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子どもの本だより No.77
 2006.7.31

 アメリカ、メイン州で暮らしたマックロスキーには、海辺を舞台にした美しい作品がいくつかあります。また、それと同時に、古き善きアメリカ人気質を生かした豪胆な登場人物も魅力の一つでしょう。赤いストライプのTシャツに鮮やかな黄色のオーバーオール――主人公のバートじいさんの装いは、光沢のある翠色の海に良くえています。「じいさん」と呼ぶにはいかにも若く逞しい存在感です。はたして、バートじいさんの冒険談やいかに……? 

(吉田真澄)


『沖釣り漁師のバート・ダウじいさん』

オンライン書店ビーケーワン:沖釣り漁師のバート・ダウじいさん
ロバート・マックロスキーさく
わたなべしげお やく

童話館
定価2310円(税込)

 大海原からぱっと暗転、一切の光を廃したくじらの腹の中へ。くじらのくしゃみと共に、再び海面へ投げ出されてみれば、そこには色とりどりのくじらの群れ――その豪快な場面の切り替えには、ディズニーランドのアトラクションさえ髣髴とさせる演出力が漲っています。一歩間違えば、大仰なカリカチュアのようになってしまいそうな派手な色使い。ましてや、バートじいさんがその堂々たる語り口で繰り出すのは、奇想天外な“ほら話”ときているのですから。しかし、マックロスキーの力強いデッサンが、写実に迫る勢いをもって、この物語の格式を支えています。海面から突然現れた大きなくじらの尻尾はもとより、波頭や、刻々と変わる海の色まで――リアルな描写は、その感触さえ確かめられそうなほどです。
 さて、漁師としては引退したバートじいさんでしたが、時折、気まぐれエンジンのついた「潮まかせ号」に乗って、沖釣りに出かけていきます。仲良しのおしゃべりかもめがいつもいっしょです。
  
   バート・ダウじいさんが 潮まかせで海にでるときは、
  町じゅうの人が気づく。まず、まえのばんにたまった水を
  ぎいっこ しゅぼっ! ぎいっこ しゅぼっ! と、ポン
  プでくみだす音がきこえる。そして、しばらくしずかにな
  る。いちばんいたんでる箇所――ピンクの外板と、みどり
  色の外板の間をしらべるからだ。
   それから、気まぐれエンジンをかける音がきこえる。
  チャカチャカ バン! チャカチャカ バン! しばらく
  すると バートじいさんが がっしりした手で かじ棒を
  にぎり、おしゃべりかもめをしたがえて 入り江をぬけだ
  し、チャカチャカバン チャカチャカバンと 湾の沖へむ
  かうのがみえる。


 よっぽどけたたましい音なのでしょう。海辺にいる人々全ての視線は、懸命に船を操るバートじいさんにそそがれています。犬やネコでさえ注目しているようです。マックロスキーの手にかかると、こんな日常的な場面も劇的に印象深く切り取られ、あたかもその場にいるような臨場感に満たされます。
 物語の山場は、むろん、くじらの群れがいっせいに姿を現す、正に瞠若たる場面ですが、このクライマックスをはさんだ前後の描き方にも、マクロスキーならではの巧さを感じずにはいられません。風景の捌き方、フォーカスの仕方、共に堂に入ったものです。人びとの息づかいとざわめきがあり、美しく配色された景色の移り変わりは、ここ――物語の中――でも確かに時が流れていることを感じさせてくれます。
 くじらの要望に応え、全てのくじらの尻尾にカラフルな絆創膏をつけ終えると、バートじいさんの頭上には、うすむらさきに煙る空が広がっています。ふんだんな色使いで、大胆に物語を盛り上げた後の余韻――奔放な物語をゆだんなく支える熟練の技が、そこかしこに見られる贅沢な一冊です。





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