
子どもの本だより No.39 2002.2.15

『屋根にのぼって』を読んでいる間中、主人公ウィラの呼びかける「小さい妹」という声が耳元でずっと聞こえていました。そして、かつての私にとっての妹も、接吻したい程に愛しい存在であったことを思いだしたのです。今月はもう一つの『ちいちゃいいもうと』の物語と合わせて二冊をご紹介したいと思います。(吉田 真澄)
屋根にのぼって
オードリー・コルンビス 代田亜香子 訳 白水社 (1600円)
主人公のウィラ・ジョーとは、いったいどんな少女で、なぜおばさん夫婦と暮らし、どうして「小さい妹」はしゃべらなくなってしまったのか……。
何の説明もないまま物語は進行し、そして何の説明もないのに私たち読者は、語り手である十二歳の少女が明かす“心の内”に、いつしか強くひきこまれていきます。そして"Getting near to baby"(原題)の意味を初めて知るクライマックスまで、ウィラの悲しみと心の叫びが私の胸を貫き、やがて息苦しい程の感動となって私を包んでいました。
パティおばさんは、ウィラのママのお姉さんで、ホブおじさんと二人きりで暮らしていました。「自分の意見を持ってるだけじゃ気がすまなくて、みんなを同じ意見にさせたがる」おばさんに、ウィラはことごとく反発します。ベイビー(ウィラの末の妹)を亡くした後、自分を責め続けただ泣くことしかできなかったママに対して、「だれにだってまちがいはあるよ」と言ったおばさんを、ウィラはどうしても許せなかったのです。ママがたとえ何をしたって「そんなことをしてもちっともかわらなかったはずだよ」と、おばさんは言ってあげるべきだったのに――。けれども、ウィラに激しい怒りを向けられ、大粒の涙を流すおばさんもまた、深い絶望の中にいる者の一人でもあったのでした。「あんた(ウィラ)のママを傷つけるつもりなんか、あるわけないだろう。愛しているんだから。実の妹だよ。あんたにとっての小さい妹と同じなんだよ。でも、ちゃんとしたことはいってやれなかったね。ウィラのいうとおりだ。ひどく傷ついている人に、なんていってやったらいいのか、わかんないんだよ。相手が自分の妹でもね」
物語の終盤、それまでおばさんの存在感に気圧されて、どこか、なさけない風情もあったホブおじさんの言葉が、もつれあって頑なになっていたみんなの心をときほぐしていきます。そして「小さい妹」の唇からこぼれおちてきた、ずっと口を閉ざしてきたそのわけ――それは、ここに書かないでおきましょう。胸がいっぱいになってしまいますから。きっと誰しも絶望や不安の中で立ちすくみ、どうしたらいいかわからなくなってしまうこともあるでしょう。どんな時も、前向きな気持ちで全てのことをのりこえていける程、逞しくなんかなれっこない私たちなのですから。
ウィラの颯爽とした語り口は、物語に明るさをもたらし、「小さい妹」は頑固だけれど、それ以上に愛らしく、また鷹揚としたホブおじさんは、どこか『赤毛のアン』のマシューを思わせるような、とぼけた味わいがあって、なかなかにおもしろい人物のようです。そのおじさんが「屋根の上で」語ったことを最後に記して終わりにしたいと思います。
「人生は短いって知ることもたいせつだ。
だからせいいっぱい生きなければならないと知ることも。
まわりにいる人たちに、愛してるって伝えることもたいせつ。
いつさよならをいわなきゃいけなくなるか、わからないんだから」
きかんぼのちいちゃいいもうと
ドロシー・エドワーズ さく 堀内誠一 え 渡辺茂男 やく 福音館書店 (1400円)
「ずっとまえ、わたしが小さかったとき、わたしよりもっと小さいいもうとがいました」という言葉で始まる、十五のお話を収めた物語集です。私事になりますが、先日仕事で六、七歳の子どもたちとこの本を読む機会があり、その熱心な聴きっぷりに大変驚かされました。(お恥ずかしながら、今の子どもたちには少々退屈なのでは…という不安もあったものですから。)
また、子どもたちはこの本の語り手である「わたし」になってお話を楽しむので、言うことをきかなかった妹のせいで「わたし」がお母さんにお小言をもらう場面で「私なら“妹のせいだよっ”て言っちゃうのになぁー。」とつぶやいたのも可笑しかったです。子どもたちは、丁寧でやさしい文体に安心感を覚え、余計なものをそぎおとした簡潔な表現方法により、物語の筋をすっきりと理解することができます。愛する「いもうと」のことを語る「わたし」のあたたかい気持ちが伝わってくるせいか、「それからどうしたとおもいますか?」とか「でもそのさきをきいてびっくりしないでくださいね」などの読み手に対する呼びかけにも甘ったるさを感じることはありません。「きかんぼう」ではなく「きかんぼ」、「ちいさい」ではなくて「ちいちゃい」とした訳者のセンスもとても好ましく、私は素敵だと思います。
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