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子どもの本だより No.59 2004.5.29

gakko

 鮮やかな若葉の緑に目がしみて、瞬く間に春が終わってしまったことを思い知らされました。
 2か月にわたって、たよりをお休みしてしまい、申し訳ございません。遅ればせながら、ご進級、ご進学、また、新たな環境でスタートをきった方々、おめでとうございます。新入生も、少しずつ学校に慣れてきた頃でしょうか。この1か月あまりの間にも、晴れがましさや興奮や、それから嬉しかったり悲しかったりを、大きな校舎の中で繰り返してきたことでしょう。今月は「学校」を題材にした絵本を2冊ご紹介いたします。

(吉田真澄)
 


『くんちゃんのはじめてのがっこう』
   ドロシー・マリノ 作 まさき るりこ やく  ペンギン社 定価 998円(税込)

『くんちゃんのはじめてのがっこう』:表紙



 ドロシー・マリノという人は、幼い子どもたちの心の機微を描くのが、本当に上手な作家だと思います。くどくならずに品良く、愛情をこめて、でも感傷的になることなく。ふっくらとした線で描かれる登場人物たちは、端的なテキストと素敵に調和し、その心の内をフレキシブルに語ります。
 私は「くんちゃん」に出会うより先に「ふわふわくん」(『ふわふわくんとアルフレッド』/ドロシー・マリノ作/石井桃子訳/岩波の子どもの本)を知っていましたが、人形に魂をもたせることで、繊細且つ大胆な子どもの心をあれほど明快に示したこの作者には、さすがのアンデルセンも舌を巻くことだろうと感じました。
 さて、物語は見開きからもう始まっています。
 お父さんとお母さんが、くんちゃんのかばんを持って嬉しそうに何か話しているところへ、ふとんを跳ね除け、くんちゃんがかけてきました。そしてお父さんがくんちゃんにかばんを渡して……いよいよ物語の始まりです。
 くんちゃんは、お母さんと一緒に初めて学校へ行く道すがら、虫や動物たちに話しかけます。

  「ぼく、がっこうへ いくんだよ。
   きみも がっこうへ いく?」

くんちゃんの嬉しくて晴れがましい気持ちが爽やかに伝わってきます。ところが、いざ学校へ到着してみると――

  「くんちゃんは おかあさんにも いっしょにいてほしいと
   おもいました。
   けれども せんせいは くんちゃんだけを つれて、 
   きょうしつにはいりました。そして、スージーとハリエッ
   トの うしろのせきに すわらせました。
   おかあさんは かえっていってしまいました。」

 くんちゃんの誇らかだった気持ちは、瞬く間に心細くしぼんでしまったようです。学校の前でお母さんのスカートの裾をひっぱるくんちゃんは、やがて先生に手をひかれて教室に入ります。けれども、その上半身はひねるように、帰っていくお母さんの方に向けられているのです。冒頭でも書きましたが、簡潔なテキストに対して、その繊細な心の内を見事なまでに描き出す絵の力に感心します。その表現が、ちっとも大袈裟じゃないのも上品で知的です。
 このくんちゃんのシリーズを読んで思うのは、子どもたちには、いつだって、頼もしい大人と、共に安心して悩める環境が必要なのだという当たり前の事実なのでした。彼らが悩み傷つくことを彼ら自身の糧とするために――そしてこれからの長い人生を戦っていくために――周囲の正しい理解と包容は欠かせないはずですから。
 まるで幼子を撫でて慈しむためにそうあるかのように、手首からやわらかく下向きに折れた、くんちゃんのお父さんとお母さんの手。今回のお話では、その危なげない導きで、くんちゃんの自信を回復させた、先生のさりげない誠実さも印象的です。

  「これ、がっこうへ もっていって せんせいに あげるんだ。」

 両腕いっぱいに抱えたひまわりの中で笑うくんちゃんは、その全身で、先生への好意を表現しています。これほど率直に気持ちを伝えられる幸せ――そして伝えられた側の幸せ。むろん、祝福すべき出来事であるには違いないはずです。





『がっこう』
(バーニンガムのちいさなえほん3)
ジョン・バーニンガム 作 谷川 俊太郎 訳 冨山房 定価 630円(税込)

『がっこう』:表紙



 「がっこうへ いくと
  よみかたを ならって
  かきかたを ならって
  うたを うたって
  きゅうしょくを たべて
  えを かいて
  あそんで
  ともだちが できて
  それから うちへ かえるの」

 本文はたったこれだけ。
 清々しいほど生真面目で、可笑しくなってしまうほどフォーマルな文章です。
 この「バーニンガムのちいさなえほん」シリーズ全てに共通することですが、短いセンテンスは、幼い子どもたちが考える順序できちんと並べられています。それは、簡単な事実が、整理されながら、すっと頭の中に入り込んでいけるしくみなのです。いくどもいくども繰り返し読んでいると、生きる喜びがじんわりとしみだしてくるのは、やはり(いかに短くとも)、この作品が文芸であるからでしょう。人間のくらしが、心をこめて語られている――それこそが文芸作品の鉄則――のですから。
 肝要で簡素、しかも愛らしい。この中には、常に子どもたちの憧れのまとである“自由”が描かれているのです。


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