
子どもの本だより No.41 2002.5.31

今月は、エゴン・マチーセンの本を紹介します。
彼の著作に共通しているのは、“自分に正直に生きるということ、その大切さ”だと私は感じています。実はとても重要なことを語っていても、そうとは気づかせない軽妙な語り口とユーモラスな画風が誰からも愛される魅力の一つです。
ふと心細くなった時、不安に押しつぶされそうになった時、開いてみて欲しいと思います。そして、同じ思いの子どもたちと共に楽しんでみて下さい。新しい環境になかなか馴染めない新一年生にもお薦めします。 (吉田 真澄)
あおい目のこねこ
エゴン・マチーセン さく せたていじ やく 福音館書店 (1200円)
いつの時代の子どもたちにも、出会って欲しいと思える良質な本が、次々と品切、絶版に追いこまれてきたなか、この本は、かろうじてその憂き目を免れてきました(けれども、同じ出版社から出ていた同じ作者の絵本『ひとりぼっちのこねずみ』は、現在も再版未定のままです。どうか出して下さいますように)。アメリカ生まれのジョージ(『ひとまねこざるときいろいぼうし』その他)ほどの華やかさはなくても、40年近くにわたって子どもたちに愛され続けてきた、その貫禄十分の存在感で、どんなに目新しい本の中にあっても決して引けをとりません。世代も時代も超えて、ずっと現役であり続けるこの物語は、皆さんの中でどんなふうに記憶されているでしょうか?
たった一人でねずみの国をさがしに出かけたこねこは、その道中、様々な困難に遭遇します。池の水でずぶぬれになったり、食べるものが見つけられず、ひもじい思いをしたり、黄色い目のねこたちの蔑みの言葉に、深く心を傷つけられることだってありました。けれども、こねこは「なーに こんなことなんでもないさ」と思える、もちまえのおおらかさと、「おもしろいことをしてみよう、なんにもなくてもげんきでいなくちゃいけないもの」と自らを励ますことのできる気骨ある精神力で、それらをのりこえながら、前へ前へと進んでいくのです。
あおい目であることをさんざんにからかわれた時、こねこは自分の顔を池に映して、ちっとも「へんてこ」ではないこと(そればかりか、あおい目はとても美しいとこねこは感じました)をきちんと自分の瞳(め)で確認します。ちっぽけなこねこが、自分に抱く健やかな自信は、誰をもってしても、侵しがたく、そのたくましさたるや、筋金入りのプラス指向と、豊かな耐久心によって、裏付けされた確定的なものといえるでしょう。
傲らず、気負わず――本当の強さをもって目的を果たしたこねこの勇姿をご覧下さい! 私がこの物語を評して“いいものはいいのだ”と断言したくなる気持ちもおわかり頂けると思うのです。
さるのオズワルド
エゴン・マチーセン作 松岡享子訳 こぐま社 (1300円)
とても美しい絵本です。
創作にあたっては、常に画家の目から見た「芸術的な質」を大切にしていたという、作者のエピソードには、素直に納得できます。ターコイズブルーの木の枝からたれさがる、さるたちのしっぽは、筆先のようにしなやかで、南天の実のように、こっくりと赤い夕陽は、薄紅色に空を染めあげています。
「あるところに いっぴきの ちっちゃな つるがいて――おっとまちがい さるがいて」と始まるこの物語は、ページをめくるたびに、この「おっとまちがい」を軽快にくり返します。私は初め、あまりにふざけている(ように私には思えた)そのくり返しが気になって、物語を深く楽しむことができませんでした。けれども、その度に大爆笑する子どもたちはというと、ボスざる「いばりや」の横棒なふるまいに、主人公の「オズワルド」が、たった一人で「いやだ」と声をあげる場面にきたあたりから、しんと静まりかえっていきます。その語り口はあっけないほどさらりとしていても、語られている真実の重みが、幼い子どもたちには、幼いからこそ正しく心に響くのでしょう。その確かな手応えに、私の胸は熱くなりました。
“あやまち”を素直に認めたものと、それをあっさりと許せるものたち――が、何のわだかまりもなく、おいしそうにりんごを頬ばるラストシーンには、感慨深いものがあります。その美しい情景が、見えない明日の幸せさえも暗示しているようで、今の私には少しせつないのです。
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