子どもの本だよりロゴ

子どもの本だより No.71
 2005.11.2

71号の写真


 幼い頃、絵本とは、異国の香りを届けてくれるものでもありました。ディック・ブルーナを筆頭に、様々な外国作家との出会いの中、描かれるものの形、名前、とりわけその色使いに魅せられ、それは現在にまで至っています。この2冊に限ったわけではありませんが、高い芸術性を感じさせる絵本をご紹介いたします。

(吉田真澄) 


『運命の王子』

運命の王子:表紙
リーセ・マニケ 文/絵
大塚勇三 訳

岩波書店
定価1785円(税込)

 

 物語が始まって数ページめに現われるブルー。はっと息を呑む鮮やかさです。私事ですが、このブルーには親しみを覚えます。以前フィンランドで購入したセーターの色が、これに酷似していて、肌映りがきれいなので、愛用しているのです。絵本の作者、マニケはデンマーク人ということですが、そういうわけで、私は、どうしてもこのブルーから北欧を連想してしまうのでした。カワセミの羽の色、真鴨の翼鏡みたいなブルー。自身が色鮮やかに発色しながら、どんな色をもくっきりと際立たせる色です。奇抜にも思えるその美しさは、しかし、そのまま物語の不思議な魅力へと通じているようでもあります。 
 原題は“THE PRINCE WHO KNEW HIS FATE”。「ワニかヘビか犬に、ころされることになっている」さだめを背負った王子が別の国の王女と出会い、幸せになるまでを語ったエジプトのおとぎばなしです。筋運びは唐突で、伏線といえるのは、冒頭の「ワニかヘビか犬に殺される」というお告げだけ。30メートル以上跳び上がれた者に娘を授けると宣う王さまがいたり、トーテムポールのような大男が出現したり、と意表をつくエピソードの連なりの中、圧巻なのは、物語の最後、ハスの花から、再び王子がよみがえる場面でしょう。
 原典は、三千年以上前に書かれたパピルス文書で、壁画のように見事な挿絵は、エジプトの美術品をうつしとったものだそうです。その詳しいいきさつについては、全て巻末で説明されていますが、それによると、かの有名なツタンカーメン王の木箱に描かれた色絵がもとになった場面もあることがわかります。荘厳で不気味、明らかに私たちとは異なる文化を持った人たちが創りあげた芸術を、その時代にあった物語と共に、こうして楽しめるのは幸せなことだと感じました。


『ヒマラヤのふえ』
 
ヒマラヤのふえ:表紙

A・ラマチャンドラン さく/え
きじま はじめ 訳

木城えほんの郷
定価1575円(税込)

 作者の名、ラマチャンドランというその響きが、まずは私たちを遠い異国へ誘ってくれます。副題は“昔 ヒマラヤのふもと クマオンというところで うたわれていた物語”で、その核となるのは、主人公が奏でる笛の音。絵本の中で、その音色は私たちには馴染みの薄いヒンズー語のアルファベットで表され、それが、星の心までを虜にした怪しく美しい響きを、いっそう霊妙なものに感じさせてくれます。
 構図のとり方は斬新で、左画面の下になだらかに続く地面は、そのまま右画面下から上に向かって伸びています。 色とりどりの帯が虹のように見開きを飾り、その美しさに惹かれないわけにはいきませんが、私を一番に魅了したのは、「まるはなばち」に変えられた主人公が、真っ白な余白をバックに飛んでいる場面です。はちの羽音は、やはりヒンズー語のアルファベット一文字で表され、その記号(のように私たちには見える)は、赤褐色のはちのお尻からゆるやかな曲線を描いています。この圧倒的な余白の力、その美しさには感嘆します。
 あらすじには触れませんでしたが、荒地を花園に変える笛の音や、その音色に聴きほれる「三つ星」、「三つ星」の耳にふたをする「はすの花」など、エキゾチックな趣向が物語を神秘的に盛りたてていて飽きさせません。アルカイックな雰囲気とモダンアートの魅力を併せ持ち、異国インドへと私たちを運んでくれる美しい物語絵本です。





トップへ戻る

Copyright (c) 2005 Masumi Yoshida  All Rights Reserved.