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子どもの本だより No.50 2003.5.10

野菜の絵

 先日新聞を読んでいて、“レタスには眠りを促す作用がある”という記事を見つけました。なんでも、レタスに多く含まれる「ラクッコピコリン」という耳慣れない成分に、鎮静効果があるそうです。
 その時思い出したのは、もちろん、この物語でした。
 今月は、「ピーターラビットの絵本」の中から、二つのお話を紹介したいと思います。バスケットの中に、野菜サンドと一緒にこの小さな絵本を持って、ハイキングなどいかがでしょうか?

(吉田 真澄)


フロプシーのこどもたち

ビアトリクス・ポター作・絵 いしいももこ訳 福音館書店 本体(700円)+税

フロプシーのこどもたち:表紙

「れたすをたべすぎると、『さいみんやく』のようにきくということです。」本を読んでいて、忘れられない言葉に出会うということはよくありますが、この不思議な呪文のようなフレーズは、私の胸に深く刻み込まれていました。左ページには、レタスの葉を囲むようにして六羽の小うさぎが眠りこんでいます。指先でそっと触れてみたくなるほどの愛らしさです。
 真綿のようにやわらかく、コロンとした小うさぎたちは、やがて、マグレガーさんの大きな掌で、次々と麻袋にいれられてしまいます。その瞬間でさえ、夢を見ながら「かわいく にっこり」したりしている小うさぎたち。その頑是無さが、禍事のようにこの物語全体を包みこんでいるように私には感じられます。小うさぎたちが、無垢で美しいほどに、語られる恐怖は冴え冴えとして、心をしんとさせるのです。
 ポターの物語は、時に残酷なほど、生きることの真実を描き出します。けれども、恐ろしい敵が潜んでいるのと同様に、思わぬ所に味方だっていてくれるものです。ベンジャミン・バニーの頭を覆っていた紙袋の上をかけ歩いて、彼をおこしてしまい、「わたしは、ピーターラビットのともだちです」と言って許しを請う、としよりねずみ。それが、この緊迫した物語の救世主、トマシナ・チュウチュウその人(ねずみ?)なのですから!
「れたす」とひらがなで記された青く軟らかい野菜の瑞々しさと、「さいみんやく」という怪しい響き。雄うさぎピーターの周辺を描いた三つのお話の中では、私はこの物語が一番好きです。


ずるいねこのおはなし

ビアトリクス・ポター作・絵 まさきるりこ訳 福音館書店 本体(700円)+税

ずるいねこのおはなし:表紙

 このお話の始まりはこうです。「ずるい としよりの ねこがいて、ねずみを おちゃに よびました。」
 ティーポットとティーカップをのせたお盆をもち、仁王立ちしてこちらを凝視する猫。とても年寄りには見えない、太い丈夫そうな足をしています。そして、何といっても目を引くのは、長くりっぱな縞模様のしっぽです。さて、上等の服を着てやってきたねずみは、猫にさんざんいじわるをされた後で、「きっと このねこ、ぼくをデザートに くうんだぞ。こなけりゃ よかった!」と、泣きの涙で悔しがります。でも……!
 私がこのお話で特に気に入っているのは、「つぼの きっちりはまったあたまをふりたて」る猫を尻目に、ねずみがテーブルの上でお茶をいただく場面です。すぐに逃げ出すのかと思いきや、当初の予定通り、きちんとお茶とお菓子をごちそうになることは忘れないねずみ。食べきれないマフィンを袋にいれて持ち帰る抜け目のなさも、ご愛嬌といったところ。そして、来たときと全く同じように、シルクハットをきちんとかぶり、こうもり傘を片手に持って、いかにも優雅な様子で猫の屋敷を後にするのです。なんとも肝が据わっているでしょう?
 傑出したストーリーテラーならではのからりとしたユーモアが効いた一冊。
 ポターのオリジナル・スケッチをそのまま使ったという絵は、このシリーズの他の絵本と一味ちがった風合いで、それもまた一興です。


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