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子どもの本だより No.44 2002.10.4

森の写真

 あっさりとしていて温かく、それでいて本格的なこの物語をもう一度読み返してみませんか? いよいよ本を読むには最高の季節を迎え、身体と心のならし運動を始めましょう。この機会に全シリーズを読破するのも、また一興かもしれませんよ。(吉田 真澄)


大きな森の小さな家
ローラ・インガルス・ワイルダー作 恩地三保子訳 ガース・ウィリアムズ画 福音館書店

 この物語を読みながら、私の中によみがえってきたもの――それは、父と母が万能であると信じて疑わなかった幼い記憶。ひいては、まるで私がそうすることによって、世界中の不幸な動物たちが救われることを確信していたかのように、捨てられた子猫をひろわずにはいられなかった日々。あの頃の私にとって、自分をとりまく全てのことは、生きるために有効で、夢中で生きても追いつけない程、未来は遠く果てしないものだったのです。そして誰でもがそうであったように、自分一人の力がかくも小さいものであることを知らず、“知らない”ということが少しも不幸ではない幸福な時間を過ごしていたのでした。「インガルス一家の物語」と題された長いシリーズの一作めにあたるこの本では、「とうさんのひざにのって、そのたくましい腕にしっかりとだかれていれば、こわいことは何もなく、ほんとにあんしんしていられ」た幼いローラの日常が語られています。家族の愛情と大自然に懐かれ、まっすぐに美しく育まれていくローラの心。それを象徴するこんな場面があります。
「メアリィはローラより年上なので、ネティという名の布人形をもっています。ローラは、ハンカチでくるんだトウモロコシの芯しかもっていないのですが、それは、でも、とてもいい人形でした。名まえはスーザンといいます。スーザンがただのトウモロコシの芯だということは、スーザンのせいでないのです。ときどき、メアリィは、ネティをだかせてくれることがありますけど、ローラはスーザンが見ていないときしか、それをだかないことにしています。」
 このつつましやかな暮らしの中で、胸をワクワクさせるエンターテイメントが、とうさんの存在そのものであったことにも、ふれないわけにはいかないでしょう。眠れない夜には、ローラたちをひざにのせて、スリルあり、笑いありのとっておきのお話をしてくれるし、バイオリンを弾きながら陽気にうたってもくれるとうさん。その逞しい両腕で家族を支えるだけにとどまらない、明朗で人を楽しませることに長けたとうさんの人柄は、まぎれもなく彼がこの一家の中心的人物であることを感じさせるものです。更に、この物語の魅力ともいうべき、ページを繰るごとに登場するおいしそうな料理の数々! とうさんが捕ってくる鹿や豚といった動物は、頭から足の先まで――皮や内臓だって――一切のむだもなく使われるのです。レネットという子牛の胃ぶくろを使ったチーズづくりや、熱く煮つめたカエデ糖を、外からすくってきた雪の上にかけて食べる冬のごちそう。とうさんがたっぷりのハチミツを熊から横どりしてきたエピソードには、思わず笑ってしまいます。
 都会で生まれ育った私にとって、ここに描かれる生活が遙かなものであるには違いありません。けれども、悲しいかな、今の私たちの生活とどちらがより豊かであるかということはわかります。ローラもメアリィも学校へは行っていませんが、本気で毎日を生きていること、それ自体が学びであるという、大変恵まれた生活です。家族の一人一人が抱える、生きるための興味は尽きることなく、新しい好奇心は更に充足し、その目は、次の未知なるものへと見開かれていきます。もちろん、厳しい自然の中にあって、勇敢にふるまうことや、辛抱強く耐えることはあたりまえのことです。けれども、生活にくふうをこらすことが、生きることを何度でも新鮮にしてくれるでしょうし、“生きる力”とは、意外とそんな些細なことから湧きでるものでもあるはずです。
 ローラとしばらく会わないうちに、私は彼女の生まれ故郷の土を踏み、その激動の歴史をも知りました。物語から得られる“心の実り”は、むろん知識とは関係のないものです。けれども、あの頃よりもインガルス一家への理解を深め、ウィスコンシン州の雄大な自然を貴ぶ今の私は、成長とともに生まれた愛着をもって、この本を推薦することができるのです。


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