
子どもの本だより No.42 2002.7.5

雨が降る日の外出には、どこかに青いものを身につけたくなります。水色のかさ、ターコイズブルーのペンダント、そして時には、足のつまさきをツユクサの花びらの色で染めてみたりも――。
今月は、美しいブルーが印象的な本の中から、絵本を二冊ご紹介したいと思います。雨が大好きな私の生活を、いっそう快適にしてくれる爽やかな絵本です。 (吉田 真澄)
しずくのぼうけん
マリア・テルリコフスカ さく ボフダン・ブデンコ え うちだりさこ やく 福音館(800円)
涼やかなブルーの表紙の中心で、愛敬たっぷりにポーズをきめる「しずく」。ページをめくれば、くっきりとした線でふちどられた登場人物と背景として使われる色との対比に、この画家の持ち味をはっきりと見てとることができます。もも色をバックに大きく描かれる山吹色の蛇口。白く凍ったしずくを両側から挟む岩の色は赤、そしてその背景を彩る群青色。
その色づかいは、なる程斬新でもあるでしょうが、全体を通して感じられるのは、奇をてらったような賑賑しさではなく、むしろすっきりとした飾り気のなさです。そこに、迷いのない一直線のストーリー ――バケツからとびだした「しずく」が気体となったり、凍ったりと変化しながら、やがてはつららとなって春を待つ――が絡みます。
主人公とともに物語の中にわけ入っていく、深い楽しみを存分に味わっている子どもたちにとって、ひょっとすると、この絵本は少しものたりないのでは?と思っていた時期も、私にはありました。“水の性質”を一方的に語られているという疎外感を、何とはなしに抱いてしまったからです。けれども、たいていの子どもたちは、一目でこの絵本のことが好きになり、親しげに語られる“しずくの旅”の顛末を心から楽しんでいます。
そう、本について、このように表現するのはおかしなことかもしれませんが、とても“人なつこい”絵本なのです。そして、いつの時代の(日本で出版されたのはおよそ40年前)、どんな読者とも即座にうちとけ、かわいがられてきたという誇らしい歴史もきちんと背負っています。気のおけない古い友人のような顔で、私の本棚におさまってもう20年以上の月日が流れているのですから。
おふろばをそらいろにぬりたいな
ルース・クラウス 文 モーリス・センダック 絵 大岡 信 訳 岩波書店(780円)
「おふろばをそらいろにぬりたい」「ぼく」は、だいどころは黄色くぬって、あそびばのかべには色とりどりの「かめ」をたくさん描きます。「ともだち みんなですむ にじみたいなおうち」を囲むのは、美しい花が咲き乱れる緑豊かな森で、やがて「ぼくはまわりにひろびろとしたうみも」つくりあげます。
絵本の中を、かぜのようにまう、大らかで潤沢な「ぼく」の想像の世界を、私はこの上もなく尊いと感じるのです。“無邪気であること”は、時に神々しい程の気高さを含んでいるものなのだとも……。
この絵本が出る3年前には、同じコンビ(クラウス&センダック)による『うちがいっけんあったとさ』が出版されています。こちらは『おふろばを〜』に比べて、更に独創的で意表をつく、しかし『おふろばを〜』同様に大変魅惑的な作品です。そして、絵を担当するセンダックは、画風こそガラリと変えてはいますが、そのどちらの絵本においても、語り手である「ぼく」の身体を空中にふわりと浮かせています。それはあたかも、それぞれの少年の心が、いか
に自由で束縛されないものであるかを描いているように、私には感じられるのです。そして、その豊かな心の拡がりを支える、私たちが愛してやまない“物語”――その存在が、こうした優れた絵本との出会いを通じて幼い子どもたちの生活の中に、より深く滲透していくことを、私は願います。
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