
子どもの本だより No.37 2001.12.11

プレゼントが行き交う嬉しい季節となりました。
さしあげるのも頂くのも同じくらいわくわくする私ですが、“大切な誰か”(わが子でも恋人でも)のために、贈りものを選ぶこと程、心を浮き立たせるものはないでしょう。
そして、この時ばかりは感謝せずにはいられないのです。
その人と出会えたことに――。また、その出会いこそが、何よりの贈りものだということに
も気付くことができます。
忘れがたい出会いの物語は数多くありますが、今月は、クリスマスにちなんだものと合わせて、珠玉の出会いの物語を二冊、お届けしたいと思います。(吉田 真澄)
おもちゃ屋へいったトムテ
エルサ・ベスコフ さく ささめやゆき え 菱木晃子 やく 福音館書店(1200円)
ほんのいたずら心から、おもちゃの人形といっしょに都会へ運ばれてきてしまったヌッセ(トムテの名です)は、人形のふりをしたまま、おもちゃ屋のショーウィンドウの真中に飾られてしまいました。そんなヌッセと小さな男の子スバンテとの出会いは、こんなふうに語られています。
「ヌッセは思わず男の子にうなずいてしまいました。
そして笑ってしまったのです。すると男の子も笑いだし、ヌッセにむかってうなずきました。
笑って、うなずいて、また笑って……。
おかあさんが男の子をよびにくるまで、ふたりはなんどもおなじことをくりかえしました。」
ガラスを隔てた二人の心が通いあう、この場面が私は大好きです。こごえていることさえ忘れてしまう程、熱心に店のショーウィンドウを見続けていた一人ぼっちのスバンテ……。ガラスの向う側でおどけてみせる小さなトムテこそが、彼に初めてできた、たった一人の友達だったのです。
ベスコフの作品はどれもそうですが、物語の初めから当然のようにファンタジーへの扉は大きく開け放たれています。妖精や小人が、あたりまえに人間と共に在る世界を生き生きと描く――それが、この作者の手法です。けれども、丁寧な筋運びと、読み手に媚びない独特の品の良さで、甘いだけの空想物語とは完全に一線を画してもいます。この物語でも、人形づくりで細々と生計を立てている「人のいい、ちょっと年のいったむすめさん」や、母親と二人きりで貧しいくらしをしているスバンテを、作者なりの思いをこめてきっちりと描くことで、トムテという不思議な存在が、くっきりとリアルに浮かびあがってくるのです。
挿し絵がベスコフのものでないのがとても残念ですが、それでも登場人物全てに彼女のあたたかい祝福がそそがれているのを、はっきりと感じることができます。クリスマスのような特別な夜じゃなくても、心優しい人々が住まうこの物語を時にはそっと繙いて頂けたら――と願うばかりです。
ねずみ女房
R・ゴッデン作 W・P・デュボア画 石井桃子訳 福音館書店
八つの誕生日におばから送られた何冊かの本の中に、この物語はありました。地味な装幀、よく知る昔話のような題名。(『つる女房』を読み知っていたので。)けれど読んでみた時、そこにはっきりと異国の香りを嗅ぎとったのを覚えています。金色に輝く鳥かご、雨戸のない大きな窓からこうこうと暖炉を照らす月の光……。そして、とりわけ愛したわけでもなかった、このケース入りの(以前はケースに入っていました)目立たない本を、私は何度引越しをしても、手の届く一番身近な本棚にさしこみながら、この本が一方で放つ抗いがたい魅力の意味を子ども心に探ろうとしていたのかしれません。
それから長い時間を経た今、この本は大きく私の心をゆさぶる力をもって目の前にあります。せつなさとはがゆさ、驚きと嘆きや、絶望と希望――。物語の中でうねる様々な感情――。そして、静かに私の心に滲みてくるこの思いをうまく語ることはできません。
「まだ、もっていないなにか」に憧れていためすねずみは、捕らわれて屋敷の中の鳥かごに入れられた美しいキジバトと出会い、生まれて初めて「窓の外の世界」のことを教えられます。そして、ハトが語る森や風や星の話にせつなく胸を焦がしながら、ハトが抱く絶望の深さを知るのです。
作者のあとがきによると、この物語の元となった詩人ワーズワースの妹ドロシーの日記では、めすねずみはハトを助けてやれなかったとあり、その後はこう続けられています。「わたしのねずみは出してやらなくてはいけない、とわたしは考えました。そこでそうなりました。」それは月の光が昼まのように明るく照らす晩でした。ハトが語ってくれた全てを忘れてしまう悲しい予感に身体を震わせながら、めすねずみは渾身の力をこめて、その格子の扉を開くのです。小さな歯で止め金にぶらさがって……。夜空をはばたいていくハトの姿を見送っためすねずみは、その時初めて星というものを見つめ、誇らしい気持ちでこうつぶやきます。「はとに話してもらわなくても、わたし自分で見たんだもの。わたし、自分の力で見ることができるんだわ。」
ハトが語った、美しく遠い世界の話が、このめすねずみの中で永遠に生き続け、その人生に豊かな彩りを加えてくれたことを、私は固く信じて疑いません。そして私たちが重ねていく出会いの中に、このめすねずみの幸福の意味をとくカギは、必ず隠されているはずなのです。
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