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子どもの本だより No.31 2001.6.1

イルカの絵

 五月、岩波書店からマックロスキーの絵本が二点、復刊されました。
 彼の作品の中で私が一番好きな絵本を一冊と、現代の子どもたちがどんなふうに楽しむのか実はとても興味深い、やはりマックロスキーの読み物を一冊ご紹介したいと思います。(吉田 真澄)


海べのあさ
マックロスキー文・絵 石井桃子訳 岩波書店 (1700円)+税

 “今日は、お父さんとバックスハーバーへ行く日!”
 喜びいさんでベッドから飛びだしたサリーは、歯が一本ぐらぐらしていることに気づいて驚きます。それは“大きな子になったというしるし”で、“ぬけた歯を枕の下に入れてお願いごとができる”とお母さんから教えられると、サリーは外へかけ出して、ミサゴやアザラシに向かって叫ぶのでした――「あたしの歯、いっぽんぬけかかってるの!」
 “歯がぬけかわること”は、もちろん幼い子どもたちにとっては、一大事なのですが、アメリカ・メイン州の雄大な自然を背景に、小さなサリーが自分の中でおきている大きな変化を、からだいっぱいで表現している場面には、我知らず、胸があつくなってしまいます。何年か前、子どもの頃、とても好きだった本として、友人にこの絵本を紹介したことがふと思い出されました。友人は一読して、「とても幸せな子ども時代だったんだねえ」とつぶやきましたが、その時、私は“何事もおこらない日常の物語”に、ぴったりと寄り添って楽しむことができる心の余裕について考えたのでした。愛されて守られている安心感の中で、一日一日を力の限り生きていた時代が、確かに私にもあったのだと、主人公の少女とその家族は思いださせてくれたのです。サリーはもちろんのこと、お父さん、お母さん、そして忘れてならないいたずらざかりの妹ジェイン、それぞれが、独特の持ち味をもって、堂々と物語の中で生きています。
 ページをめくるたびに、おしよせてくる幸福感は、石井桃子さんのみずみずしい訳により、更に詳らかで、まぎれのないものとして私たちの前に、差しだされるのです。


ゆかいなホーマーくん
ロバート・マックロスキー作 石井桃子訳 岩波少年文庫 (640円)+税

 この本のあとがきに出ている、マックロスキーと二人の女の子(娘さんです)の写真が、先に紹介した絵本の登場人物(お父さん、サリー、ジェイン)にそっくりで、思わず声をあげてしまいました――と、これは余談ですが、私が子どもの頃にはケース入りハードカバーででていたこの本の記憶は、“ドーナツ”これにつきるものでした。
 “時計がカチカチいうのと、ちょうど同じようにキチンキチンと”製造されていくドーナツが、カウンターせましと積み上げられていくさまは、正に壮観で、忘れようったって、忘れられるものではありません。ホーマー少年を中心に、センターバーグの町の大人たちが思いつく解決策――それは読んでのお楽しみですが、この“古き良きアメリカ”を漂わせた短編集は、平和な町に住む善良でそそっかしい庶民の姿を、くっきりと鮮やかによみがえらせています。
 少年文庫の形ですが、五、六歳の方に読んであげれば喜ばれると思います。


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