
子どもの本だより No.51 2003.5.28

今月は「末っ子」の物語を二冊ご紹介します。両作品ともスウェーデン生まれ。そして、主人公は両者とも五歳の女の子です。みんなが自分を愛してくれていることに何の疑いも持たない二人は、まぶしいほどに果敢な行動力を持っています。この自由闊達、前途洋々たる女の子たちを皆さまもきっと、たまらなく好きになることでしょう。
ご家族全員でゆっくりとお楽しみください。
(吉田 真澄)
すえっこO(オー)ちゃん
エディス=ウンネルスタッド作 石井桃子訳 ルイス=スロボドキン画
フェリシモ出版 本体(1238円)+税

先日、新聞の書評欄で、小学校五年生の女の子がこの本を紹介していました。彼女自身、三人姉妹の一番下だそうで(Oちゃんは七人きょうだいの末っ子です)、曰く、「末っ子の気持ちをよく伝えているなあ」とのこと。そして、その記事の結びには、「Oちゃんは、ほほえみとかわいい幸せを運んでくれます」とありました。もちろん私も、これには大いに同感です。「ほほえみ」と「かわいい幸せ」。それは例えばこんな場面で感じることができるでしょう。
「おたふくかぜ」にかかったOちゃんの顔は、「ブタのトーマス=ブリマー」のようにはれてしまい(おまけに、あごの「ちょうつがい」のところが痛くてしかたがないんです)、話すことさえままならない――そんな時、大変ありがたいことに、Oちゃんにはつきっきりで自分の小さかった頃のお話をしてくれるおばさんがあります。Oちゃんは、そのお話をたっぷり聴くことによって、「自分が、そんなに小さくてばかだったのに、今は、こんなに大きくなり、かしこくなったと思って」笑うことができるのです。(Oちゃんは、今もまだたったの五歳ですけれどもね。)
また、Oちゃんが兄さん姉さんに届け物をするために学校へ出かけ、生物室へしのびこんだ時、そこでOちゃんは初めての体験――がい骨の模型と出会う――をします。その「つるつるの白っぽい頭」を見て、「かわいそうに、毛が一本もないのね。」と同情したOちゃんは、自分がかぶっている「おんぼろ帽子」をその頭にそっとかぶせてやるのです。それを聞いた兄さんは、もちろん驚きました! 「あれ(がい骨)が、こわくなかったのか?」と。するとOちゃんは、すまして答えます。「あれがこわいだって? あんなの生きてもいないのに。」(兄さんは"生きてないからこそ"こわいのだ、と思ったものです。)
皆さんもご存知の通り、この本は以前、別の出版社から出ていました。初版は、およそ三十年前にもなるでしょうか。絶版となってからも、再刊を望む声は尽きることがなく、私もそれを願うものの一人だったわけです。また数年前には、九つある短篇の中の一話が絵本になったこともありましたが、その時の画家はスロボドキンではありませんでした。「Oちゃん」といえば、やはりこの線画です。幼い女の子を主人公とする物語にありがちな甘ったるさを弾き飛ばすように、あっさりと描き出される輪郭。誰もみなキュートで、人生を踊るように楽しんでいるのが、伝わってくるような素晴らしい挿絵です。
私たち大人の読者も「Oちゃん」になってこの物語を楽しむことができれば、この上ない幸福感の中で本を閉じることができるでしょう。だって、Oちゃんのこんな言葉で物語は終わりを迎えるのですから――。「ああ、あたし、しあわせだなあ。しあわせで、しあわせで、世界じゅうで、いちばんしあわせよ。そうじゃない?」
ロッタちゃんのひっこし
リンドグレーン作 ヴィークランド絵 山室静訳 偕成社 本体(1000円)+税

「あたい、ひっこした かみくずかご のぞいてみな」
おかしな夢で心を掻き乱された日の朝、ロッタはあの大嫌いなチクチクするしまもようのセーターを切りさいて、かみくずかごの中につっこみ、こんな書きおきを残して家を出て行きます。もちろんバムセ(お馴染みのぶたのぬいぐるみです。もっともロッタは「ほんもののくま」だと思いこんでいましたが)も一緒です。運良く、となりに住むベルイおばさんのものおきの二階を貸してもらえることになったロッタは、兄さん姉さんに見せ付けたい気持ちも手伝って、実にかいがいしく準備を始めるのでしたが……。
私は、ロッタが「家出」ではなく「ひっこし」を試みたところに、会心の小気味よさを感じています。だからこのお話が好きなのです。且つ、泣いて駄々をこねる幼子を描いても、かばかり感傷に偏らず、堂々と活写し尽くす作者の筆の確かさ――全くもって、冴えた書きぶりといえます。
一人きりの夜に耐えきれず、ロッタが再び自分の"本当の家"に戻った時、パパは「ロッタがまた、うちへひっこしてきたよ」と嬉しそうに言い、ママはロッタをその腕にしっかりとだきしめてくれました。肝心のロッタはといえば、涙に噎びながらも「ママ、あたい もう いっしょう(一生)、ママと いっしょにくらすわよ」ですって。
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