子どもの本だよりロゴ

子どもの本だより No.48 2003.1.27

羊の絵

  新年のごあいさつが大変遅れてしまいましたが、皆様、今年もどうぞよろしくお願い致します。心も体も健やかな一年であることを祈って、この絵本をご紹介します。
「かえでがおか農場」に負けないくらい実り多き十二か月を目指して。今月はその第一歩です。

(吉田 真澄)


かえでがおか農場のいちねん

アリス&マーティン・プロベンセン さく /きしだ えりこ やく ほるぷ出版 (本体1800円+税)

かえでがおか農場のいちねん:表紙

 表紙は四角く十二に区切られていて、そこに一月から十二月までの農場のようす(動物や子どもたち)が描かれています。すっきりとした白を背景に、樹皮を思わせるきつね色の枠で仕切られた十二の風景。その一つ一つには、ことばが簡潔に添えられています。四月は、めんどりを中心に今孵ったばかりのひよこが描かれ、「ことしのあかんぼ」の文字。八月は、新しい蹄鉄(ていてつ)をうってもらう馬の絵とともに「あたらしい くつ」。そして十二月は、まるまると肥えた四ひきの猫がじゃれあう姿と「みんな ほかほか」。麗らかな日常をフォーカスする十二の視点は温かく公正で、であればこその平穏が心を和ませます。私は、この表紙がとても気に入っていて、時間を忘れて見入ってしまうこともしばしばです。さあ、それでは中を開いて読んでみましょうか。
 まずは一月のページです。見開き一面に描かれる雪景色の中で、集まって暖をとる羊の群れと跳ねまわる馬が四頭。子どもたちは、馬に与える干し草を運んでいます。二月は凍った湖の上をすべる五人の子どもたち。こちらも画面いっぱいに描かれ、空を舞うミヤマガラスの羽音も子どもたちの笑い声にかき消されてしまいそうです。そして三月。春の訪れをやさしいアイボリーで演出した画面は十に区切られ、動物たちの様子がその一升(ひとます)ごとに描かれます――。淡い色彩でまとめあげられた全体の中にあって、夏の初めのグリーンと秋の到来を告げる山吹色は、ハッとするほど目に鮮やかです。そして、動物たちが見せる表情のユーモラスなこと! くるくるめだまのガチョウや、羊と見紛うばかりの毛皮をまとった黒い犬、笑っているような顔をした茶トラの猫……。
 多くの優れた絵本を知っている私たちは、特別な出来事を描くことだけが、その条件ではないことを心得ています。美しく、完成された絵は、むろんはずせない要素の一つですが、描き出す世界が平凡であればあるほど、自ずと明らかになってしまうのが、作者本来の視点です。ありのままの自然や、そこで暮らす普通の人々にそそがれる作者の眼差しの在り処が、くっきりと見えてしまうというわけです。この作者夫妻の“眼差しの在り処”については、一番初めに書いたので再びくり返しませんが、彼らの他の作品(『みみずくと3びきのこねこ』『シェイカー通りの人びと』)も同様であることをつけ加えます。
「単純かつ直接的なものを追求しつつ、私たちが真に伝えたいことを表現できるような絵本をつくりたい」、これが作者の言葉です。


トップページへ戻る

Copyright (c) 2002-2003 Masumi Yoshida. All Rights Reserved.