、 社会の裏の姿を暴くことがある。皮肉混じりの冗談で書かれている 民主主義社会で権力を握るための指南、あるいは民主主義の行く末 の展望などを読むと、一理あると思わせるところもある。

 風刺は非常に辛口だ。たとえば、平等な国とされるアメリカでは 「憲法によると、ほとんどすべての国民に大統領となりうる権利が あるというのに、女性、黒人、非キリスト教徒はその機会を利用し なかった。おそらくは、彼らに遺伝的な欠陥があったと思われる」 というぐあいだ。逆説的なきついジョークで、平等とは名ばかりで 現実には白人男性優位の社会を批判しているのだ。本書の風刺から は大統領も有名人も逃げられない。一般市民も外国人もカリカチュ アにされる。同業者であるマスコミに対する批判はとくに力が入っ ている。民主主義の番人たる役目などすっかり忘れて腑抜けになっ ているというのだ。こうした風刺に憂国の思いが感じられる。

 そうはいっても、笑いが肩の力を抜いてくれる。くだらないもの、 芸の細かいもの、下ネタ、セレブネタ、高度な教養ネタ。ジョーク のないページは皆無だ。ジョーク本なのに社会科的な知識が盛りだ くさんで、かなり勉強になることに驚くが、念のため自己責任でフ ァクトチェックしていただきたい。

(森村真穂)

『ジョン・スチュワートのデイリー・ショー』

 “THE DAILY SHOW WITH JON STEWART”

 米ケーブルテレビのコメディ専門チャンネル、コメディセントラ ルで放送されている人気番組。ニュース番組をパロディ化したもの で、実際の時事問題を題材としている。1999年からジョン・スチュ ワートがアンカーマンとなる。これまでにエミー賞、ピーボディー 賞を授賞した。日本では CNNj で放送されている。

 2004年の大統領選挙をとりあげた放送が“THE DAILY SHOW WITH JON STEWART: Indecision 2004”としてまとめられ、DVD が近く発 売される。

「ジョン・スチュワートのデイリー・ショー」 http://www.comedycentral.com/shows/the_daily_show/index.jhtml

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編集後記

今号では嬉しいことにクラブ会員からのレビュー掲載が実現しまし た! ますさんには編集部員とやりとりしながら推敲を重ねていた だき、とても読み応えのあるレビューをお届けできることになりま した。ありがとうございました。今後もより多くの会員の方からの 応募をお待ちしています。(桔)

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