
子どもの本だより No.78
2006.8.31
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| 夏休みはいかが過ごされましたでしょうか? 今月ご紹介するのは、初めて、カヌーでの川くだりを体験した少女の物語です。彼女のように、忘れがたい思い出を携えて次の季節を迎えられたら、去りゆく夏にも未練はないかもしれません。私は、素足で過ごせるのもあとしばらくだと思うと、ちょっぴり寂しく思うのですが……。 (吉田真澄) |
『赤いカヌーにのって』
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| ベラ・B・ウィリアムズ作 斎藤倫子訳 あすなろ書房 定価1365円(税込) |
| 黄緑色の見返しをめくると題名があって、その裏には「大きな川にも、小さな川にも、大きなともだちにも、小さなともだちにも、ありがとう!」と書かれています。物語を最後まで楽しんでから、再びこの冒頭の言葉を読み直してみると、初めて川下りを体験した少女の喜びと興奮が、いっそう清かに伝わってきます。 物語は、主人公の「あたし」が、「カヌーうります」と書かれた看板を発見するところから始まります。 学校がえりに、赤いカヌーがうりにだされてるのを みつけたのはあたし。 よそのうちのにわに、おいてあった。 「みつけたのはあたし」というきっぱりとした言葉に、主人公の少 女のフレッシュな好奇心がにおいたちます。早速、「かあさんと、 ロージーおばさんと、いとこのサムと、あたしで、お金をだしあっ て」カヌーを購入し、キャンプに出かけることになりました。まず は、カヌー初心者の「あたし」とサムのために、かあさんとおばさ んが「ぴったりの三日間のコース」を地図の中に探し出してくれま す。かあさんとおばさんのカヌーの腕前はちょっとしたものらしく、 「あたし」たちが生まれる前、二人は、ずいぶん遠くまで旅をして いたらしいのです。ですから、むろん準備にはぬかりありません。 ページをめくると―― これ、ぜーんぶ、もっていくんだよ。 そこには、キャンプに持っていくために用意したものが、ぎっしりと描き込まれています。嬉しさ、楽しさ、期待――全てがつまったわくわくするページです。寝袋の上では、ねこのシックストウが眠っています。 さて、赤いカヌーを自動車の上に積んで、いよいよ出発です。次の見開きには、川下り1日目の様子が、カラフルな地図で細かく説明されています。滝のシャワーを浴びたり、ロープを結んでテントを張ったり、虹を見たり、釣りをしたり13日間は瞬く間に過ぎていったようです。 一見、「あたし」たちが何をしたかが雑然と書き込んであるだけの本に見えてしまうのは、出来事にそった「あたし」の気持ちがほとんど描かれていないせいでしょうか。しかし、あれもこれもと書ききれないほど盛りだくさんな毎日であったことが、紙面からあふれでていて、初めてのキャンプを心から楽しんでいる少女の姿もくっきりと浮かび上がります。色鉛筆で描かれた素朴な絵、そこに加えられた絵日記のような飾り気のない言葉。主人公の少女の思いが直に表現されていなくても、彼女が何に心動かされ、興じたのか、手に取るようにわかるのです。そして、物語が静かに閉じられた時、読者の心の中には、主人公の少女と同様に、ふくふくとした満足感が広がっています。 べラ・ウィリアムズの絵本を初めて見たとき、何とあたたかな絵を描く人だろうか、と感じました。ハートウォーミングな独特の画風は、女性ならではといった感も否めません。そして、物語の主人公――たいてい、「わたし」「あたし」などの一人称で語られています――のデリケートな心の内を、優しい視点で描き出します。日本の作品の中から同じようなテーマのものを探そうとすると、どうしてもべたべたとした甘さが目立ち、センチメンタルに偏ったものになりがちです。母親と娘の関係の描き方などは、残念ですが、その最たるものだといえるかもしれません。感動させようとするあざとさを僅かにでも察知してしまうと、この手の物語は、その効力を完全に失うのですから。 包容力のある温かい視点を保ちながら、尚且つ淡々とすがすがしく、登場人物の心に迫る物語を描くべラ・ウィリアムズ――は、私の大好きな作家の一人です。 |
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