
子どもの本だより No.52 2003.6.28

私は裸足でいるのが好きなので、毎年、夏を待ちきれずに、素足にサンダルというスタイルになります。そして、(仕事に出かけるとき以外は)小さな銀色の鈴のついたアンクレットで足首を飾ります。インド製のアンクレットの「しゃらん」という鈴の音は、なんの手入れもしていないむきだしの私の足を、涼やかに装ってくれるのです。私の好きな絵本の中にだって、快い音はあふれています。そして、音の魔法は、その物語をいっそう忘れがたいものにもしているのです。いかがでしょうか?
(吉田 真澄)
『せんろはつづくよ』
M・W・ブラウン文 J・シャロー絵 与田準一 訳 岩波書店 本体(800円)+税

「2だいの ちいさな きかんしゃ」が、西へ向って出発です。1だいは「さいしんしきの きかんしゃ」で、「ぱふぱふ ぱふぱふ」と走ります。もう1だいは「ふるい ちいさな きかんしゃ」で、「ちゃぐちゃぐ ちゃぐちゃぐ」と走ります。 どちらの音からも、この機関車たち自身が走ることを軽やかに楽しんでいることが伝わってきます。また、「ちゃぐちゃぐ」という音は、「ぱふぱふ」に比べると、もっと着実で地道な感じがするので、さらに私のお気に入りです。盛岡市には「チャグチャグ馬子」(国の無形民俗文化財)という行列があって、毎年初夏を迎えると、百頭もの華やかな装束馬が、鈴の音を響かせて、村から町へと練り歩くそうです。その映像を目にした時、このリズム(「ちゃぐちゃぐ」)は、やはり、鉄道が疾走する音としては、ずっと身軽でしなやかな美しいものだな、と改めて思いました。シンプルで愛らしいフォルムの機関車たちは、命あるもののみがもつ息遣いで(私にはそう感じられるのです)、トンネルをくぐり、橋をわたり、雨の中も雪の中も、砂嵐の中さえくぐりぬけて、西海岸へと到着します。そしていつも、私はこの最後の場面で泣きそうな気持ちになってしまうのです。
「ようやく にしに つきました、
おおきな あおい うみでした。
2だいの ちいさな きかんしゃは
のこえ やまこえ きたのです、
ながい ながい たびでした。
くたびれたけど きみと ぼく
あかるい うみに つきました、
たのしい うみに きたのです。」
こんなふうに、正しいゴールを迎えられることは至福です。成し遂げたことの意味なんか、探さなくてもいいくらいの正しいゴール。「ちゃぐちゃぐ」「ぱふぱふ」と走り続けた2台の機関車は、いかにも満ち足りた様子で、ここまで一緒に旅をしてきた子どもたちが海に遊ぶのを眺めています。とてもいいエンディングです。
作者のマーガレット・W・ブラウンは、幼い子どもたち向けの本だからこその真剣さで、物事の本質を決して見落とすことなく、きちんとした枠組みでテキストを仕上げています。いつも一流の画家と組んで仕事をしていますが、それは、誰と組んでも同じことです。(クレメント・ハードも然り、ワイズガードもまた然り、です。)だからこそ、画家はそれぞれの持ち味を存分に生かし、その世界を無限に拡げることもできるのでしょう。この絵本でも、ジャン・シャローが描くやわらかな線と和みの色は、勤勉な機関車の行く手を祝福するように、物語にピタリと契合しています。
『サリーのこけももつみ』
ロバート・マックロスキー 文・絵 石井桃子 訳 岩波書店 本体(1700円)+税

「ポリン・ポロン・ポルン」
これは、サリーがつんだこけももを、「ちいさな ぶりきの ばけつ」にほうりこむ音です。皮のパンとはった、いかにもみずみずしいこけもも(原題は
"BLUEBERRIES FOR SAL" といいます。
「岩波の子どもの本」としてこの本が出版された30年前、ブルーベリーは、まだ日本人にとって馴染みのない果実でした)が、ばけつの中で小躍りする様子が思い浮かぶでしょう?
物語は、クマの親子と人間の母子(サリーたちです)が、それぞれのお母さんと子どもを取り違えるという単純なもので、この次に書かれた『海べのあさ』に比べると、やはり物足りなさも感じます。けれども、藍色で描かれる山々も、ブルーベリーの木々も、動物も人間たちも、全てが完成されていて、引き込まれずにはいられません。一流の画家に対してこんな言い方をするのは憚られますが、マックロスキーは、本当に絵がうまい作家だと思います。どこがどうとか説明する必要はありません。正直に、愛情をこめて(まるで家族を愛しむかのごとくに)、自分の作品と向き合っているのがよくわかるのです。(残念なことですが、現在、こういった作家がいるのかどうかは、甚だ疑問に思うところです。)「ポリン・ポロン・ポルン」という心地好い音が、初夏の風にのって響いてきそうな、清々しい一冊。
大きくなったサリーの物語『海べのあさ』(岩波書店)、そして、その一家が暮らすメイン州の自然を圧倒的な筆致で描く『すばらしいとき』(福音館書店)も、どうぞあわせてお楽しみください。
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