An Anthropologist On Mars 読書会

第7回


04991/05045  マチス 【読書会】火星の人類学者 第7回
(12) 00/10/29 14:22 コメント数:3

いよいよ最終回ですね。進行役のマチスです。

――あらすじ――

 自閉症の特徴的な症状は、他人に対して関心がないこと、それと人の気持ちを推し量
る能力がないことです。
 そのため自閉症の子どもは大人から抱っこされても喜ばないどころか嫌がり、親を喜
ばせたり関心をひくために何かをすることもありません。自分の〈主観〉でものを見た
り考えたりしないぶん、第6章のStephenのように客観的なドローイングや、暗記、計
算などに驚異的な能力を示す子どももいます。しかし想像性や欲がないため、その能力
をそれ以上に発展させることはめったにありません。
 ただし、大部分の自閉症の子どもは大人になるまでに、こういう場合はこういう対処
をする、という手順を「学習して」なんとか社会に適応してゆくようになるようです。


 さて、サックス博士は今回はテンプル・グラディンを訪ねます。食肉加工プラントの
設計をし、自閉症者としての自分の人生を語る本を書いた40歳の女性です。
 彼女は自分が早く自立できたのは、小さいうちに読み書きの能力をつけたからだ、と
いいます。自閉症者は会話というコミュニケーションに難があるので、読み書きを通じ
てしか外の世界とつながることができないのです。
 そして、彼女が squeeze chute (註1)なるものに異常な関心を見せたとき、それ
を無視したり馬鹿にしたりせず、家畜産業の技術者としての生き方を示した賢明な先生
がそばにいたからだ、とも。

 人とかかわるための行動手順を学習したとはいえ、テンプルの言動はサックスを戸惑
わせます。他人の気持ちが推し量れないということは、自分が他人にどう思われるかま
ったく気にしないということ。つまり、彼女にプライバシーは存在しないのです。寝室
を見せることも、ハグマシン(註2)を目の前で使って見せることも平気。
 美しい自然の風景を見ても、紋切り型の誉めゼリフをいうだけ。そして彼女にとって
モラルや法律は絶対的なものです。相手や場合に応じて解釈を変えることはしません。
人間を苦しめたり殺すことが悪いことなら、家畜を苦しめて殺すことも悪いことなので
す。神や宇宙の法則に関しても、それを犯せば破滅につながる、という意識は普通の人
以上に強いようです。
 別れ際に、「今からあなたを抱きしめたいと思います。お嫌でなければいいのですが
」と断ってからサックスはテンプルを抱きしめました。テンプルは抱き返してくれたよ
うに……思えたのですが……。

   (註1)squeeze chute がどんなものかちょっと判りませんでした。
       辞書によると、squeeze cage は家畜を追いこむ囲い
       chute は家畜を一列にして通す通路、とありました。
   (註2)ハグマシンは、squeeze chute をテンプルが改良して作った
       体を空気圧で包みこむ装置。抱きしめてもらって満足感を得る
       構造のため、サックスは恥かしいと感じたようです。
 
――感想――

 本書の題名「火星の人類学者」とは、テンプルが自分のことをそう呼んだところから
来ています。
水のない、赤い惑星火星から私が受けるイメージは、合理的だが感情のな
い世界。そこからやってきた火星人が、地球上の人間を観察し、その行動を学習する。
地球人と心を通わせたいとは思わないけれど、人類学者としての研究成果は後世に残し
たいと考える――まさにテンプルのイメージにぴったりです。
 1章から7章を通して、病気って何だろうと考えさせられました。生まれつきのもの
、あるいは大人になってからかかったものでも長期間共存してきたものなら、その人の
個性の一部なのかもしれませんね。その病気のせいで不自由な暮らしをしているはずだ
から治そう、というのは西洋医学の傲慢さに過ぎないのでは? 逆にその人たちには、
私には体験しようもない豊かな世界があるのだから。
 オリバー・サックスは、それぞれの患者の普通の人とは違うところを、ユニークにユ
ーモラスに描写しています。彼の視点は、人間の個性、多様性を認めようとする愛情に
満ちています。また自然や街の風景を楽しむ、詩情あふれるエピソードが随所に散りば
められています。第5章のところでマルタの猫さんが、「最後の一行までみごとに決ま
っている」とおっしゃっていたように、読む者に心地よい余韻を残す作品集でしたね。

マチス:CL-0107


(フレームなし)コメントを読む 

(共通)    ・読書会メニューへ


Copyright (c) 1999-2003 Cliff PB Club All rights reserved.