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子どもの本だより No.62 2004.10.1

62号のイラスト(ネコ)

 今年の夏は本当に暑かったですね。みなさまは何か楽しい思い出を作ることができましたか?
 実は、今月はおたよりをお休みさせて頂こうと思っていたのですが、さかなさんのご厚意で、こうして発行の運びとなりました。以前私が書いたものの中から、さかなさんがセレクトしてくださったものを再掲させていただきます。新しい執筆が間に合わなかったことをお許しください。
 最近の新刊で心に残った一冊は、『エルシー・ピドックゆめでなわとびをする』(岩波書店)です。これは、私が心から慕う作家エリナー・ファージョンの『ヒナギク野のマーティンピピン』からの一話抜粋です。読み終えた時、物語と現実の自分との境界線を失いそうで、怖いくらいでした。一人の人間の魂を真摯に見つめる作者の視線。その深いまなざしをひしひしと感じます。絵本としては、とても長い作品ですが、興味のある方は読んでみてください。岩波さんは、売れなければ、すぐに品切れにしてしまうので、一人でも多くの方に買って頂けたなら、息の長い作品になってくれると期待します。

(吉田真澄) 


『木はいいなあ』

木はいいなあ:表紙

ユードリイ さく シーモント え さいおんじさちこ やく
偕成社 定価 1,050円(税込)

 
「木がたくさんあるのはいいなあ。木がそらをかくしているよ」
 こんなつぶやきから始まった散文詩は、夏は木陰をつくってくれるし、秋には落葉でたき火もできる……と、素直に木の善さを綴っていきます。それは、自然の大切さを教えようなどという思いあがったメッセージとは無縁の、すがすがしい率直さです。 
「ぼうきれは 木からとれる。ぼうきれで すなにえをかくんだ」
 このシンプルで飾りけのない言葉を彩るシーモントの絵は、真夏の太陽の下では涼しげに見え、木枯らしの夜、こたつの上でながめれば、ぽかぽかと暖かそうに思える不思議な魅力を湛えています。
 拍子ぬけする程にまっとうなこの絵本を目の前にすれば、誰でも植物のもつ澱みない生命力を肌で感じたくなるでしょう。それは全くこの本の最終ページが示すとおりです。
 「そうすれば、みんなもいえにかえってじぶんの木をうえるよ。」

ウォルター・デ・ラ・メア詩集
『孔雀のパイ』

孔雀のパイ:表紙

ウォルター・デ・ラ・メア 詩 エドワード・アーディゾーニ 絵 まさきるりこ
瑞雲舎  定価 1,890円(税込)


 ある時は、みずみずしい感性でありのままの自分を表現する少年の顔。また、ある時は、時の流れをロマンティックにうたいあげる貴人の横顔。不気味であったり、ユーモラスであったり謎めいていたり――。様々な表情をみせる、デ・ラ・メアの82編が収められた詩集です。目に見える現実の世界をきっちりと表現していこうという、この詩人の心がまえが媚びたところのない詩篇から伝わってきます。が同時に、現実は時として夢のように幻想的でもあるのだという、じんわりとした感触も残るのです。子どもたちのぴちぴちとした躍動感を、あくまでも繊細なタッチで描いたアーディゾーニの絵は、見る者を唸らせる説得力に満ちていて“やはりこの画家しかいない”と独りごちた私です。


『パイがふたつあったおはなし』

パイがふたつあったおはなし:表紙


ビアトリクス・ポター さく・え いしい ももこ やく
福音館書店 定価 735円(税込)


「とてもおいしいものをごちそうします」と猫のリビーからおちゃによばれた犬のダッチェスは、「4じ15ふんきっちりにうかがいます」という返事をだしたものの、とても気がかりなことがありました。それは「どうしたって、ねずみのパイのような気がする!」――なのでした!
 二人の取り澄ました会話は、パイの“焼き型”をのんでしまったと思いこんだダッチェスの悲鳴で一転します。「あたし しぬんだ! あたし しぬんだ!」登場人物の性格づけの妙(お話の終盤に登場するカササギ先生も最高です)話の構成の巧みさ、ふさふさと艶やかな二人の毛並みの感触さえも目で味わえる程、いき届いた鮮やかな絵――おしゃれで、機知に富んだ上質な一冊を是非どうぞ。


『陸にあがった人魚のはなし』

陸にあがった人魚のはなし:表紙

ランダル・ジャレル 作 モーリス・センダック 絵 出口保夫 訳
評論社 定価 1,680円(税込)


 ひとりぼっちで丸太小屋に住む狩人は、ある冬の日の夕暮れ、海辺の岩かげで人魚と出会います。“動物と同じくらい気長に”狩人は少しずつ少しずつ人魚との距離を縮め、ついには一緒に暮らすようになるのでした――。美しい詩のような言葉が紡ぎ出す狩人と人魚の生活は次々に家族が増えるごとに、特別でない自然なものになってゆきます。それにしても、物語全体に漂うこの不思議さをどう表現したらよいでしょうか? 人魚も狩人も動物たちも、いっさい排除し、海辺の穏やかな風景だけを淡々と、けれどため息がもれる程美しく描いたセンダックの絵も、幻想的な魅力を一層ひきたてています。


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