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子どもの本だより No.64
 2004.12.27

64号の画像(サンタ)

  来年、『雪の女王』(ラース・ボー絵)が復刊されるという、嬉しい報せが舞い込んできました。詩心を駆使して創りあげられたアンデルセンの物語を絵本で堪能できるのは、幸せなことです。
 今月は、『スズの兵隊』をご紹介いたします。
 今年も、「子どもの本だより」をご愛読くださいまして、ありがとうございます。
 みなさま、どうかよいお年をお迎えください。

(吉田真澄) 


『スズの兵隊』

スズの兵隊:表紙

アンデルセン
マーシャ・ブラウン 絵
光吉夏弥 訳

岩波書店
定価 1,575円(税込

 

  命を持たないものについて、あたかもそれを持っているごとくに語り、また、人知れずひそやかに生きる小さな生命に焦点をあてて物語る――アンデルセンの作品には、そんな印象があります。彼の作品を読んでいると、私たちが生きているこの世界が、どんなに美しくかけがえのないものであるか、ということを実感します。
 このようないかにも美文めいた表現では、かえって嘘っぽく思われるかもしれませんが、格調高く流麗な彼の物語について述べる時、やはり、“美しい”という言葉抜きには語れないのです。
 そんなアンデルセンの物語世界を絵で表現することは、非常に厳しい仕事であると考えられます。僅かにでも俗っぽさが見えてしまえば、その世界は粉々に砕け散ってしまうでしょう。その中で、マーシャ・ブラウンの手に成るこの絵本は、作家が紡ぎだす世界観と調和しながら、隠された繊細な旋律を描き出してもいて、見事です。
 私は、何と言ってもこの物語の冒頭に、偉大なストーリーテラーならではの冴えを感じます。

あるところに、二十五人の、スズの兵隊がいました。みんな、一本の古いスズのさじから生まれた、きょうだいでした。
どの兵隊も、鉄砲をかつぎ、しょうめんをむいて、立っていました。みんな、きれいな赤と青の軍服をきていました。
兵隊たちは箱にはいっていましたが、箱のふたがあいたとき、この世でさいしょにきいたのは、
「やあ、スズの兵隊だ!」ということばでした。
そうさけんで、パチパチ、手をたたいたのは、ひとりのかわいい男の子でした。
その子は、おたんじょう日のおいわいに、この兵隊をもらったのです。

 兵隊の様子が、簡潔に、幼い人でもきちんと頭に描き出せるよう順序良く語られていきます。だから、私たち読者は、男の子の「やあ、スズの兵隊だ!」という元気な声を、スズの兵隊そのものになってきいているはずです。それは不思議な感覚なのですが、兵隊の入っている箱のふたが開けられるとき、まぶしい光が目の前をよぎるような心地さえします。
 物語は、二十五人のきょうだいの中で、たった一人、一本足で生まれついた兵隊に焦点をあてて、滑り出していきます。計らずも危険な冒険の旅へ出かけることになる彼ですが、持ち前の質実な気風と強運で難を逃れ、再び同じ子ども部屋へと戻ってくることができるのです。
愛する人――紙でできた美しい踊り子の人形―のもとへ。
 そして、物語のクライマックスは、突然におとずれます。兵隊の持ち主である男の子が、ふいに一本足の兵隊をつかんで、ストーブの中へ、ぽいと放り込んだのです。

スズの兵隊は、ストーブのなかで、あかあかとてらされて、立っていました。からだじゅうが、あつくてたまりません。でも、それが、火のせいなのか、それとも、むねのなかにもえている愛のためなのか、わかりませんでした。

 肌が粟立つような感覚―とでも言えばいいのでしょうか。兵隊が、こんなにも深く、踊り子を愛していたのだ、という事実に、私は圧倒されてしまうのです。熱い炎の中で身体を焼かれながらも、彼の心を支配するのは、胸を焦がすその情熱だったのですから。

 スズの兵隊は、じっと踊り子を見つめ、踊り子も、兵隊を見つめました。そのうち、スズの兵隊は、じぶんのからだがとけていくのがわかりました。それでも、鉄砲をかついだまま、しっかり、立っていました。
 そのとき、ふいにドアがあいて、風がふきこみ、踊り子をさらいました。踊り子は、空気の精のように、ひらひらと、ストーブのなかの兵隊のところへとんでいきましたが、すぐに、めらめらともえあがって、きえてしまいました。
 アンデルセンの作品は、キリスト教の信仰を無視して論じることは できません。踊り子の背中をそっと押してくれたのは、神様であった のでしょうか。どうあっても、この上等な結末に、私は心からの祝福 をおくります。
 人知れず静かに育まれた愛情が、いみじくも、その想いにふさわしい形で、ひっそりと成就されたのです。
 この最後の場面の絵は、扉絵の手前のページで描かれたスワンと呼応しながら、この物語の輪郭を彩っています。


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